シーズン中はろくに野球を見ないが、魅力あるチーム同士の対戦だったので、日本シリーズは熱心に観戦した。これがカープの敗因とまず頭に浮かんだのは、第5戦のジョンソン先発だ。2勝3敗で広島に帰っても、休養十分のジョンソン、野村で巻き返す可能性はあったはずだ。
「花の里」の元女将、高樹沙耶の逮捕で「相棒」は大揺れだ。新シーズンも視聴率はイマイチだが、理由は二つあると思う。まずは原作がないこと。脚本の質が低下していくと歯止めが利かなくなるのだ。次に、時代に取り残されたこと。政府は憲法を蔑ろにし、利権を貪る権力者は法の網をすり抜ける。そんな状況で杉下右京が<法の下の裁き>を説いても、見る者の心に響かない。ミステリーの分野で最も人気のある伊坂幸太郎は<法を超えた正義>を希求しており、警察を嘲笑の的にしている。
宇都宮連続爆破事件では当初、K容疑者の行動に狂気を覚えたが、SNSにおける投稿が公開されるや、「悪いことが重なったら、俺だって」と我が身に翻って同情してしまう。ところが、元妻や知人、KのDVを認定した裁判所関係者は揃って作り話と証言した。犯人像が短期間でクルクル変わったのだ。
多忙で読書に割く時間が持てなかったので、〝手軽に流せそう〟と積読本からミステリーを手に取った。海外を含め6冠を獲得した「その女アレックス」(ピエール・ルメートル著、橘明美訳/文春文庫)である。映画化の噂もあり、ネタバレは最小限にとどめたい。
〝手軽に流せる〟は勘違いで、〝心に刺さる重厚な〟作品だった。昨年だったか、来日して中村文則と対談したルメートルは、ベストミステリーに与えられる英インターナショナル・ダガー賞(3度)、仏純文学界で最も権威のあるゴングール賞を併せて受賞している。一方の中村は、日本ではドストエフスキーを21世紀に甦らせた純文学の旗手、アメリカではミステリーの新星という位置付けだ。境界を超えクロスオーバーする作家と世界で評価されているのが、両者の共通点といえる。
「その女アレックス」は、「悲しみのイレーヌ」、「傷だらけのカミーユ」に挟まれた「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」の第2作という。ちなみに、イレーヌとはカミーユの亡き妻で、身重の状態で誘拐され、お腹の子とともに惨殺された。本作には喪失感と絶望に苛まれるカミーユの心情がちりばめられている。最前線から退いていたカミーユはグエン部長に、トラウマになっていた誘拐事件の捜査を、班長として担当することを命じられる。
被害者アレックスは非正規の看護師で、契約終了直後だったため、不在を訝る声はどこからも上がらない。社会との繋がりを意識的に断ち、太ったりダイエットしたりと外見を変える〝実験〟を繰り返していることもあり、社会での認知度は極めて低い。彼女をいたぶる誘拐犯の真意が掴めず、切れ者のカミーユをもってしても捜査は難航する。
警察小説の常で、チーム内の絆と確執が丁寧に描かれている。上司グエンは巨体の色事師、吝嗇家のアルマン、金持ちのルイは有能な部下だ。カミーユの苦悩を慮りながら、チームは事件の闇に迫っていく。日本の警察ドラマでもお約束だが、気に入らぬ輩も登場する。若造の予審判事ヴィダールに対する憎悪を、カミーユは隠し切れない。
カミーユは145㌢の小男だ。有名な画家である母が重度のニコチン中毒だったことが低身長の理由と、当人は考えている。亡き母への複雑な思いは「悲しみのイレーヌ」で詳述されているはずだが、本作では母との和解に至る過程が記されている。一方のアレックスは、家族によってもたらされた癒えることのない傷を抱えてきた。
〝死ぬまでにやらねばならぬこと〟を実行するため軛を解いたアレックスの振る舞いは、あたかもシリアルキラーだ。カミーユとアレックスのモノローグがカットバックし、ダークな繭が紡がれる。読む側もまた、心の糸を重ねていくのだ。俺もアレックスに感情移入し、愛に似た思いを寄せていた。<驚愕、逆転、慟哭、感動>の帯は、本作を見事に言い当てている。
カミーユはラストでヴィタールと歩み寄る。「われわれにとって大事なのは、真実ではなく正義ですよ。そうでしょう」と問い掛けるヴィダールに、カミーユは微笑んでうなずいた。「相棒」の杉下が許すことのない結末だが、アレックス、カミーユ、ヴィタール、そして俺自身との〝共犯関係〟に和みを覚えた。
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「花の里」の元女将、高樹沙耶の逮捕で「相棒」は大揺れだ。新シーズンも視聴率はイマイチだが、理由は二つあると思う。まずは原作がないこと。脚本の質が低下していくと歯止めが利かなくなるのだ。次に、時代に取り残されたこと。政府は憲法を蔑ろにし、利権を貪る権力者は法の網をすり抜ける。そんな状況で杉下右京が<法の下の裁き>を説いても、見る者の心に響かない。ミステリーの分野で最も人気のある伊坂幸太郎は<法を超えた正義>を希求しており、警察を嘲笑の的にしている。
宇都宮連続爆破事件では当初、K容疑者の行動に狂気を覚えたが、SNSにおける投稿が公開されるや、「悪いことが重なったら、俺だって」と我が身に翻って同情してしまう。ところが、元妻や知人、KのDVを認定した裁判所関係者は揃って作り話と証言した。犯人像が短期間でクルクル変わったのだ。
多忙で読書に割く時間が持てなかったので、〝手軽に流せそう〟と積読本からミステリーを手に取った。海外を含め6冠を獲得した「その女アレックス」(ピエール・ルメートル著、橘明美訳/文春文庫)である。映画化の噂もあり、ネタバレは最小限にとどめたい。
〝手軽に流せる〟は勘違いで、〝心に刺さる重厚な〟作品だった。昨年だったか、来日して中村文則と対談したルメートルは、ベストミステリーに与えられる英インターナショナル・ダガー賞(3度)、仏純文学界で最も権威のあるゴングール賞を併せて受賞している。一方の中村は、日本ではドストエフスキーを21世紀に甦らせた純文学の旗手、アメリカではミステリーの新星という位置付けだ。境界を超えクロスオーバーする作家と世界で評価されているのが、両者の共通点といえる。
「その女アレックス」は、「悲しみのイレーヌ」、「傷だらけのカミーユ」に挟まれた「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」の第2作という。ちなみに、イレーヌとはカミーユの亡き妻で、身重の状態で誘拐され、お腹の子とともに惨殺された。本作には喪失感と絶望に苛まれるカミーユの心情がちりばめられている。最前線から退いていたカミーユはグエン部長に、トラウマになっていた誘拐事件の捜査を、班長として担当することを命じられる。
被害者アレックスは非正規の看護師で、契約終了直後だったため、不在を訝る声はどこからも上がらない。社会との繋がりを意識的に断ち、太ったりダイエットしたりと外見を変える〝実験〟を繰り返していることもあり、社会での認知度は極めて低い。彼女をいたぶる誘拐犯の真意が掴めず、切れ者のカミーユをもってしても捜査は難航する。
警察小説の常で、チーム内の絆と確執が丁寧に描かれている。上司グエンは巨体の色事師、吝嗇家のアルマン、金持ちのルイは有能な部下だ。カミーユの苦悩を慮りながら、チームは事件の闇に迫っていく。日本の警察ドラマでもお約束だが、気に入らぬ輩も登場する。若造の予審判事ヴィダールに対する憎悪を、カミーユは隠し切れない。
カミーユは145㌢の小男だ。有名な画家である母が重度のニコチン中毒だったことが低身長の理由と、当人は考えている。亡き母への複雑な思いは「悲しみのイレーヌ」で詳述されているはずだが、本作では母との和解に至る過程が記されている。一方のアレックスは、家族によってもたらされた癒えることのない傷を抱えてきた。
〝死ぬまでにやらねばならぬこと〟を実行するため軛を解いたアレックスの振る舞いは、あたかもシリアルキラーだ。カミーユとアレックスのモノローグがカットバックし、ダークな繭が紡がれる。読む側もまた、心の糸を重ねていくのだ。俺もアレックスに感情移入し、愛に似た思いを寄せていた。<驚愕、逆転、慟哭、感動>の帯は、本作を見事に言い当てている。
カミーユはラストでヴィタールと歩み寄る。「われわれにとって大事なのは、真実ではなく正義ですよ。そうでしょう」と問い掛けるヴィダールに、カミーユは微笑んでうなずいた。「相棒」の杉下が許すことのない結末だが、アレックス、カミーユ、ヴィタール、そして俺自身との〝共犯関係〟に和みを覚えた。
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