国際問題が予感される海賊被害船

2007-11-08 00:00:41 | 市民A
77be401b.jpg日本時間10月28日13時45分にソマリア沖アデン湾(紅海の入口)で海賊に襲撃されたケミカル・タンカー「Golden Nori(6,253トン)」のこと。米軍駆逐艦他の多国籍軍に包囲されたままだが、大きな動きがない。現在のところ判明しているのは、この船はパナマ船籍だが実質的所有者は東京中央区にある中堅船会社のドーヴァル海運。乗員はフィリピン人9名(内一人が船長)、韓国人2名(管理者)、ミャンマー人12名の合計23名。シンガポールからベンゼンなど4種類の芳香族系の揮発性液体を積み、スエズ経由で欧州へ向っていた。

ほぼ同時期(30日)に襲撃された北朝鮮船籍の貨物船は北朝鮮船員と米海軍の協力というあり得ない組み合わせで海賊を鎮圧(海賊一人が死亡)。要するに北朝鮮船の船員というのはもともとゲリラ活動などができる訓練をうけているらしい。そして、積荷は「砂糖」ということ。沈もうが燃えようがたいしたことにはならない。

ところが、”Golden Nori”の積荷は、超危険物資のわけだ。タンク(つまり船体)に弾が当たれば、大炎上するか大爆発するかはまちがいない。またベンゼン類は大量に噴き出せば、そのものが中毒を起こすことになる。トルエン遊びみたいなこと。もちろんその前に、酸欠の危険がある。さらに、強い発ガン性物質である。われわれの周りにあるガソリンの中にも含まれているが、ガソリンスタンド従業員の健康問題に影響がないように、含有率を1%以下に抑えている。

すなわち、人質になったのは、船員だけではなく、ソマリア国民の健康、インド洋の海洋汚染なども含まれているということ。そして、他国籍軍に包囲された同船からは、フィリピン人船長から家族にあて電話で、全員無事という情報が伝えられているようだ。当初の報道では、船尾に曳航されていた海賊の乗っていた小型船(モーターボート)を銃撃して沈めたというのだが、ずいぶん荒っぽい作戦だった。たぶん、積荷情報がなかったのだろう。


それで、犯人側の目的といえば、何しろ「身代金」である。例えば、この11月4日に解放された船舶マブノ1号・2号の船員24人は、5月にソマリア近海で海賊に拉致されている。船員は韓国人4人のほか中国人、ベトナム人、インドネシア人、インド人が含まれていた。一説では80万ドル(1億円)の支払いが行われたというのだが、韓国人の団体とキリスト教団体が負担したと言われる。

ところが、一方に身代金を払うから海賊が増加する、という見方もある。そして今回はどうかと言うと、ちょっと危ない構図が見えてくる。

つまり、実質的オーナーであるドーヴァル海運だが、日本語らしくない会社の名前が示しているのだが、1970年にオーストラリアのメルボルンに「Dorval Tankships社」を作ったことから始まる。日本、豪州、シンガポールという国際航路を中心に社業を拡大し、現在は世界中に20隻の小型タンカー(長さ120メートル程度)を運航していて、さらに造船所に大量発注中で2年内に10隻が登場する予定である。30隻の中の1隻に本気で拘わるとは、とても思えない。しかも、身代金を払えば、さらに狙われるという負のスパイラルにはまる。海賊襲撃が船体保険の対象になるかどうかはわからないが、たぶん、このまま放置してしまうのではないだろうか。ざっと試算すると1997年製のタンカーは15億円程度の価値ではないだろうか。


そして、どうもこの事件、フィリピンでは大きな話題になっていて、現地の新聞には、船長からの電話の内容とか報じられている。世界の海運界に船員供給を続ける新海洋立国のフィリピンにとっては、日本の対応こそ「友好国かどうかの踏絵」なのかもしれない。しかし、さらにややこしいのは、韓国であり、ミャンマー。ミャンマーは仏教の国。キリスト教団体が身代金を払おうとしても、「仏教徒の分までは嫌だよ」ということになるのかもしれない。さらに、ミャンマーに対しては長井さん殺害事件で圧力をかけているわけだ。単なる憶測だが、狭い船内に世界三大宗教徒が呉越同舟しているのだろうか。さらに韓国人の信じるものはよくわからない。


また、イランには自分探しの旅に行ったままの大学生がいる。このまま、長期化すれば、アジア各国間の糸はさらによじれ、大きな糸玉になってしまうのではないかと心配してしまう。

ところで、ドーヴァル海運は、所有する船のほとんどの船名が、「Golden ****」というようにゴールデンシリーズになっている。いかにも海賊に狙われそうな名前である。もっと貧乏臭い名前に貼りかえるべきだろうが、今度はお客がいなくなるかもしれないし、なにより、身代金を用意しないと、他の船に乗っている船員が全員逃げ出してしまうのではないかとも思えるのだ。

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