酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

日本ダービーの思い出

2023-05-28 10:13:32 | 競馬
 コロナ禍以降、海外ロケはなくなったが、再放送を含め「岩合光昭の世界ネコ歩き」(NHK・BSプレミアム)を楽しんでいる。同番組で知ったことのひとつは猫の親和力で、牧場では癒やしをもたらす仕事人として重宝されている。最近ではYoutubeなどでサラブレッドと猫との好相性を示す様子が頻繁にアップされている。

 投稿者は牧場、厩舎、引退馬協会の関係者で、猫が馬の背中でくつろいでいたり、追いかけっこをしたり、体重差が100倍ほどの両者が鼻面を寄せ合ったりと心和む映像が多い。草食系の馬は集団に馴染み、肉食系の猫は孤独を好むといわれる。接点が少ないように思えるが、繊細かつ臆病で、音に敏感という共通点がある。ちなみに、生産界と猫との結びつきは強い。ストームキャット(嵐の猫?)はアメリカの大種牡馬で、その血脈は日本でも多くのG1馬を生んでいる。

 テーマがないので、今回はダービーについて。予想というより思い出を軸に綴りたい。初めてダービーの馬券を買ったのは1982年だった。前日、一緒に野球観戦に行った大学時代の先輩が横でダービーを予想していた。俺が1点で買ったバンブーアトラスとワカテンザンで決まり、枠連が28倍ついた。全くのビギナーズラックで、フリーターだった俺には旱天の慈雨だった。

 2年後にスポーツ紙の校閲を担当するようになってからは、毎年のように買うようになる。93年は肩入れしていたガレオンがウイニングチケット、ビワハヤヒデ、ナリタタイシンの3強に次ぎ4着に入った。その後のダービーで記憶に残るのはPOG指名馬が出走したレースばかりで、勤め人時代のサニーブライアンは皐月賞、ダービーを人気薄で制し、馬券的にも実入りは大きかった。

 最も印象的なダービーを挙げれば2012年だ。POG指名馬のディープブリランテとフェノーメノが①②着し歓喜に浸ったのも束の間、膠原病と闘いつつ日常に復帰していた妹の急死の報が翌朝届く。義弟は職場で缶詰めになっていて、朝帰りして妹の死に気付いた。前年の東日本大震災、原発事故と併せ50代後半、生き方を変えるきっかけになった。

 勝利を確信していたのは17年の指名馬アドミラブルだった。同馬は9月の新馬戦では喘鳴症で9着に惨敗するが、3月上旬の未勝利戦で復活Vを果たすと、2400㍍のアザレア賞と青葉賞を連勝してダービーに挑む。レース前々日に開催されたPOGのイベントには多くのクラブ法人やメディア関係者、競馬評論家が詰め掛けていたが、<今年はアドミラブルで決まり>の空気が充満していた。結果は1番人気も3着で、同馬には最後のレースになった。3カ月で4戦、しかもそのうち3戦が2400㍍という過酷なスケジュールに心身とも蝕まれていたのだろう。

 同じく指名馬ロジャーバローズは2年後、京都新聞杯2着からダービーに挑み、12番人気ながら角居師に最後のG1をプレゼントした。コロナ禍もあり、POGは翌年で終了したが、予想より愛情を上位に置いてレースに接することが出来て楽しかった。俺にとって、POG最大のヒット、いや、ホームランは牝馬アーモンドアイである。ダービー出走説もあったが、結果は神のみぞ知るだ。

 最後に、5時間後に出走するダービーの予想を。桜花賞馬リバティアイランドのオークス圧勝を考えれば、皐月賞馬のソールオリエンスが最有力だ。同じくキタサンブラック産駒スキルヴィングの取捨がポイントも、青葉賞馬はローテが厳しくアドミラブルでも勝てなかった。皐月賞2~6着のタスティエーラ、ファントムシーフ、メタルスピート、ショウナンバシット、シャザーンは買う気にならない。

 注目しているのは京都新聞杯馬のサトノグランツ、青葉賞2着のハーツコンチェルトだ。上記したバンブーアトラス、ストームキャットの血をそれぞれ受け継ぐトップナイフ、ベラジオオペラを買い目に加える。ともに皐月賞では展開が合わず7、10着に敗れているが、挽回も可能だ。◎⑤ソールオリエンス、○⑱サトノグランツ、▲⑪ハーツコンチェルト、注④トップナイフ、△①ベラジオオペラが結論だ。

 目が覚めたら、妙に⑰ドゥラエレーデが気になってきた。父と母父はともにダービー馬である。⑤を軸に相手①④⑪⑰⑱の3連複でも買おうかな。自信はゼロだが、楽しめればいい。
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還暦男の横恋慕~アーモンドアイに愛は届くか

2018-11-24 19:50:07 | 競馬
 ゴーン問題の余波は収まりそうにない。強欲ぶりを伝える日本メディアと対照的に、欧州メディアは擁護に回り、英フィナンシャルタイムズは「ゴーンはハメられた」といった論調だ。フランスでは「経済事案の容疑者を勾留するのは異常」と日本の司法制度を疑問視する報道もある。

 切り口は様々だが、この件について感じていることを次稿の枕で記すつもりでいる。キーワードは<普遍性と特異性>だ。フランス側の交渉を受け持つ経済相の名にビビッとくる。JRA移籍後、すっかり日本に馴染んだフランス人騎手と同じ名前だ。

 国立新美術館で「生誕110年~東山魁夷展」を鑑賞した。チラシに記された<情感にみちた静謐な風景画>のみインプットして会場入りするや、魁夷の世界が感応し、皮膚の内側に染み込んできた。<風景画≒リアリティー>と考えていたが、東山は風景を心の裡にいったん閉じ込め、濾過した後、キャンバスに向かったように思える。

 <リアルとシュールの境界に聳える蜃気楼>が俺の感想だ。人の姿は一枚のみ、それも窓際に佇む頭だった。描き込んだ人と自身の主観が交錯することを、忌避したのかもしれない。それによって、作意が鑑賞する側に直に伝わってくる。白馬をモチーフにした連作(1972年)について東山は、<白馬は祈りの表現>と語っていたという。

 美術館を出て六本木を歩いていると、ミッドタウン周辺に人だかりが出来ていた。恒例のクリスマスイルミネーションだが、幽玄の極致を堪能した後だけに感興は覚えなかった。東山の崇高さと無縁な俺も、実は一頭の馬に祈りに似た思いを寄せている。

 ジャパンカップの枠順が確定し、1番人気確実のアーモンドアイが1枠①番に入った。鞍上は上記のルメールで、日仏友好の象徴といえるコンビだ。惨敗でもしたら、両国の軋みの始まりなんて声が上がりそうだ。最内枠は追い込み馬に不利だし、ルメールも53㌔への減量は大変だろう。古馬との初対戦、父ロードカナロアの距離の壁と、中穴党にとって消す材料は揃っているが、俺はひたすらアーモンドアイの勝利を願っている。

 理由は簡単、ペーパーオーナーゲーム(POG)の指名馬だからである。POGは競馬を楽しむ最高のツールだが、陥穽もある。ギャンブルに愛情の要素が加わるからだ。幾許かのやりとりがあるから愛は欲とリンクしている。愛が試されるのはゲームの期間(俺のグループはダービー以降もGⅠのみ適用)が終わってからだ。

 アーモンドアイのみならず、POGで人気薄だった昨年の指名馬、ダノンプレミアム、タワーオブロンドン、エタリオウが好結果を残してくれた。〝いいことは続かない〟という人生訓から、今年は方針を変え、有力厩舎が管理する良血馬を多く選んだが、現状はイマイチだ。

 凱旋門賞とBCターフを連勝したエネイブル、さらにウィンクス、アルファセントーリと牝馬が世界の競馬界を席巻している。アーモンドアイがJCを制し、凱旋門賞へ……なんて夢は見ていない。一戦必勝タイプの同馬の海外遠征は難しいと思う。シルクレーシング(馬主)もノーザンファーム(生産者)も繁殖入りまで射程に入れ、冒険はしないはずだ。

 中央登録を抹消され、地方で細々と走っているかつての指名馬のその後も気になる。牝馬には繁殖入りの目もあるが、消息不明になった牡馬の多くは馬肉になっているはずだ。勝ち目は全くない馬の単勝馬券を、愛ゆえ買うこともたびたびだ。

 転落馬の筆頭がティルナローグ(騸、6歳)だ。新馬→500万下を圧勝し、ダービー候補と目される。通過点のはずの京都2歳Sで圧倒的1番人気に推されたが7着惨敗。その後は1勝のみで4年後の今、1200~1400㍍を中心に使われている。人気薄だからオッズもつく。素質馬はなぜ、復調しなかったのか気になっている。

 俺は常々、格差と貧困の是正こそ最重要の課題と記している。だが、世間に先んじて格差社会になったのは競馬界で、今じゃ社台系の独裁だ。情や絆が入り込む余地は少ない冷酷な仕組みで、明らかに普段の俺の言動と矛盾している。言い訳っぽいが、愛を育むPOGに参加している限り、競馬から離れられないだろう。
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白い怪物と女たち~宝塚記念&POG

2015-06-28 12:13:10 | 競馬
 14日は参加したが、24日の「戦争法案に反対する国会包囲行動」はパスした。サボった俺が言うのもおかしな話だが、国会の会期延長が決まったこともあり、メディアの扱いは極めて小さかった。

 最新の世論調査では戦争法案成立反対は80%前後で、内閣支持率は急落している。潮目は変わりつつあるが、拍車を掛けそうなのが、安倍応援団の浅薄さだ.萩生田自民党副幹事長、加藤副官房長官ら安倍首相側近が仕切る勉強会で、言論弾圧を主張する意見が相次いだ。首相の盟友、百田尚樹氏は「沖縄の新聞など潰してしまえ」と発言した。天皇は沖縄地方紙の愛読者だから、世が世なら、百田氏は〝非国民〟の誹りを受けても仕方がない。

 ベイスターズは巨人に連勝して一息ついたが、交流戦で実感したのはセ・パの野球の違いである。俺が思い出したのは1983年夏の甲子園決勝で、圧勝した池田をパ、小技が通じず惨敗した広島商をセに重ねている。今月6日、横浜スタジアムで西武戦を観戦した。ソロ5本で1対5と粉砕されたが、パワフルな西武の投打に清々しさを覚えた。

 3時間後に迫った宝塚記念の予想を。<GⅠ馬6頭の対決>とメディアは煽っているが、牡馬勢があまりに手薄だ。現役最強を競うはずのキズナとエピファネイアが故障でリタイアし、昨年の皐月賞&有馬記念で②着だったトゥザワールドは休養。フェノーメノは引退し、トーホウジャッカルも菊花賞①着以来のぶっつけだ。

 となれば、ゴールドシップに牝馬が挑む<白い怪物と女たち>の構図になる。春天皇賞でファンを震撼させたゴールドシップは気紛れな天才肌で、鞍上の横山典と個性が近く、大ポカだってあり得る。美女?に囲まれた今回は、集中力を欠いても不思議はない。

 10年前の宝塚記念で、ハーツクライ、ゼンノロブロイ、タップダンスシチー、リンカーンら強力牡馬陣を蹴散らしたのは、11番人気の牝馬スイープトウショウだった。他の牝馬も連下に狙えるが、一押しは◎⑪ヌーヴォレコルトで、○⑮ゴールドシップ、▲⑬ラキシス、注⑥デニムアンドルビーだ。

 俺にとって、今週のメーンは既に終わっている。土曜東京5Rの新馬戦(1800㍍)に、POG指名馬エンジニア(シーザスターズ産駒)が出走した。ちぐはぐなレースぶりだったが、3着は好走といっていいだろう。推定上がり3F33秒8は勝ち馬に次ぐタイムで、素質の片鱗は見せた。距離適性はわからないが、いずれ勝ち上がると思う。

 先日、POGドラフト会議で30頭を指名した。上位10頭は以下の通りである。

リライアブルエース(牡・ディープインパクト/矢作)
ハートレー(牡・ディープインパクト/手塚)
ココファンタジア(牝・ステイゴールド/友道)
キャニオンロード(牡・ネオユニヴァース/古賀慎)
クラシックリディア(牝・ハービンジャー/石坂)
タンタビクトリア(牝・ディープインパクト/国枝)
アイアンマン(牡・ディープインパクト/池江)
キャプテンロブロイ(牡・ゼンノロブロイ/萩原)
クイックモーション(牝・ディープインパクト/木村)
アレイオブサン(牡・ステイゴールド/須貝)

 関東≧関西の縛りがあるので東西15頭ずつ。牡16頭、牝14頭で厩舎にも偏りはない。種牡馬はディープインパクト&ハービンジャー=7、ネオユニヴァース=4、ステイゴールド&ゼンノロブロイ=3、キングカメハメハ&ワークフォース=2、マンハッタンカフェ&シーザスターズ=1。ベタな指名といえる。

 格差社会の最たる例が競馬サークルだ。マイネル軍団の岡田繁幸総帥は「ダービー直前特集」(グリーンチャンネル)で「社台以外にとって、サンデーサイレンスは公害」、「父系、母系にサンデーの血を受け継いでいない馬はGⅠで勝てない」と話していた。氏の言葉はPOG参加者の〝常識〟で、生産牧場まで社台系に絞って選択する人までいる。

 社台系の高馬は名門厩舎に委託され、一流ジョッキーが騎乗する。勝ち組サイクルの中心に君臨していた武豊だが、社台から絶縁状を突き付けられ、ケガも相俟って低迷した。その武豊に手を差し伸べたのが個人馬主たちである。

 昨夜、「競馬予想TV!」500回出演を果たした水上学氏は、<ミルファームは柴田大、嘉藤ら不遇な騎手の腕を認め、チャンスを与えてきた」(要旨)とブログに記してきた。その水上氏が推していたのが②トーセンスターダムで、鞍上は武豊とくれば、義理と人情大好き人間として無視できない。上記4頭から馬連、ワイドで買い足すことにする。

 POGに興じることによって、競馬を見る目が養われ、騎手の能力にも物差しが持てるようになった。弊害といえば<愛情で馬券を買ってしまうこと>。員数合わせで指名した馬でも可愛い。人気薄でも馬券を買ってしまうが、大抵外れる。愛は勝負事に邪魔なのだ。
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人馬が織り成す宿命のドラマ~人生こそ競馬の比喩?

2014-04-17 22:31:58 | 競馬
 米ワシントン・ポストと英ガーディアンがピュリツァー賞を受賞した。エドワード・スノーデン氏(元CIA、NSA局員)の証言を基に、米政府の違法な情報活動を告発したことが評価された。敵が国家であっても、自由と民主主義を阻害するなら決して許さないという姿勢と対照的に、安倍機関と化した日本のメディアは〝大本営発表〟を垂れ流している。

 アーケイド・ファイアがフジロックにブッキングされ、前稿で記した希望的観測が現実になった。コーチェラでの映像を見たが、祝祭的なパフォーマンスを展開していた。前後に単独公演をセットしてほしい。同じくヘッドライナーを務めたミューズには、体調不良や家庭の問題が囁かれているが、煮詰まっているという印象は否めない。億単位のギャラを得ながら反抗を掲げるという矛盾から解放される日は来るだろうか。

 1999年の米三冠レースを追ったドキュメンタリーを見た。「カリズマティック~名ジョッキーの運命と共に走った最強馬」(JSPORTS)である。2歳時は7戦1勝、3歳になっても⑤⑤着のカリズマティックは、クレーミング競走(売却を前提にしたレース)出走を余儀なくされたほど裏街道を歩んでいた。

 クリス・アントレーは18歳で年間最多勝(469勝)を挙げた天才騎手だが、馬主、調教師、ファンからのプレッシャーに耐え切れず、薬物と酒に溺れて転落する。治療を受けてリハビリに励み、シェイプアップしたアントレーに再起のチャンスが訪れた。ケンタッキーダービーでカリズマティックの騎乗を依頼されたのだ。

 米三冠レースはインターバルが短い。12番人気という気楽さもあり、完璧な騎乗でダービーを首差で制するや、2週後のプリークネスSを楽勝し、中2週でベルモントSに向かう。燃え盛る業火に放り込まれたアントレーの様子に不安を覚え、関係者に騎手変更を提案する者もいた。

 才能を突然開花させた馬、地獄から這い上がった騎手……。21年ぶりの三冠馬誕生に期待を寄せた競馬ファンは、想定外の歴史的シーンを目撃する。先行したカリズマティックは直線で力尽き、3着に終わる。異変に気付いたアントレーはすぐさま下馬し、折れ曲がった同馬の脚を抱え、馬運車の到着を待った。応急処置が奏功し、カリズマティックは生き永らえる。

 人馬のその後は、決して平坦ではなかった。カリズマティックは02年に日本に渡ったが、活躍馬はワンダーアキュートだけだ。年内に引退したアントレーは翌年、遺体で発見される。不審な点はあったものの、薬物の過剰摂取が死因と発表された。家族の証言によれば、アントレーは日々壊れていったという。「人生こそ競馬の比喩なんだ」と語った寺山修司は、栄光と悲劇に彩られた人馬のドラマをどのように表現しただろう。

 皐月賞の枠順が確定した。俺が注目するのはフジキセキ産駒のイスラボニータとロサギガンティアだ。競馬サークルを残酷なほどの格差社会に変えたのはサンデーサイレンスである。その初年度産駒がフジキセキだが、種牡馬としての守備範囲は、マイル以下とダートだった。種付けが終了した今、ラストクロップとなる上記2頭が定説を覆せば、血の魔力によるドラマチックなエピローグになる。

 POG指名馬ステファノスに中山2000は厳しいが、雨が降れば馬券に絡む可能性もある。さらに、カリズマティックと同じストームバード系のアジアエクスプレスも買う。理屈より心情を重視し、◎⑬ロサギガンディア、○②イスラボニータ、▲⑧ステファノス、注⑯アジアエクスプレスの4頭をチョイスした。少額投資でレースを楽しむことにする。
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第92回凱旋門賞~ジャンヌ・ダルクに阻まれた日本勢

2013-10-07 22:57:53 | 競馬
 先週末(5日)、柳家小三治を目当てに鈴本演芸場に足を運んだ。演目は「甲府ぃ」だったが、ミスが幾つかあり、絶妙な間も影を潜めていた。12月で74歳……。老いを隠せなくなったのかと心配したが、翌日の「うどん屋」は格段の出来だったと聞き、胸を撫で下ろした。今回の発見は隅田川馬石で、粗忽者の主従がドタバタを繰り広げる「松曳き」に引き込まれる。いずれどこかで再会できるはずだ。

 ゴールドシップが惨敗を喫してから8時間弱、凱旋門賞のゲートが開いた。ドイツ最強馬ノヴェリストの回避で日本勢にチャンスは膨らんだかに思えたが、悲願達成はならなかった。前哨戦終了直後、俺は当ブログで以下のように記した。

 <パリっ娘トレヴが(日本勢に)立ちはだかる。今年の凱旋門賞は日仏対決でヒートアップし、仏メディアはトレヴをジャンヌ・ダルクに譬え愛国心を煽るだろう>……。

 悪い予感は的中する。フランスで愛国心が高揚したか定かではないが、2着オルフェーヴル、4着キズナを抑えて圧勝したのは地元の3歳牝馬トレヴだった。スミヨンと武豊の騎乗を批判する声もあるようだが、その辺りは素人ゆえ何も言えない。レースは2分32秒で終わったが、背景には様々なドラマが織り込まれている。今回は武豊を切り口に記したい。

 オルフェーヴルの池江泰寿調教師、キズナ騎乗の武豊はともに心から勝利を願い、万全の準備を整えたはずだ。06年、池江師の父泰郎氏(元調教師)が管理していたディープインパクトは3位に敗れ、レース後に禁止薬物が検出されて失格になる。騎手はもちろん武豊で、キズナはディープ産駒だ。二重の意味で子が父の汚名をそそぐ絶好の機会だったのだ。

 あれから7年……。社台コネクションから三行半を突き付けられた武は、勝ち鞍が激減する。当事者しか知りえない事情もあるはずだが、武はプライドゆえ、2番手、3番手に甘んじることをよしとしなかった。

 競馬を底で支えるやさぐれオヤジは、概して武が好きではなく、「いい馬に乗ってるだけ」と素っ気なかった。ところが、武と社台が絶縁するや宗旨を変える。判官びいきというけれど、コアな競馬ファンにとって、武は奥州に逃れた義経のような存在になる。

 社台といえばサンデーレーシングが、俺のPOG指名馬で今春、物議を醸した。日経賞で負けたら、11年指名馬フェノーメノから蛯名を降ろす予定だったという。フェノーメノは蛯名騎乗で春天皇賞をも制したが、悪い方に転がったのは12年指名馬コディーノだ。同馬をレースで育ててきた横山典を唐突に降ろし、ダービーでウィリアムズにチェンジする(結果は9着)。息子(和生騎手)の名は藤沢和師から1字とって付けたという噂もあるほど昵懇だった横山典と藤沢和師は、今や絶縁状態にある。

 世間に先行して市場原理主義が浸透したのが競馬界だった。絶対的な力を持つ社台との近さがすべてで、格差は拡大し、温かい職人気質は消えつつある。ビジネス優先で競馬サークルには乾いた砂埃が舞っている。

 本題とは関係ないが、凱旋門賞直前、グリーンチャンネルは今年の正月特番「競馬場の達人~番外編」を再放送した。昨年12月、園田競馬場を訪れた武豊にスポットを当てる内容である。撮影当日、「ゴールデンジョッキーC」で全国のトップ騎手が覇を競ったが、選出されなかった武は展望デッキでレースを検討する。

 予想は的中したがタイムアウトで買えなかったレースがあったものの大幅プラスと、眼力はさすがだった。興味深かったのは、武が調教欄やパドックを一切見ないこと。「見てもわからないし、大して参考にならない」がトップジョッキーの本音のようだ。

 園田訪問から約10日後、キズナはラジオNIKKEI杯で3着に敗れ、弥生賞でも5着とクラシックが視界から遠ざかる。WOWOW製作のドキュメンタリーは、「こんなはずでは」と悄然する武の様子を収めていた。その後に何が起きたかは、皆さんがご存じの通りだ。

 冷徹なビジネスヒエラルヒーの頂上から、昔ながらの絆の世界へ……。生きる場所をシフトできた武は、よほど強い星の下に生まれたのだろう。全盛期のフォームを取り戻したという声も強いが、社台になびかず、義理と人情の側にいてほしい。

 最後に、第2クオーターに差し掛かったNFLについて。QBペイトン・マニングがアートの域に達した攻撃を繰り出すブロンコスが51対48でカウボーイズを破り、5戦全勝と最高のスタートを切った。AFCはこのブロンコス、NFCは情の人キャロルHCが率いるシーホークスと今季の贔屓チームが決まる。観戦にも一層熱が入りそうだ。
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競馬は世相を映す~POGドラフトを終えて

2013-06-18 23:21:49 | 競馬
 競馬が文化だった頃、作家たちの予想や観戦記がメディアを賑わせていた。<競馬に市民権>なんて低いレベルではなく、ギャンブルに付きものの狂おしさや魔性も行間に滲んでいる。代表格は寺山修司だが、前々稿で紹介した古井由吉も「優駿」などに寄稿していた。

 競馬サークルはある時期まで職人社会だった。馬主から騎手変更を求められてもはねつけ、愛弟子を守る調教師も多かった。だが、<社台にあらずんば人にあらず>という現状で、競馬界の構造は大きく変化した。世間よりずっと前に、<勝ち組>と<負け組>の差が鮮明になっていた。

 <1%>のど真ん中にいた武豊に異変が生じる。ケガもあったが、社台との絶縁によって<99%>の側に落ちてきた。WOWOW製作のドキュメンタリーでは、苦悩する武の姿を追っていた。武は言葉を選びつつ、以下のように語っていた。

 <離れていく人が悪いのではない。そういう状況をつくった自分が悪いのであって、取り返していけばいい。一番つらいのは、離れずに見守ってくれる人たちの馬で結果を出せないこと……>

 その馬とはキズナだった。弥生賞で結果を出せず(5着)、「再スタートのためには負け慣れることも必要」と悄然とした面持ちで語っていた武だが、2カ月後に喝采を浴びる。「武で駄目だったら諦める」と語る前田晋三オーナー、「いつも通りの戦法(後方待機)で差し切れなかったら仕方ない」とコメントする佐々木調教師……。武=キズナのダービー制覇を支えたのは、一昔前の義理と人情だった。

 競馬界で侠気といえば、まず思い浮かぶのが藤田伸二騎手だ。最新刊「騎手の一分 競馬界の真実」は、岩田と福永に対する批判が注目されるなど暴露本との評判だったが、競馬界の現状を憂う藤田の思いが込められていた。大金が動くビジネスである以上、関係者は利潤を追求する。そこで生じる歪みの是正を怠るJRAに、藤田は警鐘を鳴らしていた。

 こわもてで知られる藤田だが、安全な騎乗に定評があり、フェアプレー賞を15度も受賞している。本書は引退を決意した上での〝遺言〟で、とりわけ各騎手の技術分析には説得力があった。藤田が<柔らかく先を見据えた騎乗>と絶賛する横山典はダービー直前、コディーノから降ろされた。藤沢和調教師は自身の決断と公言したが、事情通によれば社台サイドの指令という。発刊が1カ月後だったら、藤田は怒りの一文を書き加えたに相違ない。

 角居調教師が来年、2歳馬を預からない旨を発表した。JRAによる馬房制限により、委託馬の管理が限界にきたというのが理由である。角居厩舎は社台の信頼が厚く、勝利の積み重ねで馬房数を増やしてきた。JRAに対する抗議といえるが、経営が立ち行かなくなっている中小の調教師たちは、決定を了承しているはずだ。推定でしか語れないが、現在の日本が抱える格差問題とリンクしている。競馬界は世相を映す鏡なのだ。

 先週末、POGのドラフト会議が開催された。今年は改修のため夏の札幌開催が行われないため、入厩馬、馬名決定馬が例年より少なかった。会議は手詰まりになり、予想以上に時間がかかった。俺の指名上位10頭を以下に記す。

①ステファノス(ディープインパクト/牡・藤原英)
②シュタインベルガー(ディープインパクト/牡・国枝)
③Ice Mintの2011(シーザスターズ/牡・西園)
④トップオブスターズ(シーザスターズ/牡・戸田)
⑤エルノルテ(ディープインパクト/牝・音無)
⑥スウィートレイラニ(ディープインパクト/牝・二ノ宮)
⑦ライザン(ネオユニヴァース/牡・矢作)
⑧テスタメント(ディープインパクト/牡・小島茂)
⑨レッドラヴィータ(スペシャルウィーク/牝・音無)
⑩ディスキーダンス(ステイゴールド/牡・手塚)

 供用3年で死んだチチカステナンゴの1年目は失敗だった。社台は来年以降、ハービンジャーとワークホースで勝負するが、ともに欧州の重厚な血統で、日本の軽い馬場に向かない可能性もある。産駒が振るわなかった時、競馬ファンは「驕る社台は久しからず」と呟くだろう。一方のマイネル軍団(ビッグレッドファーム)はアメリカの2冠馬アイルハヴアナザーで対抗する。岡田繁幸氏の勝算やいかに……。
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キーワードは情と涙~ダービーはエピファネイアで

2013-05-24 13:30:22 | 競馬
 AKB48の総選挙が一大事の如く報じられている。辺見庸は喧騒を狂気の象徴と論じていたが、AKBに好意的な識者も多い。田原総一朗、小林よしのり、森永卓郎といった面々だ。最有力候補とされる大島優子は「ガリレオ~第3章」(先月末放映)にゲスト出演していたが、煌めきという点で吉高由里子(岸谷警部補役)との差を感じた。

 個としてはイマイチでも、チームスピリットが日本人の好みに合っているのだろう。とはいえ、AKBは自由なユニットではないようだ。宝塚やジャニーズ同様、序列が厳しく、恋愛発覚で降格の憂き目を見たメンバーもいる。中高年層にも支持されているAKBは、サラリーマン社会を写す鏡なのかもしれない。

 一大事といえば、別稿(5月2日)で取り上げた憲法の行方だ。その中で紹介した小林節慶大教授が発起人に名を連ね、「96条の会」が結成された。改憲論者の同教授だが、<憲法に縛られるべき権力者が国民を利用し、憲法を取り上げようとしている>と安倍内閣の姿勢に異議を唱えている。主権に関わるテーマであり、今後の国政選挙ではマニフェストの軸に据えられるだろう。

 偉そうに書いたものの、俺にとっての直近の一大事は枠順が確定した日本ダービーだ。80回の節目を迎え、テレビ局も当日まで特番をオンエアする予定だが、「岡田繁幸のRun for the Classics」(グリーンチャンネル)は示唆に富んだ内容だった。

 日本一の相馬眼を誇る岡田氏(マイネル軍団の総帥)がダービー出走馬のレースぶりや体形を分析していたが、「波乱の目はない」が結論だった。印をつければ◎⑧ロゴタイプ、○⑨エピファネイア、▲②コディーノ、注①キズナとなる。展開、馬場と不確定要素はあるが、それでも上位馬の着順が入れ替わる程度と見做している。

 「同世代では世界トップ」とロゴタイプを高く評価する岡田氏は皐月賞直後、馬主の吉田照哉氏(社台代表)に祝福の電話を入れ、「世界に行きましょう」と提案した。吉田氏は「そのつもりです」と答えたという。弱点を挙げるなら騎手だ。天才クリスチャン・デムーロは弱冠20歳。ホースマンの意地、祈り、怨念、嫉妬が渦巻く磁場の歪みに耐え切れず、若さを露呈する可能性はある。

 エピファネイアの気性に不安を抱く岡田氏は、「制御できるのはデットーリやスミヨンといった一握りのジョッキーのみ」と語っていた。福永が番組を見ていたら奮起するだろう。コディーノは後輪駆動、キズナはバネに欠けると現時点の課題を挙げ、ロゴとエピファを逆転するのは難しいとの見解だった。

 藤沢和師が横山典騎手を降ろしたことで、POG指名馬コディーノの応援に身が入らない。「クラシックは通過点」が藤沢和師の方針で、前2走も緩い調教に終始していたが、今回ばかりは「ここで馬が壊れても勝ちたい」と覚悟を決め、先行タイプのウィリアムズに託したのだろう。

 天皇賞のフェノーメノ、ヴィクトリアマイルのヴィルシーナは、シルバーコレクターからGⅠ初戴冠を果たした。メイショウマンボでオークスを制した武幸は、支えてくれるオーナーへの感謝の思いで、心の中で泣いていたはずだ。人目を憚らず涙を流したのは、マイネルホウオウでNHKマイルCを制した柴田大で、同騎手を重用する岡田氏も「感動した」と語っていた。

 POGに参加したことで、競馬界の構図がおぼろげながら見えてきた。社台系の素質馬が有力厩舎に預けられ、外国人らトップジョッキーで大レースに臨む。<1%>が富を吸い取る仕組みは世に先んじ、10年以上も前から確立していた。この間、多くの名門牧場が消え、廃業する厩舎も後を絶たない。<利と効率>の強風が吹き荒れる中、<情と涙>のGⅠは新鮮だった。流れに乗るとしたら、エピファネイアに騎乗する福永ではないか。

 洋一さんと祐一は合わせて何度目のダービー挑戦になるのだろう。父子の夢が実現し、涙のインタビューとなれば、枯れた俺の心だってぐっしょり濡れる。乗り替わったとはいえ、コディーノを切ったら男が廃る。②と⑨2頭軸マルチの3連単でダービーに参加しよう。

 マイネルもしくはコスモの冠馬がダービーを勝てば、府中に「岡田コール」が沸き起こるだろう。5年後、それとも10年後? 岡田氏の精進が報われる日を心待ちにしている。
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ブリランテ&フェノーメノ~愛と意地の日本ダービー

2012-05-25 22:27:30 | 競馬
 河本準一の謝罪会見が、仕事先のフロアに流れていた。経緯からしてメディアのサンドバッグになるのは当然だが、何をやってもお目こぼしされる輩がいる。<原子力村>の住人たちだ。

 内閣原子力委に属する推進派(経産省や電気事業者など)が秘密会議を開き、総合評価を書き換えて小委員会に提出していたことが、毎日新聞のスクープ(24日付朝刊)で明らかになった。続報によれば、同様の会合は昨秋から20回以上に及び、近藤委員長も4回、出席したという。4号機の深刻な現状、放射能汚染が若い世代を蝕む可能性など一顧だにしない<原子力村>は、良心や倫理とは無縁の〝獣の巣窟〟と断じていいだろう。

 毎日の報道を受け、昨日の「報道ステーション」に飯田哲也氏が出演した。<原子力村>の国民愚民視、閉鎖性、上から目線を批判する過程で、残念なことに飯田氏は差別表現を用いてしまった。権力に対峙する側には高いハードルが求められる。それが脱原発なら尚更で、小さなことで足をすくわれかねない。

 明後日の日本ダービーを格別な思いで迎える。POG指名馬のディープブリランテとフェノーメノが出走するからだ。ワールドエースとゴールドシップが前々日売りで単勝2倍台と人気を集める中、ブリランテは離れた3番人気(13・5倍)、フェノーメノは7番人気(23・1倍)とおいしい配当になっている。両馬の馬連⑩⑪は71・5倍で、ワイドでも20倍超だ。

 射幸心と肉親の情で判断が鈍るのは致し方ないが、<ワールドエースとゴールドシップの2強対決>という図式はピンとこない。ワールドエースは爪、ゴールドシップは気負いと懸念材料があり、ともに調教は控え気味だった。

 ブリランテはかかる気性が問題で、フェノーメノには〝青葉賞馬は勝てない〟というジンクスが立ちはだかる。同一馬主(サンデーレーシング)のヤンチャ坊主で、ともに岩田のお手馬だった。先行して差されるブリランテに、「外国人なら上手に御せるのに」……。中山でフェノーメノの能力を引き出せなかった時は、「騎手を代えろ」……。岩田は両馬の騎乗で批判の矢面に立たされた。

 更なる試練が岩田を襲う。NHKマイルCで落馬事故の原因をつくって失格となり、4日間の騎乗停止処分を受けた。〝災いを転じて福となす〟とはこのことで、岩田はこの2週間、ブリランテに付きっきりになる。<愛>を込めて接し、人馬の絆を育んだ。調教の動きは超抜で、気性をなだめる秘策(馬具)も用意したという。

 一方のフェノーメノは、ベストディール回避で空いていた蛯名を鞍上に据える。オークスではレース中の故障もあり、1番人気ミッドサマーフェアで⑬着と惨敗した。先週のというより、過去19回のダービーの雪辱を果たしたいというのが、蛯名の本音だろう、ベテランジョッキーの<意地>を懸けた大一番だ。

 先週の府中の芝は異常な高速馬場だった。オークス直前のフリーウェイSで1分19秒6のレコードで勝利したのは、10年度のPOG指名馬ミトラである。新馬戦の芝で⑫着惨敗後、ダートに戦いの場を移して頭角を現した同馬がスピードで圧倒するなんて、俺は今も信じられない。奇跡を現実にする〝亜空間〟馬場で、ダービーはいかなる結末を迎えるのだろうか。

 週明けからいれ込み気味だったが、ブリランテとフェノーメノがともに掲示板を外しても、さして落胆しない。POGの継続が決まり、心は既に来年のダービーに向かっているからだ。アンドレ・マルローいわく、「希望とは人間にとって最大かつ最後の病」……。〝負け続けた男〟の心に、痛いほど染みる言葉である。

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突然の訃報と皐月賞~岩田&ブリランテを粛々と応援する

2012-04-13 14:41:39 | 競馬
 名人戦第1局は森内俊之名人が羽生善治2冠を下し、幸先いいスタートを切った。NHKの中継で新たなキャラを発見する。知と理を前面に出す他の若手棋士と対照的に、門倉啓太4段は天然ボケで、大盤解説場に詰めかけたファンの笑いを誘っていた。師匠の石田和雄9段から自虐的な語り口を受け継いでいるのだろう。

 北朝鮮のミサイル発射は失敗に終わった。この間の経緯に、各国の打算が透けて見える。露・中・韓は<金王朝崩壊⇒移民流入>を恐れ、アメリカは〝ならず者国家カード〟を保持したい。国際社会は北朝鮮をサンクチュアリにとどめておきたいのだ。

 一連の騒動に、松本清張の「神と野獣の日」(1963年)を思い出す。友好国の誤発射により、核爆弾が1時間以内に東京に到達するというSFだ。我執、怨嗟、煩悩が行間に滲む清張作品らしく、街は野獣と化した男たちに蹂躙される。不発弾と知って安堵したのも束の間、新たな核爆弾が接近する。蛮行に怒った神が下した罰の如く……。

 ミサイル以上に危険なのが原発だ。広瀬隆氏は講演で、<次なる地震が原発事故を誘発したら、日本中で「タイタニック」級の混乱が起きる。幼い順から子供、そして女性と、避難のルールを準備しておくべき>と説いている。野田政権が原発再稼働を推進すれば、「神と野獣の日」が現実になる日が来る。

 訃報に愕然とする。POGのメンバーであるKさんが先月末に召された。ご冥福を心から祈りたい。前回ドラフト会議の稿(11年6月12日)で、<テキヤの大将風のKさんは、包容力、気概、ユーモアが滲み出る全共闘世代>とその魅力的な人物像を紹介した。入院されたことは風の便りに聞いていたが、快復を信じ、再会を心待ちしていた。当ブログの読者でもあったKさんは、拙い言葉に苦笑いを浮かべていたに違いない。

 皐月賞の枠順が確定した。予想も何も、俺はPOG指名馬ディープブリランテを応援するだけである。<俺には贔屓はない>と前稿に記したが、競馬は例外だ。POGに参加してから、指名馬に愛おしさを覚えることさえある。古馬になってからも、出馬表に名を見つければ馬券の軸に据えることが多い。

 ブリランテは周りが手を焼くやんちゃ坊主だ。レース前にいれ込んで汗ぐっしょり、ゲートが開けば引っ掛かってガーッと行きたがる。そんな気性が災いし、共同通信杯とスプリングSでは直線でマークする勝ち馬に差された。指名馬でなければカモとみて切るだろうが、愛がそれを許さない。矢作調教師と厩舎スタッフの努力に賭けることにする。

 3枠⑥番は理想的だ。メイショウカドマツが内から先行し、外からゼロスが絡む。気負わずに3~4番手を進めれば、ブリランテにチャンスが生まれる。⑨ワールドエース、⑭ゴールドシップ、⑱グランデッツァが中団以降で牽制し合うのも勝利の条件だが、敵は他馬ではない。自分との闘いに負けたらジ・エンドで、ダービーなんて覚束ない。路線を変更し、NHKマイルに進むのも一つの手だ。

 ブリランテとコンビを組む岩田は、POGで最も世話になっている騎手だ。プレッシャーには弱いが、断然の1番人気から解放されるのもプラスに働くだろう。願望馬券で⑥ディープブリランテ1・2着付けの3連単を買う。⑨⑭⑱の人気馬と、抽選を突破した⑧サトノギャラントを絡めるつもりだ。

 POGに参加して5年目を迎え、競馬界の景色が少しずつ見えてきた。<この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思えば>と詠んだ藤原道長以上に栄華を極めるのが社台グループだ。権門から〝破門状〟を突き付けられたのが武豊で、良好な関係を築いてきた有力厩舎も、社台を恐れて右に倣えだ。

 勝ち組だった武豊も都落ちした義経さながらだが、今は非社台馬主の義理と人情に支えられている。非社台のディープインパクト産駒で武豊がGⅠを勝つ……。そんなシーンを期待させるのがモハメド殿下所有馬ディサイファで、侠気のある小島太師も武豊支援を公言している。俺の指名馬でもあるディサイファは新馬戦で3着に終わったが、夏に才能を開花させ、菊花賞に駒を進めてほしい。

 二本柳俊夫、戸山為夫、鶴留明雄ら恩情ある調教師が、馬主から騎手を守っていたのは昔の話。社台との距離の近さが死命を制する競馬サークルでは、格差拡大が夥しい。気分は〝アンチ社台〟でも、POGで指名するのは社台系……。これがPOGで勝つための鉄則だ。

 お会いするのはドラフト会議の一日だけだったが、Kさんの競馬への情熱と知識、そして恬淡とした佇まいに感銘を受けてきた。来季以降もPOGに参加し、Kさんの域に少しでも近づきたい。


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<愛と信頼>の競馬~有馬デーは岩田に託す

2011-12-25 10:07:03 | 競馬
 今年ほどジングルベルが虚しく響く年はない。3・11から9カ月半、人々は何を祝い、何に浮かれているのだろう……。なんて、どこからも声が掛からぬ拗ね者が斜に構えている。そんな俺からクリスマスプレゼントを。この時季に相応しい2本の映画を紹介したい。

 1本目はアメリカでクリスマスシーズンの定番になっている「素晴らしき哉、この人生!」(1946年)だ。史上ベストワンに推す声も強いが、左翼と見做されたキャプラは本作以降、レッドパージの一環でハリウッドから締め出される。キリスト教国を自任するアメリカがヒューマニズムや理想と無縁であることを、巨匠の失意の後半生が物語っている。

 2本目は、同性愛者で共産主義者の鬼才パゾリーニによる「奇跡の丘」(64年)だ。聖書から忠実に引用されたキリストの言葉の数々が、透明の鋭い杭になって心に突き刺さる。イエスを革命家として捉えた清々しい群像劇で、拝金主義で信仰が歪められた今こそ、<キリスト教の原点>として観賞されるべき作品だ。

 ちなみに公開当時、「素晴らしき哉、この人生!」は酷評され興行的にも大失敗、一方の「奇跡の丘」はパゾリーニが欲しくもなかったはずのカトリック映画事務局賞を受賞するなど、明暗を分けている。

 五十路も半ばを過ぎたことだし、少しは枯れたいと思っているが、相変わらずゴキブリみたいに触角をピクピクさせながら這いずり回っている。俺にとって上記の2本は、自らを浄めるための濾紙でもある。

 さて、本題。POGに参加して4年、競馬への接し方に、<愛と信頼>というギャンブルにそぐわない要素が加わった。指名馬のレースをグリーンチャンネルで見て、勝てば素直に喜び、負けても納得いく理由を見つけ出す。まるで親バカの<愛>だ。4頭の指名馬が出走するクリスマス、俺にとってのメーンレースは有馬記念ではなく中山7RホープフルSだ。フェノーメノが勝てば一躍、東のクラシック候補に浮上する。

 最も<信頼>している騎手は、指名馬を幾度となく勝利に導いてくれた岩田だ。11年は西のクラシック候補ディープブリランテ、上記フェノーメノなど6勝のうち4勝が岩田とのコンビだった。その岩田にとって、今日は人生で一番長い日になる。初のリーディングが懸かっているからだ。

 勝利数で並ぶのは福永だ。「武豊TV!~新年会スペシャル」(08年)に酩酊状態で出演した岩田は、「中央入り当時、ある若手騎手からいじめや嫌がらせを受けた」と告白する。「ピー」と音が被されていたが、ネット上で〝犯人〟扱いされたのは福永である。それが事実とすれば、中央のエリートと園田の叩き上げの意地がぶつかり合う一日になる。

 これまでお世話になったお礼と、ディープブリランテでのダービー制覇を願って、有馬記念は岩田が騎乗するブエナビスタから馬券を買う。最内でじっくり足をためる岩田の得意技に期待したい。結論は◎①ブエナビスタ、○⑨オルフェーヴル、▲⑫アーネストリー、注⑬レッドデイヴィス、△③ヒルノダムール。ブエナ1頭軸の3連単が中心だが、馬体重やオッズを見て買い足しもあり得る。今年を象徴する数字、③⑪の馬連とワイドも付け加えたい。

 今日は朝からPAT漬けで10レース近く購入しそうだ。渡辺竜王のブログによれば、一日平均25レース買うという。画像記憶力、論理的思考力、直感に秀でた竜王ならたやすいはずだが、回収率は94%と知り安心した。超の付く天才といえども、ギャンブルの神には敵わないということか。


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