酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ジャッキー&カクタス~本家と分家のタランティーノ

2008-05-29 00:59:30 | 映画、ドラマ
 新宿コマ劇場の半世紀の歴史にピリオドが打たれる。ACB、リキッドルーム、オールナイト映画、出会い、空騒ぎ、夜と朝の狭間の彷徨……。コマ周辺には懐かしさ、ほろ苦さ、後ろ暗さがぎっしり敷き詰められている。年内閉館のニュースに、思い出のページが破られるような寂しさを覚えた。 

 録画しておいた「ジャッキー・ブラウン」(97年、タランティーノ)と「カクタス・ジャック」(04年、ロサーノ)を続けて見た。ロサーノは”ポスト・タランティーノ”の呼び声高いメキシコの新鋭である。

 俺の中でタランティーノは、以下の二つの貌を持っている。
 <A>…邦画、香港ノワールの影響が濃い。ユーモア、奇矯さ、気の利いた台詞をちりばめたピカレスクを作る映画オタク
 <B>…ジグソーパズル型群像劇を確立したロバート・アルトマンの後継者。時間と空間を切り刻み、複数の主観でストーリーを綴っていく
 「ジャッキー・ブラウン」は両方の要素を程よく調和させた作品で、映画館で見た時、「うまいなあ」と独りごちた。

 ジャッキー役のパム・グリアーは70年代、アフリカ系アメリカ人向けインディー映画で名を馳せた。撮影時の年齢は設定(44歳)より上だが、妖艶さがこぼれる魅力的な熟女である。航空会社添乗員のジャッキーは非合法の副業を摘発され絶体絶命に陥るが、一発逆転の大勝負に打って出る。50万㌦の取引を複数の主観でパラレルに重ねた部分が、本作最大の見せ場といえるだろう。

 サミュエル・L・ジャクソン(オデール=銃密売業者)、ロバート・フォスター(保釈業者)、ブリジッド・フォンダ(オデールの情婦)、ティム・バートン(捜査官)……。錚々たる面々が脇を固める中、異彩を放っていたのはロバート・デニーロ(ルイス=オデールの相棒)だ。情けない中年男役で芸域の広さを見せ付けていた。

 ストーリーだけ説明すれば、ジャッキーは映画史に輝くヴァンプだ。そんな感じがしないのは、本作が寓話の高みに達しているからだ。登場人物は<何か>に操られて神性を帯び、虚実、正邪、善悪を超越している。

 「ジャングル・フィーバー」(91年、スパイク・リー)でシリアスに描かれた異人種間の恋愛を、タランティーンは軽くスキップしている。サントラも魅力的で、オープニングの「110番街交差点」(ボビー・ウーマック)と「ストリート・ライフ」(ランディ・クロフォード)は、映像とともに記憶に残る。

 「カクタス・ジャック」は<A>タイプのジェットコースター・ムービーだ。偶然とご都合主義を積み重ね、奇妙な予定調和を導いたロサーノの才気に注目したい。メキシコはここ10年、名匠たちを輩出しているが、<B>に連なるのはアレハンドル=ゴンザレス・イニャリトゥだ。「アモーレス・ペロス」と「バベル」では、技法の確かさだけでなく志の高さも示してくれた。

 「パルプ・フィクション」、「ジャッキー・ブラウン」、「12時間の死闘/前後編」(CSI科学捜査班シーズン5)が、俺にとってタランティーノ3大傑作だ。<B>路線でイニャリトゥに負けない映画を作り、アルトマンの正嫡であることを証明してほしい。


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ジャコメッリ、辺見庸、アンゲロプロス~雨の日曜日の過ごし方

2008-05-26 01:36:53 | カルチャー
 昨日(25日)、早く目が覚め番組欄を眺めていると、<写真家ジャコメッリの生と死~作家・辺見庸が語る>の文字が飛び込んできた。慌ててテレビをつけると、「新日曜美術館」(NHK教育)は始まったばかりだった。

 モノクロ写真の数々に辺見氏の針の言葉が重なり、眠気は瞬く間に吹っ飛んだ。辺見氏は<死生観>、<異界への畏怖>、<一瞬と永遠>をキーワードに、幻想的なジャコメッリの写真を読み解いていく。権力と資本から自由だったからこそ、ジャコメッリは衝迫力の訴求力を持ちえたと語り、真逆の構造に縛られたメディアの状況を憂えていた。

 <白、それは虚無 黒、それは傷痕だ>……。ジャコメッリの言葉を受け、辺見氏は「記憶の根っ子を映像化すれば単色で、モノクロームの世界は想像への入り口になる」と繋げていた。俺がモノクロ映画に惹かれる理由を言い当ててくれたようで嬉しくなった。

 仮象の世界――内宇宙、心に抱える修羅、地獄――を追求して創作したからこそ、リアリティーを超越できたというのが、辺見氏によるジャコメッリ論の肝だった。画面を通して見た一枚に疼きを覚えた。白(雪原?)を背景に20人近くが手を繋ぎ、あるいは蹲り、あるいは寝そべっている写真である。<このシーン>をどこかで見た気がするが思い出せず、もどかしさを覚えていた。

 飯を食い、PATでオークスの馬券を買い、結果にため息をついた後、デジャヴの実像が「旅芸人の記録」(75年、アンゲロプロス)と気付く。封切り時は岩波ホールで、3年後に文芸坐で見たが、ワンシーン・ワンカットのダイナミズムに体がスイングした記憶がある。

 本作を録画しておいたDVDをセットしたが。間もなく酔生夢死状態に陥る。アンゲロプロスが描く壮大な叙事詩は、映画館で見るべきなのだろう。自らも歴史の一員であるかのような感覚を味わえるからだ。

 電話で起こされた時、<このシーン>が画面に写っていた。巡業中の芸人一座が雪原でニワトリに気付き、追いかける場面である。多少構図が似ている程度だったのでガッカリした。こじつけになるかもしれないが、ジャコメッリとアンゲロプロスは世界観、志向性、他者との距離感で通じる何かがあると思う。

 それから2時間余、まどろみながら見続けた。日付が変わる頃、ブログ更新のためパソコンを立ち上げ、「池添騎乗停止」を知る。関東U局解説者、柏木集保氏(日刊競馬)は「トールポピーはGⅠ以外なら確実に降着だった」と、パトロールフィルムを見た上で見解を述べていた。

 競馬界最大の生産者(ノ-ザンファーム=社台)、大手法人クラブ(キャロットファーム)、有力厩舎(角居)に気を使い、騎手だけアウトということか。06年エリザベス女王杯(カワカミプリンセスの降着)と矛盾する今回の対応は、競馬の公正性に一石を投じた判定だと思う。

 ジャコメッリの写真に初めて触れ、辺見氏をテレビで見て、「旅芸人の記録」と再会する。その合間に競馬予想、POGドラフトへの準備、ブログ更新と、充実した雨の日曜日だった。



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ロナウドとテリー~勝者と敗者を分かつもの

2008-05-23 05:37:49 | スポーツ
 羽生2冠が森内名人との神経戦を制し、3勝1敗と永世名人位にリーチを掛けた。指運(業界用語)を意識せざるを得ない、人知を超えた将棋が続いている。

 羽生は冷徹な勝負師だが、人間らしい癖を持ち合わせている。勝利を意識した時、手が震えるのだ。第4局でも駒を落とし、乱した盤上を整えていたという。終局後のインタビューで目を潤ませるなど、繊細な一面を覗かせている。

 プレミア勢の激突となったチャンピオンズリーグ(CL)決勝は、雨中の消耗戦になった。イングランドがワープしたかのように、赤と青のサポーターがモスクワを埋め尽くす。現地に映像が切り替わった時、MUSEの”GLORIOUS”が会場に流れていた。

 C・ロナウドの先制ヘッドでマンチェスターUが先制する。前半終了間際、ランパートのゴールで追いつくと、チェルシーが主導権を握った。ポストとクロスバーに阻まれたドログバとランパートのシュート、チェフの好セーブとテリーの神懸かり的クリア……。チェルシーは印象的なプレーを連発した。

 PK戦は後世に語り継がれる非情のドラマだった。3人目のロナウドが失敗し、マンUは絶望的な状況に追い込まれる。チェルシー5人目はキャプテンのテリーだ。歓喜のマッチが擦られた刹那、湿ったピッチに足を取られ、ポストの外にボールを蹴り出した。

 顔を覆ってうずくまるロナウド、天を仰いで立ち上がれないテリー……。ファンデルサールが7人目のアネルカを止め、勝負の女神はマンUとロナウドに微笑んだ。結果論に過ぎないが、野生児ドログバの一発退場(延長後半11分)が、女神の機嫌を損ねたのではなかろうか。

 2季続けてCLベスト4に3チームを送り込んだプレミアは、名実共に世界最強リーグとなった。躍動感に溢れたプレミアを音楽に例えるならグリーンデイだ。今季は木っ端微塵にされたリーガとセリエAだが、新しいコンセプトの下、打倒プレミアの狼煙を上げるだろう。
 
 将棋やサッカーより運の要素が強いのが競馬だ。オークスの枠順が決定した。現在POGに向け準備中だが、学習の成果を試す上でも、オークスは母系重視でいきたい。注目はフローラS1、2着のレッドアゲートとカレイジャスミンだ。

 レッドアゲートの母はダート短距離馬だが、シーホーク、ネヴァービートのサイアーラインから我慢強さを受け継いでいる。カレイジャスミンの曾祖母はシャダイアイバー(82年オークス馬)で、社台の基幹血脈に連なっている。桜花賞上位組からは、東京コースが合いそうなリトルアマポーラと未知の可能性を秘めたソーマジックを選ぶことにした。

 結論。◎は重馬場と柴田善騎手の積極策に期待して⑭カレイジャスミン、○④レッドアゲート、▲⑱リトルアマポーラ、△⑫ソーマジック。単勝は⑭1点、馬連は④⑭、⑭⑱、⑫⑭の3点。3連単は<⑭・④・⑱><⑭・④・⑱・⑫><⑭・④・⑱・⑫>の18点。

 将棋、サッカーと痺れる勝負を堪能した。オークスではゴール前、羽生2冠のように勝利を確信して震えたい。


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嵐の季節再び?~若者の怒りは爆発するか

2008-05-20 01:10:45 | 社会、政治
 18日、Yahoo!トップページで「相棒」特集が組まれ、関連ブログが更新順に紹介されていた。前稿も含まれていたため、訪問者が通常の10倍に跳ね上がる。一見さんの3%でも常連になってくれたら幸いだが、今回のテーマじゃキープは難しそうだ。
 
 <派遣労働問題で政府を追及する志位和夫共産党委員長の映像が、動画サイトで膨大なアクセス数を記録した>(要旨)……。こんな記事を読んだのは3カ月前のこと。共産党の一枚岩的体質には強い拒否感を覚えるが、底で喘ぐ若者に支持を広げているようだ。

 志位委員長は18日、「サンデープロジェクト」に出演し、<貧困・投機・環境>をキーワードに資本主義の限界を説いていた。同日付朝日新聞朝刊<耕論>では、雨宮処凛さん(作家)らが若者の左傾化を論じている。文庫版「蟹工船」(小林多喜二)の大増刷が、両方で取り上げられていた。佐藤俊樹氏(東大准教授)が<耕論>で危うさも指摘していた<バーチャル左翼>が、<ネット右翼>を脅かすトレンドになりつつある。

 40年前、日本中を熱い空気が覆っていた。俺はある時期まで、時代を担った全共闘世代に過大な期待を抱いていた。<仮転向>した彼らは初心を忘れず、世の中を着実に変えていくだろうと……。現実は真逆で、彼らが枢要な地位を占めるのと軌を一にして、日本の閉塞化が加速した。

 マスコミ業界には元活動家が多い。人格、見識とも尊敬に値する先輩も少なからずいたが、幻滅を味わわされるケースの方が多かった。

 友人「あの人、学生時代、鳴らしたみたいだよ」
 俺「野球とか柔道とかで?」
 友人(あきれ顔で)「学生運動だよ」
 俺(驚いて)「まさか!」

 確かに<あの人>は左翼的言葉を吐くが、保身に長けていたり高圧的であったりと、ゲバラが身をもって示した<左翼の基準>と懸け離れている。当人を責めるのは酷な話で、理念とは脆弱かつ空疎で褪せやすいものなのだ。

 俺が10年前に生まれていたら? クラスの殆どが参加するデモには背を向け、雑踏を彷徨っていたことだろう。政治性うんぬんではなく、大勢の人が集まることに不信感を覚える<外れ者>の習性なのだ。

 <耕論>で的場昭弘氏(神奈川大教授)は、欧州全域における左翼的社会運動の広がりに言及し、「日本の若者も例外ではない」と記していた。追い詰められた若者に寄り添う雨宮さんは、「生存をかけた反撃が始まった」と結んでいる。生活実感に根差した嵐が吹き荒れた時、「蜂起」(森巣博著)は予言の書と奉られるだろう。

 ネタ切れ、時間切れでとりとめない内容になってしまった。

 最後に。全世界(日本以外)で波紋を広げたギュンター・グラスの自伝「玉ねぎの皮をむきながら」の邦訳が集英社から発刊された。早速購入し、当ページで感想を記すつもりだ。


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リトマス紙としての映画~「相棒」劇場版を見る

2008-05-17 01:28:17 | 映画、ドラマ
 大地震の惨禍は広がる一方だ。'86W杯は経済逼迫のコロンビアに代わり、メキシコが代替で開催した。北京五輪が中国にとって負担なら、一部競技――野球、マラソン、競歩、柔道、テコンドー――を日本、韓国、台湾で分散して開催するのも一つの案ではないか。

 GWを席巻した「相棒劇場版~絶体絶命!42.195km東京ビッグシティマラソン」をようやく見た。<心地よいマンネリズム>と<チームスピリット>はドラマそのままで、杉下右京(水谷豊)と亀山薫(寺脇康文)の掛け合いを、お約束の登場人物が支えていた。

 イラク人質問題(04年)を下敷きにした本作は、政治信条を測るリトマス紙でもある。当時の世論を以下の三つに分類してみた。

 <A>…リベラルから左派。人質の安否を気遣い、彼らの活動を称賛したパウエル国務長官(当時)を支持した
 <B>…中道。パウエル発言にも自己責任論にも同程度の理があると考えた
 <C>…右派。官邸サイドや保守メディアが流した自己責任論に与した

 本作は<A>に則って制作されている。相棒ファンでも自民党支持者なら不快を覚えたはずだ。アクション満載のエンターテインメントで、ラストはジーンときたが、時間がたつと空回りに気付く。「双頭の悪魔」、「潜入捜査」、「バベルの塔」「サザンカの咲く頃」といった2時間SPの傑作群には及ばないと思う。

 <武装闘争のシンパだった女性が爆弾を用いて復讐を試みるという設定は荒唐無稽だし、公安警察が強化された70年以降、爆弾闘争指導者が通産官僚になれるはずもない。政治をストーリーに織り込むなら、十分な準備と学習が必要だと思う>……。

 これは「寝台特急カシオペア殺人事件」(シーズン6元日スペシャル)の感想を記した部分だ(今年1月4日の稿)。本作も同じ愚を犯している。

 人を生かすということ、人を殺すということ、国家のテロ、NGOに携わる若者の問題意識……。本質を追求せずして政治をストーリーに組み込むと、必ず齟齬を来す。シーズン7で修正してほしい。

 気懸かりが一つ。たまき(高樹沙耶)と美和子(鈴木砂羽)はどちらが先にゴールしたんだろう。体形からして、たまきの方が明らかにマラソン向きだが……。

 最後に、御託抜きでヴィクトリアマイルの予想を。◎⑨ウオッカ、⑬○ニシノマナムスメ、▲⑧パーフェクトジョイ、△⑥エイジアンウインズ、△②ブルーメンブラット。馬連は⑨⑬、⑧⑨、⑧⑬の3点。3連単は⑨⑬2頭軸で<⑨・⑬><⑨・⑬・⑧・⑥・②><⑨・⑬・⑧・⑥・②>の計12点。

 残り4週となった春GⅠのレース直後、YAHOO!を通して中国大地震の被災者に一定額を募金する。的中したら上乗せするのは当然だ。"いい子"の俺に、ギャンブルの神は微笑んでくれるだろうか。



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SHERBETSという極北~10周年ギグに参加して

2008-05-14 00:51:42 | 音楽
 ミャンマーのサイクロンに続き、中国で地震被害が拡大している。犠牲者のご冥福を祈りたい。

 名人戦第3局で奇跡の逆転劇を演じた羽生2冠が、またしても時の人になる。ネット対局(11日、大和証券杯)でマウス操作を誤り、時間切れで反則負けを喫した。さすがは希代の勝負師、羽生は2日後、佐藤棋聖への挑戦権を獲得して”汚名”を返上する。

 雨の夜(10日)、シャーベッツ10周年記念ギグ(TOKYO DOME CITY JCB HALL)を2階バルコニーで体験する。浅井健一(ベンジー)が放つ冷たい焔に覆われ、会場は熱い<ロックの極北>と化していた。

 「ゴースト」~「夢見るストロベリー」と静謐なオープニングから次第にヒートアップする。「アンドロイド・ルーシー」、「サリー」、「BLACK JENNY」、「チャームポイント」、「タクシー・ドライバー」、「君の肩にふれて」と好きな曲が次々に演奏されたが、「グレープジュース」はリストになかった。
 
 「シベリア」には度肝を抜かれた。ビームから発光された映像(極地の海?)がオーロラのように宙で揺れる。ラストの「Merry Lou」は、キュアーを彷彿させるダウナーなサイケデリアだった。UKニューウエーブと等質のシャーベッツのライブに触れるたび、俺は必ずノスタルジックな気分になる。

 同行した20代前半の女性は、孤独好きの寂しがりや、中心より周縁を彷徨うニートタイプだ。ベンジーワールドに沈むと確信していたが、反応はいまひとつだった。彼女のロック歴――ゴシックメタル、レディオヘッド、クランベリーズ――では浸透圧に耐えられないのだろう。

 <海外では中高年になってもロックと親しみ続けるのに、日本人は30歳を超えると聴かなくなってしまう>……。

 先月、ブラックリスト編集版がフジ721で放映された。解散直前(00年2月)のブランキー・ジェット・シティーとミッシェルガン・エレファントのメンバーが、焚き火を囲んでトークする場面が興味深かった。ベンジーはその中で上記のように話していた。

 ロカビリー、パンク、アメリカン・ハードコアを融合させた初期ブランキーは、不良、暴走族、社会的不適応者、ガテン系のあんちゃんを熱狂させる。彼らは今、35~40歳だが、その殆どがベンジーから離れてしまった。自ら提起した音楽土壌の不毛を、ベンジーは実感しているのではないか。

 ベンジーが敬意を抱くキュアーはUSツアー中だ。最新シングル”The only one”の若々しさに、ニューアルバムへの期待が高まる。ライブ会場には40歳以上、いや、俺と同世代のファンも多く駆けつけているはずだ。ロックが文化として成立している欧米が羨ましくてならない。

 切迫感が伝わるボーカリスト、メランコリーを爪弾くギタリスト、イメージを紡ぐ詩人、作家、画家、デザイナー……。表現する形は何であれ、ベンジーは内向きのベクトルをさらに研ぎ、極北の果てを目指すに違いない。リフレッシュも少しは必要な気もするが……。


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嘔吐された言葉たち~ひっそり祝う更新500回

2008-05-11 04:27:09 | 戯れ言
 昨日(10日)、シャーベッツ10周年記念ギグをTOKYO DOME CITY JCB HALLで見た。研ぎ澄まされたベンジーワールドの感想は次稿に。

 <ライカールト―ロナウジーニョ時代>が終焉した。バルセロナでファンタジーと勝利を両立させた2人に、心から拍手を送りたい。

 名人戦は羽生2冠が、奇跡の大逆転で2勝1敗とリードした。棋譜中継サイトに「検討打ち切り」と書き込まれてから90分、羽生の念力が”鉄板流”森内を砕く。将棋の魔性に震えた瞬間だった。

 ネタはいろいろあるが、今回は記念日をひっそり祝いたい。この記事が500本目に当たるからだ。

 訪問者数が頭打ちになるたび閉じようと思った。そんな時、孤高の文人、石川淳の言葉が脳裏をかすめる。<私は数千のファンのためだけに小説を書いている>……。当ブログなど読者がいるだけで満足せねばならない。

 立ち上げた頃(04年10月)、訪問者数は1ケタだった。部屋のパソコン、職場のパソコン、友人のパソコンと携帯……。指を折ると悲しい事実に行き当たる。ミクシィ参加が固定読者獲得に繋がった。足繁く訪ねてくれる寛容なマイミクさんたちに、この場を借りて感謝の気持ちを表したい。

 排外的ナショナリズムが吹き荒れた05年、<靖国>、<南京虐殺>、<慰安婦>、<小泉>をキーワードに、思想信条で対極をなす人たちが訪ねてくれた。郵政選挙前後は高位安定状態だったが、”政治バブル”はたちまち弾ける。

 <「無頼より大幹部」~渡哲也の真骨頂とは>(06年12月13日)と<「スーパーサイズ・ミー」~体を張った警告>(07年7月20日)の2本の記事に、想定外の反響があった。石原プロとマクドナルドは、市場調査の一環でブログをチェックしているのかもしれない。

 ブログは俺にとり、世間と繋がる唯一の縁だ。これからも妄想にくるまれた言葉を嘔吐し続けるだろう。1000回目を迎える日? 賭けるとしたら、<来ない>の方かな……。

 最後にお約束のGⅠ予想を。重馬場確実のNHKマイルCだが、ファリダットとディープスカイは無視できない。父系と母系のアンバランスが魅力のスプリングソング、ダ-ト経験が奏効しそうなリーガルスキームを伏兵に挙げたい。池添、安藤勝と鞍上も魅力たっぷりだ。

 ◎⑮ファリダット、○⑨ディープスカイ、▲③スプリングソング、△⑫リーガルスキーム。馬券は4頭ボックスで馬連6点、3連複4点。3連単は⑮1頭軸で馬体重などを勘案して買うつもりだ。

 競馬に関心のある方は、俺の予想を消去法に用いてほしい。儲かる確率はかなり高いと思う。


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「EUREKA」~寂寥感に満ちた”NOWHERE”

2008-05-08 01:24:29 | 映画、ドラマ
 圧制に苦しむミャンマーをさらなる不幸が襲った。サイクロンの被害で亡くなった方々のご冥福を祈りたい。

 「大津波が来る。いつかきっと、みんないなくなる」……。こんな時に不謹慎だが、梢(宮崎あおい)のモノローグで始まる「EUREKA」(01年、青山真治)について記したい。先日、録画した本作と再会したが、長尺(217分)にも緊張は途切れなかった。この7年で砂漠化が進んだ俺にとって、「EUREKA」は曖昧な<夢の中の夢>であり、自らの寂寥を写す<鏡の中の鏡>でもある。

 バスジャック事件が物語の発端だ。犯人を含め数人の命が奪われ、3人が生き残る。運転手だった沢井(役所広司)は故郷を離れて放浪し、直樹(宮崎将)と梢の兄妹は自閉の繭で息を潜めた。2年後、沢井が兄妹宅を訪ね、共同生活が始まった。兄妹の従兄弟である秋彦も加わり、4人は血と性を超えた家族になる。

 バスは本作において<外への回路>のメタファーだった。沢井は生活ができるよう小型バスを改造し、3人を旅に誘う。梢は少しずつ他者との距離を詰めていくが、疎隔感を克服できない直樹はバスを抜け出し凶行に及ぶ。沢井は警察署近くで、「生きろとは言わん。ばってん、死なんといてくれ」と直樹に話しかける。その時の直樹の顔は、死者のように黒く隈取りされていた。

 <直樹=連続女性殺人犯>の確証も動機も示されないが、自宅庭に立ち並ぶ金属棒の墓標が事件との関わりを暗示していた。梢に抱く複雑な感情が制御できない狂おしさに駆り立てたことは、直樹の表情からも明らかだ。寓話ゆえストーリーに文句を言っても意味はないが、新しい家族の一員になるべき圭子を生かす道はなかっただろうか。

 <世間の常識>に則った言葉を吐き、秋彦はバスから放逐される。忘れ物のラジカセからジム・オルークの「ユリイカ」が流れる中、沢井と梢は海へ向かう。空と海と砂浜が境界を失くしたセピア色の連なりに二つの孤独も溶け、波の音が重なっていく。映像美の結晶である本作でも白眉といえるシーンだった。
 
 沢井は「他人のためだけに生きるちゅうことは、出来るとやろか」と、再会した弓子(元妻?)に問い掛けた。海辺で公衆電話のダイヤルを回した沢井だが、弓子が出た瞬間、受話器を置く。語られなかった台詞は「俺は長うない。梢のこと、よろしく」かもしれない。「パリ、テキサス」を想起させるシーンに、ヴェンダースへのオマージュが窺えた。

 「お父さん、お母さん、犯人の人、お兄ちゃん、秋彦君、沢井さん、梢」……。失語から解放された梢は、掛け替えのない人の名を叫びながら貝殻を投げる。冒頭のモノローグは、時系でいうとこの直後に組み込まれるはずだ。「梢、帰ろう」と沢井が言葉を掛けると、セピア色の画面が色彩を帯び、NOWHEREから現実に戻される。梢の再生の旅は終わったのだ。

 同世代の役所広司は死が匂う咳を繰り返しながら、少年のように瑞々しかった。ファジーだった宮崎あおいは、「篤姫」でトップ女優になった。本作では兄将と、実の兄妹しか醸し出せないの微妙な空気を表現していた。

 ディテールを積み重ね、予定調和を裏切りつつ、リアリティーから解き放たれた「EUREKA」は、宮沢賢治の世界に通底するメルヘンだが、大半の映画ファンにとって無価値のはずだ。とりわけ文化で”化粧”する女性にとっては……。絶望を受け止められる人だけに本作を薦めたい。

 「ユリイカ」とは<見つけた>という意味でもある。ソニック・ユース在籍時に間近で見たオルークと「EUREKA」の縁も、今回の発見の一つだった。3度目に見た時、俺は何を見つけるのだろう。


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こどもの日に「チャレンジ・キッズ」~天才少年たちの閃き

2008-05-05 00:45:15 | 映画、ドラマ
 「競馬予想TV!」を見て、天皇賞への期待が膨らんだ。水上、たくみ、井内3氏とほぼ見解が一致し、余裕でテレビ観戦する。ケチをつけて消した馬が揃って掲示板に載る真逆の結果に、ヘナヘナ崩れてしまった。

 さて、本題。今回はこどもの日にちなみ、シネフィル・イマジカで放映された「チャレンジ・キッズ~未来を架ける子どもたち」(02年)について記したい。「スペリング・ビー」'99に迫ったドキュメンタリーだ。

 「スペリング・ビー」とは14歳以下を対象にしたスペル暗記大会だ。出題者が「ドッグ」と発声すれば、”D・O・G”とアルファベットで区切ってスペルを答える。ルールは単純だが、辞書に載っている専門用語、使用頻度が高い外国語も出題範囲に含まれる。本作では日本語の「財閥」に苦闘する少年が映し出されていた。

 参加者は900万を超え、予選を勝ち抜いた249人が全米大会(ワシントンDC)に進出する。地区大会の模様は地元メディアで大々的に報道され、全米大会はESPNが中継する。熱気と規模は夏の甲子園並みで、優勝者は死ぬまで称賛の対象になる。上位の実力は紙一重で、全米一を狙える子供でさえ、地区大会をクリアするのは簡単ではない。

 「綴り字のシーズン」(05年)は「スペリング・ビー」を描いた作品という。<少女は、たった1文字で家族を救う>のキャッチコピーは本作にも当てはまる。カメラが追ったのは以下の8人で、家族の絆も描かれている。

□アンジェラ=牧場で働くメキシコ系不法移民の娘。父のアメリカンドリームは、娘の成功によって実現した
□ヌープル=天才を輩出するインド系の少女。家族だけでなくインド人コミュニティーの誇り
□テッド=教師の息子。傑出した才能ゆえ友をつくるのに苦労する孤独な少年
□エミリー=勝気でキュート。愛嬌とユーモアに満ちたアメリカ中産階級の典型的な少女
□アシュリー=母子家庭のアフリカ系の少女。頭脳を武器に、劣悪な環境からの脱出を夢見る
□ニール=インド系富豪の息子。潤沢な資金でバックアップされ、父から<勝者の哲学>を注入されている
□エイプリル=中産階級崩壊でスラム化した街に育つ。敗北感が滲む両親にとり、聡明な娘が唯一の希望
□ハリー=情緒不安な少年。年相応に幼く、敗北を受け入れられない

 8人が正解した問題の幾つかを以下に紹介する。凡人の俺にとって、まさに神業の連続だった。

 Cephalalgia(頭部の痛み)、Zwieback(ドイツ風ラスク)、Tuyere(送風口)、Trachodon(カモノハシ恐竜)、Lycanthrope(オオカミ憑き)、Mattock(根掘りぐわ)、Wheedle(甘言で誘う)、Odyssey(叙事詩)、Corollary(系)、Mercenary(傭兵)、Fibula(腓骨)、Kookaburra(ワライカワセミ)、Darjeeling(インドの都市)、Viand(珍味)、Palimpsest(重ね書き羊皮紙)、Alegar(麦芽酢)、Hypsometer(測高計)、Apocope(語尾音消失)、Repetiteur(声楽コーチ)、Cabotinage(気取り屋)、Logorrhea(語漏=病的多弁)……。

 <頭脳は大人>の少年たちは、難問にぶつかると語源、定義、用例を出題者のキャメロン博士に尋ねる。苦渋の表情で演繹法と論理力をフル回転させ、天啓に打たれるのを待つ。正解を導き出した瞬間、<心は子供>の彼らは解放感と喜びを素直に表現していた。

 <スペリングは紐帯の意味を持つ>とキャメロン博士は強調していた。スペリングとは移民国家にとり、<アイデンティティー=アメリカ人としての意識>を醸成するツールなのだ。スペリングは自らのルーツを確認する機会でもある。ヒスパニック系が増えればスペイン語が辞書に追加されるように、アメリカ語とは<言語の集合住宅>なのだ。

 1日付朝日夕刊1面に興味深い記事を見つけた。入国と滞在に際し、日本語能力が高い外国人を優遇する方策を検討中という。移民受け入れの地ならしであることは間違いない。
 
 日本が移民国家に移行した時、日本版「スペリング・ビー」が開催されるかもしれない。形式は恐らく漢字書き取りになるだろう。本家同様、<日本人になる>ことを切実に願う移民の子供たちが上位を占めるのではないか。


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大混戦の天皇賞~騎士の霊が夢を導く?

2008-05-03 00:22:03 | 競馬
 桃井かおりが紫綬褒章を受章した。「似合わない」が率直な感想だが、映画人は天皇制(ステータス)が好みのようで、左派の新藤兼人監督が文化勲章、ラディカルの大島渚監督が紫綬褒章を下賜されている。<日本的転向>の典型例かもしれない。

 マスコミは皇室に過剰なまで気を使うが、なぜか「春天」はセ-フだ。横やりを入れる皇室支持者もいたはずだが、テレビや新聞から消えることはない。今年の春天は大混戦で軸馬が見つからない。自信度ゼロどころか、マイナス∞の予想を以下に記す。

 ベストは2000㍍、それともステイヤー? 叩き良化型、もしくは鉄砲駆け? 早熟、いや晩成型?……。正体不明のメイショウサムソンは、前々日売り6番人気と意外な低評価だ。昨年暮れの有馬記念、GⅠ3勝のサムソンは1000万下で5、3、5着のレゴラスに先着を許した。<知と理>の正攻法予想の虚しさを教えてくれたサムソンには感謝しているが、今回は見送ることにする。

 プレミアでしのぎを削るマンチェスターUとチェルシーが、欧州CL決勝に駒を進めた。春天もCL同様、レース(試合)で蓄積した心身のスタミナが試される。この10年、秋天もしくは菊花賞出走後、1度しか使ってない馬は複勝圏に来ていない。アサクサキングスとホクトスルタンの4歳組は、ヤワなローテが響くとみた。

 フレンチデピュティ産駒のアドマイヤジュピタは、流れが厳しくなると逃げ切れない。母から晩成ステイヤーの血を引くアドマイヤフジだが、あの馬体(前走538㌔)では燃費が悪そうだ。アイポッパーは前走(阪神大賞典2着)の疲労残りが気になる。3頭まとめて切ることにした。

 1週前追い切りでドリームパスポートと併せたトウショウナイトは、故障発症で安楽死処分となった。パスポートはナイト(騎士)の分まで、夢のゴールへ疾走するだろう。アドマイヤモナークは過去2年の春天で14、9着だった。GⅠではパンチ不足かもしれないが、前年9着から優勝したイングランディーレの例もある。叩き上げの意地を鞍上(安藤勝)ともども見せてほしい。

 結論。◎⑦ドリームパスポート、○③アドマイヤモナーク、▲はGⅠで安定した成績を残す⑩ポップロック、△は距離適性抜群の⑪トウカイトリック(昨年3着)。馬券は⑦③⑩⑪の4頭BOXで、馬連6点、3連複4点。3連単は⑦を軸に、馬場状態や馬体重を考慮して買い足すことにする。

 どのみち当たらないから、好物のイカ天、イモ天をパクつきながら、リラックスして春天を楽しむことにする。勝っても負けても「相棒」劇場版を見に行くつもりだが、混雑を避けるならGW明けが賢明かもしれない。



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