酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

今こそ乱破者に~頭脳警察の知性と世界観に心を撃たれる

2019-09-25 22:22:37 | 音楽
 前稿の枕で<内向きの日本>と<国際標準>の乖離について記したが、ラグビーW杯では<タトゥー>が物議を醸す。タトゥーは〝反社〟の象徴と見做され、ある温泉地で日本人観光客にアンケートしたところ、90%弱が解禁反対だった。タトゥーが伝統や文化に根差し、敬意の表現であることを受け入れる時機に来ている。

 先週20日、全世界で「グローバル気候マーチ」が開催され、数百万の若者がパレードした。日本でも5000人以上が街角でアピールする。グレタ・トゥーンベリさん(16歳)の訴えはスウェーデンから瞬く間に世界に広がった。<気候正義>の奔流が、環境やエネルギー問題を一貫して訴えてきた「グリーンズジャパン(2012年結成)の認知度を高めるきっかけになることを、会員のひとりとして切に願っている。

 さて、本題。ロックを聴いて半世紀……、レジェンドを3人挙げるならピート・タウンゼント(フー)、ロバート・スミス(キュアー)、そしてPANTA(頭脳警察)になる。頭脳警察はギター(PANTA)とパーカッション(TOSHI)の2人組で、1969年にデビューした。Tレックスに触発されたのか同じ編成だった。発売禁止が続き、〝叛逆〟のパブリックイメージが付き纏う。音楽的にはフォーク色が濃いが、実験性と攻撃性はパンクの魁だった。

 PANTA&HAL名義で発表した「マラッカ」と「1980X」は当時のUKニューウェーヴを凌駕する最先端で、40年後を照射する預言がちりばめられている。ホロコーストへの転換をテーマにしたソロ作品「クリスタルナハト(水晶の夜)」、パレスチナに視点を定め重信房子氏(元日本赤軍最高幹部)と共作した響名義の「オリーブの樹の下で」など傑作を次々に世に問うてきた。

 頭脳警察の新作「乱破」のお披露目公演となる「頭脳警察50周年2ndライブ」(21日、渋谷・マウントレーニア)に足を運んだ。「50周年1stライブ」(4月、花園神社水族館劇場)以来、今年2度目の頭脳警察である。劇団Nachlebenの「揺れる大地」公演のテーマ曲も収録されていた。

 第1部は「乱破」を曲順通り、第2部ではHPで募集したリクエストのベストテンを演奏し、4人の若者によるサポートで分厚いサウンドが奏でられた。愛嬌とサービス精神に溢れたTOSHIの一挙手一投足にも目を奪われる。アンコールでは冒頭に登場した尺八奏者がフィーチャーされ、「コミック雑誌なんていらない」でライブを締めくくった。

 和のテイストが濃い♯1「乱破者」、エッジが利いた♯2「ダダリオを探せ」、切々と訴えかける♯3「戦士のバラード」、1930年代の満州と80年後の東京を行き来した芝居が甦る♯4と♯5「揺れる大地Ⅰ・Ⅱ」、俺の心に最も染みた♯6「紫のプリズムにのって」、自嘲とユーモアを込められた♯7「俺は笑っている」、PANTAの恋を想像させる♯8「アウトロ」……。予測を遥かに超える濃密なアルバムだった。

 以降はアルバム未収録曲もしくはセルフカバーで、何曲かはセットリストに入っていた。♪革命(Revolution)、進化(Evolution)、退化(Devolution)」のリフレインが印象的な♯9「R★E★D」では歌詞を変え、♪香港からSOSと歌っていた。人気アーティストの幇間に堕した音楽メディアが頭脳警察を取り上げることはないが、現在の日本を穿つ傑作を多くの人に聴いてほしい。

 PANTA自身、順位は意外と話していたが、「ふざけるんじゃないよ」、「銃をとれ」、「さようなら世界夫人よ」、「赤軍兵士の歌」など定番曲がベストテンに含まれていた。1位は90年、16年ぶりに発表した「頭脳警察7」の掉尾を飾った「万物流転」で、PANTAは納得の様子だった。「何も変わらなかったことに絶望して作った」とあるステージで話していたを聞いた記憶がある。

 密かにランクインに期待していたのは「時代はサーカスの象にのって」(作詞/寺山修司&高取英)と、「狂った一頁」(衣笠貞之助監督)の幻のサントラ収録曲だ。ともに頭脳警察名義で発表されているが、コアのファンの間でも知られていないようだ。とりわけ後者はライブ音源(限定発売)だったから仕方ないか。

 50周年イベントは今後も準備されており、来春にはドキュメンタリーも公開される。動員力も飛躍的に増加し、今回は立ち見の人もいた。PANTAは「抹殺寸前だった頭脳警察が、なぜか生き残っている」とMCしていたが、知性と世界観が彼らを生き永らえさせている。頭脳警察は今、フレッシュなのだ。


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