8月が終わろうとしているが、将棋界では熱い闘いが続いている。竜王戦挑戦者決定戦では広瀬章人八段が山崎隆之八段に連勝し、藤井聡太5冠に挑む。その藤井は王位戦で豊島将之九段を下し、3勝1敗と防衛に王手をかけた。豊島の封じ手8六銀などプロも驚く指し手の連続だったが、藤井の91手目4一銀はまさにAI超えで、4手後に豊島は投了を告げた。敗れた豊島は来週、復冠に向け、永瀬拓矢王座との第1局が待っている。
今夕、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)主催した「プーチンはウクライナ侵略をやめろ! 新宿南口スタンディング」に、「グリーンズカフェ」(21日)での杉原浩司代表の呼び掛けに応えて足を運んだ。35人が参加し、俺はパンフレット配りを担当する。近くのスペースでは在日ウクライナ人と連携したグループが街宣を行っていた。ウクライナへの思いが凝縮された新宿南口だった。
新宿シネマカリテで「C.R.A.Z.Y」(2005年)を見た。「ダラス・バイヤーズ」などで知られるジャン=マルク・ヴァレ監督は昨年急逝し、製作後17年を経て日本で公開される。タイトルからしてアウトローが闊歩する作品かと思ったが、家族の絆を描くエンターテインメントだった。
エイズ治療薬をテーマに据えた「ダラス・バイヤーズ」の主人公ロンはゲイではなかったが、周囲の偏見と闘うことになる。「C.R.A.Z.Y」の主人公ザック(マルク=アンドレ・グロンダン)は、自分の気持ちが男性に向かっていることを隠し切れなくなる。舞台はフランス語圏のカナダだ。
保守的な父ジェルヴェ(ミシェル・コテ)、過保護な母ロリアンヌ(ダニエル・ブルール)、読書家のクリスチャン、不良でザックの天敵といえるレイモン、スポーツマンのアントワーヌ、主人公のザック、年の離れたイヴァンの5人兄弟のボーリュー家の物語だ。四男のザックは1960年12月25日、キリストと同じ日に生まれた。初めて抱き上げたジェルヴェが手を滑らせて床に落ちる。その後を暗示するシーンだった。
ロリアンヌは知人の言葉を真に受け、ザックが他者の痛みを和らげる能力を持っていると信じていたが、実際のところ定かではない。ジェルヴェは自身同様、音楽の才能があると感じたザックを寵愛していたが、やがて厳しく当たるようになる。〝男らしく〟に価値を持つ父は、兄たちからホモ呼ばわりされるザックに違和感を覚えるようになる。
部屋でデヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」を大音量で流すザックは、父や兄にとって〝異星人〟の如く思えた。ザックは「アラジン・セイン」のボウイのメイクを施している。メイクはしていなかったが、俺にも似たような記憶がある。大学1年の頃、部屋にボウイや南米のプロボクサーの写真を貼っていたが、ある時、訪ねてきたサークルの先輩が開口一番、「おまえ、ホモか」……。1970年代後半とはそういう空気だった。
本作の魅力は音楽で、作品の中身とリンクしている。上記した「スペース・オディティ」に加え、「世界の果てに」(シャルル・アズナヴール)、「ホワイト・ラビット」(ジェファーソン・エアプレイン)、「クレイジー・ダイヤモンド」「虚空のスキャット」(ピンク・フロイド)、「10:15サタデー・ナイト」(キュアー)、「永遠の願い」(ジョルジオ・モロダー)ら名曲群がザックの心情を反映していた。
ボーリュー家の両親は敬虔なクリスチャンで、ザックもある時期まで教会に通っていた。コーラス隊が「悪魔を憐れむ歌」(ローリング・ストーンズ)を合唱する幻想のシーンは、家族の伝統と自身の志向とのギャップに苦しむザックの葛藤が生み出したものだ。
本作のテーマ曲は父の愛聴盤「CRAZY」(バッツィ・クライン)だ。アルバムの破損と再発見も物語の軸で、タイトルのアルファベットが5人兄弟の名前の頭文字になっていることが示される。母が巡礼に訪れたいと願っていたイスラエルは、ゲイに寛容な国という。自分探しで訪れた土地で、ザックは母と交信する。
様々な課題を抱える家族に、ジャン=マルク・ヴァレ監督は優しい眼差しを注いでいる。頑固な父だがラストでザックを認め、和解する。温かなカタルシスに、俺は今、亡き父、そしてケアハウスで暮らす母との絆を思い返している。
今夕、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)主催した「プーチンはウクライナ侵略をやめろ! 新宿南口スタンディング」に、「グリーンズカフェ」(21日)での杉原浩司代表の呼び掛けに応えて足を運んだ。35人が参加し、俺はパンフレット配りを担当する。近くのスペースでは在日ウクライナ人と連携したグループが街宣を行っていた。ウクライナへの思いが凝縮された新宿南口だった。
新宿シネマカリテで「C.R.A.Z.Y」(2005年)を見た。「ダラス・バイヤーズ」などで知られるジャン=マルク・ヴァレ監督は昨年急逝し、製作後17年を経て日本で公開される。タイトルからしてアウトローが闊歩する作品かと思ったが、家族の絆を描くエンターテインメントだった。
エイズ治療薬をテーマに据えた「ダラス・バイヤーズ」の主人公ロンはゲイではなかったが、周囲の偏見と闘うことになる。「C.R.A.Z.Y」の主人公ザック(マルク=アンドレ・グロンダン)は、自分の気持ちが男性に向かっていることを隠し切れなくなる。舞台はフランス語圏のカナダだ。
保守的な父ジェルヴェ(ミシェル・コテ)、過保護な母ロリアンヌ(ダニエル・ブルール)、読書家のクリスチャン、不良でザックの天敵といえるレイモン、スポーツマンのアントワーヌ、主人公のザック、年の離れたイヴァンの5人兄弟のボーリュー家の物語だ。四男のザックは1960年12月25日、キリストと同じ日に生まれた。初めて抱き上げたジェルヴェが手を滑らせて床に落ちる。その後を暗示するシーンだった。
ロリアンヌは知人の言葉を真に受け、ザックが他者の痛みを和らげる能力を持っていると信じていたが、実際のところ定かではない。ジェルヴェは自身同様、音楽の才能があると感じたザックを寵愛していたが、やがて厳しく当たるようになる。〝男らしく〟に価値を持つ父は、兄たちからホモ呼ばわりされるザックに違和感を覚えるようになる。
部屋でデヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」を大音量で流すザックは、父や兄にとって〝異星人〟の如く思えた。ザックは「アラジン・セイン」のボウイのメイクを施している。メイクはしていなかったが、俺にも似たような記憶がある。大学1年の頃、部屋にボウイや南米のプロボクサーの写真を貼っていたが、ある時、訪ねてきたサークルの先輩が開口一番、「おまえ、ホモか」……。1970年代後半とはそういう空気だった。
本作の魅力は音楽で、作品の中身とリンクしている。上記した「スペース・オディティ」に加え、「世界の果てに」(シャルル・アズナヴール)、「ホワイト・ラビット」(ジェファーソン・エアプレイン)、「クレイジー・ダイヤモンド」「虚空のスキャット」(ピンク・フロイド)、「10:15サタデー・ナイト」(キュアー)、「永遠の願い」(ジョルジオ・モロダー)ら名曲群がザックの心情を反映していた。
ボーリュー家の両親は敬虔なクリスチャンで、ザックもある時期まで教会に通っていた。コーラス隊が「悪魔を憐れむ歌」(ローリング・ストーンズ)を合唱する幻想のシーンは、家族の伝統と自身の志向とのギャップに苦しむザックの葛藤が生み出したものだ。
本作のテーマ曲は父の愛聴盤「CRAZY」(バッツィ・クライン)だ。アルバムの破損と再発見も物語の軸で、タイトルのアルファベットが5人兄弟の名前の頭文字になっていることが示される。母が巡礼に訪れたいと願っていたイスラエルは、ゲイに寛容な国という。自分探しで訪れた土地で、ザックは母と交信する。
様々な課題を抱える家族に、ジャン=マルク・ヴァレ監督は優しい眼差しを注いでいる。頑固な父だがラストでザックを認め、和解する。温かなカタルシスに、俺は今、亡き父、そしてケアハウスで暮らす母との絆を思い返している。