報われし者のために(モーム原作)

2023-02-20 00:00:33 | 映画・演劇・Video
劇団キンダースペース公演『報われし者のために』を両国にあるシアターχ(カイ)で観る。コロナ以前は年間5回ぐらい観ていたのだが、何となく感染しそうで足を背けていたのだが、そろそろ観に行こうかなと思っていた矢先に友人から連絡があった。モーム研究家で日本モーム研究会に所属している方からだ。

サマセット・モームは「月と6ペンス」とか「人間の絆」といった小説が有名だが、もともとは劇作家。小説を書いたらブレークしたものの、大儲けしたのち、晩年に大衆受けしない劇作を何本か書いている。その一つがこの「報われし者のために」。



モームはフランスで生まれ、フランスで亡くなっているが、人生の前半分は英国で生活し、作品は生涯、英語で書いたので、それにちなんで「アクアスキュータム」のブレザーを着ていったが、友人は「バーバリー」のブレザーだった。似たようなことを考えるということが友人的だ。

大衆受けを狙わない劇作をやろうとする監督の気持ちは図りかねるが、三幕の間、笑いどころを見つけるのが難しい。第一次大戦の後の英国の郊外の町が舞台で、金持ちの事業家の家には父と母、そして戦争で失明した長男、従順な長女、農夫と結婚した次女と活動的な三女が住んでいるが、それぞれ不安定な事情を抱えていながらも、テニスやお茶会、ブリッジなど英国的上流生活を続けているが、それぞれの事情が外部要因によってボロボロになっていく。といっても経済的没落ではなく精神的な離脱、分裂といった方向。

金銭欲、出世欲、名誉、性欲、嫉妬心・・・すべてが崩壊状態となっていき、問題が片付くことなくジ・エンド。

笑う場合じゃないのかもしれないが、金持ちの老夫に捨てられて怒りで大暴れする妻役の女優の演技が、あまりにも演劇の決まり事を超越した乱闘ゲームのように見えて、思わず意味不明に笑ってしまったところと、あとで友人に、劇中で破産した男に対し「英国憲法の条文も知らないでビジネスしたら・・・」という場面があって、英国には成文化した憲法がないのに変だな、原作に書いてあるのかなと確認したのだが、原作にもそうなっているそうだ。そこは笑ってもいいところだったのかもしれない。

ところで、冒頭に挙げた「月と6ペンス」も「人間の絆」も実は読んだことがない。読むべき年ごろには、カミュとか読んでいた。モームとの繋がりと言えば、彼が後半生でコスモポリタンとして世界周遊の地としてシンガポールのラッフルズホテルに長期滞在していた頃に愛飲したとされるシンガポール・スリングを同ホテルのバーで30分ほどかけて飲んだことかな。しかし年表で確認すると、1915年に最初に作られたものの1930年には不人気でメニューから消えていたそうだ。1930年以降にシンガポールに行った彼が飲んだのは何だったのだろうか。