怪虫とは

2020-02-13 00:00:01 | 書評
新潮社の月刊書評誌『潮』に1月号から連載が始まった『にっぽん怪虫記(小松貴著)』。まだ2回なので全貌はわからないが、1年後には書店に単行本として並ぶのだろうか。

とりあえず、怪虫として「ネジレバネ」という生物が登場した。

まず、生活史が風変りだ。この生物、あまり科学的ではない言い方をすると、ハエとかハチのように見える。ただし、オスだけだが。寄生して生きているのだが、何に寄生するかというと、種類を選ばないところがある。そして、普通の寄生昆虫は、他の動物の体内で、寄生主の体の一部を食いながら成長し、食い尽くしてから寄生主の体から飛び出して、どこかで交尾してから次の寄生主の体内に産卵したりする。つまり、共存しているわけではないわけだ。

ところが、ネジレバネの場合は、かなり異なるわけだ。とりあえず、寄生主(たとえばキイロスズメバチ)の体内にもぐりこんだネジレバネの幼虫(オスもメスも)はスズメバチの腹から栄養を吸い取って育つわけだ。そしてオスは、成虫になったらハエやハチのような体になって、寄生主の腹から飛び出して飛んでいくのだが、メスは寄生主の体内から生殖器だけを体外に突き出して、オスの飛来を待つ。といっても寄生主はスズメバチなので飛んでいることが多いのだから受精できるかどうかは運任せなのだが、実はハチが長生きできるような物質を作っているという研究もあるそうだ。

そして、オスの空中生存期間は数時間と短いのだから、極めて忙しい。陸運会社に入った新人社員が、いきなり1週間、一睡もせず24時間勤務をして過労で倒れるような感じだ。

そして、メスは寄生主の体内で産卵を続け、卵が孵化させる。うじゃうじゃと生まれた幼虫は寄生主の体の外に出て、近くにいる別の昆虫に取りつくのだが、これも近くに昆虫がいなければ、生きられない。しかも、例えばスズメバチにしてもスズメバチの種類によってネジレバネの種類も違うわけで、ハチならなんでもいいということではないそうだ。

ただし、これらがまったく偶然の三乗のような形で子孫に種が伝わるのではなく、メスのネジレバネの出すなんらかの物質が、寄生主の寿命をコントロールしたり、孵化の時にはハチを巣から出して、さらに仲間と遠くに飛んで行かないように巣の近くに足止めさせる物質を放出していると考えられている。その物質が採取できれば、高跳びされそうな保釈中の容疑者に飲ませればいいだろう。

ただ、存在自身が偶然の賜物といえるこの小さな昆虫を研究するのは、見つけ出すところからすべて困難を極めるそうだ。さらに著者も一度しか見たことがないようだが、アリに寄生するアリネジレバネという種があるそうで、これはオスしかアリに寄生しないそうで、メスはキリギリスやバッタに寄生するそうだ。夫婦で違う会社に勤務するといえば、当たり前のような気もするが、寄生主の生活圏が異なるのだから、さらに不思議だ。

著者の小松貴氏だが、名前が貴族のようだが、虫集めが好きというのも奇妙な感じがするが、王朝文学の中に「虫めでる姫(虫を愛好する姫)」というのもあるのだから、納得するしかない。

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