恋の都(三島由紀夫著 小説)

2021-03-23 00:00:09 | 書評
1953年、日本が独立国に戻った直後の東京が舞台だ。主人公の朝比奈まゆみは8年前の終戦のすぐ前に丸山五郎という青年と愛し合っていた。五郎は右翼の塾生として活動していて、終戦とともに自決して戸籍からも除籍されていた。まゆみは亡くなった五郎の国粋主義的な思想を心の中で引き継ぐ一方で、表向きの仕事は得意の英語を活用してジャズバンドのマネージャーとして活躍していた。



そして、本小説は、このジャズバンドのマネージャーとして、東京を自由に闊歩する米国人と渡り合って生きていく力強い彼女の日々が、延々と書き綴られるわけだ。

そして文庫本で全306ページの240ページ目、つまり80%が終わった時に、大転回する。

つまり死んだと思っていた丸山五郎は終戦の少し前に上海に渡っていて、現地の特務機関で働いていた。捕虜になり、その後、あれこれあって国粋主義が馬鹿らしくなり、「フランク・近藤」という米国人になり、米国の諜報機関員として香港で働いていたわけだ。

そして香港からニューヨークへ勤務地が変わり、途中、日本で、まゆみを探し出し、一緒にアメリカで生活したいと、無理な提案を言い出したわけだ。

実際、三島文学は新潮文庫で多くを読んでいたため、耽美的でありギリシア彫刻のような構造的な作品が多く、このような都市の裏側の風俗小説はそれほど読んでいなかった。個人的意見だが、本書では後に著者の中核的心象となっていく国粋主義や自決といったテーマが否定的に語られている(まゆみも最後は心の中の大東亜戦争に終戦宣言し、大きなスーツケースを購入することになる(おおた比喩))。

少しわからないのは、上に書いた小説の長さのこと。バランスがおかしい。本当に書きたいのは、前半(80%)のだらしない東京の姿だったのか、後半(20%)の終戦を機にした日本人の心の変化だったのか。後半部分の比率を増やすべきだったのではないだろうか。