寄ってたかって中国を抑え込もうと

2006-03-17 07:31:46 | MBAの意見
2週間ほど前に、ある国際ワークショップの発表会に出席。「省エネ分野における途上国との協力」というテーマ。電力、エネルギー関係の複数の研究所が共催。国内のエネルギー関係の会社がスポンサーになっている、という前提で日米欧韓のエネルギー関係の研究所が共同研究をした成果の発表会。都内のホテルで日米両方の同時通訳付きだが、英語への通訳は何か英語圏でない人間のような気がしたし、日本語通訳も日本人かどうかよくわからない日本語だし、結局、日米欧韓の方々の英語をそのまま聞いた。

したがって、若干ディテールがわからないところもあったのだが、基本的には、エネルギー産業の人たちの思い描く理想のシナリオは、生産量、価格ともに安定的に少しずつ右肩上がりになり、CO2をコントロールしながら息長く生産、販売を続けていこう、ということである。急激に価格が上昇して、ハイブリッドや燃料電池車(燃料電池車もハイブリッドになると思うが)が一挙に大勢力になって、中東が単なる砂漠に戻ることを望んでいるわけではない。ビジネスだからだ。

そして、冒頭にはいつものように「京都議定書」の評価と実施に向けた状況報告があいまいに行なわれる。現在の問題は、2008年から2012年の各国別のCO2排出量を規定するものなのだが、2013年以降の規制は、「どのレベル」で、「どういう方式で」行なうのか、というのを「いつまでに決めるのか」、というのが現在の問題であり、2008年の東京サミットが意識されているということだそうだ。各国別といった枠になるのか、もう一歩踏み込んで用途別の目標を作るのか、さらに細かく産業別原単位や自動車の燃費基準のような細部の規制値まで作るのかという方法論と米中の二国をどうやって取り込むかという高排出国の取り込み問題が大きなテーマとなるそうだ。(というようなことは、誰でもわかっているので、このあたりは単なる形式的なイントロダクションである)

2df7eed5.jpg次のフォローは、地域別のCO2見通しで、世界中でアジア地区だけがCO2の暴発の危機にあると指摘される。さらに、その中で、インドではなく中国だけがCO2を爆発させるだろう、というグラフが紹介される。要するに、ここまで来てはじめて、テーマの「省エネ分野における途上国との協力」とある中の「途上国」とは、一般用語ではなく特定の国(=中国)であることが明らかになる。そして、もう少し聞いていると「省エネ分野における中国との協力」ではなく「中国に省エネを押し付けるかわりに若干の協力を行なうためのプラン」の発表会という会議の本質が見えてくるのであった。

ここからが第二部なのだが、驚いたことに世界の叡智が集まって検討した割りにマイナーな話が多い。以前、梅田望夫氏が語っていたが、日本にいるとごく当たり前に行なわれている技術革新(例えばセンサー付きシャワートイレなどや喋るカーナビとか細かすぎる設定のできるデジカメとか・・)というのは、外国人からみれば、理解不能の上にさらに理解不能を積み重ねていくようなものだそうだからなのだろうが、日本では、あまりの陳腐な話なので驚かないで欲しいが、

・省エネ型の冷蔵庫に「省エネマーク」をつける。「エコマーク」
・エコタイヤに「マーク」をつける。
・待受電力のセーブ運動。
・新築ビルの小型蛍光灯化。

というようなことなのだが、冷静に考えれば、できない話ばかりのような気がする。エコマークはそれ自体が違法コピーされるだろうし、ビルの小型蛍光灯化は既に法令で決まったらしいが遵守率は10%。日本で法令上、売れなくなった旧型の中古家電も輸入するだろうし、要するに個人レベルのことを政府が求めても守られるとは思いにくいところがある。

そして、これらのプランをもって、この研究チームは中国で政府関係者にインタビューを行なっているのだが、要するに「実施するインセンティブがない(つまりおカネがない)」ということらしい。つまり、他国の協力というのは、こういった技術革新が進む仕組みや政府の規制方法といったソフト部分の援助するために、若干のおカネを渡したらどうだろう、という提案であったわけだ。中国が省エネを行なった場合、どの国も国益があるのだから、少しずつ供出したらというのだが、この会での提案は非常に控えめに1000万ドル(≒12億円)というのだから、まさに焼けた海岸にコップの水、一杯ということかもしれない。


ところが、こんなのんびりとしたことをしている間に、大国は妙な動きをしているわけだ。まず、EUは中国、インドと個別にCO2対策を検討開始。さらに米国は中国にゼロエミッション型石炭火力発電所の技術供与を決定。1000万ドルの話とは3桁くらい違う規模だ。それではそのゼロエミッション型石炭火力発電とは何かというのは、また後で書くとして、極めて簡単に言うと、要するに、中国にたくさんある石炭を優先的に燃やして火力発電をしてもらって、原油の需給を緩めて、原油価格の低位安定を図ることと、将来、自国(米国)でも作らなければならない同型の石炭火力発電所の実験台にしたいということである。なにしろ、CO2を地下水に強制的に溶かし込んでしまおうという技術なのだから、もちろん、数々の大問題がある。

そして、省エネがメインテーマの会合にふさわしく、ホテルで行なわれたコンヴェンションであるのにもかかわらず、期待していた立食パーティーはナッシングということであったのだ。