岡田ジャパンがボスニア・ヘルツェゴビナに3対0で快勝した。W杯3次予選に向けて調整は順調のようだが、FWの得点欠乏症は解消されていない。
欧州サッカーも佳境を迎えつつある。躍動感に満ちたプレミアも捨て難いが、<想像と創造>で抜きん出ているのがリーガ・エスパニョーラだ。メッシら神の子たちのプレーは、スペイン史の闇を映し絵に輝きを増している。
スペインは州ごとに成り立ちが異なり、公用語も5種類だ。バスクは分離独立を志向し、アンダルシアにはイスラムとロマの薫りが漂っている。内戦における<ファシズム―自由>の構図はフランコの死(75年)まで維持され、マドリードとカタロニアの対抗意識は極めて強い。
スペイン内戦を扱った映画を思いつくまま挙げてみる。終結20年後を描いた「日曜日には鼠を殺せ」、共産党の裏切りを抉った「自由の大地」、女性の視点で捉えた「リベルタリアス」、ロルカの死の謎を追った「ロルカ、暗殺の丘」……。意外に少ない気もするが、白眉といえるのは「蝶の舌」(99年、ホセ・ルイス・グエルタ)だ。
喘息の持病を抱えるモンチョは、他の子供より少し遅れて小学校に入学する。担任は高潔で自主性を重んじるグレゴリオ先生だった。好奇心の強いモンチョがぶつける様々な問いに、先生は含蓄ある言葉で答えてくれる。生徒たちは先生に引率され、ガリシアの美しい自然に親しむようになる。作品を包む神秘的なイメージの核になっているのは、タイトルにもなった<蝶の舌>と、愛する牝に蘭の花を贈る<ティロノリンコ>という鳥だ。
織り込まれたエピソードで印象的なのは、モンチョの兄アンドレスの恋だった。ブルー・オーケストラの一員となったアンドレスは、演奏旅行で薄幸の中国人女性と出会う。サックスに託した思いは伝わったが、壁を破ることはできなかった。スペインといえばフラメンコを連想するが、ブルー・オーケストラが奏でる音は、ジャズとマンボが混ざり合っており、ロマの影響は感じなかった。
グレゴリオ先生は退任のあいさつで「狼はきっと羊を仕留めるでしょう」と王党派の勝利を暗示しつつ、自由の尊厳を高らかに謳った。内戦が勃発するや共和派の摘発が始まり、先生も威厳を保ったまま連行されていく。共和派の父を守るため、モンチョも王党派を装わざるをえない。罵声を浴びせた後、モンチョが絶叫した秘密の言葉は、果たして先生の耳に届いたのだろうか。抑制の効いた水彩画の世界は、余韻が去らぬ悲痛なラストで幕を閉じた。
内戦の死者は70万という。その多くが思想を懸けた接近戦や処刑によるものだけに、後世に残した傷も深い。サッカーという罪作りなゲームは、時にガーゼを剥がしてしまう。むき出しになったかさぶたには、いまだ血が滲んでいる。
欧州サッカーも佳境を迎えつつある。躍動感に満ちたプレミアも捨て難いが、<想像と創造>で抜きん出ているのがリーガ・エスパニョーラだ。メッシら神の子たちのプレーは、スペイン史の闇を映し絵に輝きを増している。
スペインは州ごとに成り立ちが異なり、公用語も5種類だ。バスクは分離独立を志向し、アンダルシアにはイスラムとロマの薫りが漂っている。内戦における<ファシズム―自由>の構図はフランコの死(75年)まで維持され、マドリードとカタロニアの対抗意識は極めて強い。
スペイン内戦を扱った映画を思いつくまま挙げてみる。終結20年後を描いた「日曜日には鼠を殺せ」、共産党の裏切りを抉った「自由の大地」、女性の視点で捉えた「リベルタリアス」、ロルカの死の謎を追った「ロルカ、暗殺の丘」……。意外に少ない気もするが、白眉といえるのは「蝶の舌」(99年、ホセ・ルイス・グエルタ)だ。
喘息の持病を抱えるモンチョは、他の子供より少し遅れて小学校に入学する。担任は高潔で自主性を重んじるグレゴリオ先生だった。好奇心の強いモンチョがぶつける様々な問いに、先生は含蓄ある言葉で答えてくれる。生徒たちは先生に引率され、ガリシアの美しい自然に親しむようになる。作品を包む神秘的なイメージの核になっているのは、タイトルにもなった<蝶の舌>と、愛する牝に蘭の花を贈る<ティロノリンコ>という鳥だ。
織り込まれたエピソードで印象的なのは、モンチョの兄アンドレスの恋だった。ブルー・オーケストラの一員となったアンドレスは、演奏旅行で薄幸の中国人女性と出会う。サックスに託した思いは伝わったが、壁を破ることはできなかった。スペインといえばフラメンコを連想するが、ブルー・オーケストラが奏でる音は、ジャズとマンボが混ざり合っており、ロマの影響は感じなかった。
グレゴリオ先生は退任のあいさつで「狼はきっと羊を仕留めるでしょう」と王党派の勝利を暗示しつつ、自由の尊厳を高らかに謳った。内戦が勃発するや共和派の摘発が始まり、先生も威厳を保ったまま連行されていく。共和派の父を守るため、モンチョも王党派を装わざるをえない。罵声を浴びせた後、モンチョが絶叫した秘密の言葉は、果たして先生の耳に届いたのだろうか。抑制の効いた水彩画の世界は、余韻が去らぬ悲痛なラストで幕を閉じた。
内戦の死者は70万という。その多くが思想を懸けた接近戦や処刑によるものだけに、後世に残した傷も深い。サッカーという罪作りなゲームは、時にガーゼを剥がしてしまう。むき出しになったかさぶたには、いまだ血が滲んでいる。