旅行者の朝食(米原万里2002年)

2007-04-11 00:00:16 | 書評

4bf58756.jpgロシア語翻訳者でエッセイストの米原万里さんが、2002年に出版し、2004年10月に文庫化された「旅行者の朝食」を読む。エッセイである。そして、彼女は既にいない。2006年5月25日、卵巣がんで56歳の波瀾多い人生を閉じた。発症は亡くなる1年半ほど前らしいので、単行本で出版した2002年には何もなかったのだろう。ちょうど文庫化された頃からが闘病生活が始まったのだろう。このエッセイ集のどこにも、そういう病気を思わせるネガティブな話は書かれていない。それが、今、逆に胸を打つ。

題名は「旅行者の朝食」とついているが、朝食についてだけ書いたわけではなく、ロシア語の専門家である彼女の、こども時代の東欧・ソ連での生活(物不足)について書かれていたり、中欧、東欧の童話についての考察があったり、家族の話とか。とてもエッセイがうまい。ツボを得た書き方というか・・。

ただ、うますぎて「ビックリ」がないとも言えるのだが、注意深く読むと、あちこちに深い罠があるのかもしれない。何しろ東欧の森林には魔物が住んでいる。例えば、万里さんの妹はユリさんというのだが、突如大学の物理学から料理学校に行って、料理研究家になるのだが、実は作家井上ひさしの妻(二番目の)であることは書かれていない。父親が日本共産党の幹部だったことも書かれていない。彼女自身と日本共産党との齟齬の話も書かれていない。生臭い人生のできごとのすべてを省いて、知的満足を与えるエッセイ集だ。

鎌倉に自宅を建てる話がでてくる。その自宅の話ではなく、家を設計するための勉強に、神戸へ洋館を見に行き、美味い料理を食べる話なのだが。新しい家に住む喜びを味わう期間のあまりに短かったことを思うと、本当に胸が痛くなる。

気の効いた惜別の辞でも思い浮かべばいいが、この空しさの前に、何も浮かばないのだ。

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