酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ダイイングメッセージで読む高松宮記念

2008-03-30 00:22:42 | 競馬
 前哨戦での波乱もあり、高松宮記念は春の嵐が吹き荒れそうだ。サンアディユをキーホースに予想することにする。

 音に敏感なサンアディユは、断然人気に推されたオーシャンS(3月8日)でアクシデントに見舞われる。隣の馬がゲートの扉を蹴り、その音に驚いてパニック状態に陥った。大きく出遅れ、シンガリのままゴールする。

 レースとの因果関係はわからないが、サンアディユは翌日、心不全で急死した。馬名(さよならは言わないで)と悲しい最期に、「さよならはダンスの後に」を口ずさむ。
♪何も言わないでちょうだい 黙ってただ踊りましょう だってさよならはつらい ダンスの後にしてね……
 妄想は一気に加速し、早々に相手役を見つけた。
♀「さよならは言わないで」
♂「あなたをもっともっと愛します」

 臭いセリフを振られた彼は、補欠1番手で除外になる。本命馬が消えて気分は萎えたが、ある事実に愕然とした。彼、すなわちアイルラヴァゲインこそ、隣の枠の暴れ馬だったのだ。メロドラマが一転ホラーになる。アイルラヴァゲインの出走が叶わなかったのは、サンアディユの呪いだったのか……。縁起の悪いオーシャンS組はまとめて切ることにした。

 音無厩舎、内田騎手、音に敏感で静謐(サイレンス)が好き……。サンアディユからのダイイングメッセージで、馬を選ぶことにした。音無厩舎の管理馬はいないが、<音無=サイレンス>とこじつけ、サンデーサイレンス産駒のスズカフェニックス、リミットレスビッド、ペールギュントをピックアップする。

 最内枠は不利だが、スズカの能力は頭一つ抜けている。リミットレスの鞍上内田は悲劇の当事者だった。ペールギュントの橋口師は音無師と親友で、サンアディユがアイビスサマーダッシュに勝った時、不在の音無師に代わって表彰台に立った。

 「この3頭で決まり!」と悦に入っていると、テレビで武幸四郎がパフェを食っていた。ミニストップのCMである。「武豊TV!」でおちゃめで危なっかしい素顔がお馴染みの武幸は、今回マルカフェニックスに騎乗する。父ダンスインザダークとくれば、上記の曲名ともサンデーサイレンスとも繋がる。買い目に加えることにした。

 結論。◎①スズカフェニックス、○⑧リミットレスビッド、▲⑪ペールギュント、△⑤マルカフェニックス。馬連と3連単を4頭BOXで買う。結果的に差し、追い込み重視になった。妄想劇場の蜃気楼馬券というべきで、レース後は現実の重さに打ちひしがれているだろう。

 ドバイ競馬をスカパーで無料中継している。デューティフリー(16頭)のアドマイヤオーラは5~8着、ウオッカは10着以下、ワールドカップ(13頭)のヴァーミリアンは2~5着というのが俺の大まかな予想だ。競馬のアウエーはサッカー以上に厳しい。期待しないで楽しむことにする。


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「硫黄島からの手紙」~イーストウッドが奏でる鎮魂歌

2008-03-27 01:46:38 | 映画、ドラマ
 W杯3次予選で、日本はバーレーンに0―1で敗れた。<絶対に負けられない戦いがそこにある>というテレビ朝日系のキャッチフレーズには、毎度ながら失笑してしまう。外交、経済、技術をめぐる戦いで苦杯をなめれば一大事だが、サッカーぐらいリラックスして見たいものだ。

 63年前のきのう(26日)、敗北が織り込み済みの硫黄島の戦いにピリオドが打たれた。日本側の2万933人の守備兵のうち、生き残ったのは804人という地獄の戦線だった。今回はイーストウッドの2部作(06年)のうち、「硫黄島からの手紙」を中心に記したい。

 駐米経験のある栗林中将(渡辺謙)、語り部の西郷一等兵(二宮和也)、和魂洋才のバロン西(伊原剛志)、軍隊の狂気を体現する伊藤大尉(中村獅童)……。群像劇のキーになっているのは四つの個性だ。モノローグの栗林と西郷の手紙が、普遍的な情を表現している。枯葉のように戦場を彷徨う伊藤の姿は、戦争の不条理と滑稽さを示していた。

 連合艦隊は壊滅状態で、戦闘機は本土防衛に張り付いている。硫黄島は翼をもがれた鳥であり、大本営にとって捨て石だった。<我々の子供らが日本で一日でも長く安泰に暮らせるなら、我々がこの島を守る一日には意味があるんです>……。退任(逃亡)する海軍司令官に栗林が叫んだ通り、3月以降、本土への無差別空襲が始まった。

 戦闘シーンはブルーとセピアの中間の抑えたトーンで統一され、炎と光がリアルに眩しい。陸軍と海軍の反目、地下要塞構築を指示する栗林への反抗、命令を無視する士官、兵士たちのざっくばらんな会話……。イーストウッドが描く日本軍は、ステレオタイプと異なり新鮮だったが、自決シーンの生々しさに息を呑んだ。合理主義者の栗林とバロン西も軍人としての矜持を保ち、<敗北の美学>に身を殉じる。厳粛に生きていない俺に、切っ先を突きつける作品だった。

 貴い死が積み上げられた後、この国で何が起きたのだろう。玉砕と散華を説いた平泉澄は戦後を生き延び、平泉に心酔して無数の国民を死に至らしめた東条英機は自決に失敗する。昭和天皇の代わりに三島由紀夫が腹を切り、責任という言葉は煙になった。新銀行東京をめぐる石原都知事の言動も、無責任の連鎖の一例である。

 「父親たちの星条旗」では、戦時国債を集めるために使い捨てにされた英雄たちが描かれていた。ネイティブアメリカンであるアイラ・ヘイズの葛藤が、アメリカ社会の本質を抉っている。ラストのモノローグ――国のための戦いでも、死ぬのは友のため、共に戦った男たちのためだ――は、安直なナショナリズムへの警鐘といえるだろう。

 当時は財政難に陥っていたアメリカだが、第2次大戦後は戦争が国家の血液になる。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争だけでなく、現在に至るまで各国への侵攻、空爆、派兵を繰り返している。<戦争依存国家アメリカ>を補助しているのが<銃後国家日本>であることを肝に銘じなければならない。

 イーストウッドの硫黄島2部作は、横暴な国家への怒りに満ちた反戦映画であり、死者に最大の敬意を払った鎮魂歌だ。過去を振り返るだけでなく、自国の現状にも鋭い刃を向けている。硬骨漢の次回作に期待したい。


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球春に甦る初恋の記憶

2008-03-24 01:58:47 | スポーツ
 「北国の春、まだ遠し」とは、ソフトバンクに3タテを食った野村監督の名文句である。楽天は蕾のままだが、桜の開花とともに球春が訪れた。パ、センバツに続きMLB、セと五月雨式に開幕するが、注目度が高いのは松坂(レッドソックス)の凱旋登板だ。

 プロ野球は初恋の相手だった。出会いは63年の日本シリーズで、巨人が西鉄を下して数年分の鬱憤を晴らす。第7戦のスコア(18―4)は野武士軍団の凋落を暗示していた。66年7月27日、甲子園でのボールパーク初体験では、ONがアーチを懸けて堀内の開幕13連勝(新人記録)に花を添えた。巨人ファンだった俺にとり、一閃で沈黙を裂く王のホームランは最高のカタルシスで、走者を背負いつつ勝利を重ねる堀内の投球は胸が締め付けられるサスペンスといえた。

 高校時代の楽しみは、<タイガース命>の級友や教師との丁々発止だった。文化祭の日、体育館裏の小部屋にしけ込み、仲間とラジオを囲んでいると、ドアがスッと開いた。校則の鬼がヌッと顔を覗かせ、一呼吸置いて「どっちが勝ってる」と尋ねる。ビビリながら「阪神です」と答えると、「大概にせえよ」と虎党教師は笑みを噛み殺して踵を返した。

 70年代、異彩を放っていた解説者は板東英二と故根本陸夫氏である。その後の活躍が示す通り、板東の喋りは解説を超えたエンターテインメントだった。広島と西武で黄金期の礎を築いた根本氏は、心理面にも焦点を当て、当時誰も使わなかった「プレッシャー」を連発していた。今なら確実に「流行語大賞」の候補に挙がっただろう。

 上京して巨人ファンに囲まれるや、曲がったヘソが頭をもたげ、江川事件をきっかけにアンチ巨人に転じる。仰木監督の後を追って近鉄⇒オリックス、その後は横浜とひいきチームを変えるうち、プロ野球への興味がなくなってしまった。21世紀になってからは、シーズンが深まる秋にようやくチャンネルを合わせ、初恋相手の魅力を再確認している。

 来年こそ野球と真剣に付き合おう……。日本シリーズが終わると立てる誓いも、毎年実行に至らない。野球は俺の中で、NFL、欧州サッカー、競馬、WWE、ボクシング(海外)に次ぐランクだからだ。年を取ると童心に帰るという。既に痴呆症気味の俺ゆえ、少年時代のように野球特有の「間」を楽しむ日が迫っているかもしれない。

 そのために必要なのはひいきを作ることだ。心待ちにしているのが、星野仙一氏が目を掛け、権藤博氏が「あいつはただ者ではない」と評した牛島和彦氏の監督復帰だ。横浜での2年間では成果を出せなかったが、捲土重来を期待している。

 ちなみに今季の理想は、<ソフトバンク日本一⇒王監督勇退>の筋書きだ。王監督は少年時代最高のアイドルだった。心身の疲労が心配でならない。
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中国、台湾、パレスチナ~妄想の環から見た世界

2008-03-21 01:56:42 | 社会、政治
 講演会(来月5日)の予習ではないが、辺見庸氏の掌編小説集を読んでいる。コールタールのように濃密な表現の連なりは、俺にとって浄化剤でもある。

 <そこに「事実」があると受けとってしまえば、そこは、或る種の想像力の墓場になる>(埴谷雄高)……。

 辺見氏は上記の箴言にまつわるエピソードを紹介し、<想像力の墓場(現在の日本)には、糸の切れた数珠玉のような、おびただしい「事実」だけが散らばっている>と「法事の夜」を結ぶ。<埴谷+辺見>のコラボに刺激され、複数の「事実」が想像、いや妄想の環に繋がった。
 
 イスラエルのオルメルト首相は2月に来日した際、<北朝鮮=イラン=シリア=ヒズボラ=ハマスが悪の枢軸>と語った。思わず連想したのは、<イラク=アルカイダが悪の枢軸>と断定し、イラクに侵攻したブッシュ大統領だ。そのアメリカと結び、ガザに人道無視の攻撃を繰り返すイスラエル首相の発言に、信憑性などあるはずはない。

 何も起こらなければ、イラク開戦5周年の昨日20日、アメリカは針のむしろに座るはずだった。イスラエルの暴走と根拠なき開戦がセットになって、メディアの砲火を浴びたことだろう。台湾総統選(22日投票)では、対中協調路線の馬英九候補(国民党)がリードを保ち、当選したに違いない。剣が峰に追い込まれていたアメリカに「助け舟」を出したのが、他ならぬ中国だった。

 俺みたいな妄想人間は、チベット民衆蜂起の背後にCIAの影を見るはずだ。マッチを擦った者はいるかもしれないが、長年にわたる不当な弾圧に怒りが蓄積していたからこそ、抵抗は燎原の火となって広がった。国内ルールで対応した中国に、欧州からも五輪ボイコットの声が上がっている。台湾総統選では、中国と一線を画す謝長延候補(民進党)に逆転の目が出てきた。

 <共産主義は灰になり、民主主義を育む土壌もない。個が脆弱なら、国は遠からず滅びる。ガリバー中国はグローバリズムの鼠に食い散らかされ、水枯れした黄河に身を横たえるのではないか>……。

 別稿「双頭ガリバーの行く末は?」(2月3日)に記したように、俺は中国の未来に悲観的だが、高所から批判するつもりもない。民主主義の母国イギリスでさえアイルランド政策に失敗し、前世紀末まで夥しい血を流してきた。13億を抱えるガリバーに、宗教とアイデンティティーが異なる多民族を統治できるはずがない。

 胡錦濤主席はダライ・ラマ14世が求める会談に応じ、国際的に評価される条件(自治権の保障、信教の自由)を提示するべきだ。宣伝上手のアメリカは、中国の更なる失点を待ち構えている。動員するのは、自国やイスラエルの暴挙に目をつむるが、中国にやたら厳しい御用文化人たちだ。

 最後に、アーサー・C・クラ-ク氏に哀悼の意を表したい。<40年代に人類が月に到達することを予言した>ことが偉大さの一つに挙げられているが、前稿に記したフリッツ・ラングは「月世界の女」(29年)で有人月旅行を詳らかに描いている。ラングの先見性をクラーク氏の死であらためて認識できた。SFは全くの門外漢だが、<想像力の精華>たるクラーク氏の代表作を読むことにする。


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「ドクトル・マブゼ」~予言者ラングの光跡

2008-03-19 00:11:05 | 映画、ドラマ
 今年初めにシネフィル・イマジカで録画したフリッツ・ラングの作品を、先日ようやく見終えた。いずれも文化の薫りと娯楽性を併せ持つサイレントの傑作だった。

 第1次大戦後のドイツの混乱、資本主義と共産主義の対立、表現主義の勃興、絢爛と頽廃のキャバレー文化が作品の背景にある。ラングが見据えたのは現実だけではない。管理社会で疎外された労働者、インサイダー取引、マインドコントロール、有人衛星、セラピストの流行、爆弾テロ……。その慧眼は未来も鮮やかに捉えていた。

 今回は「ドクトル・マブゼ」(22年)を中心に記したい。第1部「大賭博師/時代の肖像」、第2部「地獄/現代人のゲーム」から成る長尺物(4時間30分)で、数カ国の協力で残存するネガが繋がれ、原版に近いフィルムに修復された。

 精神科医、謀略グループのドン、賭博者、メディア王、相場師、贋札工場主、イリュージョニスト、アジテーター……。変幻自在のマブゼを追い詰めるのはヴェンク検事だ。ヴェンク自らマブゼに挑む賭博場のシーンは、ドストエフスキーやバルザックの小説を彷彿とさせる。

 踊り子カーラにとってマブゼは<呪いと救い>だったが、侯爵夫人は徹底的に拒否する。愛されず煩悶するマブゼに<不能者の嫉妬>を感じた。女優たちは現在より肉感的で、程よい母性と健全なエロチシズムを発散している。

 ラングを読み解くキーワードは陰謀史観(コンスピラシー・セオリー)だ。国境を超えたコングロマリット(複合企業)、浸透する共産主義……。自動車王フォードが黒幕に指名したのがユダヤ人だった。反ユダヤ主義はナチスによってエスカレートし、ラングもハリウッドに逃れることになる。

 他の作品について簡単に。「ブレードランナー」(82年)に影響を与えた「メトロポリス」(26年)のラストでは、資本家と労働者の融和が高らかに謳われる。チャペックが概念を提示してから6年後、映画史上最も美しいロボットが同作に登場する。ちなみにメトロポリスの歓楽街はヨシワラだった。

 「スピオーネ」(28年)では、日本の諜報機関がハーギ頭取率いる組織に重要書類を奪われる。割腹自殺する責任者マツモト博士のモデルは、ジュネーブ会議で勇名を馳せた松岡洋右かもしれない。「月世界の女」(29年)は月旅行に命懸けの不倫愛を織り交ぜたSFファンタジーだった。

 渡米後の「口紅殺人事件」(56年)をWOWOWで見た。クレジットなしではラング作品と気付かないB級映画で、30年前の輝きは跡形もなく失せていた。「アメリカの良心」と評されたキャプラも戦後、飼い殺しにされる。<映画の公式>を練り上げた草創期の巨匠に、ハリウッドはあまりに冷淡だった。<体制に従順な者しか許さない>という不文律があるに違いない。
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「若者よ、想像力を」~ガザで今、起きていること

2008-03-16 00:11:22 | 社会、政治
 当ブログで何度も紹介したが、俺の後輩は日本国際ボランティアセンター(JVC)の一員としてパレスチナで活動している。彼女からのメールで開催を知り、緊急報告会「なぜガザ住民は封鎖・大量殺害されるのか」(15日、現代史研究会/JVJA共催)に参加した。

 定員(140人)をオーバーし、立ち見が出るほど盛況だった。土井敏邦氏、古居みずえ氏(ともにJVJA)、藤屋リカ氏(JVC)、臼杵陽氏(日本女子大教授、ビデオ出演)が3時間半、それぞれの切り口でパレスチナの現状を報告する。

 藤屋氏はパレスチナ医療救援協会(PMRS)爆撃など、国際人道法に違反するイスラエルの攻撃を映像とともに伝えた。臼杵氏は双方の政治動向を研究者の立場で分析する。イスラエルでは右派が国民を引き回す現実を指摘し、パレスチナでは強権的なハマスが民衆の支持を失う可能性を示唆した。

 古居氏は「ガーダ~パレスチナの詩」で知られる映像作家である。同じ家族を数年後に取材し、ガザの変化を伝えていた。土井氏は冒頭に流れたニュース映像(BBCなど)と対比し、「固有名詞から捉える等身大の視点だからこそ、見る者の胸を打つ」と古居氏の手法を絶賛していた。古居氏の映像でUAEが援助物資を送るのは断食月だけと知り、ショックを受けた。莫大なオイルマネーが世界の金融市場を席巻する現在、アラブ社会にとってパレスチナの持つ意味は低下しつつあるのだろう。

 
 土井氏の講演は昨年1月以来2度目だが、高いボルテージと冷静な認識に感じる点が多かった。イスラエルの占領こそ問題の根源とし、格段の武力差があるイスラエルとパレスチナを<暴力の応酬>と伝える客観報道を批判する。俺などイスラエルの行為を<ホロコースト+アパルトヘイト>と決め付け、単純な図式に置き換えていたが、土井氏は複眼的に状況を捉えることの重要性を繰り返し強調していた。

 土井氏は<テロ=政治目的で民衆を死傷させる行為>と規定し、パレスチナ側の自爆攻撃もイスラエルの無差別爆撃も、ともにテロと批判する。互助組織的な<柔らかい貌>で支持を得たハマスの負の面も、土井氏は見逃さない。ハマスは民衆の憎しみを<米=イスラエル>に向けるという、アラブ諸国の常套手段を用いているようだ。

 何よりもまず、パレスチナで現在起きていることを直視せねばならない。終わりのない封鎖によってライフラインが制限され、停電が常態になった。食糧、燃料、医薬品、セメントなど必需品に事欠き、民衆は疲弊の一途を辿っている。土井氏はガザの外で治療を受けられず、撮影数日後に亡くなった末期ガンの青年と向き合っていた。

 
 縦糸(歴史)と横糸(共時性)で世界をからめとるには、パレスチナが恰好の座標軸だと思う。前々回、東京大空襲について記したが、63年前の日本と現在のパレスチナは地下水脈で繋がっている。勝者の非人道的攻撃に寛容な<ルメイ精神>はイスラエルに受け継がれ、アルカッサム(ハマス武装組織)の少年は、殉死を厭わなかった戦時中の日本の若者そのものだ。

 
 明大リバティータワー9階が会場だった。大学と思えぬ立派な建物に圧倒されたが、壁の貼り紙には以下のように記されていた。<宗教団体(カルト)、悪徳商法、政治セクトは親しみやすい仮面で近づいてきます。不審に思ったら学生課に一報を>……。

 リバティータワー、すなわち<自由の塔>とはカルトの施設名のようだ。ガザの若者は自由のために死を恐れないが、日本の若者は<仮想の温室>で痛みを覚えず自由を失くしている。当会もまた、平均年齢は高かった。大学で開かれる以上、参加者の半数が学生という日は訪れるだろうか。

 パレスチナ関連の映像を持ち込んでも、視聴率に繋がらないからと民放は相手にしないという。対照的にトップニュースになるのが、中国のチベット弾圧だ。もちろん、中国は非難されて然るべきだが、日本のメディアの<俗情との結託>と<アメリカへの追随>は残念でならない。

 弱小ブロガーたる俺にできるのは、限られた人間に発信することだけだ。パレスチナについて書くのは5回目になる。関心を持ってくれる人がいれば幸いだ。「若者よ、想像力を」……。老いぼれの俺は声を大に叫びたい。


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博打とゲームの狭間~射幸心はどこで弾けるのか

2008-03-13 01:33:05 | 戯れ言
 欧州チャンピオンズリーグでベスト8が出揃った。プレミア勢が4チーム進出し、EURO'08出場を逃したイングランドの面目を保った。ブックメーカー(賭け屋)にとって、レアルマドリードとインテルの敗退は意外だったはずだ。
 
 前振りはここまで。ニュースは連日、株安、円高、物価上昇、原油高を報じている。さらに深刻なのは、年金、食糧自給、少子高齢化といった国の未来を揺るがす問題の処方箋が見つからないことだ。閉塞感が日本中を覆っている。

 こんな時こそ「ギャンブル狂騒曲」がかき鳴らされると思ったが、現実は違う。競輪、競艇、オート、地方競馬はピーク時(90年前後)から半減、中央競馬もこの10年で25%減と、売り上げの右肩下がりは止まらない。

 パチンコ業界も倒産が相次いでいる。高収益機マシンが規制され、マニアが店に足を運ばなくなったからだ。<パチスロ機は現在、1日で2万~3万円稼ぐのがやっと>という業界大手幹部のコメントが、毎日新聞に掲載されていた。

 経産省北畑事務次官は先月、「競輪場か競馬場に行っていた人が(株売買の)手数料が下がったのでパソコンを使って証券市場に来た。最も堕落した株主の典型」とデイトレーダーを非難し、物議を醸した。確かにギャンブラーの一部は株取引に流れただろうが、兜町の水も甘くない。デイトレーダーの70%が全資産を失うというアメリカの実情は、日本でも変わらないだろう。

 日本人が射幸心まで失くしたとしたら、憂えるべき事態だ。99%のギャンブラーは破滅するが、残り1%が世の中を変えてきた。シーザーはルビコン川を渡り、織田信長は桶狭間の坂を駆け下りた。レーニンはフィンランドから戻って十月革命を成就させ、崖っ縁の中国共産党は長征によって息を吹き返した。小泉純一郎元首相やホリエモンも、功罪半ばのギャンブラーだったと思う。 

 ドストエフスキーの「賭博者」を久しぶりに読み返した。ルーレットで財産を使い果たす老公爵夫人、人間としてのプライドを失った主人公……。直滑降を選んだ登場人物が味わった狂おしい刹那に、一度でいいから浸ってみたい。そう願うと同時に、どこかでブレ-キを踏むはずの自分を醒めた目で見ている。

 ファン歴25年の俺が断言できるのは、競馬はゲームではなく博打ということだ。予想ではデータを取捨して確実性を追求するが、実際のレースは人知を超えた波動に左右される。<競馬で身代を潰すのは本命党>という格言は的を射ていると思う。

 博才のない者は俺のように高配当に少額を賭け、ゲーム感覚で楽しむのがいいだろう。負けた時、「どうして」と怒るより「やっぱり」と頷く方が、精神衛生上いいからだ。




 
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東京大空襲から63年~戦争はまだ終わらない

2008-03-10 00:07:05 | 社会、政治
 新銀行東京の累積損失が1000億円超に達した。他人の過失を抉る際の物言いはどこへやら、事実上トップの石原都知事は自らも被害者と強調し、見苦しい答弁を繰り返している。

 「責任」と「矜持」が死語になった日本の現状を、霊たちはいかなる思いで眺めているのだろう。63年前のこの時間(10日午前0時すぎ)、東京の下町は焼夷弾で炎上し、10万もの貴い命が犠牲になった。無数の愛と絆が奪われた日を、厳粛な気持ちで迎えたい。

 TBSは本日午後9時、東京大空襲をテーマにしたドラマを放映する。石川光陽氏(警察官)が特命を受けて撮影した33枚のネガの真実、米国側の周到な準備がドキュメンタリーを織り交ぜて明かされるという。

 焦土作戦を指揮したのは、ドイツでの絨毯爆撃で軍功を認められたルメイ少将だった。「日本では民間人居住地区でも軍需物資を作っている」とルメイ少将は主張し、国際法違反の無差別爆撃を強行する。勝者ゆえ裁かれなかった人道無視の<ルメイ精神>は、米軍の悪しき伝統になった。、

 59年に来日したゲバラは原爆資料館を訪ね、「君たちはなぜ、これほどの惨禍をもたらしたアメリカの言いなりになるのか」と日本人に問うた。惨禍の張本人たるルメイ氏は64年、自衛隊への貢献を理由に勲一等旭日大綬章を授与される。日本という国の在り様を端的に示す叙勲だった。

 戦争の悲劇は二度と繰り返さない……。日本の平和(憲法)を守ろう……。革新陣営のスローガンは虚妄だったと思う。朝鮮戦争とベトナム戦争では、日本の基地が重要な役割を果たす。日本人は武器を握らず、その手を他国の民衆の血で赤く染めてきたのだ。

 多くの被爆者は国から冷たくあしらわれ、アメリカのモルモットにされる。関東軍が見捨てた開拓民は塗炭の苦しみを味わい、棄民された<残留孤児>たちは80年代まで顧みられることはなかった。ミドリ十字に職を得た石井部隊のメンゲレたちは、薬害エイズと薬害肝炎で国民を苦しめる。戦争は45年8月15日以降も続いていたのだ。

 京都が原爆投下の第1候補だったことを最近知った。<文化遺産を守るため、京都への空襲を最小限にとどめた>という教科書の記述は誤りで、米軍は原爆の効果を正確に測るため、京都への空襲を最低限に控えていたのである。米軍が人道や文化を無視することは、90年以降のコソボ、アフガニスタン、イラクでの蛮行からも明らかだ。

 今回は戦争の傷を重点に置いたが、日本軍のアジア侵略の史実も肝に銘じなければならない。人を成長させるのは被害の意識ではなく、加害の意識なのだから……。



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ロシアの憂愁~<正しい専制>は成立するか

2008-03-07 01:19:19 | 社会、政治
 米大統領選の民主党指名争いは、クリントン氏がテキサスとオハイオでオバマ氏を破り、戦線に踏みとどまった。片やロシア大統領選では、ガスプロム(国営エネルギー企業)で手腕を振るったメドベージェフ氏が圧勝した。プーチン大統領は首相に就任し、後見人として睨みを利かすことになる。

 メディアはこの間、様々な角度からロシアについて報じてきた。出色だったのは、ETV特集「ロシア・歴史は繰り返すのか~亀山郁夫“帝国”を読み解く」(NHK教育)である。新訳「カラマーゾフの兄弟」(光文社文庫)で知られる亀山東外大学長が当地に赴き、ロシアの現状を知識人と語り合う。キーワードはロマノフ王朝とドストエフスキーだった。

 プーチン大統領はKGB出身らしい冷酷な手法で中央集権化を進め、言論を弾圧したが、その人気は極めて高い。ソ連時代、国外追放処分を受けたソルジェニーツィン氏でさえプーチン支持者だ。亀山氏と対談した政治学者、ドストエフスキー研究者、作家も同様で、反プーチンは「太陽」で昭和天皇を描いたソクーロフ監督のみだった。同監督の官僚主義批判は日本にも及んだが、「今こそマルクスを」という提言も印象的だった。

 亀山氏やロシアの識者に、プーチンは<第二のスターリン>ではなく、<アレクサンドル3世の再来>と映るようだ。プーチンは<民⇒官>を打ち出し、グローバリズムの波に溺れていた国力を引き上げた。企業国営化と外国資本の流入制限は、<威厳あるロシア>を望む大衆のナショナリズムともフィットする。

 ちなみにゴルバチョフ元大統領は、暗殺された開明派のアレクサンドル2世に例えられていた。不思議なことに、70年余のソ連は歴史の箱に仕舞われている。社会主義は年金や福祉といったプラス面とともに忘れ去られた。

 上述のETV特集で、ロシアの識者は大衆の専制君主への憧れを指摘していた。衆愚と拝金に汚れがちな民主主義より独裁を選ぶのが、ロシアの精神的風土といえる。アニメ「銀河英雄伝説」(田中芳樹原作)が放映されたら、間違いなく高視聴率を記録だろう。日本人はラインハルト(銀河帝国)とヤン(自由惑星同盟)に均等のアイデンティティーを抱くが、ロシア人の大半は厳格で麗しく、悲劇的な専制君主ラインハルトに自らの理想を重ねるはずだ。

 世界は現在、アメリカの暴走を止められないでいる。<毒を制する毒>になりうるのはロシアしかないが、天然ガスの生産高に翳りが見えてきたのが不安材料だ。チェチェン独立や格差拡大など、闇は濃い。数十年後、2度目のロシア革命が起きるかもしれない。

 ドストエフスキーで未読の長編は「カラマーゾフの兄弟」のみとなった。亀山氏の新訳本を近いうちに購入するつもりでいる。ロシアうんぬんではなく、ドストエフスキーは俺にとり、<至高のエンターテインメント>なのだ。


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将棋界の一番長い日~悲壮感に満ちたドラマを堪能

2008-03-04 04:00:19 | カルチャー
 昨日3日は仕事が入らず、将棋のA級順位戦最終局(全5局)をNHK衛星第2とネットで堪能した。

 「将棋って何が面白い?」が大抵の人の感想に違いない。俺はボクシングやNFLと同じ感覚で楽しんでいるが、他の娯楽に押され、将棋人気は低落傾向にある。天才少年たちを吸収するには、プラスα(収入など)が必要だと思う。

 応援するA級棋士は谷川9段、佐藤2冠、郷田9段、行方8段の4人だ。<光速の寄せ>が定冠詞の谷川9段は、美学と背中合わせの淡泊さも魅力である。佐藤2冠は正統派の殻を破り、常識を覆す指し手で棋界を震撼させている。ロックファンの行方8段は、どこかのライブ会場で俺と時間を共有したはずだ。

 郷田9段には「痛い思い出」と重なる部分がある。十数年前、七転八倒して尿管結石で入院したが、隣のベッドのおじさんは郷田少年を鍛えたアマ強豪だったのである。21歳でタイトルに挑戦した郷田4段(当時)について、懇意だった者のみが知るエピソード(オフレコを含め)に触れることができた。

 羽生2冠が谷川9段を破り名人挑戦権を獲得したが、最終局のハイライトは降級の危機に追い込まれた佐藤2冠の対局だった。<相手にとって重要な対局に本気で挑んで勝つ>という米長会長の哲学は、将棋界の不文律でもある。佐藤2冠はスーツ姿だったが、対する木村8段は本気度を示す和服で対局場に現れた。

 中盤で必勝形を築いた佐藤2冠だが、木村8段の粘りに遭い、終盤は大激戦になる。終始冷静だった木村8段と対照的に、佐藤2冠は対局中、苦悶の表情を浮かべ続けていた。開始から15時間、両者が秒読みに追われる中、木村8段が詰めを逃し、佐藤2冠が6連敗後の3連勝で奇跡の残留を決めた。

 俺のように棋力が低い者でも、将棋を人間ドラマとして楽しむことができる。見ている側でさえ胸がきりきり痛む夜戦のさなか、丸山9段が何やら頬張り始めた。平常心に降参した藤井9段が投了を告げた時も、丸山9段の口はモゴモゴ動いていた。深夜11時半から千日手指し直しに臨んだ久保8段は、早めに対局場に現れ、盤を丁寧に拭いていた。佐藤2冠の勝利で降級の憂き目を見た久保8段だが、将棋への熱い思いが窺える所作に、解説の深浦王位も感動を覚えた様子だった。

 現在のA級棋士10人は全員30歳以上で、20代のタイトル保持者は渡辺竜王ただ一人と、将棋界は高齢化が進んでいる。酸いも甘いも噛み分けた中年男の捻り合いも味わい深いが、魅力的な若手の登場を心待ちにしている。関西では吉田3段という大物が、奨励会突破を目前にしている。暴言系キャラで、アマ名人獲得時から物議を醸す存在だった。朝青龍までいくと困りものだが、破天荒な個性も活性化に必要かもしれない。

 羽生2冠は終局後のインタビューで淡々と話していたが、永世位(通算5期)で先を越された森内名人に、第一人者の意地を見せつけたいところだろう。時間差でカメラの前に現れた森内名人は「ライバルとの対決ですね」という問いを、「実績が違いますから」とかわしていた。盤外戦は既に始まっている。4月からの頂上対決が楽しみだ。
コメント (4)
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