若田部レポートを聴く

2009-06-22 00:00:56 | マーケティング
wakatabe早稲田大学政治経済学術院教授の若田部昌澄氏の経済リポートを聴く。野村の主催。

本題と関係ないが、教授の所属は、「大学院」ではなく「学術院」である。いわゆるアカデミー。普通、アカデミーとは国家が設立するものだが、早稲田は私立大学。もっとも、国から助成金を受け取っているのだろうから、いいのかな。あるいは、日本アカデミー賞みたいなものだろうか。

講演の主題は、「世界経済は底を打ったのか」。言いかえれば、「株は買い時か?」ということだが、そういう直截的なことを学者は言わない。

まず、指数から言うと、「NYダウ」「消費者信頼感指数」「中国自動車販売台数」などを使って、今年3月に急落したこれらの指標は、一端、底を打った後、『わずかにリバウンド』している状況と言えるとのこと。ただし、急落した後の単なるリバウンドである可能性もあり、今後についてはリスクを見極める必要があるとのこと。

現在のリバウンド状態の後、少し調整し、その後ゆるやかに回復するのか、横ばい(L型)になるのか、二番底に向かうのか、これからということだ。急回復はないそうである。

リスクについて言えば、まず、中国と米国では底打ちしたものの、EU圏や東欧圏では、いまだに問題を抱えていること。

また、米国金融市場でも不良債権についての金融機関のストレス・テストは、前提が大甘であり、例えば失業率も8%でみていたものが、既に9%となっている。今後、景気回復が軌道に乗らない場合、再度、金融危機が発生する可能性がある。

また、各国では長期金利の上昇によるインフレリスクがあり、それを気にしすぎて、FRBが政策を誤ると、2番底に向かう可能性がある(日本の失われた15年のパターン)。


では、米国・中国の景気回復により、日本経済の方向性については、現在はプラス要因となる。中国から米国へ製品が流れれば、その部品を日本が輸出したり、また、中国の内需向けも日本製品が浸透している。また、国内の景気ウォッチャー調査も上向きである。

しかし、米国経済にリスクがあるように、日本経済にも別のリスクがある。

まず、現在の景気上向き感は、財政出動による一時的なものである点。定額給付金もそうだが、財政政策が尽きた時に失速する可能性が高い。

さらに、これ以上、財政出動すると、長期金利が上昇し、その結果、ドルから円への転換が起こり、結果として円高が進行する可能性がある。そのため、輸出産業が不振に落ち込むシナリオである。

さらに、米国とは逆に、「デフレ」に向かっているように見えること。コアCPIはマイナスだし、業績の順調な企業は、ユニクロはじめデフレに強い企業が多い。

しかも、失業率は、問題が起こるといわれる4%を超え、各種財政政策によっても、5%から5.5%に上昇していくことが予想されている。


ここで、金融政策の方だが、FRBや英中銀、欧州中銀などは、量的緩和だけではなく、信用緩和という手を打っていて、株式などの金融資産そのものを買い上げることにより、流通している資金の質を高めているのに、日銀はほとんど資産買い上げは行っていないとのこと。


若田部教授は、「結局、ここで財政出動を止めては、またしても失われた15年の再来となる」と予想され、「赤字国債発行による財政出動」を提言している。

しかし、一方、国債を発行しても市中の資金(貨幣)が国債に置き換わるだけだから、貨幣不足に陥って、経済は回転しなくなる。そのためFRBが行っているような国債の市中買い入れのような施策が日銀に求められるとの意見である。

この方法の変形としては、政府紙幣の発行という手法もあるが、色々と抵抗感や政府と日銀の関係悪化といった弊害もあるとした上で、政府の発行する赤字国債を、市中を通さずにダイレクトで日銀が購入し、政府に直接資金供給するという方法があると指摘されている。

かつて、昭和恐慌から脱出する際、これを行ったのが高橋是清だったそうで、その政策の効果で日本が大恐慌から一早く脱出できたそうである。ところが、彼が暗殺された後、制度が悪用され、日本が国家破綻への道を進んでいったわけで、日銀内部にも、この方法には大きく抵抗があると思われているそうだ。

財政法 第5条は、
「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。」となっているのだが、ただし書きがあり、
「但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」となっているそうだ。


個人的には、国債の引き受け手だった郵便局が民営化したこと、政策投資銀行の民営化が頓挫しそうなことなど、こういう問題とリンクしているのではないかと思うのである。

第二次大戦のときは、戦時国債という別枠を郵便局が全面的に買い込んだため、国民の郵便貯金がそのまま戦争遂行費に消えたという歴史もあるのだが、「無制限に国債乱発の図」というのは、不況よりももっと悪い事態に至るのではないか、と思うのである。