01-04年の新収蔵作品展 工芸館

2006-03-19 06:55:35 | 美術館・博物館・工芸品
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千代田区北の丸公園にある近代美術館工芸館は、戦前は近衛師団の本部であったのだが、歴史に1ページを刻むとするなら、昭和20年8月14日夜の玉音放送録音盤の奪取未遂事件の本拠地としてなのだろう。録音盤は愛宕山のNHK博物館に窒素封印された状態で展示されている。実際は、事件が起きた時刻には、既に海外向けのラジオ放送で、ポツダム宣言受諾を発信しているので、奪取に成功していたとしても、混乱は数日で収束したと考えられる。

そして、戦後、長く荒廃状態だったレンガ造りの建物が再利用され、国立美術館に改装されたのが1977年。母体は文化庁から移管されたコレクションなのだが、日本の伝統工芸展で活躍した人間国宝の作品はきわめて充実しているが、年代的に昭和30年代-昭和40年代に偏っているそうである。そのため、毎年、少しずつ収蔵の時代範囲を広げている、という状況であるそうだ。そして、最近のコレクションとして、昭和50年代以降の作品にも目を向けている。3月14日からはじまった新収蔵作品展「花より工芸」へ、さっそく向かう(~5月21日まで)。

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まず、「人形」がいくつか。1980年代に世界的に人形ブームになっていたのだが、吉田良「すぐり(1986年)」人形の顔に生気を与えるのは難しいものだが、少女の妖艶な表情が赤い衣装に映える。素足の造形など、きわめて手が細かい。そして四谷シモン「解剖学の少年(1983年)」。ついに四谷シモンも博物館入りとなったのか、とため息が出てしまう。この方の人形は、ちょっと斬新さがある。売り出しの頃、展覧会もきわめて小規模かつ短期間でマニアックに行われていたのだが、こんなクラシック博物館で骨董品化してもいいのかなと、心配になる。まあ、おめでとう。

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そして、最近亡くなられた二人の巨匠の作品を多く収蔵したそうだ。まず松井康成。陶芸家である。2003年に没。作品は、きわめて日本的でない。かといって世界のどこともつながっていない。完全にオリジナルデザイン。少し乾いた感じがあるのは、色彩が白を基調としているからだろうか。木星の写真のようなデザインの壺は、存在感を感じさせる。要するに陶器から実用性をまったく無視して、陶芸という芸術性を追求しているわけだ。

そういう意味では藤田喬平(2004年没)のガラスの飾箱シリーズもオリジナルだ。絢爛豪華。飾箱というのは、もとより実用を考えたものでなく、箱という小さな世界の中に美しさを詰め込むためにあるのだろう。

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ところで、藤田氏は毎年、高島屋・三越といった全国展開の百貨店で展示会を行い、大量の作品を発表、即売していた。きわめて高額でほとんどは100万円以上である。それがどんどん売れていく。以前、展示会で関係者の方と話す機会があり、どうやってこの大量の作品を作っているのか聞いたのだが、ほんのさわりだけの話を書くと、映画であれば「日伊共同制作、監督藤田喬平」といったことになっているそうである。つまり、建築家と同じように、自分はデザインを造るところまでで、実際に意匠のとおり作品を作るのが、工房ということだそうだ。柿右衛門のような話だ。