酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

早涼の候の雑感~パソコン詐欺、フェイクニュース、アメフト、将棋あれこれ

2023-09-16 17:00:07 | 戯れ言
 相変わらず暑いが、朝夕は涼しく感じるようになった。秋の気配が忍び寄っている。今回は雑感をあれこれ記したい。

パソコンでインターネットを閲覧している際、<「トロイの木馬」に感染している>との警告画面が張りついた。表示された番号に電話すると、マイクロソフト社員を名乗る男に繋がり、危機感を煽られる。詐欺かもしれない……、そんな疑念がもたげてきたのはアップルiTunesカードによる支払いを持ち掛けてきた時だ。

 セブンイレブンで顔見知りの店員に経緯を話すと、「詐欺です。うちの店でカードを買った人が話してました」と言う。早速110番し、警官に説明した。帰宅して警察に連絡したことを告げ、電話を切った。ただし、それで終わらない。パソコン修理業者に中身を点検してもらうと、幾つものウイルスに感染していた。「相棒」の青木のような友達がいれば助かるのだが……。

 前稿で<関東大震災直後、「朝鮮人が井戸に毒をまいている」「社会主義者が暴動を起こしている」といったフェイクニュースを流したのは警察だった>(要旨)と記した。SNS社会の現在、潤沢な資金を持つ組織(時に権力)がまき散らす情報の海で、俺はアップアップで抜き手を切っている。フェイクニュースの使い手といえばトランプだ。

 トランプ支持率が上昇している。連邦議会襲撃など4つの案件で起訴されているが、共和党支持者の60%弱が大統領選の最有力候補に挙げている。民主党政権の妨害というのが第一の理由らしいが、民主主義の破壊者が大統領候補なんて異常としか思えない。これがアメリカという国の現実だが、共和党支持者の多くはアメフトシーズン到来を喜んでいるはずだ。

 WOWOWがリーガエスパニョーラの放映権を失ったので、スポーツ観戦の比重はNFLに傾いている。驚かされるのがカレッジの規模の大きさと人気だ。10万人以上を収容するカレッジのスタジアムは全米で10以上あり、そのうちのひとつはブライアント=デニー・スタジアム(アラバマ大のホーム)だ。この春、キャンプを締めくくる紅白戦が行われ、10㌦払った10万人が詰め掛けたという。

 カレッジの試合で頻繁に出てくるのは「トランスファー」だ。選手が活躍の場を求めてチームを移る、即ち転校することを指していて、既に常態化している。選手たちはNFLを目指して出場機会を求めていることの証左で、愛校心とは無縁の世界だ。歪みを感じてしまうが、アメリカでは受け入れられている。

 王座戦第2局は後手の藤井聡太七冠が永瀬拓矢王座を下し、1勝1敗のタイになった。214手の大熱戦だったが、永瀬の粘りが度を越しているように感じたのは、俺の棋力ゆえである。本局は角換わり戦だが、「将棋フォーカス」(NHK・Eテレ)の特集で水匠(最強AI)開発者が<角換わりは先手有利で、後手が勝つのは難しい>と語っていた。〝後手にもチャンスあり〟派にカテゴライズされていた藤井は、後手の本局で角換わりを選び、右玉を採用する。

 秒読みの中、一進一退で進行した。ともにミスで評価値を下げたのは〝人間の証明〟というべきか。藤井の玉が入玉し、永瀬の玉も相手陣に接近する。持将棋になれば駒の点数で藤井の勝ちだが、そこに落とし穴があった。仮に藤井が<入玉宣言法>を選んでいたら、引き分け、負けのケースもあったという。藤井は最終盤で永瀬の玉を鮮やかに詰め切った。

 永瀬の言動から窺えるのは〝絶対的ベビーフェース〟の藤井に対し、意識的に〝ヒール〟を演じていることだ。王座戦開幕前に(藤井に勝つためには)「人間をやめなくては」と発言したのもその一例だ。研究会に誘ったのも永瀬で、藤井少年が名古屋に変える際、弁当を持たせたというエピソードもある。互いへの敬意に支えられた両者は、タイトル戦が終われば盤を挟んで真理を追究するに違いない。
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「東京島」~孤島を彩る女の生理と人間工学

2023-01-25 17:21:05 | 戯れ言
 政治や社会に異議を唱えて拳を上げる……。世界で当たり前の光景が日本で耳目を集めるケースは少ない。護憲、反原発、反戦を掲げる集会で目につくのは中高年だが、この傾向は右派でも同様で、ネット右翼も高齢化も進んでおり、〝嫌中・嫌韓本〟購入者の50%は60代以上という。

 左右問わず若い世代が国家論を忌避する現実を変える術は見つからないが、<闘い>が消えたわけではない。スポーツやアート全般、そして将棋界でも激しい競争が繰り広げられている。生き残りを懸けた<闘い>を描いた小説を読了した。桐野夏生著「東京島」(2008年、新潮文庫)で、桐野作品を紹介するのは7作目だ。

 桐野は「アナタハンの女王事件」にインスパイアされて「東京島」を著した。「アナタハン――」とは1945年から50年にかけ、マリアナ諸島の同島で発生した複数男性の怪死事件で、一人の女性(和子)を奪い合って7~9人の男たちが命を落としたとされる。 「東京島」でトウキョウ島と命名された孤島で〝女王〟に戴冠したのは、夫の隆と漂着したった一人の女性、清子だった。

 桐野は女性の生理、情念、憤怒、悲哀を余すところなく表現する作家で、高齢女性の欲望を生々しく描いてきた。漂着時40代半ばだった清子は、まさに桐野ワールドにうってつけで、従順だった清子が20人以上の日本人の男たち、間をおいて漂着しホンコンと呼ばれる中国人の男たちに囲まれ、女王然と振る舞うようになる。平凡な女性の変貌(≒解放もしくは爆発)は「OUT」や「魂萌え」に描かれていた通りだ。

 清子は〝白豚〟と揶揄されるような体格だ。映画では木村多江が演じたというが、それはともかく、清子がまき散らすフェロモンに若い男が殺到し、夫の隆、2番目の夫カスカベが相次いで不審死する。物語は清子の主観で進行するが時折、男たちのモノローグが挿入され、トウキョウ島の俯瞰図が見えてくる。

 欲望剥き出しの男やカップルになる者たちもいる。桐野の人物造形は巧みで丁寧だ。記憶喪失のふりをしていたユタカが抱えていた葛藤、小説家を目指していたオラガ、多重性人格障害で幼い頃に亡くした姉と会話するマンタなどの記憶と心象風景がシンクロし、相乗効果となっていく。助演男優というべきは疎外されてトウカイムラに隔離されたワタナベだ。トウカイムラとは、臨界事故を起こした東海村がヒントになっている。肉体関係を例外的に拒絶された清子への愛憎が、物語の変容の起点になっていた。

 興味深いのはトウキョウ島の日本人たちと、ホンコン(中国人)たちとの対比だ。日本人は工夫もせず食物や動物を消費するだけで、仲間同士がシブヤ、ジュク、ブクロと名付けたスペースで分散して暮らしている。一方でホンコンたちはリーダー格ヤンの下、サバイバーとして生きている。計算高い清子がホンコンに接近するのは当然の成り行きだったが、そこに日本と縁が深いフィリピン人の女性歌手グループ「GODDESS」が加わった。

 発刊時と現在を比べてみると興味深い。日本人はヤワ、中国人はタフという構図は現在と重なるし、産廃物を廃棄しにきたヤクザにフィリピン人に成りすましたワタナベが救出されるという設定も面白かった。清子は双子を出産し、紆余曲折を経て娘と帰還を果たす。島に残った息子はプリンスとして君臨する。それぞれの名前、チキとチータはGODDESSの十八番であるアバのヒット曲「チキチータ」から命名された。

 上記したように、桐野は女性の生理を描くだけでなく、政治や社会の構造を把握して登場人物を配置する。俺流の誤用だが<人間工学>を理解しており、だから毎作、読む者を納得させるのだ。現在の文学を席巻する女性作家のひとりといえる。
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当分の間

2021-08-24 13:51:35 | 戯れ言
  入院のため、更新出来ません。コロナではありませんが。
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香港、ベイスターズ、将棋etc~硬軟取り混ぜ初秋の雑感

2019-09-06 12:13:32 | 戯れ言
 京急線の快速電車が踏切に進入したトラックと衝突した。ケガをされた方々の一日も早い回復を祈りたい。俺が運転や輸送の仕事に就いていたら、注意力欠如で確実に事故を起こしていた。〝きちんと〟が求められる公務員や教師を生業にしていたら、ストレスを爆発させ不祥事(暴力沙汰や痴漢)でお縄についていただろう。職業選択は間違っていなかった。

 ようやく秋の気配が忍び寄ってきたが、残暑は当分続くという。今回は硬軟取り混ぜ初秋の雑感を記したい。まずは〝硬〟から。

 雨傘運動のリーダーだった黄之鋒氏が台湾を訪れ連携を呼び掛けた。蔡英文総統も一定の理解を示したという。香港と台湾が<反中国>で結集する……、こんな事態を避けたい中国共産党の指令を受けたのか、林鄭月娥行政長官が「逃亡犯条例」の完全撤回を発表した。中国が策謀を巡らせていることは明らかで、第二の天安門事件を防ぐためには国際世論の注視が必要だ。

 EU離脱に向け、英国が混乱している。女王を政治利用するなど横暴な議会運営を非難された〝ミニトランプ〟ジョンソン首相は、野党が提出した「合意なき離脱」阻止法案が可決され、解散に打って出ようとしたものの頓挫する。米国のサンダース議員同様、左翼を自任するコービン労働党党首が首相の座に就く日が来るかもしれない。

 韓国の文在寅大統領が法相に任命した側近の曺氏に、数々の疑惑が浮上する。メディアを含め嫌韓派は盛り上がっているが、身びいきという点で安倍首相も負けていない。身内に便宜を図った森友・加計問題は追及を逃れ、親しいジャーナリストはレイプを免罪される。倫理や道徳はこの国で死語になった。

 続いて〝軟〟へ。NFL、欧州サッカーをメインに様々なスポーツに関心を持っていた時期があったが、今はベイスターズの試合と競馬があればいい。火曜は横浜スタジアムに足を運んだが開始早々、落雷でノーゲームになり、その直後に降り出した篠突く雨で濡れ鼠になる。半世紀近く前、阪神-中日戦(西京極球場)以来、野球では2度目の雨中だった。

 翌日は中華街から山下公園、大さん橋、赤レンガと定番の観光を楽しんだ。中華街で人だかりが出来ていたが、輪の中心に長身の松重豊がいた。松重を発見したのはVシネマ「闘牌伝アカギ」(1995年)の矢木役、21世紀の邦画史に燦然と輝く「EUREKA」(2001年)での刑事役、連続ドラマW「悪党~加害者追跡調査~」での探偵事務所所長役が印象に残っている。個性的なバイプレーヤー、いや主演級の俳優として今後も活躍を続けるだろう。

 昨年度のPOGはロジャーバローズのダービー制覇で帳尻を合わせたが、今年度も骨折、肺炎とアクシデントに見舞われる指名馬が続出している。エース格のダーリントンホールは連対を確信していた札幌2歳Sでよもやの3着。重厚な欧州血統ゆえ、スピード勝負になるクラシックは厳しそうだ。馬場の荒れたホープフルSが晴れ舞台ではないか。

 POGで競馬への知識は深まったが、古馬になっても指名馬から馬券を買ってしまう。もちろん、当たらない。愛はギャンブルに不要なのだ。POGを再開して11年、ジョッキー地図も大きく塗り変わった。真剣にレースに接するPOG参加者の間でルメール以上の支持を得ているのが川田将雅だ。もしダーリントンホールに川田が騎乗していたら連を外さなかったと思う。

 竜王戦挑戦者決定3番勝負は豊島将之名人が木村一基九段を2勝1敗で下し、広瀬章人竜王に挑む。まさに棋界頂上決戦だ。第3局は互角の戦いが続き、AIの判断は78手目の8七角を指した時点で木村優位だった。ところが79手目の7七金で形勢は一変し、豊島が一方的に押し切った。木村は「急ぎ過ぎた」と悔いていたが、将棋というゲームの恐ろしさを実感させられた。

木村にも雪辱を晴らす機会は残されている。豊島との〝炎の十番勝負〟最終章である王位戦で連勝し初タイトル獲得……、そんなドラマを切に願っている。45歳の壁を越えた木村は棋界の常識を覆した。<記憶に残る名棋士>として、既にファンの心に刻まれている。
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脱成長と脱原発は社会を変える道標になり得るか

2019-08-30 02:02:10 | 戯れ言
 福島原発のメルトダウン直後、当ブログで「卒業」(尾崎豊)の歌詞になぞらえ、<自分で窓ガラスを割る気力も体力もないが、石を投げている人たちの言動を紹介したい。今回の事故がこの国の在り方を根本から覆すきっかけになる>と記した。

 あれから8年半、安倍政権は再稼働の方針を撤回していないが、抗い続けている人はいる。第19回「脱成長ミーティング」(ピープルズ・プラン研究所)の報告者、大沼淳一氏もそのひとりだ。今回のテーマは<脱原発と地域づくり>である。

 74歳の大沼氏は登山とスキーが趣味で、今も世界を飛び回っている。〝亜熱帯〟名古屋在住だが、冷房どころか扇風機もなしで暮らしている。報告中も立ったままで、「12時間、話し続けることが出来る」という。細かいデータを諳んじていて、質問に対し機関銃のように言葉が返ってくる。脳がふやけ、心身がクチクラ化した俺とはえらい違いだ。
 
 原子力市民委員会委員、市民放射能測定センター運営委員などを兼任する大沼氏は、放射能汚染関連の膨大なデータをネット上で公開している。脱原発を脱成長への一里塚と捉える大沼氏は、再生可能エネルギーへの転換がスムーズに進んでも、<大量生産→大量消費→大量廃棄>のサイクルの下で快適さを求める限り、現状は変わらないと主張する。

 大沼氏は脱原発、地球温暖化、生物多様性の危機、遺伝子組み換え、パンデミックを同一の視座で捉えていた。背景にある国際金融資本主義が、南北間(国内レベルでは都市と地方)の格差を生む。少子高齢化が進行する日本が成長幻想に耽るのは薬物中毒患者と変わらないと語っていた。

 NHK・BSで海外ニュースを見ていると、<日本はいまだ原発に固執している>との報道を目にする。風力、太陽光発電に移行する多い中、安倍政権と経産省が<原発=ベースロード電源>を崩さないことが齟齬を来している。東芝は米原発事業を巡る巨額損失で躓き、日立は英国、三菱重工はトルコで原発輸出に失敗した。

 チェルノブイリ→福島と続いた事故で安全確保に莫大な費用がかかる。政官が方針を誤っても、経済効率を第一に考える大企業まで道を踏み外すなんて考えられないと大沼氏は強調していた。2005年時点で太陽電池の生産量がベスト5のうち4社と圧倒していた日本企業だが、18年にはベスト10から消えている。対照的に中国を軸にした合弁企業の躍進が目覚ましい。経産省はデータを偽装し、<原発は安い>のまやかしで日本沈没に舵を切っている。

 「新たな利権を生む」と否定的に評してきた孫正義氏率いる「自然エネルギー財団」だが、アジア各国で集積した自然エネルギーを送電網で繋ぐという「アジアグリッド構想」を立ち上げている。中軸は日本、中国、ロシア、韓国だが、日韓両国の対立が同プランの桎梏になる可能性がある。

 流域主義を説く大沼氏は、「里山資本主義」(藻谷浩介、NHK広島取材班著/角川書店)を紹介していた。日本人が共生してきた自然――降水量、温暖な気候、森林面積、排他的経済水域の広さ、豊かな水資源etc――に立脚することで、脱成長、脱原発を軸に新たな社会モデルを形成するべきと提言している。

 自分の中で整理出来ていないのに質問してしまう。<日本政府は農業自給率を下げ、今や水資源を売り渡そうとしている。この流れと原発推進は根底で繋がっているのではないか>……。大沼氏は水道料金を含めた都市と地方の格差、再生可能エネルギーを生産する電力会社の壁になっている送電線問題を挙げる。他の参加者も加わって議論は進行した。

 後半は放射能汚染の問題で、大沼氏はチェルノブイリ周辺の速やかな施策と比較しながら、日本で進行する危機に警鐘を鳴らす。「ヒバクシャ 世界の終わりに」(2001年、鎌仲ひとみ監督)で肥田医師が指摘していたように、核実験による被曝も深甚であることがデータに裏付けられていた。

 今回感じたのは、日本、そして世界の歪みだ。脱原発も切り口のひとつで、<官と民>、<公平と格差>、<自由と抑圧>、<都市と地方>が対立項になって自然と人間の調和を損ねている。〝風にそよぐ葦〟として耐える以外に生き延びる方法はあるのだろうか。
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「ザ・テノール」&「井筒高雄講演会」~新緑の候に心が濡れた

2018-05-22 23:05:25 | 戯れ言
 日大選手の会見、根底にある問題については次稿の枕で記したい。森友。加計問題で自分を殺す官僚たちに一言、「宮川青年を見習え!」……。

 是枝裕和監督の「万引き家族」がカンヌ映画祭でパルムドールを獲得した。最近の是枝に、<社会性の欠落>を感じていた。是枝はかつて「NONFIX」ディレクターとして、弱者切り捨て、公害、官僚機構、差別、憲法にメスを入れ、日本の矛盾を抉っていた。
 
 最近の是枝作品は高い完成度を誇っているが、映画監督デビュー後の鋭さが薄れていた。飼い慣らされているとまで感じていたが、「万引き家族」の後景には貧困や格差が描かれているらしい。是枝とツインピークスと見做していた園子温の復活も願っている。

 先週末はグリーンズジャパン会員発プロジェクトの企画イベントをハシゴした。まずは、高円寺グレインで開催されたソシアルシネマクラブすぎなみ第29回上映会「ザ・テノール 真実の物語」(14年、キム・サンマン監督)から。同会はドキュメンタリー映画が常だが、本作は事実に基づいて製作された日韓合作映画である。

 韓国出身のベー・チェチョル(ユ・ジテ)は<1世紀に一人の才能>と将来を嘱望されるテノール歌手である。「本場でアジア人が主役を張れるはずがない」との偏見と闘ってキャリアを積み上げたが、絶望の淵に落ちる。甲状腺がんが声帯に及び、手術の際、横隔膜を傷つけられた、大門未知子ならなんて想像してしまったが、チェチョルは声を失った。

 チェチョルと友情を育んだプロモーターの沢田(伊勢谷友介)は声帯手術の権威、一色医師(実在の京大教授)に執刀を依頼し、妻ユニ(チェ・イェリョン)も懸命に支える。横隔膜の傷も癒え、チェチョルは第一線に復帰した。絆と夢を問う本作に、故日野原重明聖路加名誉院長は「102年の人生でピークの映画」とコメントしていた。ロック好きながらオペラ興行会社に就職した美咲を生き生きと演じた北乃きいが、キラリ光っていた。

 程良く心が湿った後、「井筒高雄講演会~9条改憲と自衛隊を考える」(グリーンズ杉並主催、阿佐谷地域区民センター)に足を運んだ。俺はグリーンズ杉並の幽霊会員で、普段は貢献していないから、早めに行って開場準備に協力した。講演会には杉並区長選や区議補選の候補者も顔を見せ、大盛況のうちに進行する。

 井筒氏は陸上自衛隊レンジャー隊員だったが、PKO法を機に退職する。大学卒業後、加古川市議を経て、現在はベテランズ・フォー・ピース・ジャパン代表として、自衛隊の仕組み、戦争の実相を伝える講演を全国で行っている。冒頭、ベテランズ・フォー・ピースの一員として国連や沖縄で通訳を担当しているレイチェル・クラークさんが登壇し、メッセージを寄せた。

 参加するに当たって、俺は質疑応答タイムに問いをぶつけるべく準備していた。<9条堅持によって日本は平和だったという〝正論〟は、沖縄が置かれている状況を無視した戯言ではないか>という内容である。ところが、クラークさんと井筒氏は冒頭、俺の疑問をクリアにしてくれた。安保違憲訴訟の原告である井筒氏は、日米安保と日米地位協定の廃止を目指し、<オール沖縄の〝本土叛〟結成が必要>と主張していた。

 井筒氏は軍隊と戦争のリアルを体感しているから、上っ面の言葉に違和感を覚えている。保守も革新も〝お花畑〟の住人と揶揄していた。十数㌻のレジュメを用意し、様々なデータ(貧困率と自衛隊入隊者との関係など)に加え、自身の来し方もユーモアたっぷりに話された。

 9条壊憲以上に問題と指摘したのは自民党案に書かれている<緊急事態条項>と<国民の義務>だ。イスラエルによるパレスチナ人虐殺を例に挙げ、「日本においても(反体制派に向け)あのような事態が起き得る」と警鐘を鳴らす。国民に義務を課す自民党案は、安倍首相が敵視する中国や北朝鮮をモデルにしたかのようで、<国民>という意識が欠落している。

 原発54基が攻撃対象になる、食糧自給率が低いから長期戦に耐えられない、輸出入なしに経済は成立しない……。井筒氏は理路整然と<地震大国の日本は戦争できない>と結論付ける。迸る魂の声に、俺の心は熱く濡れた。

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初春の雑感あれこれ~落語、POG、波乱のA級順位戦etc

2018-03-05 20:52:42 | 戯れ言
 前稿の最後に、アカデミ-作品賞を「スリー・ビルボード」と予想したが、主演女優賞、助演男優賞の2部門にとどまった。作品賞、監督賞に輝いた「シェイプ・オブ・ウォーター」は異種間の愛を描いたファンタジーという。近いうちに観賞するつもりでいる。

 平昌狂騒曲を冷めた目で眺めていたが、日本は今後、スポーツ大国になるだろう。第一の理由は格差と貧困の拡大で、ハングリー精神はスポーツにとって最高の栄養素だ。第二の理由はDNAの融合で、既に陸上などで成果が表れている。話は変わるが、設楽悠太の1億円ゲットには驚いた。

 仕事先の夕刊紙の書評欄で、「男性という孤独な存在」(橘木俊詔著、PHP研究所)が気になった。同書によると江戸時代、非婚率は50%で、〝勝ち組〟以外の男性は独身が当たり前だったという。駄目な夫としっかり者の妻……、落語で頻繁に描かれる貧乏長屋の光景は、現実味は乏しいのかもしれない。これからは。当時の社会や風俗に思いを馳せながら落語に接することにする。

 先月末、WOWOWで柳家喬太郞、TBSチャンネルで春風亭一之輔の独演会を観賞した。両者の共通点は〝毒〟だが、意味合いが異なる。喬太郞は妖しい毒まき散らし、江戸川乱歩の短編をベースにした新作「赤いへや」、艶笑噺「吉田御殿」の2席を演じる。ともにレアかつ危うい噺で、WOWOWのチャレンジ精神に感心した。

 一之輔は「加賀の千代」と「鼠穴」の古典に、弾ける毒をまぶしていた。両者に加え、桃月庵白酒、柳家三三ら実力派もメディアへの露出が増えているが、三遊亭白鳥のテレビ登場は不可能だ。本人は腹を括り、寄席とホールで毒の塊を吐き続けるだろう。

 先週末はPOG指名馬が8頭も出走した。以下、発走順に成績を列挙する。
<3月3日>
小倉3R3歳未勝利(18頭・芝1200㍍)=⑪着ラベールノアール(8番人気)
中山4R3歳500万下(13頭・ダ1800㍍)=③着テトラルキア(2番人気)
阪神11Rチューリップ賞(10頭・芝1600㍍)=④着サラキア(4番人気)
=⑧着カレンシリエージョ(9番人気)
<3月4日>
小倉5R3歳未勝利(16頭・芝1800㍍)=⑤着スズカワークシップ(10番人気)
中山5R3歳未勝利(15頭・芝1600㍍)=③着エルディアマンテ(1番人気)
阪神9Rアルメリア賞(11頭・芝1800㍍)=①着フランツ(3番人気)
中山11R弥生賞(11頭・芝2000㍍)=①着ダノンプレミアム(1番人気)

 世代一の座を不動にしたダノンプレミアムは16位指名だったが、1位指名はフランツである。前年1位のアドミラブルとはオーナー、厩舎、騎手と共通点があり、血統も近いが、決定的な違いがある。調教で凄まじい動きを見せるアドミラブルと対照的に、フランツの動きは並以下だ。展開の利とデムーロの好判断でアルメリア賞を制したが、運も実力のうち。ダービー出走を期待したい。

 A級順位戦最終戦(全5局)が2日、一斉に行われ、6勝4敗で並んだ6人によるプレーオフという空前絶後の展開になる。実は当日、夕方から深夜まで仕事で、劇的なドラマをリアルタイムでチェック出来なかった。その分、プレーオフはネット中継で楽しみたい。

 パラマス方式で順位が下の久保利明王将と豊島将之八段は、挑戦権獲得には5連勝が必要だ。王将戦では1勝3敗と追い詰められた豊島が大熱戦を制し、ラウンド2で佐藤康光九段と相まみえる。抜け番だった2位の羽生善治竜王、1勝のみで連続挑戦出来る1位の稲葉陽八段が有力だが、何が起きるかわからない。

 最も耳目を集めたのは渡辺明棋王と三浦弘行八段の対局だった。繰り返しになるから詳述しないが、16年秋の竜王戦で挑戦者に決まった三浦が失格になった経緯が、将棋界に波紋を広げた。この動きを主導したのが渡辺だったから、因縁の対決だ。気合を前面に攻め続けた三浦が5勝5敗で残留し、敗れた渡辺は4勝6敗で降級する。3年越しのドラマは衝撃の結末を迎えた。

 ハリウッドの脚本家たちが結集してもこんなストーリーは作れない……。NFLや麻雀の対局番組ではこう感じることもしばしばだが、将棋界も先の読めないドラマチックな流れを見せている。
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落語、野球、ジャンヌ・モロー、競馬etc~真夏の雑感横浜編

2017-08-08 21:02:44 | 戯れ言
 週末は1泊2日で横浜を訪ね、落語、野球、観光を楽しんだ。感じたことを記したい。

 横浜といえば先月末、市長選が施行され、下馬評通りの結果に終わった。連合神奈川が現職の林候補(自公推薦)、旧民主系が元衆院議員の長島候補、旧維新系が伊藤候補を支援と、民進党が三分裂の体たらくある。

 長島、伊藤両候補が掲げたのは<カジノか給食か>……。言い換えればギャンブルか福祉で、まっとうなスローガンだが、プチギャンブラーの俺の心に響かない。太宰治は「人間は恋と革命のために生まれて来たのだ」(「斜陽」)と記している。恋と革命こそ、人の心を沸き立たせ、至福と破滅をもたらすギャンブルである……なんて、賭け事と無縁な人には屁理屈でしかない。

 土曜午後は「三遊亭白鳥 春風亭一之輔二人会」(関内ホール)に足を運んだ。仲入りを挟み、白鳥「アジアそば」→一之輔「百川」→一之輔「蝦蟇の油」→「隅田川母娘」の順で高座は進む。一之輔は古典に毒をまぶし、シュールな世界で〝壊れ〟を表現している。

 白鳥の「隅田川花火」を聴くのは3回目だが、最新バージョンには菅官房長官や松居一代も登場し、毒の密度はさらに濃い。片や古典、片や新作とベースは異なるが、両者の共通点は<毒と自嘲>で、深化と進化を続けている。行き止まりまで見届けたい。

 「勝烈庵」で腹ごしらえし、横浜スタジアムに向かう。残念ながら、前夜の快勝とは対照的な消化不良の内容だった。先発の井納は軸がブレているのか、体重移動がスムーズではないのか、制球が定まらない。攻撃陣も決め手を欠き、薮田を立ち直らせてしまった。その辺りが広島との実力差なのだろう。

 ネット中継が中心になったため、昨季からNFLを見る機会が激減した。30年近い観戦歴で得た教訓は<モメンタムとケミストリーの重要さ>だ。論理的に分析するアナリスト系ファンも多いが、NFLの死命を制するのはメンタルの力だ。プロ野球も同様で、一昨年のヤクルト、昨年の日本ハムと広島が当てはまる。今季、勢いを感じるのは西武で、日本一を予感させる。

 翌朝、ホテルでジャンヌ・モローの訃報に接する。名匠たちと映画を革新した大女優の死を悼みたい。俺にとって「死刑台のエレベーター」は〝映画の原風景〟で、アンニニュイなモローに心惹かれた。濡れねずみのフロランス(モロー)が恋人の姿を追い求め、夜の街を彷徨うシーンが記憶に残っている。マイルスの乾いたトランペットがフロランスの心象に寄り添い、叫びたくなるような狂おしさを覚えた。

 チェックアウトして向かった赤レンガ倉庫で、母に頼まれていたものの見つからなかったアクセサリーを発見出来たのは幸いだった。倉庫を出ると、「工作船資料館」の怪しい看板が目に飛び込んでくる。管轄する海上保安庁と工作船とのせめぎ合いに関する資料(船も)が陳列され、録音された音声を聞くことも出来る。

 中学1年の夏(1969年)、高浜(福井)の海水浴場を訪ね、<不審者を見かけたら通報してください>という看板に気付く。友人に意味を聞くと、「北朝鮮から工作船に乗ってやってくるスパイのことや」と教えてくれた。拉致事件との符合に気付いたのはかなり後のこと。日本海側は原発銀座で、公安警察の目が光っていたはずだ。そんな場所で拉致が頻発したことが不思議でならない。

 資料館を出て桜木町行きのバスに乗り、ウインズ横浜に向かう。POG指名馬アーモンドアイのデビュー戦を見届けるためである。1・3倍の圧倒的人気だったが差し届かず2着に終わった。素質の一端は示したし、放牧を経て臨む未勝利戦では勝ち上がれるはずだ。

 POGに興じるようになって10年、愛情で馬券を買うようになった。期間を過ぎても指名馬を追いかけてしまう。今週末は関屋記念(新潟)でメートルダール、エルムS(札幌)でピオネロが、ともに初重賞制覇を狙う。人気しそうで妙味はないが、馬券の軸に据えて応援する。
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「ありがとう、トニ・エルドマン」はキュアーファンへの贈り物?

2017-07-08 07:45:10 | 戯れ言
 記録的な集中豪雨が福岡、大分両県に深甚な被害をもたらした。亡くなった方の冥福を祈る同時に、被災地の一日も早い復興を待ちたい。自然の猛威の前になす術がないが、嘉田由紀子氏(前滋賀県知事)は3年前、仕事先の夕刊紙のインタビューで、<水害は人災(社会現象)の側面もある>と指摘する。

 欧米では「ハザードマップ」を基に水害保険を設定し、不動産取引を行っているが、日本では地価下落に繋がることを懸念する地主層の意を受け、自民党は導入に消極的だった。嘉田氏は人命軽視の防災政策を取る歴代政権を批判していた。

 終活の一環としてCDを整理している。聴かなくなったアルバムはブックオフにまとめて売るつもりだ。「A」から始めて、ようやく「C」に辿り着いたが。キュアーの「ディスインテグレーション」(89年)に、ロバート・スミスの才能を再認識する。

 新宿武蔵野館で「ありがとう、トニ・エルドマン」(16年、マーレン・アデ監督)を見た。ヴィンフリート(ペーター・ジモニシェック)とイネス(サンドラ・ヒュラー)の父娘の物語で、ジャック・ニコルソンが引退を撤回し、ハリウッドでのリメーク版でヴィンフリートを演じるという。

 世界中で喝采を浴びたが、日本人向きではないかもしれない。長尺(160分超)でもあり、途中で退席する人もいた。俺が作品に入り込めたのには理由がある。ヴィンフリートが別キャラのトニ・エルドマンに変身する際の白塗りのメークと黒っぽい服装が、ロバート・スミスを彷彿させたこと。さらにサンドラ・ヒュラーが好みのタイプだったからだ。

 実のヴィンフリートは、リタイアした音楽教師といったところか。イネスはコンサルタンティング会社の幹部候補で、ブカレストに赴任し、石油関連の業務を担当している。高級ホテルで暮らすイネスの元に突如、ヴィンフリートが現れた。

 忙しい娘に邪険にされる父親……。これが予告編を見て予想した展開だったが、本編ではイネスの気遣いを感じた。父を交渉相手に紹介するし、お歴々が集うパーティーにも連れていく。イネスはヴィンフリートの変人ぶりだけでなく、知性をも知り尽くしていたのだろう。「おまえが心配になった」というヴィンフリートの直感は当たっていた。葛藤を抱えたイネスの憂さ晴らしは、滑稽なセックス、クラブ通い、そして薬物だった。

 去ったはずのヴィンフリートが再びイネスの前に登場する。虚のトニ・エルドマンとして……。口から出任せでサービス精神旺盛のトニに、イネスは辟易するが、知人――とりわけ女性たち――はユーモアと謎めいた雰囲気に魅了される。

 森友、加計問題で明らかになったのはエリートたちの不自由さだが、イネスも例外ではない。プレゼンテーションでもっともらしい理屈を並べても、仕事の中身はコストカット、人員整理に過ぎない。父、いやトニと訪ねた油田で、グローバル企業の冷酷な論理を目の当たりにする。鋭く、かつ柔らかく場を繕うトニの姿に、イネスは自身の無力さを悟る。

 ささやかな集いに父娘は闖入し、イネスはトニの伴奏でホイットニー・ヒューストンのヒット曲「グレイテスト・ラブ・オール」を熱唱した。主催するパーティーは想定外の展開でオールヌード限定になり、イネスは率先してスレンダーなボディーを晒す。

 そこにクケリ(幸せを呼ぶとされるブルガリアの精霊)の着ぐるみを纏った男が登場する。正体はもちろんトニで、父娘のわだかまりも消えていく。トニは媒体として、変化、進化、深化をもたらす希有な存在で、イネスにも自身を解き放つチャンスを与えたのだ。

 ラストシーンは祖母の葬儀で。遺品の帽子を被ったイネスのストップモーションで映画は終わる。エンディングテーマは上記した「ディスインテグレーション」のオープニング曲「プレインソング」だった。歌詞に出てくる<世界の端で生きているからこそ笑うことが出来る私>、意訳すれば<境界から俯瞰の目で眺めているから世界を理解出来る私>となるが、まさにトニに他ならない。本作は監督からのキュアーファンへの贈り物のように感じた。

 これから函館に向かう。旅の供は佐藤泰志の遺作「海砂市叙景」だ。小説を辿り、映画を思い出しながら、函館の街を散策したい。
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アドミラブルはモンスター~愛に根差したダービー予想

2017-05-26 13:28:24 | 戯れ言
 藤井聡大四段が竜王戦6組決勝で近藤誠也五段を破った。近藤は若手有望株のひとりで厳しいと予想していたが、19連勝で本戦トーナメント入りを決めた。藤井は三段リーグ(16年4~9月)を13勝5敗で勝ち抜き、プロになった。見方を変えれば、登竜門で五つ負けている。1年間の上昇曲線に驚くしかない。

 23日、今年初めて横浜スタジアムに足を運び、横浜対中日戦を観戦した。筒香が5試合ぶりに復帰して豪快な一発を放ち、9対4で快勝する。翌日は港の見える丘公園でローズガーデンを鑑賞するなど、横浜の街を堪能した。

 試合後、ホテルで見た報道番組は、共謀罪衆院通過、マンチェスター爆破、新宿暴動の容疑者逮捕をパッケージにして伝えていた。<政府-警察-広告代理店>にとって、〝共謀罪は必要〟を刷り込む好機だったといえる。翌朝(24日)には大道寺将司死刑囚の死が、当時の映像を背景に報じられた。辺見庸が〝現在最高の表現者〟と評する大道寺の句は、現実、仮想、記憶、心的風景が交錯する空間で成立し、神的響きに満ちている。十七字に贖罪を刻んだ大道寺は、死によって苦悩から解き放たれたのではないか。

 重いテーマを枕にし、本題はダービー……。「あり得ない」と感じる方も多いだろうし、いい加減さは自覚している。3年前の6月1日、さくらんぼ狩り(山梨)、ダービー(府中競馬場)、川内原発再稼働への抗議(国会前)の三つのイベントに誘われた。筋からいえば国会前だが、最初に声が掛かったさくらんぼ狩りを選ぶ。

 話は逸れるが、ブログの訪問者は乱高下を繰り返しながら漸減している。ツイッターやフェイスブックなど発信の形が多様化する中、〝お客さん〟を維持するのは難しい。ビジュアル的工夫は一切せず、くどくて暗い文章が続くブログだが、最大の欠点は内容が多岐にわたること。アクセス数アップにはテーマを絞り、〝輪〟をつくることが得策なのだ。

 俺は3年前、グリーンズジャパン(緑の党)に入会したが、メーリングリストにブログをアップして〝損失補填〟を図るつもりはない。上記した通り、俺は反原発よりさくらんぼを選んだ。寛容で優しい会員は、俺のブログを読んだら人間性を疑うだろう。ダービーなんて尚更で、リベラルやラディカルは総じてギャンブルに厳しい。太宰治の言葉をひねって、<人生最大の賭けは恋と政治>と話したら、一笑に付された。ちなみに、緑の党と人脈的に繋がっている中村敦夫氏は大の競輪好きである。

 閑話休題。ダービーの展望を。いや、願望を。現POGに参加してから指名馬が7頭、ダービーに出走した。09年=セイウンワンダー(⑬着)、11年=コティリオン(⑭着)、12年=ディープブリランテ&フェノーメノ(①、②着)、13年=コディーノ(⑨着)、15年=タンタアレグリア(⑦着)という結果である。自慢になるが、以前のPOGでは2冠馬サニーブライアンを指名していた。

 この10年で馬券圏内は外さないと確信していたのは、自身の指名馬がワンツーした12年のゴールドシップ(⑤着)だった。そのゴールドシップより強いと確信しているのがPOG指名馬アドミラブルである。ということは、⑤着前後で終わる可能性も十分だけど……。

 POG参加者は、指名馬に感情移入する。俺もアドミラブルの動向に気を配り、心配してきた。1年前、音無調教師の「怪物」の評価にドラフトで1位指名する。近親にフサイチコンコルドがいる血統馬だ。ところがデビュー戦(昨年9月)直前、「無事に回ってくれば」と師はトーンダウンし、結果はブービーの⑨着(4番人気)だった。

 評判馬が凡走するのはよくあるケースで、アドミラブルもそのうちの一頭と諦めた。その後は音信不通で、喉を手術したとの情報が流れた。クラシックには間に合わないと覚悟したが、今年3月に復帰するや、フサイチコンコルドを彷彿させるパフォーマンスで3連勝。音無師の評価も「怪物」と元に戻った。師はオグリキャップ、ナリタブライアンに匹敵する馬と確信している。

 1番人気になると思うが、記者の評価は不思議なほど低い。馬場は一日で一変するし、金曜日の雨で大外⑱番が不利にならない可能性もある。短期間で2400㍍3戦目を不安視する声もあるが、アメリカ3冠レースはケンタッキーダービーの後、中1週→中2週のローテだ。音無師は青葉賞直前、「本番を見据えた軽い調教」と語っていたし、調教後の馬体増も輸送を考えれば好材料だ。

 同じく指名馬のウインブライトは⑰番だ。皐月賞⑧着が精いっぱいとの見方は妥当だが、〝わが子〟は見限れない。単勝の⑰と⑱、馬連とワイドの⑰⑱を買ってレースを楽しむことにする。予想というより、愛に根差した願望だ。3連単に絡めるなら、④スワーヴリチャード、⑥サトノアーサーあたりか。
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