ジャズ大名(筒井康隆著 小説)

2019-06-04 00:00:27 | 書評
筒井康隆原作小説で、唯一映画化されている作品。小説はやや長めの短編小説で、短編18編を含む『エロチック街道(新潮文庫)』に収録されている。南北戦争直後の米国と幕末の日本が、ほぼ近い時代であることを利用した展開で、アメリカで自由民になった色の黒い奴隷のうち、アフリカに帰りたいという人がいた(あくまでも小説だから)。ところが臨時船は悪徳業者が仕立てたため、運賃を巻きあげた上、船はフィリピンに向かうわけだ。



このままでは、またも奴隷になると恐れた色の黒い人たちは、嵐にあって救命ボートが流されたドタバタに紛れ、一隻だけ残った救命ボートで脱出。そして運命の黒潮は、彼らを幕末の日本のある小大名の領地に運ぶわけだ。実際、幕府もとっくに鎖国を諦めていて、小大名の相談にも乗ってくれず、かといって街中を歩かれても困るということで城内に缶詰にするのだが、そこで音楽、つまりジャズを始めるのだが、これが殿様のお気に召し、城内はジャムセッション状態になる。

『エロチック街道』には表題作と『遠い座敷』という夢の中の不思議な世界を描いた作品があるし、主に実験小説集といってもいい。『ジャズ大名』と同じように、本格的な作品としては『かくれんぼをした夜』というのがあって、子供の頃、大人になってからのこと、老人になってからのことと三つの時代に同級生たちが、それぞれかくれんぼをするのだが、いつもかくれんぼが未完になってしまい、一人一人寿命を満了していくなか、最後の一人が、未完になったかくれんぼを残念に思うという、素敵な小説だ。構造的には「スタンド・バイ・ミー」をしっとりと書いたような感じだ。

そして、筒井康隆氏といえばSFご三家(星新一氏、小松左京氏とともに)と言われるが、本編にはSF小説は入っていない。科学技術がこれほど進化というか深化してくるとSFの場はかなり窮屈になっていくのだろうか。自分としては、「人間FAX」というようなものができないかなと思っている。東京でFAX機械に入って人間の構造データを読みとき、1秒後に大阪の3Dコピー機械から出てくるというもの。飛行機も自動車も要らなくなる。最初の実験台にだけはなりたくない(というか実験台になる前に、自分のコピーをクラウド上に残しておかないといけない)。


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