樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

国宝『檜図屏風』

2015年03月19日 | 木と作家
狩野永徳が描いた『檜図屏風(ひのきずびょうぶ)』(国宝)の修理について、NHKがドキュメント番組を放送しました。
表面の汚れや経年劣化を補修する技術、絵の裏に隠されていた家紋から推理される歴史も興味深かったのですが、ツリーウォッチャーとしてはやはりモチーフであるヒノキが気になりました。


『檜図屏風』の部分(画像はパブリックドメイン)

幹も枝もダイナミックに暴れています。でも、見た瞬間「これは実際のヒノキではないな~」と思いました。ヒノキの幹は真っ直ぐ上に伸び、枝もほぼ真横に規則正しく張るので、こんな曲がりくねった樹形にはならないはずです。
永徳はリアルに描くことよりも、動的に描くことで何かを表現したかったのでしょう。ネットで調べると、ある専門家が次のように書いていました。
「実は、本来、檜は、真っ直ぐに伸びます。その枝は綺麗に広がります。しかし永徳は、その檜を大きくデフォルメし、不気味なほど、ねじ曲げて描いていたのです。永徳は、戦国の美は決して美しいものだけではなく、もがき、荒ぶる姿にこそ、本質があると考えたのかもしれません」。
永徳が生きたのは戦国時代~安土桃山時代。信長や秀吉から依頼されることが多かったので、こういうパワフルな絵を描いたのではないかという推測です。
その一方で、葉はリアルに緻密に描いています。


葉の部分の拡大

構図の大胆さとディテールの緻密さ。そこにこの作品の魅力があるように思います。
面白いことに、惜しげもなく金箔を使った狩野派特有の豪華絢爛なヒノキとは逆に、地味な樹木の絵が同じ時代に描かれ、それも国宝に指定されています。以前ご紹介した長谷川等伯の『松林図屏風』。



地味ですね~。水墨画なので色もなく、金箔も使っていません。私は年金を受け取る年齢ですが、まだこの枯れた境地に至っていないので(笑)、永徳のヒノキの方に惹かれます。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする