競馬とは、無数にあるパラレルワールドの一つに収束するゲームだ。時に馬券を買った人の願いが結果を〝引き寄せる〟こともある。ダービーでPOG指名馬ダノンプレミアムが⑥着に敗れたのは残念だったが、休養して秋の大レース(天皇賞?)に向かってほしい。
前稿で<ワグネリアンの板における福永騎手への罵詈雑言は許せない。応援を込めて買い目に含める>(論旨)と記した。正攻法で押し切った福永の気合を称賛したい。もう一頭の指名馬エタリオウは13番人気で④着と健闘したが、騎手をてこずらせる気性難の克服が課題になる。
新宿武蔵野館で先日、「名もなき野良犬の輪舞」(17年、ピョン・ションヒョン監督)を観賞した。韓国ノワールの傑作で、秀逸なエンターテインメントでもある。いずれレンタルする方が多いはずなので、興趣を削がぬよう感想を述べるにとどめたい。
俺は二つの〝デジャヴ〟を覚えた。一つ目は〝どこかで見たような展開〟で、世界各国で製作されたノワール映画の粋を集めている。本作のW主人公は、刑務所で出会った冷酷な組織の実力者ジェホ(ソル・ギョング)と潜入捜査官ヒョンス(イム・シワン)だ。両者を織り成す糸は溯りつつ明かされる。
南と北の諜報員であっても、警官とヤクザであっても、葛藤を越える絆を獲得出来る……。本作にもそんな韓国映画の〝公式〟が根付いていた。二つ目のデジャヴは〝どこかで見たような顔〟。日韓の俳優は容貌が似ており、楽しい発見の連続だった。
阿部和重著「クエーサーと13番目の柱」(12年)を読了した。伊坂幸太郎との共作「キャプテンサダーボルト」、評論「幼少の帝国――成熟を拒否する日本人」を合わせると8作目になる。俺は当ブログで、島田雅彦の「無限カノン三部作」と「シンセミア」を21世紀の日本文学のツインピークスと位置付けてきた。
研究者ならずとも、作家の本質を知るためには、時系列に沿って読むべきかもしれない。デビュー作「アメリカの夜」(94年)以降の10年間の小説は読んでいない。重厚な長編「シンセミア」でインプットされたイメージとは乖離するが、猛スピードで疾走する本作も阿部ワールドの魅力なのだ。
阿部の作品に共通するのは、登場人物は歪み、壊れている点だ。本作の主人公、タカツキリクオは元写真週刊誌記者で、悔恨を背負って生きている。雇い主のカキオカサトシは若くして巨万の富を築いたIT起業家だが、他者との距離感が不可思議だ。タカツキが属するチームの面々も、正体不明の社会的不適合者揃いだ。
カキオカはキングを自称し、自身に相応しいQ(クイーン)を探しているが、触れようとはしない。天体観測の要領でQの全てを、非合法な手段(盗撮、盗聴器設置など)を用いて知ろうとしている。タカツキの仕事は早い話、パパラッチで、前職と変わらない。
阿部には日本的情念やスピリチュアルへの畏怖が窺われる。冒頭に〝引き寄せ〟と記したが、旧友、そして新たにチームに加わったニナイは〝引き寄せの法則〟を熱く語る。タカツキは一笑に付すが、事態は想定外の方向に進んでいく。
本作の解読に役立ったのが翌年(13年)に発表された短編集「Deluxe Edition」だ。少年たちの二次元から監視する大人の三次元へと視座が移ったり、狩られる大人と狩る若者の主観が交錯したり……。複層的な意識の連なりが描かれていたが、本作では一挙手一投足がネット上で拡散されたチームは、不可視の支配に怯えて壊滅する。
下敷きになっているのは、二つの交通事故死だ。ダイアナ妃、そしてタカツキ自身が贖罪の思いを抱く後輩記者の妻子の死である。カキオカ、タカツキ、そしてニナイにとって、Qは一人に収束する。デビュー間もなく大ブレークしたガールズトリオ「エクストラ・ディメンションズ」で唯一、生身の人間であるミカだ。
早回しで展開する本作で印象に残ったのは、叙情的なムードが濃い場面だ。チーム解散後、タカツキは野球場で歌とダンスを練習するミカを目撃する。落雷で動転したミカを介抱して去っていくが、稲妻はタカツキの心にも刺さる。タカツキの願いの実現ともいえるラストシーンに繋がっていくのだ。
ビヨンセを会話に使うなど、阿部の音楽への関心の高さが窺える。初心を知るためにも、90年代の作品を読みたくなった。
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前稿で<ワグネリアンの板における福永騎手への罵詈雑言は許せない。応援を込めて買い目に含める>(論旨)と記した。正攻法で押し切った福永の気合を称賛したい。もう一頭の指名馬エタリオウは13番人気で④着と健闘したが、騎手をてこずらせる気性難の克服が課題になる。
新宿武蔵野館で先日、「名もなき野良犬の輪舞」(17年、ピョン・ションヒョン監督)を観賞した。韓国ノワールの傑作で、秀逸なエンターテインメントでもある。いずれレンタルする方が多いはずなので、興趣を削がぬよう感想を述べるにとどめたい。
俺は二つの〝デジャヴ〟を覚えた。一つ目は〝どこかで見たような展開〟で、世界各国で製作されたノワール映画の粋を集めている。本作のW主人公は、刑務所で出会った冷酷な組織の実力者ジェホ(ソル・ギョング)と潜入捜査官ヒョンス(イム・シワン)だ。両者を織り成す糸は溯りつつ明かされる。
南と北の諜報員であっても、警官とヤクザであっても、葛藤を越える絆を獲得出来る……。本作にもそんな韓国映画の〝公式〟が根付いていた。二つ目のデジャヴは〝どこかで見たような顔〟。日韓の俳優は容貌が似ており、楽しい発見の連続だった。
阿部和重著「クエーサーと13番目の柱」(12年)を読了した。伊坂幸太郎との共作「キャプテンサダーボルト」、評論「幼少の帝国――成熟を拒否する日本人」を合わせると8作目になる。俺は当ブログで、島田雅彦の「無限カノン三部作」と「シンセミア」を21世紀の日本文学のツインピークスと位置付けてきた。
研究者ならずとも、作家の本質を知るためには、時系列に沿って読むべきかもしれない。デビュー作「アメリカの夜」(94年)以降の10年間の小説は読んでいない。重厚な長編「シンセミア」でインプットされたイメージとは乖離するが、猛スピードで疾走する本作も阿部ワールドの魅力なのだ。
阿部の作品に共通するのは、登場人物は歪み、壊れている点だ。本作の主人公、タカツキリクオは元写真週刊誌記者で、悔恨を背負って生きている。雇い主のカキオカサトシは若くして巨万の富を築いたIT起業家だが、他者との距離感が不可思議だ。タカツキが属するチームの面々も、正体不明の社会的不適合者揃いだ。
カキオカはキングを自称し、自身に相応しいQ(クイーン)を探しているが、触れようとはしない。天体観測の要領でQの全てを、非合法な手段(盗撮、盗聴器設置など)を用いて知ろうとしている。タカツキの仕事は早い話、パパラッチで、前職と変わらない。
阿部には日本的情念やスピリチュアルへの畏怖が窺われる。冒頭に〝引き寄せ〟と記したが、旧友、そして新たにチームに加わったニナイは〝引き寄せの法則〟を熱く語る。タカツキは一笑に付すが、事態は想定外の方向に進んでいく。
本作の解読に役立ったのが翌年(13年)に発表された短編集「Deluxe Edition」だ。少年たちの二次元から監視する大人の三次元へと視座が移ったり、狩られる大人と狩る若者の主観が交錯したり……。複層的な意識の連なりが描かれていたが、本作では一挙手一投足がネット上で拡散されたチームは、不可視の支配に怯えて壊滅する。
下敷きになっているのは、二つの交通事故死だ。ダイアナ妃、そしてタカツキ自身が贖罪の思いを抱く後輩記者の妻子の死である。カキオカ、タカツキ、そしてニナイにとって、Qは一人に収束する。デビュー間もなく大ブレークしたガールズトリオ「エクストラ・ディメンションズ」で唯一、生身の人間であるミカだ。
早回しで展開する本作で印象に残ったのは、叙情的なムードが濃い場面だ。チーム解散後、タカツキは野球場で歌とダンスを練習するミカを目撃する。落雷で動転したミカを介抱して去っていくが、稲妻はタカツキの心にも刺さる。タカツキの願いの実現ともいえるラストシーンに繋がっていくのだ。
ビヨンセを会話に使うなど、阿部の音楽への関心の高さが窺える。初心を知るためにも、90年代の作品を読みたくなった。
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