8月末に毎年のように開催されたハーレーとビューエルの新車発表会の最後に、サプライズというわけではないが、現・ハーレー・ダビッドソン・ジャパン 奥井代表取締役が年内に退任し、ゼネラルマネージャー福森豊樹氏が、翌年1月1日付で社長に昇格することが発表された。奥井社長は代表権のない相談役に退く。
伊藤忠からHDJへやってきた福森氏の手腕についてはこれからの評価となるが、1990年にトヨタから転進してきた奥井氏は日本国内におけるハーレー・ダビッドソンの普及に多大な功績を残したといってよい。
ディーラー網の整備、イベントと連動したマーケティング戦略、独特な営業哲学などなど、氏はマーケティング面でのお手本として数々の著書や関連本などでその手法が語られているので興味ある人は一読してみるといいだろう。
が、しかし、
物事はいくつかのモノサシで見る必要がある。
1980年代の後半のオートバイマーケットの事情
1990年代の大型免許の教習所での取得
高速道路の二人乗り解禁
ここ10数年で日本では二輪を取り巻く環境を変えたいろいろなイベントがあった。ハーレー・ダビッドソン社が外圧をかけることで、それを主導したという側面は大きいが、まずは大型二輪のマーケットが立ち上がった時期に新規の商品を売って数字を作っていくのはそんなに難しいことではない。
それにヨコハマで開かれた展示会に行ってそれを確信したが、二輪マーケットがある程度成熟している日本で、しかも本国で先にハーレーが復活をし、その余波で国内のアメリカンバイクが盛り上がってきていた勢いもあった。
そういう意味で、ハーレーが簡単に乗れるようになるというハーレーに誰しもが乗れるようになるという仕掛けはハーレー・ダビッドソン・ジャパンの努力の末ということもできるが、はやりそれは日本人として必然なイベントだったに違いない。日本人はとってもハーレーに乗りたかったのだ。大昔から。
乗りたい人がたくさんいるからその環境を整備することでマーケットを形成していけばどんどん売れるのは自明の理である。そしてそこでその乗りたい人たちが90年代のHDJを支え、2000年前半はそれがさらに好循環にマーケットに対して働いた。
また、おもしろいのは本国と日本のHDJという販社の関係のコンビネーションがうまくいっていること。たとえばiphoneを未来を語るのはスティーブ・ジョブズで、日本はソフトバンクの孫さんがそれを売ることに徹しているように、WillieGが未来を語り、日本人はその夢をせっせと売るというリージョンの役割がうまくまわっている企業がハーレーダビッドソンビジネスのうまさでもある。
本社は夢を追う。ミュージアムもそのひとつの投資だろう。そして販社は売ることに特化する。そんな分業具合は、このハーレーダビッドソンというビジネスの本質はいかにアメリカで考えられた戦略に依存しているということができる。仮にUS本社がかつてやったように時代の変化を見誤れば、世界的に一気に敗退するような危うい可能性もある会社でもある。
ブランドにおいては、HDJ、日本法人はハーレーのブランドを利用はしてもまったく育てなかったと思うが、湯水のように潤沢に使えるだけのブランド資産があることは強みだ。そもそも上で指摘したようにユーザーは本国で形成されるブランドロイヤリティのほうを向いており、**の楽しみなど日本向けに翻訳した戦略はイマイチ受けがよくなく、もしくは継続できるものではなかったと思う。少なくともあれは購入者に対するメリットであって、既存の顧客のロイヤリティを上げる施策ではないはずだ。特に長くハーレーと付き合っていればいるほど、ハーレー・ダビッドソン・ジャパンという企業に対して距離感を感じる。ハーレー・ダビッドソン・ジャパンにデータマイニングの人がいるなら、既存のオーナーがいかにこのマーケティング活動でロイヤリティを無くしているかカウントしたほうがいいだろう。
奥井氏の退任の噂はこちらにも一年前くらいから噂では聞こえてきていたので、いまさらなところはあるが、これがハーレー・ダビッドソン・ジャパンのマーケット戦略のピークだったのかどうかについては個人的には興味があるところだ。これ以上この市場が伸びないことを予期して花道を飾ったとは思いたくはないものだ。だがかなりの実績を出したと捉えられている奥井氏は、その実績をひっさげて自動車業界に再度返り咲くのかもしれない。
どちらにしても変化点ではあるけれど。10年後にこの業界がこの日本でどうなっているだろうか。ワタシは、新社長は新車を売るだけでなく、今よりももっとハーレーを愛するすべての人に向き合ってくれる人であって欲しいんだがね。
HDNのTAKU氏の記事からの引用である。
さすがと思わせる冷静な分析は、10年以上も掲示板を運営されていたTAKU氏ならではだと思う。
日本の2輪業界は思ったより小さく脆弱であったのだが、10年後の心配は私も同様である。
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