卍(谷崎潤一郎著 小説)

2021-03-12 00:00:30 | 書評
谷崎文学に触れたことがなかった。耽美派というらしいが、一方でその書物は独特の書き方で、1ページに隙間なく文字が詰め込まれる。三島由紀夫もそういう文体だが、谷崎は徹底している。



で、とりあえず最初に読んだのが『卍』。他の作品を読んでないので、谷崎文学の中のどういう位置にあるのかわからないが、渡辺淳一の『失楽園』のような感じで、章ごとに衝撃的なエポックを入れて読者にサービスする。『失楽園』は単に男女の不倫小説だが、『卍』はもっと複雑な同性愛や両性愛、三角関係、四角関係が展開している。



主人公の垣内園子が、すべてのことの後始末に「先生」と呼ばれる人物に語った物語の形式を取るが、数ページだけ作者(谷崎)の立場で書かれた部分があって、そこには垣内未亡人という表現があって、卍の一角をなす園子の夫がすでになんらかの原因で亡くなっていることが明示されているが、なぜ未亡人になったのかは最後のページに行きつかないとわからない。

谷崎潤一郎の耽美派といわれる真髄は一作読んだだけではとうていわからないので、あと何冊かは読んでみたい。しかし、巨編の『細雪』に行きつくかどうかは、不明だ。