プロ棋士、ソフトとの対戦禁止

2005-10-16 22:10:20 | しょうぎ
ついに来るべきものが来たというのだろうか。日本将棋連盟は所属の棋士と女流棋士に公式対局でコンピューターソフトとの対局を禁止(連盟が認めれば可)した。

数社が記事にしていたが、共同の記事が比較的詳しい。
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(将棋連盟、ソフトとの対局規制。ビジネスも視野)
 日本将棋連盟が女流プロを含むすべてのプロ棋士に対し、コンピューター将棋ソフトと公の場で許可なく対局しないよう通知していたことが15日、明らかになった。
 最近、将棋ソフトの技術向上が目立ち、アマチュアトップクラスのレベルを持つソフトもいくつかある。もし、プロ棋士が敗れれば、「将棋(棋士)はソフトより弱い」(西村一義専務理事)というイメージを植え付けることになり、規制をかけた。
 しかし、全面的に禁止になったわけではなく、対局の企画があった場合、連盟に申し出れば慎重に対応するという。
 規制をかけた理由の一つに連盟がソフトとの対局を大きなビジネスチャンスと、とらえていることも挙げられる。米長邦雄会長は「将棋は世界で一番難しいゲーム。コンピューターとの対局はそれなりの商品価値がある。容易な対局には注意してほしい」と話している。(共同)
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実は、この話、伏線が二つある。一つ目は、ある雑誌から日本将棋連盟に対し、来年新年号の企画として、美人系女流棋士と現在、最強といわれる「激指」というソフトとの対局を掲載したいと話があった。その時、米長会長は軽く「1,000万円ならいいよ」と言って断ったそうだ。しかし、その話を財界人にしたところ、「もっと価値がある」と言われたらしく商売にしようと思っているらしいのである。(ただし美人系の棋士が誰なのかは不明。みんな美人だから・・)

1b613513.jpgそして、もう一つの伏線は今回の禁止令の直接原因になったのだが、9月18日に石川県小松市で北國新聞社主催の将棋大会の席上で五段棋士の橋本崇載が北陸先端技術大学教授である飯田弘之教授の開発した「TACOS」という妙な名前のソフトに対して大苦戦に陥ったことによるのだ。

1b613513.jpgやっとの思いで探し出した棋譜(拙解説付き)をPDF化したので参考に。そして、私の持っているソフト「東大将棋」で戦局の優劣をグラフ化すると、先手のTACOSが100手目近くまで有利だったことになっている。ただし、棋譜を並べてみると、後手の橋本五段はかなりソフトを意識して変調だ。さらにこのソフトは終盤が弱く、終盤で金銀2枚投じて飛車をとりに行ったが、人間はそんな手は指さない。

図から▲8三銀△9三飛▲8四金となったが、これで一度に勝利が手からこぼれた(手はないけど)。

1b613513.jpgさらに、この対局の翌日である9月19日には、東京で「コンピューター将棋選手権」が開かれ、この「TACOS」は参加ソフト8チーム中第6位と冴えない成績に終わっている。優勝の「激指」がなぜ強いかと言うと、羽生将棋を徹底的に研究していて、不利なとき、よくわからない時は羽生的な怪しい手をさすようになっているからだそうだ。(コンピューター的ではない)

そして、このコンピューター選手権には、やっかいなチームが出場している。第2位になった、「KCC」というソフトだ。製作は北朝鮮のチーム。すでに廉価版のゲームソフトは数種類この社が製作し、外貨(円)を稼いでいる。仮に、プロ棋士がこのKCCに負けようものなら半島で何を宣伝されるかわかったものではない。「日本人の知能指数は犬や猫並み」ということにされるのだろう。

さらに問題が複雑なのは、たとえ羽生氏が登場したとしても勝率100%を予測することは難しい。将棋には、よくわからない部分があって100%というのは無理だ。羽生氏だって生涯勝率は70%台で時々は負ける。運悪く1回負けたからと言って、ソフトの方が強いなどということはできない。大目玉を食らいそうになった橋本五段も22歳。プロ通算114勝62敗。勝率.648はかなり強いほうだ。10回指せば9回は楽勝するだろう。

実は、さらにややこしいのは、将棋連盟という組織は社団法人である。その社員は男子プロなのだ。したがって、やや弱いとされる女性棋士は連盟の社員ということではないのだ。強制力は弱い。健康保険証も女性棋士には出していないそうだ。

複雑な話はさらに続くが、このソフトを開発しているグループにはそれぞれ本物のプロ棋士が加わっている。前述の飯田教授も本物のプロ六段。さらに多くのプロが加わっているし、私の持っている「東大将棋」では、指し手の読み上げをある女流棋士がおこなっている。


そして、ここからが重要なのだが、人間とコンピューターはかなり思考に対するシステムが違う。例えば持ち時間だ。コンピューターは1手について、読む時間を制限している。一方人間は持ち時間が長いと、かなり強くなると思う。それは電気信号と化学反応の速度の差だからだ。さらに言うと、例えば野球でもピッチングマシンの球をプロ選手は簡単に打つだろうけど、仮にボールの速度が170キロにもなって、途中で2回曲がるような魔球が開発されればプロ野球選手でも打つことはできない。だからといって、それが理由で野球は人間は「二流だ!」ということも、また出来ない。

しかし、猫だって3メートルもジャンプするし、象やキリンだって人間より足が速いからといってオリンピックが廃れないのとはちょっと事情が違うのは、「頭脳」というのは、生物界の中で唯一、他種よりも優れているものだからであり、コンピューターに人間がボロボロ負けるようになると、こと棋士だけがガックリ、ということではなく人間様全体がガックリという可能性も感じるのである。

類似競技のチェスの世界では1997年に世界チャンピオンのカスパロフがIBMのコンピューター「Deep-Blue」との対戦で負けたのが有名なのだが、何番勝負かの第一戦で人間の必勝局を「次局以降のコンピューターの癖を見抜くために」わざと長く指して引き分けにしたにもかかわらず、IBM側がその後ソフトを入れ替えたため、「アンフェアだ」という声があることは紹介しておく。

ただし、誤解や勘違いの山の中で、今後、この問題が、どこに向かうのか予想できない。今のパソコンソフトの実力では、まだ普通のプロに1割以上勝つのは難しいので、公式戦の対局中に1手毎にトイレの個室の中でポケットから取り出して確認する人間はいない。しかし、携帯メールで強い弟子にSOSを出した棋士がいるという噂を聞いたことはあるのだが。


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