何者(朝井リョウ著 小説)

2019-01-16 00:00:53 | 書評
読み終わってから、文庫の解説を読み、直木賞受賞作(2013年)だったことを知る。著者で有名なのは『桐島、部活やめるってよ』。映画化して、さらに有名になった。17歳の高校生のいかにもありそうな実像を描いた。桐島は映画では、名前としての「桐島」しか登場しない。実像は、携帯電話の向こう側にしか存在しない。

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一方、『桐島』の後に発表された『何者』は、大学生たちの話。演劇や音楽をやっていた学生たちも3年生になって就活を始め、女子も男子も「ありのままの私」と「就活用の作られた私」を使い分けるようになる。そして男子と女子の恋愛なのか恋愛以下なのかはっきりしない三角関係や四角関係が起きるのだが、実際にこの作品の底流を流れるのは、人間の二面性の存在なのだ。

そして、その深層と表層のギャップが現れるツールが、ツイッターやブログでの裏アカ(匿名性の高い二重アカウント)。取り繕った表の顔の自分と、ネタミ・ヨコドリ・オネダリという日本人の三大深層心理をさらけ出す裏の顔が対になっている。

どちらかというと、わかりやすい小説だった『桐島』に対し、『何者』は、一見よくある大学生の日々を淡々と書いてあるようで、人間の心理の深層をえぐろうとしている意図は見えるが、そういうテーマって実は以前からあるような気がする。例えば森鴎外の小説などほとんどそれではないだろうか。『舞姫』とか。もう一つのテーマである男女の気持ちの絡みだが、『ノルウェーの森』という名著が既にあるわけだ。

ところで、裏アカの話だが、私のこのブログも実は裏アカみたいなものなのだが、実は裏アカの私の方が実像の私よりも、ずっと常識人であることを付け加えておきたい。


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