えどさがし(畠中恵著 歴史ファンタジー)

2021-03-03 00:00:08 | 書評
しゃばけシリーズは、現在19巻を重ねている。江戸京橋の大店長崎屋の病弱な若だんなの周りにあつまる妖(あやかし)の活躍がテーマになっているシリーズ。すでに890万冊売れている。第一巻から読み進んで15巻まで来ているが、16巻との間に『えどさがし』という番外編がある。はやりの表現ならスピンオフ作品。

edosagasi0シリーズに入らなかったのは、「若だんな」が登場しないからだろう。5作の短編連作集。

『五百年の判じ絵』若だんなの祖母は大妖のおぎん様。2代下って人間と結婚していったので生まれてくる若だんなを守るには妖の力が必要ということで、佐助(犬神)と仁吉が選ばれる。若旦那の出生直前の話だ。

『太郎君、東へ』太郎君とは坂東太郎=利根川のことだ。江戸時代の当初に、利根川の流れは東京湾(今の江戸川)から銚子(千葉)に切り替えられた。さぞかし大工事と思うが、それに利根川の主(太郎君)が怒り、氾濫ばかり起こしていた。それを宥めたり叱ったりしたのが河童の禰々子。河童の女王だ。工事に失敗すれば工事責任者の切腹は間違いない。工事責任者の武士には婚約者がいるのだが・・この工事のことは前々から知りたかったのだが、本作にはかなり詳しく書かれている。

『たちまち月』上野広徳寺の僧侶寛朝は、妖封じで高名だった。といっても妖の知人も多く、要するになまくら坊主で、弟子には秋英がいる。秋英は元天狗で羽を痛めて天界に戻れなくなり若だんなのあっせんで広徳寺に仕事を得た。つまり若だんなと同世代の事件。この怪しい僧侶に持ち込まれた妙な事件が描かれる。

『親分のおかみさん』岡っ引きの清七は、まじめな働きで薄給にもかかわらず事件捜査に燃える男だ。ところが、勤務中に自宅に捨て子が置かれる。捨て子を取り戻しにくるという言い草で賊が大店に押し込みに入る事件を描いている。清七の大活躍で賊は一網打尽となるが、残された捨て子を清七は引き取り、育てることにした。その子は、後に清吉となり、親の後を継いで岡っ引きとなる。つまり、若だんなが生まれてくる一世代前の時制だ。

『えどさがし』本シリーズの未来を想像させる問題作。時代はしゃばけシリーズから100年経った明治の初期。すでに若だんなはこの世にいない。若だんなの祖母は純粋な妖だが、人間との子を産み、その女子も人間と結婚し、要するに若だんなの妖の血は1/4になっている。そのため数千年の寿命を得ることにはならず、その代わり、いつしか生まれ変わることになっているようだ。長崎屋は長崎商会に変わり、取り仕切っているのは若だんなのアシストをしていた佐助と仁吉だ。仁吉は新聞広告の人探し広告の依頼主「一」が若だんなの本名である一太郎ではないかと、この筋を追って事件に巻き込まれる。一方、佐助は天狗の知り合いを訪ね、若だんなの再生情報を追いかける。事件は解決し、さらに佐助からは、「若だんな発見」の報が届く。


明治になってもしゃばけシリーズ(第二部)が続くということが描かれているわけだ。いつ終わってしまうのかとハラハラしていたのだが、ずっと長く続くことが予想される。完結は作家畠中恵の寿命の尽きるまでということだろう。負けずに長生きすることが重要だ。彼女が妖怪で齢二千年とか言われると叶わないが。

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