イチロー凱旋試合の合間、3人の死刑囚に刑が執行された。大道寺将司死刑囚の全句集「棺一基」を予約したばかりの俺は、暗い気分になる。一方で死刑賛成派は、「腰抜け」と攻撃してきた小川法相に喝采を送っているはずだ。
消費増税法案が可決される見通しだ。反対の根拠を明確に示せない俺だが、「欧州では遥かに税率が高い」と喧伝する賛成派が詐欺師であることぐらいわかる。17・5%の英国は食料品0%、19・6%のフランスでは同5・5%……。欧州では贅沢品と生活必需品に分別して課税しているからだ。低所得層に〝針の雨〟を降らせる野田内閣の意図が透けて見える。
かつて税率アップには枕詞があった。<北欧型高福祉国家を目指すため>、あるいは<年金・医療制度を再構築するため>……。枕詞はいつしか消え、使途が曖昧になっている。29日付夕刊1面の<東電 公的資本1兆円受け入れ 賠償支援も要請>の見出しにビビッときた。増税分の多くが東電救済と原発継続のために投入されるのではないかと……。
世を無力感と閉塞感が覆っているが、片隅で抵抗するメディアもあった。「朝日ニュースター」である。3・11直後、「ニュースの深層」は広瀬隆、広河隆一両氏を相次いでスタジオに招き、当然のように電事連はスポンサーを降りた。実は3・11直前にも〝事件〟が起きていた。上杉隆氏は鎌仲ひとみ監督(「六ヶ所村ラプソディー」など)を「ニュースの深層」に呼ぼうとしたが、NGが出た。鳩山邦夫議員の秘書を務めた上杉氏は、当時のつてを頼って凄まじい圧力をはねのけたに違いない。
〝日本のメンゲレ〟山下俊一氏に「がん大賞」を授与した朝日新聞にとって、「ニュースの深層」と「愛川欽也~パックインジャーナル」は鬼っ子的存在になる。「朝日ニュースター」の組織改編は、政官財の怒りを鎮めるためと考えるしかない。4月の番組表を見て、局名は同じでも魂が消えたことに気付く。蜜月は終わり、契約解除の手続きをした。
「デモクラシーNOW!」は動画サイトに移り、継続して視聴できる。この半年、「ウォール街を占拠せよ」を繰り返し特集し、反グローバリズムの理論的支柱であるナオミ・クラインとマイケル・ムーアが頻繁に登場していた。番組を続けて見ていて、俺は自分の無知に気付く。「ウォール街――」は起点ではなく通過点だったのだ。
クラインはムーブメントの端緒を01年のアルゼンチンに遡っていた。4代続いた政権を倒した数百万人のデモに、<水平に繋がる>新たな形が現れる。従来の世界観が崩壊した今、旧来の<指導者―追随者>のタテの関係に変わるヨコの組織論が運動体を貫くようになる。先行したのはイタリアやスペインの闘いで、アドバスターズ紙(カナダ)の呼びかけでウォール街占拠に立ち上がった中心メンバーは、欧州型直接民主主義をイメージしていたという。
ウォール街に先んじたロンドン蜂起に関わった女性ジャーナリストのコメントが印象的だった。日本で〝暴動〟と報道されたロンドン蜂起は理念的に「ウォール街――」と重なり、メディアや警察の対応も同じと指摘した。ブルックリン橋での一斉逮捕直前、ロンドンでの徹底的弾圧の記憶が甦り、事態を察知した彼女は隊列から離れた。
マイケル・ムーアの「シッコ」をご覧になった方は、アメリカの企業メディアが隣国カナダの充実した医療保険制度を「社会主義的」と批判する様子に愕然としたはずだ。「ウォール街――」で3大ネットワーク(ABC、NBC、CBS)、CNN、FOXは共同で情報操作を行う。集会参加者に片っ端からインタビューし、膨大なフィルムから口下手の人の声だけピックアップしてオンエアする。クラインは「マスメディアの使命は社会の知的レベルをどん底に落とすこと」と憤りを隠さなかった。
紀伊國屋でクラインの著作を手に取り、店員がレジを打とうとした刹那、「俺には無理です」と頭を下げてカウンターから引き返したことがある。世界の本質を的確に指摘するクラインの言葉に再び触れ、次の機会には必ず購入し、時間がいくら掛かろうが放棄せず読了しようと誓った。反グローバリズムのバイブル「ブランドなんか、いらない」で世界を瞠目させたクラインは、30代半ばにして(現在41歳)世界最高の知識人のひとりと謳われるようになった。最前線で権力と対峙するチャ-ミングな女性活動家でもある。
マイケル・ムーアは「5000万人が医療保険の外に置かれ、4000万人が読み書きできない絶望の国に、反ウォール街の運動は希望を灯した」と語り、仕掛け人としてバクダッドの民間人虐殺をウィキリークスに告発したブラッドリー・マニングの名を挙げていた。個としての決意と勇気が民主主義に至る道のりである点は、日本でも変わらない。
3・11から1年以上経ち、怒りを失くした日本人は、赤子の手をひねるが如く政府とメディアに屈している。テレビは電力不足を喧伝するが、<全原発を停止しても十分供給は可能>と説く学者やジャーナリストは画面から消えた。前原政調会長は「5月5日までに原発再稼働」との方針を明かした。〝本籍ワシントン〟の前原氏にとり、放射能に脅かされる子供たちなど大した問題ではないのだろう。
消費増税法案が可決される見通しだ。反対の根拠を明確に示せない俺だが、「欧州では遥かに税率が高い」と喧伝する賛成派が詐欺師であることぐらいわかる。17・5%の英国は食料品0%、19・6%のフランスでは同5・5%……。欧州では贅沢品と生活必需品に分別して課税しているからだ。低所得層に〝針の雨〟を降らせる野田内閣の意図が透けて見える。
かつて税率アップには枕詞があった。<北欧型高福祉国家を目指すため>、あるいは<年金・医療制度を再構築するため>……。枕詞はいつしか消え、使途が曖昧になっている。29日付夕刊1面の<東電 公的資本1兆円受け入れ 賠償支援も要請>の見出しにビビッときた。増税分の多くが東電救済と原発継続のために投入されるのではないかと……。
世を無力感と閉塞感が覆っているが、片隅で抵抗するメディアもあった。「朝日ニュースター」である。3・11直後、「ニュースの深層」は広瀬隆、広河隆一両氏を相次いでスタジオに招き、当然のように電事連はスポンサーを降りた。実は3・11直前にも〝事件〟が起きていた。上杉隆氏は鎌仲ひとみ監督(「六ヶ所村ラプソディー」など)を「ニュースの深層」に呼ぼうとしたが、NGが出た。鳩山邦夫議員の秘書を務めた上杉氏は、当時のつてを頼って凄まじい圧力をはねのけたに違いない。
〝日本のメンゲレ〟山下俊一氏に「がん大賞」を授与した朝日新聞にとって、「ニュースの深層」と「愛川欽也~パックインジャーナル」は鬼っ子的存在になる。「朝日ニュースター」の組織改編は、政官財の怒りを鎮めるためと考えるしかない。4月の番組表を見て、局名は同じでも魂が消えたことに気付く。蜜月は終わり、契約解除の手続きをした。
「デモクラシーNOW!」は動画サイトに移り、継続して視聴できる。この半年、「ウォール街を占拠せよ」を繰り返し特集し、反グローバリズムの理論的支柱であるナオミ・クラインとマイケル・ムーアが頻繁に登場していた。番組を続けて見ていて、俺は自分の無知に気付く。「ウォール街――」は起点ではなく通過点だったのだ。
クラインはムーブメントの端緒を01年のアルゼンチンに遡っていた。4代続いた政権を倒した数百万人のデモに、<水平に繋がる>新たな形が現れる。従来の世界観が崩壊した今、旧来の<指導者―追随者>のタテの関係に変わるヨコの組織論が運動体を貫くようになる。先行したのはイタリアやスペインの闘いで、アドバスターズ紙(カナダ)の呼びかけでウォール街占拠に立ち上がった中心メンバーは、欧州型直接民主主義をイメージしていたという。
ウォール街に先んじたロンドン蜂起に関わった女性ジャーナリストのコメントが印象的だった。日本で〝暴動〟と報道されたロンドン蜂起は理念的に「ウォール街――」と重なり、メディアや警察の対応も同じと指摘した。ブルックリン橋での一斉逮捕直前、ロンドンでの徹底的弾圧の記憶が甦り、事態を察知した彼女は隊列から離れた。
マイケル・ムーアの「シッコ」をご覧になった方は、アメリカの企業メディアが隣国カナダの充実した医療保険制度を「社会主義的」と批判する様子に愕然としたはずだ。「ウォール街――」で3大ネットワーク(ABC、NBC、CBS)、CNN、FOXは共同で情報操作を行う。集会参加者に片っ端からインタビューし、膨大なフィルムから口下手の人の声だけピックアップしてオンエアする。クラインは「マスメディアの使命は社会の知的レベルをどん底に落とすこと」と憤りを隠さなかった。
紀伊國屋でクラインの著作を手に取り、店員がレジを打とうとした刹那、「俺には無理です」と頭を下げてカウンターから引き返したことがある。世界の本質を的確に指摘するクラインの言葉に再び触れ、次の機会には必ず購入し、時間がいくら掛かろうが放棄せず読了しようと誓った。反グローバリズムのバイブル「ブランドなんか、いらない」で世界を瞠目させたクラインは、30代半ばにして(現在41歳)世界最高の知識人のひとりと謳われるようになった。最前線で権力と対峙するチャ-ミングな女性活動家でもある。
マイケル・ムーアは「5000万人が医療保険の外に置かれ、4000万人が読み書きできない絶望の国に、反ウォール街の運動は希望を灯した」と語り、仕掛け人としてバクダッドの民間人虐殺をウィキリークスに告発したブラッドリー・マニングの名を挙げていた。個としての決意と勇気が民主主義に至る道のりである点は、日本でも変わらない。
3・11から1年以上経ち、怒りを失くした日本人は、赤子の手をひねるが如く政府とメディアに屈している。テレビは電力不足を喧伝するが、<全原発を停止しても十分供給は可能>と説く学者やジャーナリストは画面から消えた。前原政調会長は「5月5日までに原発再稼働」との方針を明かした。〝本籍ワシントン〟の前原氏にとり、放射能に脅かされる子供たちなど大した問題ではないのだろう。