酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「コンビニ人間」の底に滲むカフカ的テーマ

2016-08-29 23:31:42 | 読書
 ブロンド・レッドヘッドの来日公演(ビルボードライブ東京)が中止になった。NYインディーズと4ADが混淆した、官能的で濃密な音に浸ることを楽しみにしていたので、突然のキャンセルは残念でならない。日にちを間違えてモグワイを見逃すなど、今年は〝洋楽運〟が悪いようだ。次はモリッシー(9月末)だが、亡きデヴィッド・ボウイに敬意を示さなかったことで、英国でバッシングのまっただ中だ。希代の気分屋ゆえ、来日するのか不安になってくる。

 高畑裕太の一件がメディアを騒がせている。奇異に映るのは、高畑淳子の涙ながらの謝罪会見だ。五輪報道でも感じたが、江戸時代の<五人組>から21世紀に至るまで、<個>ではなく<家族>がこの国の単位になっている。

 高畑ほどではないが、俺も20代の頃は親不孝だった。引きこもり、社会的不適応者といった言葉が流布しておらず、東京砂漠で息を潜めていた。性犯罪や暴力事件が報じられるたび、両親は遠く離れた京都で「犯人は息子ではないか」と心配したという。少しマトモになった数年後、当時の友人が以下のように回想してくれた。
男の友人「最初会った時、爆弾でも作ってるんじゃないかと思った」
女の友人「無理心中を迫られそうで怖かった」

 周りの目は客観的で正しい。俺は間違いなく犯罪予備軍だったが、悪運のみで社会に潜り込んだ。今回紹介する芥川賞受賞作「コンビニ人間」には、俺のあり得た未来像というべきダメ男が登場していた。

 村田沙耶香は受賞時もコンビニ店員で、「バイトを続けますか」の問いに、「店長が許してくれるなら」とユーモアたっぷりに答えて笑いを誘っていた。13年前にデビューした後、三島由紀夫賞をノミネート4度目で受賞した(13年、「しろいろの街の、その骨の体温の」)。この事実が、文壇の厳しい状況を物語っている。村田ほどの実績があっても、小説だけでは食べていけないのだ。

 主人公の恵子は36歳のコンビニ店員だ。作者と同じ設定だが、幾重にもプリズムが設定されている。読み進めているうち、本作は私小説と程遠く、カフカ的なテーマに貫かれていることに気付く。日本の作家なら安部公房で、上京直後に読んだ初期短編(「赤い繭」など)に重なった。私って何? 周りとの疎隔感の正体は? 生きるとは同化すること? 恵子は悩み続けてきた。

 <空気を読む>能力に著しく欠ける恵子は、突飛な言動で家族や友達を驚かせてきた。周囲とずれていることを自覚していた恵子は18歳の時、コンビニでバイトを始める。そこは恵子にとって、蛹の自分を育んでくれる繭だった。<初めて世界の部品である>と感じた恵子は、<コンビニ人間として生まれた>ことを意識する。

 恵子はコンビニと一体化していく。先輩たちからあれこれ吸収するうち、話し方やファッションまで似てくる。感情を豊かに表現できるようになった。同化する対象は次々変わっていくが、恵子をカメレオンと嗤える人は少ないはずだ。勤めるうちに職場の色に染まり、倫理観や良心まで失っても気付かないケースが多々ある。本作はコンビニを舞台にしながら、<個>と<集団>の構図を明確に描いている。

 恵子は蛹のままで成虫にならない、休日もコンビニの音が耳の奥に鳴り、その匂いに包まれている。羊水と胎児の如き調和を乱した異物が白羽だった。同じ店に勤め始めた30代後半の白羽は、自己肯定、自己憐憫、自己防衛のための御託を並べている。ダメ男、いや、犯罪予備軍といっていい白羽は退職後、<世間の目>に対峙するため恵子宅で居候する。愛もなく、互いに欲望を覚えないから、恵子は押し入れ、白羽は浴槽で眠ることになった。

 <コンビニ人間>として認められていたはずの恵子は、周囲の反応に愕然とする。<恵子&白羽>は劣悪な部品同士の結合で、表面上は祝福されるが、腹の内では嘲笑されている。同僚たちが人間以前の、オスとメスであることを恵子は直感する。

 知らないコンビニでテキパキ対応する恵子に、白羽は狂気を覚える。彼女は新しい繭にくるまり、「コンビニ人間」としてリスタートするのだろうか。淡々とした記述の底に、アイデンティティーと疎外という深遠なテーマが滲んでいた。
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「料理人ガストン・アクリオ」~アートと思想の美味しい融合

2016-08-26 12:18:47 | 映画、ドラマ
 昨25日夜、都庁前で開催された宇都宮健児氏のリスタートイベント、「困ったが希望に変わる東京へ」に足を運んだ。直前の告知だったが、250人が第一本庁舎前に集結する。永田町の地図に囚われている人たちにとって、<野党統一候補>は今も金ピカの紋所だが、宇都宮氏は都知事選での経緯を踏まえて政党の軛から脱し、弱者の側に立つ姿勢を鮮明に打ち出した。

 巨悪に闘いを挑む(はずの)小池知事にエールを送りつつ、今後を見守っていく……。それが昨夜のトーンだった。無駄な道路建設、築地市場移転問題、厳しい差別と貧困、横田基地とオスプレイ配備、原発事故避難者の現実など、当事者が次々に訴える。総じてたどたどしいが、涙ながらに定時制高校存続を訴えた女性を筆頭に、芯が言葉に詰まっていた。

 永田町の住人の中ではマシな部類の福島瑞穂参院議員もアピールしたが、他の人たちと比べ虚しく響いた。俺はようやく、<現場を持つ当事者によって闘われる>という市民運動の本質を掴めた気がする。昨夏、国会前で政党幹部や知識人がマイクを握ったが、あまりの軽さに苛立って早退した。リアリティーを失った政治の言葉が、当事者たちによって乗り越えられる日が来る……。そんな希望を抱いた夜だった。

 統一地方選や参院選で緑の党推薦候補に寄り添ってくれた宇都宮氏は今、供託金違憲訴訟の弁護団長を務めている。戦前の普選法を受け継いだ不自由な選挙制度こそ、日本に民主主義が育たない最大の理由といえる。宇都宮氏の恩に報いるためにも、微力ながら関わっていきたい。

 2年半前、緑の党で30年ぶりに政治活動を再開したが、事務局の人は入会理由を怪訝そうに聞いていた。俺は日本文学の最前線に触れるうち、共通するテーマ性に気付いた。それは<調和と寛容を重視し、多様な価値観を認めるオルタナティブ>というべきもので、星野智幸、池澤夏樹の小説に顕著に表れている。志向性が共通するグループはないだろうか……、そう考えているうちに発見したのが緑の党である。

 還暦間近といえば人生を畳む時期だが、〝優しく、熱い〟人たちとの出会いによって、俺の人生は大学入学時以来、40年ぶりの春を迎えた。とはいえ、カルチャーに漬かっていた俺は、<二進法>の政治の言葉に馴染めないでいた。光が射してきたのは昨秋だった。オルタナミーティングを主宰し、カルチャーと政治を繋いでいる大場亮プロデューサーに〝弟子入り〟したことで、視界は一気に開けた。

 大場さんが立ち上げた「ソシアルシネマクラブすぎなみ」はグローバリズム、多様性、エネルギーと環境、貧困などをテーマに掲げる作品を毎月上映する。先日、第2回上映会「料理人ガストン・アクリオ~美食を超えたおいしい革命」(14年、パトリシア・ペレス監督)を観賞した。ペルー料理を世界に認知させたアクリオの実像に迫ったドキュメンタリーである。

 イベントは3部構成で、1部は東大民俗音楽研究会による演奏だった。サイモンとガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」(1970年)の原曲など、ペルー音楽の魅力を堪能した30分だった。2部の上映に続き、3部はペルー料理の試食タイムである。20代以降、バルガス・リョサの小説によってペルーと結ばれてきた俺だが、文化全般に通じているわけではない。料理を通して感じたペルーは<混沌と融合>だった。

 アクリオは政治家である父の後を継がず、料理人の道を選ぶ。フランスで修業した後、リマで店を開いた。繁盛したものの、かつて反抗した父に「おまえがやりたかったのは、金持ちにフランス料理を提供することだったのか」と突き放された。グサリときたアクリオは、新たな方向を模索する。

 <ペルー社会を変えた革命家>の評価に偽りないことが、次第に明かされていく。アクリオは搾取されている漁師や農婦と交流し、収穫物を直接仕入れるための手段を講じる。普通の主婦と歓談し、彼女のレシピを経営する店のメニューに加えていた。貧困な若者のために料理学校を設立し、彼らの才能を伸ばしている。

 政治で叫ばれる<改革>は大抵インチキだが、アクリオは格差社会の矛盾に切り込み、流通機構を改善している。併せてペルーの文化と環境への敬意を、料理で表現していた。アクリオの革命は世界に波及し、数々の栄誉に浴するが、当人には傲慢さの欠片もなく、スクエアな視線で他者と接している。<料理は、星(採点)の数より、笑顔の数だ>というアクリオの言葉が、本作を的確に表している。

 アクリオが海辺に佇む光景と重なったのは、別稿(7月30日)で紹介した「悪い娘の悪戯」(バルガス・リョサ著)のワンシーンだ。老アルキメデスは海辺で瞑想し、防波堤の効果の有無を、神の啓示の如く提示する。アクリオもまた、海、山、そしてペルーの自然と交感しながら、インスピレーションを得ている。アートと思想を美味しく融合したアクリオの今後にも注目していきたい。
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「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」~時代の狂気への抗い方

2016-08-22 23:57:24 | 映画、ドラマ
 むのたけじさんが亡くなった。享年101歳である。大往生ではあるが、<戦争の悲惨さを伝え足りない>との無念を抱えた死出の旅立ちだったに違いない。俺はむのさんの著書に縁がなかったが、〝同志〟たちの作品は数多く読んできた。武田泰淳の小説、復員後の兵士の証言を集めた色川大吉の著作、辺見庸の「1★9★3★7」は、いずれも戦争が必然的に人を追いやる狂気を描いていた。

 〝日本文学のトップランナー〟でアメリカでも高い評価を受けている中村文則も短編集「A」(14年)で、中国における日本軍の残虐、従軍慰安婦を題材にした作品を著した。若い世代にも、むのさんの魂は受け継がれている。反骨のジャーナリストの死を心から悼みたい。

 リオ狂騒曲にピリオドが打たれた。閉会式の安倍首相に幼稚な狂気を感じたのは俺だけではないだろう。競技全般で感じたのは、アスリートのセルフプロデュース能力だ。陸上の決勝では、装いに工夫を凝らした女子選手がカメラに投げキッスする。欧米のプロスポーツ選手並みに個を表現する流れと逆行しているのが日本のメディアだ。五輪のメリットに<国威発揚>を挙げたNHKの苅谷解説委員は、〝公認された狂気〟に蝕まれているひとりといっていい。

 日比谷で先日、「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(15年、ジェイ・クック監督)を見た。マッカーシズムという狂気が全米を覆った時代に抗ったシナリオライター、ダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)が主人公で、妻クレオをダイアン・レインが演じている。公開されたばかりなので、背景と感想を中心に記したい。

 マッカーシズムはアメリカにおける反共運動で、日本にはレッドパージとして波及した。<反共>を掲げているが、実態はリベラル摘発で、民主主義者も共産主義者として摘発されている。本作には登場しないが、チャプリンも容共的という理由で追放され、全米史上ナンバーワンの監督と評されるフランク・キャプラも戦後は活動の機会が狭まった。

 ちなみに、キャプラの傑作「スミス都へ行く」のモデルは、ルーズベルトの下、副大統領を務めたヘンリー・ウォレスといわれている。労働者、女性、黒人の権利を尊重したウォレスだったが、立ち位置が真逆のトルーマンに副大統領の職を奪われる。バーニー・サンダースをスミス、あるいはウォレスに重ねて支持したアメリカ人は多い。

 ちなみに本作では、トランボ=共産党員が前提になっている。「金持ちなのに、どうして」という友人の問いに、「狡猾さと理想の結合は最高」とケムにまいていた。信念を貫いたトランボは投獄され、ハリウッドから追放されるが、狡猾さを発揮し、逆襲の機会に向けて爪を研ぐ。

 マッカーシズム、非米活動委員会は幼稚かつ滑稽な狂気を体現していたが、強力なメンバーがスクラムを組んでいた。後の大統領、ニクソンとレーガン、さらに国民的ヒーローのジョン・ウェインもリーダーだった。従軍経験のあるトランボが、愛国を説くウェインに「あなたはどこで戦ったのか」と揶揄するシーンも興味深かった。ちなみに、ウェインは核実験場近くでのロケが原因で被曝し、がんを発症したと指摘する識者は多い。戦場に赴けなかったウェインだが、国策である核開発の犠牲になったことに悔いはなかったはずだ。

 本作には、マッカーシズムに抵抗する映画人も登場する。オットー・フレミンジャー監督とともに、トランボ復帰に大きな役割を果たすのがカーク・ダグラスだ。興味深かったのは映画製作における力関係だ。巨匠キューブリックの「スパルタカス」(60年)に主演したダグラスは製作総指揮を兼ね、圧力を押し切ってトランボに脚本を依頼する。上映反対運動を準備していた右派の意気を挫いたのが、試写会で同作を絶賛したケネディ大統領だった。

 トランボはマッカーシズムの真っただ中で苦闘したが、娘は公民権運動に参加していた。互いの志が共振するシーンが印象的だった。クレオの尽力で家庭の絆も旧に服していく。本作のテーマは、時代の狂気で損なわれた傷の癒やしと和解で、ラストのトランボのスピーチも感動的だった。

 上記の「スパルタカス」以外にも「ローマの休日」、「栄光への脱出」、「ジョニーは戦争に行った」(原作、脚本、脚本)など数多くの名作を世に問うたトランボだが、タイトルの付け方がうまくなかったことが、ユーモアを交えて描かれていた。

 幼稚で凶暴な狂気といえば、ナチズム、そして本作の背景になったマッカーシズムを思い浮かべるが、現在の日本はどうだろう。狂気の色は次第に濃くなっている。危機感を抱いている方は本作をご覧になれば、抗い方のヒントが見つかるかもしれない。
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SMAP、そしてシールズ~お盆を騒がせた二つの解散

2016-08-19 03:50:27 | 独り言
 毎日がだるくて眠い。四季を通じて似たようなものだから、夏バテともいえない。還暦まで2カ月を切り、心、体、脳の劣化が甚だしい。残された時を測る上で参考になる父は還暦の頃、司法書士として書き入れ時を迎えていた。併せて塾を経営し、借りた農地で野菜作りに励むなど実にエネルギッシュだったが、69歳で死ぬ。俺の目標は70越えだが、果たして……。

 お盆の時季、2つの解散が世間を賑わせた。SMAPとシールズである。酔生夢死状態で他にネタもないので、感想を簡単に記すことにする。

 紅白など歌番組、バラエティー、ワイドショーは見ないので、SMAPに興味はなかった。木村を「古畑任三郎」(96年1月)、中居を「ナニワ金融道シリーズ」(96年~)、草彅を「『ぷっ』すま」(98年~)で発見したが、この3人に稲垣、香取を加えた5人がSMAPと知ったのは、世紀が変わった頃である。

 中高年の男性諸氏も、解散報道を野次馬的に眺めている。SMAPに起きたことを日々見聞、あるいは経験しているからだ。チーム(SMAP)より先に木村、中居、草彅を知った俺は、それぞれ個性的で有望だと思った。<SMAPにいたから芸能界で生きていけた>との声が大半だが、俺は<SMAPにいたことで可能性を潰された>と考えている。

 ジャニーズ事務所とはある種の〝牢獄〟といっていい。木村以外は結婚を許されず、脱退してオートレーサーになった森はSMAP史から抹消されている。「自分の会社だって、これほど抑圧的ではない」と感じているサラリーマンも多い。管理は外部にも及び、メディアがジャニーズにひれ伏すさまは、安倍政権さえ真っ青になるほどだ。

 今回の経緯は、全国津々浦々の企業で起きていることの拡大版だ。同期入社といっても、20年も経てば、廊下ですれ違っても目礼する程度になる。出世頭は木村に重なり、「なぜ、あいつだけ」との憤懣を覚えている人は多いはずだ。木村の妻(工藤静香)が夫に裏切りを勧めたらしいが、これまた世間に転がっている話だ。

 ジャニーズ事務所は木村以外の4人を抹殺しようとするだろう。ヤクザ映画好きの俺は、吉本が救いの手を差し伸べたら面白くなるなんて想像し、悦に入っている。様々な切り口で楽しめるのが今回の解散騒動で、さすが〝国民的アイドル〟と言いたくなる。

 地味な方はシールズだ。俺の周りには絶賛する人ばかりで、「言葉が貧弱」とか「洗練され過ぎ」と辛口に評すると、軽蔑が滲んだ視線を向けられた。だが、解散に当たって、前言を訂正したい。そもそも、基準の設定が誤っていたのだ。

 サンダース旋風のきっかけになった反組合法への抗議デモ(2011年)を主導したのは、10万人単位の若者だった。台湾では14年、立法院(国会)を占拠したひまわり学生運動を100万人が支援する。スペイン、スコットランドなど欧州全域で広がった<街頭闘争が国会を変える>というトレンドが日本に押し寄せたかに感じたのが昨年で、シールズへの期待も大きかった。

 1年後、どうなったか。同じく熱い夏の功労者であった小林節氏と連携せず、シールズは永田町の地図に組み込まれた。<量が質を規定する>は不変の法則で、10万人規模の若者が共に闘えば切磋琢磨によって言葉は磨かれ、運動は深化する。だが、日本では意思表示する若者が限られている以上、シールズはおのずと限界を抱えていた。

 昨年7月末、緑の党の臨時総会に参加した三宅洋平氏は、「シールズをどう思うか」との問いに、<シールズを支持している若者は3%ほどで、殆どは無関心。肝心なのはその97%に言葉を繋げていくこと>(要旨)と答えた。至言というべきだが、当人もまた、参院選でシールズ的状況に身を置くことになる。

 今夏は寒かったが、楽観派の俺は希望を捨てていない。シールズ、そして三宅氏に触発された若者が永田町の地図を破り捨て、社会を根底から覆すムーブメントが起きることを願っている。俺もまた、自分の現場で人と人を紡いていきたい。それがシールズへの返答になるのだから……。
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敗戦の日に寄せて~皇室の立ち位置、国民との距離の劇的な変化

2016-08-15 22:29:24 | 社会、政治
 一昨日(13日)は「よってたかって夢らくご」(有楽町よみうりホール)に足を運んだ。春風亭一之輔は欧州公演旅行を枕に「天狗裁き」を旬の勢いそのまま演じる。桃月庵白酒は「千両みかん」で懐の深さを見せつけ、三遊亭白鳥は新作「座席なき戦い」で伝統とギャグの境界を行き来する。切磋琢磨する精鋭たちの〝壊れ〟を繕ったのがトリの柳亭市馬だ。さすが協会会長というべき熟練の芸で、「船徳」を美声で披露する。

 落語といえば、痛恨のダブルブッキングをやらかす。J亭落語会(9月29日)のチケットを入手していた。上記の白酒、一之輔に加え柳家三三という垂涎物のラインアップなのに、モリッシー来日公演のチケットを同じ日に申し込んでしまう。当選したので落語の方をネット売ることにする。

 ロッキン・オンHPによると、モリッシーはまたまた反王室発言で英国を騒がせている。スミス時代に「クイーンズ・イズ・デッド」というタイトルのアルバムを発表するなど、反王室を貫いている。<君主制は不公正な社会制度を体現している。そんな愚かなものに加担するのか、(王室支持が)人間の欲得と傲慢さから発したことと知性で自覚するのか、いずれかしかない。ハリー王子がハイチの貧民34人を食べたとしても英雄扱いされるはず>(要旨)と舌鋒は鋭い。

 日本では、天皇生前退位が話題になっている。多くの識者が意見を述べる中、俺の意見など屁ほどの意味もないが、角度をずらして記すことにする。ポイントは二つ、皇室の立ち位置の変化、そして国民との距離だ。

 俺の母はガチガチの保守派で、自民党員だったこともあるが、昭和天皇には厳しかった。<敗戦時に退位しなかったことで、日本の戦後に無責任が蔓延した>が持論である。<右派=天皇崇拝>の図式は、過去も現在も必ずしも成立しない。右派といえば真っ先に三島由紀夫を思い浮かべる人もいるだろう。だが、昭和天皇に最も鋭い刃を向けたのは三島で、典型といえる作品のひとつは市川雷蔵主演で映画化された「剣」(63年)である。

 大学剣道部主将の国分は、伊豆で行われた夏合宿期間中、泳ぐことを禁じた。私用で東京に赴き、伊豆に戻った時、ルールが破られていたことを知る。強い絆で結ばれていた壬生は唯一、規律を守ったが、孤立を恐れ「自分も泳いだ」と嘘をついた。その夜、国分は自殺する。あまりに苛烈な責任の取り方だが、念頭にあったのは昭和天皇であったはずだ。7年後、三島は天皇教の美学に殉じて切腹した。

 ピュリツアー賞受賞作「昭和天皇」(02年、ハーバート・ビックス)は世界標準の昭和天皇観を提示している。作戦にも関与し、形勢を不利に導いたとの記述もあった。戦後は沖縄をアメリカに売り渡し、防衛戦略にしばし口を挟んだ昭和天皇だが、朝日新聞によって<平和主義者>に書き換えられた。学者や識者も動員した歴史の捏造にも、母のような戦中世代の高齢者は騙されていない。

 <君主制は不公正な社会制度を体現している>はモリッシーの見解だが、俺は20代以降、<天皇制は差別の精神構造を育む装置>と考えてきた。天皇制について否定的だったから、昭和天皇が死んだ日の光景に、「みんな同じなんだ」と意を強くしたのを覚えている。テレビは「全国民が喪に服している」と伝えていたが、営業していたカラオケボックスや居酒屋は開店以来の大繁盛。親しかったレンタルビデオ店の店長は、「次はいつでしょうね」とホクホク顔で話していた。

 あれから27年、皇室の立ち位置は劇的に変化し、今や中道、リベラルのみならず左派の敬意まで勝ち取った。象徴天皇制は浸透が、元首化を目論む官邸は、生前退位の希望を宮内庁から知らされた時、反応は冷ややかだったという。

 小泉政権以降、勢いを増した保守派だが、その内実に疑義を抱いていた。小泉元首相は衒いもなくブッシュ大統領の前でエルビスを歌い、安倍首相は小学校からの英語教育を提唱している。石原元都知事は江戸の文化遺産に冷淡だったし、橋下前大阪市長も文楽協会と一悶着あった。日本文化に傾倒し、環境や風習を守るために反原発や反TPPを提唱する右派があまりに少ない。ナショナリズムの欠片もない〝本籍アメリカ〟、利権に目ざとい〝拝金教徒〟が右派を自称している。

 8月8日は71年ぶりの玉音放送で、戦前回帰の動きを食い止めるべく、天皇が一石を投じたと見る識者もいる。憲法とは、ナショナリズムとは、歴史とは、戦争とは、日本の文化とは……。憲法改正に利用としようとする動きも顕在化してきたが、退位論をきっかけに国の成り立ちを巡って議論が深まることを期待している。
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「路」~新幹線が紡ぐ日台の絆

2016-08-13 22:27:28 | 読書
 大江健三郎が高江を訪ねたら、「市民の皆さん」と第一声を発するだろうか。永田町の論理に引きずられ、小林節氏をピエロにした〝市民〟に疑義を呈してきた。日本における〝市民〟とは、泥を被らない特権階級(教授とか知識人)を指すようだ。

ヘリポート建設阻止、辺野古移設反対、反原発、反戦争法の運動を支える〝市民〟は、公安にマークされて〝市民的自由〟を失い、〝活動家〟にならざるを得ない。〝市民的不自由〟が蔓延した結果、政治をオープンに語れなくなった。体制と異なる意見をロックフェスのMCで表明したアーティストに対し、若い〝市民〟の非難の書き込みが殺到する。これが日本の民主主義の現実だ。

 なんて書いているから、ブログの読者数は減っていく。巷の話題はリオ五輪で、蕎麦屋で昼飯を食っていたら、隣でOL3人組が夢中で話していた。「内村は神」から始まり、揃って柔道にハマったらしく、審判の力量差など鋭い分析を披露し合っていた。最も盛り上がったのは、競技を問わずイケメンのリストアップである。

 「惜しかったね」と締めの話題は福原愛だった。婚約者が台湾の卓球代表と聞いて、箸が一瞬、止まった。読了したばかりの「路(ルウ)」(12年、吉田修一/文春文庫)と重なったからである。

この夏、「マチネの終わりに」(平野啓一郎)、「悪い娘の悪戯」(マリオ・バルガス・リョサ)と恋愛小説を紹介してきたが、別ジャンルを読もうと「路」を手にした。台湾新幹線(台湾高速鉄道)の着工から開業に至る道程を描いた小説で、「プロジェクトX~挑戦者たち~」に近いトーンと想像していたが、次第に恋愛が軸になっていく。

閑話休題。ジャック・アタリ著「21世紀の歴史」は発刊2年後のリーマン・ショックで名著になり損ねた。称揚していたグローバリズムが<諸悪の根源>と見做されるようになったから致し方ないが、社会全般の分析は興味深かった。アタリは民主主義の浸透度、個としての強さを理由に、<アジアの近未来の盟主は韓国>と想定している。「路」の舞台である台湾も韓国同様、80年代後半まで実質的な戒厳令下にあった。民主化闘争が圧政を打ち破ったことで、自由の気風が横溢している。

 切り口はアタリと異なるが、吉田は歴史を深く洞察しつつ。自身の物差しで日台を測っている。映画「悪人」の情緒的なムードに違和感を覚えたが、本作は少し乾いている。パワフルな台湾人と対照的に、日本人(とりわけ若い男)を厳しめに描いていた、

 主人公は商社OLの春香で、自ら希望して台湾新幹線に関わる。<ボーイ・ミーツ・ガール>というが、春香は学生時代、旅先の台北で人豪(通称エリック)と運命的な出会いをした。眩い恋の始まりのはずが、すれ違いで音信不通になる。思いは消えることなく数年後、糸は手繰り寄せられた。人豪もたった一日の出来事を忘れられず、春香の面影を追って東京の建設会社で才能を発揮している。

 事業を交差点として行き交う登場人物たちも恋をしていた。春香の上司の安西は、家庭と台湾人ホステスとの間で懊悩し、結論に至る。車両工場で働く〝熱き男〟威志は、留学先のカナダで日本人学生に捨てられた幼馴染みと結ばれた。春香も安西も台湾に滞在するうち〝台湾化〟していくが、そこに吉田の価値観が垣間見える。

 日台史のキーマンというべきは、日本のモータリゼーション発達に貢献した葉山勝一郎だ。人豪が教えを請うなど、その存在感は増していく。戦前、台湾で暮らしていた勝一郎は、自責の念に駆られていた。亡き妻を巡る三角関係ゆえ、台湾人に差別的な言葉を吐いてしまったのだ。

 前稿で紹介した「暗殺」の舞台である朝鮮半島も、日本から独立後、戦争と分断固定化という更なる悲劇が待ち受けていた。台湾における外省人(国民党)の過酷な支配は映画「非情城市」にも描かれている。「どうして日本は守ってくれなかったのか」という本省人の思いが、屈折した親日感情と大陸への反感に繋がっているのかもしれない。60年ぶりに台湾を訪れた勝一郎は、親友と再会し、その温情を受け入れた。

 今秋公開の「怒り」が話題になっているが、吉田には映画化された作品が多い。映像が目に浮かぶような巧みな筆致に加え、シーンの繋がりがシナリオ的だ。映画製作者が食指を動かすのも納得できる。

 「路」はスケールの大きい群像劇で,登場人物は予定調和的に柔らかく、そして優しく紡がれていく。日台の時間の感覚や恋愛観の相違から、天候、観光地、料理の味付けまで詳述された本作は、〝初の海外旅行は台湾〟と決めている俺にとって、格好のガイドブックになった。
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「暗殺」~恨の精神が息づく至高のエンターテインメント

2016-08-09 23:21:32 | 映画、ドラマ
 生前退位に向けた天皇のメッセージについては後日(恐らく15日)、記すことにする。自身の老いと死を見据えた言葉に、象徴に相応しい〝国民目線〟が窺えた。

 イチローがメジャー3000本安打を達成した。職人気質で群れない一匹狼は、日本社会では異質の存在だ。数字や記録ではなく、俺はイチローの〝空気を読まず、空気をつくる〟突破者の生き様に憧れている。

 五輪に興味はないと書いたが、ある選手に注目していた。行きつけの接骨院に通っていた海老沼匡である。2大会連続の銅メダルと健闘したが、一部メディアの<柔道は金でないと無意味>といった報道に違和感を覚えた。柔道は世界で愛されており、日本以上に定着している欧州では、少年少女が人種や宗教を超えて楽しんでいる。各国代表選手は国民性を個性的に表現していた。

 安倍昭恵さんを伴って高江を訪れた三宅洋平氏がバッシングされている。敵と味方を峻別する<二元論>の対極に位置する三宅氏は、14年の都知事選で宇都宮氏を支持したが、細川氏とも笑顔でチャランケしていた。スピリュチュアルへの志向が強く、直感で行動するため、三宅氏はこれまで失点を重ねてきた。今回の件で政治生命――というか議員への道――は絶たれたかもしれないが、その表現力と発信力は起爆剤であり続ける。

 ブッシュ元大統領夫人が崩壊したバグダッドを訪ねたら、あるいはイスラエル首相夫人がガザの惨状を視察したら……。構図は異なるが、昭恵さんは夫が最高執行者である弾圧の光景に触れた。そのことが無意味であるはずはない。右派、中道、リベラル、左派に限らず、政治を語る人は、自身が属する〝思想のタコツボ〟から自由になるべきだ。

 新宿シネマートで先日、韓国映画「暗殺」(15年、チェ・ドンフン監督)を見た。公開後1カ月にも満たないので、ストーリーの紹介は最低限にとどめ、感想を綴りたい。一言でいうなら、<日本人にとって痛い真実がちりばめられた極上のエンターテインメント>か。

 プロローグは1911年(日韓併合の翌年)、エピローグは49年(朝鮮戦争勃発前年)だが、メーンの舞台は33年(反日闘争のピーク時)の京城(現在のソウル)と上海だ。三つの時間は鮮やかな糸で織り成されており、細かい点にまで気を配った脚本に感嘆する。右派の方は、描かれている日本人将校の残虐さや差別意識に苛立ちを覚えるだろう。だが、製作サイドは日本に阿った同胞を主たる敵に定めている。

 韓流エンターテインメント映画に共通するのは、深作欣二のテイストと恨の精神だ。「資金源強奪」(75年)が典型だが、深作はパワフルでねちっこい闘いを描き切る。恨の精神とは無念、無常観、憤怒が入り混じった気持ちで、血が滾るような激しさになって表れ、願望が叶うまで焔が鎮まることはない。本作にも恨を体現するキャラクターが登場する。  

 韓国独立軍の女性狙撃手アン・オギュン(チョン・ジヒョン)、日本側と通じているヨム隊長(イ・ジョンジェ)、賞金稼ぎの通称ハワイ・ピストル(ハ・ジョンウ)がシャープな三角形を形成する。チョン・ジヒョンは2役で、育ちが異なる双子を演じている。イ・ジョンジュは体重を十数㌔増減させるなど役作りに励み、凄みのある役柄を演じ切った。

 「哀しき獣」「チェイサー」「ベルリンファイル」等で馴染みのあるハ・ジョンウは今回も影のある男を演じ、後見人というべきヨンガムとともに西部劇の風味を味付けしていた。アンとの心の揺らぎも見どころの一つである。

ハワイ・ピストルとチュ・サンオク(韓国独立軍)との豚に関する台詞も興味深かった。「最近、京城の豚がうまいのは去勢しているから」と皮肉を込めてチュは言う。〝去勢〟とは〝タマを切る=誇りを奪う〟の意味もあり、チュはハワイ・ピストルを日本に尻尾を振る同胞と見做していた。ちなみに、前々稿で紹介した「ウエルフェアフード」では豚の去勢を禁止する方針を示している。

 一般市民を犠牲にすることを禁じ、「銃弾にも良心がある」と語る独立軍幹部の言葉は、頻発する昨今のテロへのアンチテーゼだ。日本化が進む京城の街並みの一角にあるクラブでは、30年代のパリやベルリンそのまま、頽廃と享楽に浸る人々もいる。どこまで忠実に再現されているかわからないが、京城も謎めいた魔都だったに相違ない。

 ラストシーンは、さらなる悲劇が朝鮮半島に迫る49年のソウルだ。独立に身を捧げたアンたちは、朝鮮戦争をいずれの側で闘ったのだろう。袂を分かち、対峙したケースも少なくなかったはずだ。館内が明るくなっても、悲痛な余韻は去らなかった。
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多様性を尊重する寛容な世界へ~スポーツは新時代を切り開けるか

2016-08-06 23:20:00 | スポーツ
 清水成駿氏が亡くなった。氏の予想には情念が宿り、時にアジテーターの如くだった。自身のスタンスを貫いたからこそ、清水氏はファンに支持され続けた。競馬ジャーナリズムを牽引した個性派、アイデアマンの死を心から悼みたい。

 知人の高坂勝さんが「ニッポンぶらり鉄道旅」(NHKBSプレミアム)に出演していた。「自給・自信・自立がつながりあう地域と知域」をコンセプトに立ち上げたNPO「SOSAプロジェクト」関連で、匝瑳市での農作業、仲間たちとの交流をカメラが追っていた。

 脱サラして古本屋を始めたり、田舎に移住したり、農業と別と仕事を兼業したり……。価値観を転換する人が増えてきた。この流れもあって、<半農半X>と<脱成長>を説く高坂さんは最近、メディアで紹介される機会が目立ってきた。アベノミクスのアンチテーゼというべきミニマリスト志向は、地殻変動の前触れではないか。

 マイケル・ムーアの「世界侵略のススメ」(15年)に刺激を受け、参院選で佐藤かおり候補の応援に関わったことで、以前になかった考え方が芽吹いた。<女性の包容力と寛容さが社会を変える。男女の議員比率が接近すれば、福祉、貧困対策は自ずと充実し、好戦的なムードは萎む>と……。だが、女性だからといって、平和を希求するとは限らない。

 仕事先(夕刊紙)の担当面に、ある女性のコメントが引用されていた(今年5月発売の週刊誌から)。「私にも大学生の息子がいますが、赤紙で徴兵されるのは絶対に嫌です」という内容だが、発言の主は何と稲田朋美防衛相である。母としての優しさを敷衍し、<徴兵制なんてもってのほか>との結論に達するべきなのに、稲田氏は違う。

 孫崎享氏は同じ紙面で、安保関連法成立直後に渡米した稲田政調会長(当時)が、ジャパンハンドラーたちの〝面接〟を受けたことを紹介し、防衛相就任はアメリカの後押しとの見解を示している。原発再稼働、高江でのヘリパット建設強行など、〝安倍日本州知事〟の暴走を支えているのは宗主国だ。真の敵を見据える時機に来ている。

 リオ五輪が開幕したが、全く関心がない。当ブログでは、「放射能汚染はアンダーコントロール」という安倍首相の虚言の上に招致した東京五輪を繰り返し批判してきた。東北の癒えぬ傷を目の当たりにすると、五輪開催は<国家的犯罪>に思えてくる。環流する2兆円超の汚れた金の幾許かを福祉に回せば、東京は生きやすい街になる。でも、小池百合子都知事と丸川珠代五輪相は弱者を一顧だにしない。

 <国のため>という構図にも辟易している。サッカーW杯日韓大会の時だったか、テレビ朝日先陣を切って<絶対に負けてはいけない闘い>と煽り立てた。〝国にとって負けてはならない闘い〟が何かを、ブラジル国民が教えてくれた。サッカーW杯、そしてリオ五輪に対し大規模な反対運動が起きる。<スポーツイベントより、格差解消、福祉と教育の充実など、優先すべき課題は山積している>という主張は極めて真っ当だ。

 五輪だけでなく、スポーツ全般に萌えなくなった理由のひとつに感性の鈍化がある。名場面にも、「どこかで似たようなシーンを見た」というデジャヴを覚えてしまうのだ。日本は近いうちにスポーツ黄金時代を迎える。俺の錆び付いたアンテナもピカピカになるかもしれない。

 キーワードは<多様性と寛容>だ。サッカーでいえば、W杯を制したフランス代表は旧植民地出身の選手が大半を占めた。オランダ代表を支えたのはフリットらスリナム系の選手である。ドイツ代表もトルコ系、ポーランド系を含む〝多民族軍〟で、サッカーに関する限り「ゲルマン魂」は死語になった。同じことが日本でも確実に起きる。野球、サッカー、陸上、柔道など主立った競技で、外国人の血がアスリートのレベルを向上させている。

 日本では最近、排外主義的が強まり、愛国心を強調する政治家が増えている。だが、日本人は本来、ミーハーで舶来品を受容する国民だ。食事だって、寿司、ピザ、中華、焼き肉、ハンバーガーと選択肢は多い。〝国技〟大相撲では、モンゴル人力士が日本人力士を粉砕しても人気は衰えない。

 スポーツとは文化の一種だ。歴史上、カルチャー(風潮、流行も含む)が社会の空気を変えた例は数え切れない。日本でも1960年代、不即不離の関係だった政治とカルチャーの距離を危惧している。俺はスポーツに期待している。外国人の血を受け継ぐスポーツ選手たちの活躍が、多様性を尊重する気風を増幅し、視野の狭い政治家たちの鼻を明かす可能性を感じている。

 五輪に続き高校野球も始まった。国とか学校とか会社とか、帰属意識を嫌う俺だが、郷土愛だけはある。むろん京都翔英を応援するが、初戦の相手が悪い。雑誌を立ち読みして戦力分析したところ、履正社に次ぐとみた樟南と当たるのだ。善戦を期待したい。

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隅田川花火、アニマルハッピー、都知事選~週末の雑感あれこれ

2016-08-02 23:45:49 | 独り言
 週末は隅田川花火大会、第2回アニマルハッピー講座に足を運んだ。都知事選の感想を併せ、以下に記したい。

 隅田川の混雑ぶりは報道されている通りなので、ここでは記さない。初めて第1会場で観賞した豪放かつ繊細な光のページェントに陶然とする。花開く瞬間の煌めき、消える刹那の切なさに加え、花火の影が残像になって瞼に焼き付いている。

 動物との共生を志向するアニマルハッピー講座第2弾(阿佐ケ谷中学会議室)のテーマは「家畜福祉」(講師=松木洋一日本獣医生命科学大名誉教授)、「動物業者と学校飼育」(講師=宍戸みわALIVE調査員)の2本立てで、質疑応答を合わせて4時間の長丁場だった。

 食肉になることを前提に飼育されている豚、牛、鶏の過酷な状況が欧米で改善途上であることを、松木氏の講演で知る。適正な飼育が家畜を健全に生長させ、食べる人間にも好影響を及ぼすという<ウェルフェアフード>が定着しつつあるのだ。東京五輪に向けて、IOC側が日本に善処を求めてきた。となれば、動きが鈍かった日本でも<ウェルフェアフード>が浸透し、食肉業界の在り方は変わるだろう。

 学校で飼われているウサギ、移動動物園やカフェに供されるペットの悲惨な状況を宍戸氏がリポートした。人間とペットとの理想の関係を顧みず、お題目を繰り返す行政がペット虐待を看過しているという。初めて知った事実を咀嚼するのに精いっぱいで、一言居士の俺だが、質問どころではなかった。

 都知事選の結果は想定通りだった。投開票日直前、ネット上に<小池、鳥越両氏が接戦、増田氏が追う>との情報が流れた。鳥越選対に加わっている知人に聞いてみたが、「残念ながらない」と言う。圧勝報道による緩みを警戒した小池陣営が発信元である可能性もあり、ネットの怖さを改めて知った。準備不足の鳥越氏が説得力ある言葉を伝えられなかったのは当然のこと。野党側に優れたアドバイザーがいれば、状況は変わったはずだ。

 ビフォア&アフターで、様々な人があれこれ分析している。立ち位置の違いで見え方が大きく異なる。ポスティング、ビラまき、街頭での汗を流した応援によって、逆に視野狭窄に陥ることもあるだろう。岡目八目といって、距離を置いているからこそ見えてくるものもある。かつて俺は傍観者だったが、昨年の統一地方選、今年の参院選、都知事選では当事者として多くのことを学べた。

 俺は政治に向かないことを改めて実感する。<理・知・利>より<義・信・情>を重んじるから、意見は周囲とずれてしまうのだ。反自公サイドにとって、<野党統一><市民連合><シールズ>が紋所だが、否定的な意見を述べるたび、侮蔑したような視線で睨まれた。

 都知事選で敗れた野党側の最大かつ唯一の戦犯は、宇都宮健児、古賀茂明、石田純一の各氏に、鳥越俊太郎候補までピエロにしてしまった民進党である。<小異を捨てて大同につけ>は俺にとって唾棄すべき金科玉条だが、6月末日、<小異>に固執して古賀擁立を潰したのは民進党である。民主党時代の軋轢に加え、反原発を鮮明に打ち出す古賀氏には乗れないというのが理由だが、そんな民進党が主導する野党統一に、どれほどの価値があるのか。

 当ブログで繰り返し記してきたが、俺は1年前から半年余り、甘美な夢に浸っていた。即ち<世界で起きている動きが日本にも伝播し、直接民主主義が永田町の壁を揺さぶる。三宅洋平氏とシールズのタッグがきっかけになる>と……。

 三宅氏の立候補表明が遅れたこともあったが、参院選でシールズが推したのは小川敏夫候補だった。熱い夏の最大の功労者である小林節氏に対し、<票を割る>という理由で市民連合を含め、リベラル、左派は冷淡だった。<永田町の地図>でしか政治を測れない人たちに、欧米で起きたようなダイナミックな動きを主導出来るはずがない。

 俺が心情的に応援したのは上杉隆候補である。5年前、「ニュースの深層」(朝日ニュースター)を拠点にしての活躍は目覚ましかった。自由報道協会を主宰し、クラブ所属の記者の妨害を受けながら汚染水流出、体内被曝、メルトダウンを伝え続け、広告代理店と政官財連合に叩きのめされた。反原発活動家、あるいはメディアに強い不信を抱く人は上杉氏に一票を投じた。倍の票を取って次回に繋げてほしかったが、残念な結果だった。

 鳥越陣営からの応援要請(27日)を断った宇都宮氏を批判する声も強いが、参院選に関わった俺は<義・信・情>から宇都宮氏を擁護する。宇都宮氏が寄り添ったのはセクハラ裁判を10年以上も闘った佐藤かおり候補で、性暴力の被害者、シングルマザー、LGBTらの声を代弁していた。まさに、血と涙が滲む演説だった。宇都宮氏も<女性や弱者の人権>を壇上で繰り返しアピールしていた。この事実を踏まえた上で、宇都宮氏を批判してほしい。

 バーニー・サンダースの支持者の中には民主党を離党し、緑の党のジル・スタイン候補を推す者もいるという。貧困と格差を第一に掲げる点でサンダースと共通項が多い宇都宮氏は統一地方選、参院選で、上記の佐藤さんを筆頭に緑の党推薦候補を熱心に応援してくれた。「それがどうした」と冷笑されるだろうが、俺は日米でシンクロする微かな光を感じている。アンドレ・マルローの至言で、寺山修司もしばしば引用した<希望とは人間が罹る最後の病である>は、今の俺を言い当てている。
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