樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

障害者とバードウオッチング

2017年08月10日 | 野鳥
今年の3月、私の発案で車イス利用者を対象とした「バリアフリー探鳥会」を京都支部の催しとして実施しました。準備は大変でしたが、参加者にも喜ばれ、NHKや新聞などもニュースに取り上げてくれて大成功でした。
そして5月には、ある団体が主催する視覚障害者のための探鳥会(担当者によると“探聴会”)をお手伝いするために比叡山へ行ってきました。


比叡山での“探聴会”。視覚障害者を晴眼者が1対1で導きます。

この2つの催しを通じて感じたことは、「自然に触れたい。野鳥の姿や声を楽しみたい」という欲求は、私たち健常者と同じく障害者にもあるということでした。
そして、以前読んだ本を思い出しました。4歳で視力を失った盲目のバードウオッチャー・三宮麻由子さんのエッセイ集『鳥が教えてくれた空』。盲目ですからバードウオッチャーではなくバードリスナーと呼ぶべきでしょうが、この著書を読むと聴覚だけでなく全感覚で鳥を観察しておられるのが分かります。



例えば、スズメの鳴き方で時間や天候が分かるという話の後、以下のような記述が続きます。

六、七年前に探鳥を始めてから、私はスズメがよくとまる電線や屋根の高さを覚え、スズメの声を聞きながら町並の見当をつけられるようになった。たとえば、スズメが鳴く屋根がたくさんあれば、ここは住宅密集地で、目の前から家並が広がり、その手前に電線が張りめぐらしてあるだろうと思った。(中略)こうして想像しながら聞いていると、殺伐とした都心にいても、スズメが鳴けば世の中安泰という気分になってくる。鳥が鳴く場所は、空気も水も信頼できるからだろうか。

三宮さんは国内だけでなくアメリカやヨーロッパ、東南アジアで出会った鳥についても書いています。文庫版の巻末には阿川佐和子さんとの対談が掲載されていて、「約250種の鳥の声を覚えていますが、ライブで聞いたのは125種類くらい」と語っています。すごい数です。正確には数えていませんが、私は70~80種類しか覚えていないと思います。
別のインタビューによると、野尻湖で30種ほどの野鳥のコーラスを聞いたとき、同時に新緑の香りや日の出の光も感じる“五感の劇的な合体”を経験されたそうで、それ以来自然の感じ方に目覚めたそうです。
私たち晴眼者はついつい視覚に頼って鳥を見てしまいますが、三宮さんのエッセイや対談を読むと、聴覚や嗅覚、触覚など五感で自然に接することの大切さを忘れているのではないかと自省させられます。
コメント (4)
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