当ブログで繰り返し記しているが、俺は中国の〝経済的実力〟を過小評価している。上海や深圳は眩いが、影が次第に濃さを増しているからだ。叛乱の歴史を誇る国のこと、貧困と格差拡大に軛を打ち込む革命が胚胎しているに違いない。
翻って日本はどうか。海外ジャーナリストの目に、中国以上のいびつな姿が映っているようだ。新幹線で1時間40分弱の福島と2時間強の仙台の惨状、国境を越えたかのような東京の温さ……。大震災と原発事故は国が既に壊れていたことを教えてくれたが、飼い慣らされた国民は<節電キャンペーン=原発維持>を再度、刷り込まれようとしている。
旧聞に属するが、シドニー・ルメット監督が今月9日に亡くなった。あらためて巨匠の死を悼みたい。俺が名画座巡りを始めた70年代後半、ルメットは既に名声を確立していたが、若者は常に刺激を求めるせいか、周りにファンはいなかった。ルメットは本国アメリカでも地味な存在で、オスカー(作品賞、監督賞)に縁がなかった。
代表作「十二人の怒れる男」以外に、「質屋」、「セルピコ」、「狼たちの午後」、「ネットワーク」など10作以上は見ている。自己主張を抑えたルメットは、素材を大切に高い完成度を追求する職人タイプといえるだろう。
訃報に接し、録画しながら未見だった遺作「その土曜日、7時58分」(07年)を見た。宝石商を営む厳格な父チャールズ、誰からも愛される母ナネット、不動産業界で重役まで上り詰めた長男アンディ、足元が定まらぬ次男ハンク……。ハンソン家を軸に、ルメットの定冠詞であるリアル、骨太、社会性がぎっしり詰まっていた。
神話に通じる父子と兄弟の相克に、金が人を歪めるバルザック的な悲劇が織り込まれている。老境のルメットが時を切り取り再構築するという21世紀的手法を用い、重厚なテーマを浮き彫りにしていく。チャールズが示した凄絶な決意に、巨匠の遺志が窺えた。「君たちは青くて甘い。映画は小手先じゃないんだ」と、後進に伝えたかったのではないか。
最も記憶に残るルメット作品は「旅立ちの時」(88年)である。同時期に読んでいたアメリカ文化関連の本の内容と、主演したリバー・フェニックスの生い立ちが重なったからである。
カウンターカルチャーやXスポーツの担い手、ヒッピー、カルト教団、ドラッグ愛好家、ヘルズエンジェルズ、デッド・チルドレン、フォークナーやマッカラーズの作品に登場する流れ者や革命家……。起源はアメリカ建国以来の〝左翼狩り〟だが、自由を求めて定住しない彼らは<ボヘミアン階級>と総称される。
映画の中のフェニックスの両親はラディカルな活動家だが、実の両親はカルト教団の信者だった。ボヘミアンの愛読書はヘルマン・ヘッセで、「シッタールダ」に出てくる「永遠の河」がフェニックスの芸名の由来である。
俺の屁理屈で見る気が失せた方もいるかもしれないが、「旅立ちの時」は背景抜きにジーンとくる青春&ホームドラマだ。淡々と描いたことこそ、ルメットの真骨頂といえるだろう。
日付が変わったが、今日29日は昼から「終焉に向かう原子力」講演会(明大・アカデミーホール)、夕方から仕事というスケジュールだ。GW前、睡眠不足の日々が続く。
翻って日本はどうか。海外ジャーナリストの目に、中国以上のいびつな姿が映っているようだ。新幹線で1時間40分弱の福島と2時間強の仙台の惨状、国境を越えたかのような東京の温さ……。大震災と原発事故は国が既に壊れていたことを教えてくれたが、飼い慣らされた国民は<節電キャンペーン=原発維持>を再度、刷り込まれようとしている。
旧聞に属するが、シドニー・ルメット監督が今月9日に亡くなった。あらためて巨匠の死を悼みたい。俺が名画座巡りを始めた70年代後半、ルメットは既に名声を確立していたが、若者は常に刺激を求めるせいか、周りにファンはいなかった。ルメットは本国アメリカでも地味な存在で、オスカー(作品賞、監督賞)に縁がなかった。
代表作「十二人の怒れる男」以外に、「質屋」、「セルピコ」、「狼たちの午後」、「ネットワーク」など10作以上は見ている。自己主張を抑えたルメットは、素材を大切に高い完成度を追求する職人タイプといえるだろう。
訃報に接し、録画しながら未見だった遺作「その土曜日、7時58分」(07年)を見た。宝石商を営む厳格な父チャールズ、誰からも愛される母ナネット、不動産業界で重役まで上り詰めた長男アンディ、足元が定まらぬ次男ハンク……。ハンソン家を軸に、ルメットの定冠詞であるリアル、骨太、社会性がぎっしり詰まっていた。
神話に通じる父子と兄弟の相克に、金が人を歪めるバルザック的な悲劇が織り込まれている。老境のルメットが時を切り取り再構築するという21世紀的手法を用い、重厚なテーマを浮き彫りにしていく。チャールズが示した凄絶な決意に、巨匠の遺志が窺えた。「君たちは青くて甘い。映画は小手先じゃないんだ」と、後進に伝えたかったのではないか。
最も記憶に残るルメット作品は「旅立ちの時」(88年)である。同時期に読んでいたアメリカ文化関連の本の内容と、主演したリバー・フェニックスの生い立ちが重なったからである。
カウンターカルチャーやXスポーツの担い手、ヒッピー、カルト教団、ドラッグ愛好家、ヘルズエンジェルズ、デッド・チルドレン、フォークナーやマッカラーズの作品に登場する流れ者や革命家……。起源はアメリカ建国以来の〝左翼狩り〟だが、自由を求めて定住しない彼らは<ボヘミアン階級>と総称される。
映画の中のフェニックスの両親はラディカルな活動家だが、実の両親はカルト教団の信者だった。ボヘミアンの愛読書はヘルマン・ヘッセで、「シッタールダ」に出てくる「永遠の河」がフェニックスの芸名の由来である。
俺の屁理屈で見る気が失せた方もいるかもしれないが、「旅立ちの時」は背景抜きにジーンとくる青春&ホームドラマだ。淡々と描いたことこそ、ルメットの真骨頂といえるだろう。
日付が変わったが、今日29日は昼から「終焉に向かう原子力」講演会(明大・アカデミーホール)、夕方から仕事というスケジュールだ。GW前、睡眠不足の日々が続く。