NHK衛星第2で「作者が語る少女漫画」が3回シリーズで放映された。青池保子作の「エロイカより愛をこめて」が最終日で、懐かしさもあり番組を見た。
ある女性に薦められたのがきっかけで、本作の存在を知った。簡単にいうと、NATO情報部のエーベルバッハ少佐と、彼に懸想する泥棒伯爵(男!)を軸に展開する群像コメディーである。読み始めると止まらなかった。
「エロイカ」の魅力は何か。その第一は、ハリウッド大作に引けを取らぬ構想力だ。高村薫作品に匹敵するスケールの大きさを感じる。少佐と伯爵の2人、冷徹なKGB、ピンボケの英諜報部員、無能な部下たちがヨーロッパを駆け巡る。膨らみもつれたストーリーは、見事な手捌きでピンポイントに収束していく。
第二は、軍事専門家や美術史研究者がうなるほどの説得力。地理、政治情勢は当然として、各組織の現状、文化、食べ物に至るまで緻密な調査と考証に基づき描かれている。
第三はキャラ設定の確かだ。練り上げられた個性がストーリーの中で光を放つことにおいて、WWEを遥かに上回っている。少佐にしても女嫌いかと思いきや、一目でスリーザイズを言い当てたりする。イモ好きとか奇妙なこだわりとか、堅物に見えてその実、巧まざるユーモアを発散させるキャラクターなのである。
第四は、ギャグだけでなく、ちりばめられた作者の遊び心。青池さんはツェッペリンのファンなのか、伯爵はロバート・プラント、その手下である守銭奴ジェームズ君はジミー・ペイジのイメージそのものだ。「第七の封印」や「皇帝円舞曲」をタイトルに用いたり、「第三の男」のラストシーンをコマに使ったりと、映画好きが至るところに表れている。
番組で見た青池さんは、もちろんおばさんである。でも、表情やしぐさに少女の面影が残っていた。自由闊達な精神といたずらっ子の好奇心……これこそが「エロイカ」を生んだ原動力だと思った。
俺は決して漫画ファンではない。読んだ作品数は明らかに人並み以下だ。選択肢が少ないゆえ説得力はないが、「エロイカより愛をこめて」は俺にとって文句なしに「NO・1漫画」である。本作以外に記憶に残る漫画を挙げれば、「子連れ狼」「自虐の詩」「光る風」「マカロニほうれん荘」あたりか。
そういや「エロイカ」にはここ数年ご無沙汰している。俺が読んだのは冷戦終結以前の第1シリーズ(19巻)まで。読むたびに新しい発見がある。第2シリーズと併せて読んでみようかな。