樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

野鳥撮影事始め(世界編)

2021年07月08日 | 野鳥
まず、下の写真を見てください。水辺にアオサギがたたずんでいます。これは1856年にイギリスのジョン・ディルソン・ルウェリンという人物が撮影したもの。



ところが、写っているのは生きたアオサギではなく剝製。当時のカメラは露光に数分かかるので、風景や静物は撮影できますが、動き回る動物は撮れないので剝製を使ったわけです。ルウェリンはこの数年前にもシカのはく製を使って同様の写真を撮っています。
生きた鳥をカメラに収めることができるようになるのは1890年代。イギリスにリチャード・カートン、チェリー・カートンの兄弟が現れ、野鳥や動物の写真を撮り始めます。
下の写真は、木の枝で三脚を継ぎ足し、兄リチャードの肩の上に弟チェリーが乗って鳥の巣を撮影しているシーン。1890年代のものです。この兄弟が野生動物写真のパイオニアで、1899年に『With Nature and a Camera』という写真集を出版します。



現在のような超望遠レンズがなく、また1枚ずつ乾板に写し取るわけですから、その苦労は想像を絶します。2人は牛の全身の皮を調達して張りぼての牛を作り、その中に入って鳥に接近し、牛の口からレンズを出して撮影したそうです。1枚撮るために8時間も張りぼての牛の中に閉じこもることもあり、腰痛に悩まされたとのこと。
そうやって苦労を重ねて撮影した写真をご紹介します。下はハイタカの雌が雛に給餌している写真。当時ハイタカはカラスやモリバトの古巣を利用するといわれていましたが、この写真によって独自に営巣することが証明されました。生態写真は鳥類学にも貢献するわけです。



次はカッコウの幼鳥に給餌するヨーロッパビンズイ。カッコウ類が自分で子育てせず他の鳥に育てさせる奇妙な生態(托卵)を捉えた貴重な写真です。



時代が進むと野鳥撮影用の機材や道具も進化します。下の写真はカートン兄弟とは別の人物ですが、馬車に脚立を積み、枝をつぎ足した三脚ではなく、専用の巨大な三脚にカメラをセットしています。1921年にイギリスで撮影されたもの。



現在はカメラもデジタルになり、測光も絞りもフォーカスも自動、乾板やフィルムの出費を気にすることなく1000枚でも2000枚でも撮れ、連写もできるようになりました。超望遠レンズがあれば苦労して鳥に接近する必要もありません。
私の場合は主に動画で、同じくデジタルの恩恵で気楽に撮影していますが、昔の人たちが鳥を撮るために重ねた苦労を思うと、うなだれてしまいます。
コメント (2)
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