1995年の阪神淡路大震災、そして2011年の東日本大震災……。この16年の間、俺の感性は大きく変化した。情緒化、和製化が進行し、今では桜,蛍、花火、紅葉と四季の移ろいに親しむようになった。
神戸の甚大な被害を別世界のように眺め、東京で享楽の日々を過ごしていた俺は、明らかに〝人間未満〟だった。老いも悪いことばかりではない。思考に死がインプットされ、少しは優しくなれるのだ。3・11は原発事故も相俟って、心を激しく揺さぶられた。哀しみ、怒り、虚しさが主成分の涙を毎日のように流し、翌年の妹の死は更に俺を繊細にした。
俺はある時期まで、「映画やドラマで泣いたことは一度もない」と広言していた。それほど乾いていたということだが、最近はたちまち涙腺が決壊するようになった。しかも、予告編で泣けるのだから困ったものだ。
GWに入って2本の邦画を見た。公開直後の「テルマエ・ロマエⅡ」(武内英樹監督)と「そこのみにて光輝く」(呉美保監督)で、ネタバレを避けるため、ストーリーの紹介は最小限にとどめたい。
色調は180度異なり、続けて見るとコントラストが浮き彫りになる。前者はルシウス(阿部寛)と真実(上戸彩)の時空を超えたロマンスで、後者は達夫(綾野剛)と千夏(池脇千鶴)が互いの瞳に自らの絶望を重ねる行き止まりの愛だ。無理やり共通点を挙げれば、ラストシーンが海辺であることだ。
「テルマエ――」は今後、映画館でご覧になる方も多いだろう。デートにはうってつけで、DVD化された暁にはレンタル店で人気になること請け合いだ。第1作にも引けを取らず、細部まで趣向が凝らされたエンターテインメントといえる。上戸彩の入浴シーンもウリのひとつだが、裸といえば男性陣だ。阿部だけでなく北村一輝(ケイオニウス役)らの入浴シーンには、女性だけでなくゲイも陶然とするだろう。
日本の温泉地と古代ローマを行き来するのだが、平和主義対軍国主義が対立項になっている。元老院の中に、ハドリアヌス皇帝(市村正親)の穏便な外交政策に反旗を翻す動きがある。「強いローマ」を掲げる者に重なるのは現政権だが、平和に価値を見いだす本作を製作したのは、〝安倍機関〟の優等生であるフジテレビだ。
家族団欒のアイテムというべき「テルマエ――」と対照的に、「そこのみにて光輝く」は内なる闇と対峙する作品で、かつてのATGを彷彿させる。佐藤泰志原作で函館が舞台といえば、兄(竹原ピストル)と妹(谷村美月)を軸に展開する、ラストが悲痛な「海炭市叙景」(10年)だ。本作では兄を思う妹の手紙が冒頭とラストに重なる。
夜のシーンが多いのは主な登場人物の心象風景を反映しているからだろう。石切り場での死亡事故を自らの責任と受け止めている達夫、刑務所帰りの拓児(菅田将暉)、そしてその姉で生活のために体を売る千夏の3人が紡ぐダウナーな青春ドラマだ。
佐藤泰志が自殺したのは1990年である。同窓(函館西高校)の辻仁成とは対照的で、作品も人生も今風とは真逆の<暗くて切ないトーン>だが、「海炭市叙景」に感じたのは、世間の時計の針が佐藤の時代に戻ったことだった。兄妹は出口の見えない貧困に喘いでいたが、「そこのみにて光輝く」の千夏と拓児の姉弟にとって家族は桎梏で、互いの足首を鎖で結わえたような暮らしを強いられている。
佐藤の屈曲、呉監督の女性の視点、演技に心血を注いだ綾野と池脇、闇と光を交錯させたカメラワーク、函館のセピア色の風景が織り成す世界は、俺の心に錨を下ろす。ラストは早朝の海辺で、達夫と千夏は涙を堪えながら微笑を浮かべ、互いを見つめる。シナリオには<二人は、そこのみにて光輝いていた>と記され、暗転してエンドロールに至る。二つの魂が相寄った先、仄かな希望が灯るのを感じた。
中1日で見た両作は、俺にとって恰好のバランスシートになった。ちなみに俺は、函館に魅入られたひとりで、<失踪して函館>という妄想を何度となく楽しんだ。他の佐藤作品の映画化を心待ちにしている。
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神戸の甚大な被害を別世界のように眺め、東京で享楽の日々を過ごしていた俺は、明らかに〝人間未満〟だった。老いも悪いことばかりではない。思考に死がインプットされ、少しは優しくなれるのだ。3・11は原発事故も相俟って、心を激しく揺さぶられた。哀しみ、怒り、虚しさが主成分の涙を毎日のように流し、翌年の妹の死は更に俺を繊細にした。
俺はある時期まで、「映画やドラマで泣いたことは一度もない」と広言していた。それほど乾いていたということだが、最近はたちまち涙腺が決壊するようになった。しかも、予告編で泣けるのだから困ったものだ。
GWに入って2本の邦画を見た。公開直後の「テルマエ・ロマエⅡ」(武内英樹監督)と「そこのみにて光輝く」(呉美保監督)で、ネタバレを避けるため、ストーリーの紹介は最小限にとどめたい。
色調は180度異なり、続けて見るとコントラストが浮き彫りになる。前者はルシウス(阿部寛)と真実(上戸彩)の時空を超えたロマンスで、後者は達夫(綾野剛)と千夏(池脇千鶴)が互いの瞳に自らの絶望を重ねる行き止まりの愛だ。無理やり共通点を挙げれば、ラストシーンが海辺であることだ。
「テルマエ――」は今後、映画館でご覧になる方も多いだろう。デートにはうってつけで、DVD化された暁にはレンタル店で人気になること請け合いだ。第1作にも引けを取らず、細部まで趣向が凝らされたエンターテインメントといえる。上戸彩の入浴シーンもウリのひとつだが、裸といえば男性陣だ。阿部だけでなく北村一輝(ケイオニウス役)らの入浴シーンには、女性だけでなくゲイも陶然とするだろう。
日本の温泉地と古代ローマを行き来するのだが、平和主義対軍国主義が対立項になっている。元老院の中に、ハドリアヌス皇帝(市村正親)の穏便な外交政策に反旗を翻す動きがある。「強いローマ」を掲げる者に重なるのは現政権だが、平和に価値を見いだす本作を製作したのは、〝安倍機関〟の優等生であるフジテレビだ。
家族団欒のアイテムというべき「テルマエ――」と対照的に、「そこのみにて光輝く」は内なる闇と対峙する作品で、かつてのATGを彷彿させる。佐藤泰志原作で函館が舞台といえば、兄(竹原ピストル)と妹(谷村美月)を軸に展開する、ラストが悲痛な「海炭市叙景」(10年)だ。本作では兄を思う妹の手紙が冒頭とラストに重なる。
夜のシーンが多いのは主な登場人物の心象風景を反映しているからだろう。石切り場での死亡事故を自らの責任と受け止めている達夫、刑務所帰りの拓児(菅田将暉)、そしてその姉で生活のために体を売る千夏の3人が紡ぐダウナーな青春ドラマだ。
佐藤泰志が自殺したのは1990年である。同窓(函館西高校)の辻仁成とは対照的で、作品も人生も今風とは真逆の<暗くて切ないトーン>だが、「海炭市叙景」に感じたのは、世間の時計の針が佐藤の時代に戻ったことだった。兄妹は出口の見えない貧困に喘いでいたが、「そこのみにて光輝く」の千夏と拓児の姉弟にとって家族は桎梏で、互いの足首を鎖で結わえたような暮らしを強いられている。
佐藤の屈曲、呉監督の女性の視点、演技に心血を注いだ綾野と池脇、闇と光を交錯させたカメラワーク、函館のセピア色の風景が織り成す世界は、俺の心に錨を下ろす。ラストは早朝の海辺で、達夫と千夏は涙を堪えながら微笑を浮かべ、互いを見つめる。シナリオには<二人は、そこのみにて光輝いていた>と記され、暗転してエンドロールに至る。二つの魂が相寄った先、仄かな希望が灯るのを感じた。
中1日で見た両作は、俺にとって恰好のバランスシートになった。ちなみに俺は、函館に魅入られたひとりで、<失踪して函館>という妄想を何度となく楽しんだ。他の佐藤作品の映画化を心待ちにしている。
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