U―20女子W杯の結果が気になってテレビをつけると、とんねるずの番組が始まっていた。消すのをやめたのは、石川佳純が映っていたからである。常に発見が遅れる俺だが、石川が俺のブログに初登場したのは5年前の4月。中学生の頃、既に注目していたことになる。
「もっと可愛くなると思ったのに、期待外れだった」とロンドン五輪での石川の印象を仕事先で話していたが、勘違いだったようだ。さすがテレビというべきか、天然ぶりと併せ、彼女の魅力を十分に引き出している。勤め人時代、女子社員の顔を狸と狐に分類して顰蹙を買った俺だが、好みは狸(福原愛)ではなく、狐(石川佳純)の方である。いずれのタイプにも痛い目に遭わされてきたのは、力量不足と言うしかない……。
別稿(7月30日)に記したが、俺は〝PANTA隊〟の一員として「脱原発~国会大包囲」に参加した。一期一会と腹を括り、あれこれぶつけた質問に、懐の深いPANTAさんは丁寧に答えてくれる。「PANTAさんは俺にとって、パティ・スミスに匹敵する〝ロックイコン〟です」と話すと、「俺はあんなにわがままじゃないですから」と即座に言葉が返ってきた。ちなみにPANTAさんは〝パンククイーン〟のパティより3歳若いが、デビューは3年早い〝パンクの魁〟である。
PANTAさんのように謙虚な人はレアケースで、大抵のカリスマは分野を問わず周囲に緊張を強いる腫れ物だ。今回は〝ジコチューの狐〟ことパティの新作「バンガ」について綴りたい。
03年夏、赤坂ブリッツでパティのパフォーマンスに触れ、ステージから放射されるオーラとフェロモンに圧倒された。意志の力が聴衆を覚醒させ共感へと導く<ロックの理想形>があの夜、体現されていた。あれから9年、呟き、囁き、話しかける「バンガ」は静謐でモノクロームな耐暑アイテムだが、心に熱い焔を灯してくれる。
パティは作家、詩人、写真家、映画監督、ロッカーら多分野のアーティストから指向性を吸収し、屹立する光の塔になった。「バンガ」は人生の集大成であり、同時に自らを創り上げた文化へのオマージュといえるだろう。
10代の女の子が歌うような♯2「エイプリル・フール」も微笑ましいが、訳詞を眺めながら聴いていると、パティの作意が浮き上がってくる。♯1「アメリゴ」ではアメリカの命名者アメリゴ・ヴェスプッチ、♯11「コンスタンチンズ・ドリーム」ではコロンブスと同時期の画家をテーマの軸に据えている。「1%」を痛烈に批判するパティだが、アメリカ再生への希望が伝わってきた。
死に彩られた曲も多い。それぞれエイミー・ワインハウスとマリア・シュナイダーに捧げた♯4「ディス・イズ・ザ・ガール」と♯6「マリア」も印象的だが、聴かせどころは♯10「セネカ」だ。60代半ばになったパティは、自らの人生に関わった人たち――夫フレッド、弟、ギンズバーグ、メイプルソープ、バロウズ――を見送った。同曲は鎮魂の思いが込められた美しいレクイエムである。
ロシアもキーワードのひとつで、アルバムタイトルでもある♯5「バンガ」は、旧ソ連の反体制作家ブルガーコフの小説に登場する犬の名から採られている。♯8「タルコフスキー」はロシアツアーで巨匠の墓を訪れた時にインスパイアされたという。パティは日本文学に造詣が深く、酒好きでもある。南方戦線で日本軍と戦った父からは、原爆の悲劇を教えられた。映画「ドリーム・オブ・ライフ」(08年)で日本への遠近感が表現したパティは、東日本大震災後、イメージとリズムに和風が窺える♯3「フジサン」を作った。
カーソン・マッカラーズ、ヴァージニア・ウルフ、そしてダイアン・アーバス……。パティと並ぶ20世紀の女性表現者を挙げてみた。ウルフとアーバスは自殺し、マッカラーズの人生は孤独に満ちていた。生き辛かった彼女たちと比べ、パティは奔放さを貫いている。「ドリーム・オブ・ライフ」ではバロウズとの交遊が描かれていた。突進してくる小娘(パティ)を持て余したバロウズは、「僕はゲイなんだ」と呟いたという。
師、理解者、友、そして恋人を猛烈な勢いで探し求めてゲットする……。パティは〝ジコチューで肉食系の狐〟だが、創り出すものは知的な煌めきに満ちている。年内に刊行される「ジャスト・キッズ」(全米図書賞受賞)、来年1月の日本公演(オーチャードホール)が待ち遠しい。
「もっと可愛くなると思ったのに、期待外れだった」とロンドン五輪での石川の印象を仕事先で話していたが、勘違いだったようだ。さすがテレビというべきか、天然ぶりと併せ、彼女の魅力を十分に引き出している。勤め人時代、女子社員の顔を狸と狐に分類して顰蹙を買った俺だが、好みは狸(福原愛)ではなく、狐(石川佳純)の方である。いずれのタイプにも痛い目に遭わされてきたのは、力量不足と言うしかない……。
別稿(7月30日)に記したが、俺は〝PANTA隊〟の一員として「脱原発~国会大包囲」に参加した。一期一会と腹を括り、あれこれぶつけた質問に、懐の深いPANTAさんは丁寧に答えてくれる。「PANTAさんは俺にとって、パティ・スミスに匹敵する〝ロックイコン〟です」と話すと、「俺はあんなにわがままじゃないですから」と即座に言葉が返ってきた。ちなみにPANTAさんは〝パンククイーン〟のパティより3歳若いが、デビューは3年早い〝パンクの魁〟である。
PANTAさんのように謙虚な人はレアケースで、大抵のカリスマは分野を問わず周囲に緊張を強いる腫れ物だ。今回は〝ジコチューの狐〟ことパティの新作「バンガ」について綴りたい。
03年夏、赤坂ブリッツでパティのパフォーマンスに触れ、ステージから放射されるオーラとフェロモンに圧倒された。意志の力が聴衆を覚醒させ共感へと導く<ロックの理想形>があの夜、体現されていた。あれから9年、呟き、囁き、話しかける「バンガ」は静謐でモノクロームな耐暑アイテムだが、心に熱い焔を灯してくれる。
パティは作家、詩人、写真家、映画監督、ロッカーら多分野のアーティストから指向性を吸収し、屹立する光の塔になった。「バンガ」は人生の集大成であり、同時に自らを創り上げた文化へのオマージュといえるだろう。
10代の女の子が歌うような♯2「エイプリル・フール」も微笑ましいが、訳詞を眺めながら聴いていると、パティの作意が浮き上がってくる。♯1「アメリゴ」ではアメリカの命名者アメリゴ・ヴェスプッチ、♯11「コンスタンチンズ・ドリーム」ではコロンブスと同時期の画家をテーマの軸に据えている。「1%」を痛烈に批判するパティだが、アメリカ再生への希望が伝わってきた。
死に彩られた曲も多い。それぞれエイミー・ワインハウスとマリア・シュナイダーに捧げた♯4「ディス・イズ・ザ・ガール」と♯6「マリア」も印象的だが、聴かせどころは♯10「セネカ」だ。60代半ばになったパティは、自らの人生に関わった人たち――夫フレッド、弟、ギンズバーグ、メイプルソープ、バロウズ――を見送った。同曲は鎮魂の思いが込められた美しいレクイエムである。
ロシアもキーワードのひとつで、アルバムタイトルでもある♯5「バンガ」は、旧ソ連の反体制作家ブルガーコフの小説に登場する犬の名から採られている。♯8「タルコフスキー」はロシアツアーで巨匠の墓を訪れた時にインスパイアされたという。パティは日本文学に造詣が深く、酒好きでもある。南方戦線で日本軍と戦った父からは、原爆の悲劇を教えられた。映画「ドリーム・オブ・ライフ」(08年)で日本への遠近感が表現したパティは、東日本大震災後、イメージとリズムに和風が窺える♯3「フジサン」を作った。
カーソン・マッカラーズ、ヴァージニア・ウルフ、そしてダイアン・アーバス……。パティと並ぶ20世紀の女性表現者を挙げてみた。ウルフとアーバスは自殺し、マッカラーズの人生は孤独に満ちていた。生き辛かった彼女たちと比べ、パティは奔放さを貫いている。「ドリーム・オブ・ライフ」ではバロウズとの交遊が描かれていた。突進してくる小娘(パティ)を持て余したバロウズは、「僕はゲイなんだ」と呟いたという。
師、理解者、友、そして恋人を猛烈な勢いで探し求めてゲットする……。パティは〝ジコチューで肉食系の狐〟だが、創り出すものは知的な煌めきに満ちている。年内に刊行される「ジャスト・キッズ」(全米図書賞受賞)、来年1月の日本公演(オーチャードホール)が待ち遠しい。