酷暑の日々で心身は萎えているが、この間感じたことを脈絡なく以下に記したい。
まずは、沖縄尚学の優勝で幕を閉じた夏の甲子園から。史上最高の大会と評されるほど熱戦続きだったが、広陵を巡る一連の出来事が影を落とした。前々稿で紹介した「神聖喜劇」には軍隊の異様な体質が描かれていたが、スポーツ、とりわけ野球界がいまだに残滓を払拭出来ていないことが明らかになった。広陵のみならず暴力やいじめが有力校に蔓延していることはSNS等からも明らかで、高校だけでなく多くの大学でも前近代的体質が残っている。
しごきの体験を美談風に語るプロ選手がいるのは残念だが、広陵OBの金本知憲氏は信じ難い出来事を告白している。ベイスターズ牧など広陵の体質を変えようと努力したNPB選手は多いが、一掃出来なかったのはひとえに監督の責任だ。朝日新聞社は、高校、大学と一貫して野球部の体質に馴染めず、25歳でようやくプロになった落合博満氏をアドバイザーにして、高野連の近代化に取り組むべきだ。
BS世界のドキュメンタリー「ヒトラーの本棚~ナチズムの源を読み解く」(2023年、ドイツ)は興味深い内容だった。ヒトラーの読書傾向について著書があるティモシー・ライバックをメインの進行役に、莫大な蔵書の中からピックアップしてナチズムの源になった思想に光を当てていく。<突然現れたヒトラーが世界を蹂躙した>……、こんな先入観は本作で吹き飛んだ。ミュンヘン一揆の首謀者として投獄されたのは1923年だったが、ヒトラーは20年頃から反ユダヤ主義、優生学を掲げる保守系の企業家や出版人にとって希望の星と見做されていた。
米政府や大メディアによって<反ユダヤ主義=パレスチナに対するジェノサイドに抗議する者>というすり替えが現在行われているが、1920~30年代における<反ユダヤ主義>は人種差別に限定していい。ヒトラーのバイブルは「偉大な人類の消滅」で、著者のマディソン・グラントは本国アメリカでも移民対策の変更に絶大な影響力を誇り、白人至上主義者が外国人排斥を唱える際の根拠になっている。
ヒトラーの蔵書の中で目立っていたのは魔術、オカルト、スピリチュアル系でノストラダムスの予言集も早くから読んでいた。ヒトラーにとって〝理想の父親〟だったディートリヒ・エッカートは「ペール・ギュント」の脚色で名を上げた反ユダヤ主義者で、ヒトラーを有力者に引き合わせた。世界に冠たる探検家スウェン・ヘディンもナチス支持者で、「大陸間の戦争におけるアメリカ」で、ルーズベルトの策略がヒトラーを第2次世界大戦に追い込んだと記している。
優生学に基づき障害者を抹殺し、ユダヤ人やロマを虐殺した。ナチスが創出した地獄は1945年に終わったわけではない。世界では移民や難民への暴力が収まらず、被害者だったユダヤ人によるガザでジェノサイドが続いている。
ゼロカーボンシティ杉並主催のイベントで映画「2040~地球再生のビジョン」(2019年、デイモン・ガモー監督)を見た。ガモー監督作は自身の肉体を実験台にしながら格差と貧困、情報操作と洗脳、資本主義の冷酷さに切り込んだ「あまくない砂糖の話」(15年)の感想を当ブログに記した。ガモーは娘ベルベットが生きるべき理想の世界を見据えて11カ国を巡る。CGを挿入しながら2017年(撮影時)と2040年がカットバックさせ、未来図を浮き上がらせる。
バングラデシュでは太陽光発電で電力をシェアするコミュニティーを取材する。エネルギーの地産地消は経済的のみならず、文化的紐帯を維持する効果がある。農業や漁業のやり方を工夫するだけで二酸化炭素の排出を抑えた例が紹介されていた。本作の根底にあるのはケイト・ラワーズが提唱する<ドーナツ経済学>で、利益が循環し公平な社会を志向するモデルだ。前提にあるのは生物多様性の維持と環境保護である。大上段に構えず、一人一人の創意工夫の蓄積が世界を変えるという希望を実現するため、必要になる若い世代との対話をガモーは実践していた。
酷暑はいつまで続くのだろうか。終わっても蓄積した疲労は抜けそうもない。