酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

岸本聡子×斎藤幸平トークイベント~杉並から地殻変動の予感

2022-12-23 21:44:49 | 社会、政治
 「パンとサーカス」(島田雅彦著)が面白い。550㌻超の長編で半分ほど読み終えたが、<対米従属の日本を変えるにはテロしかない>という流れで進んでいる。日本では民衆が権力を奪った例は皆無ゆえ「パンとサーカス」には説得力はあるが、他の方法もあるのではないかと考えてしまう。

 地殻変動を起こして表層を変える……。そんな正攻法に期待したくなるイベントに足を運んだ。<気候変動待ったなし! ミュニシパリズムと持続可能な未来>と題された岸本聡子(杉並区長)と斎藤幸平(経済思想家)とのトークイベント(阿佐ヶ谷地域区民センター)である。

 岸本はアムステルダムのNPOに所属し、欧州でミュニシパリズムを掲げる市民運動に関わってきた。〝世界標準の民主主義〟を知る岸本が今年6月、杉並区長選挙で当選したことは大きく報道された。一方の斎藤は当ブログで繰り返し紹介してきた気鋭のマルクス研究者で、大阪市立大から東大に移っている。

 主催者(西荻大作戦&ゼロカーボンシティ杉並の会)が提示したテーマ、①ミュニシパリズム、②脱成長とグリーンニューディール、③恐れぬ自治体、④気候会議に沿いつつ、クロスオーバーして進行する。互いの著書に推薦コメントを送っているように、<コモン>(全ての人にとっての共用財、公共財)をベースに据えるという共通点がある両者のトークは和やかな空気が流れていた。

 ミュニシパリズムとは住民自治、草の根政治改革運動で、2015年のバルセロナが起点になった。両者のトークで、水道再公営化、公共交通機関の充足、行政の透明化と汚職防止、エコロジー、ジェンダー平等、移民や難民の人権保護など、多岐にわたる課題がミュニシパリズムに含まれていることが理解出来た。

 <脱成長コミュニズム>は斎藤が後期マルクスに依拠し、脱成長とコモンをリンクさせた指標だ。②脱成長とグリーンニューディールに進むと、斎藤が苦笑いする場面もあった。俺はこの10年、「脱成長ミーティング」に繰り返し参加してきたから、本質は掴んでいる。脱成長は〝成長を止め、昔に戻る〟と誤解されているが全く異なる。斎藤が冒頭で漏らしていたが、脱成長はミュニシパリズムと重なる部分が大きい。

 脱成長とはGDPに囚われず、市場原理主義から市民へコモンを奪還することを目指す。手段はミュニシパリズム同様、住民自治だ。斎藤は住居の問題を取り上げ、格差と貧困で社会からはじかれた人々のために公営住宅を拡充することの必要性を説いていた。ワークシェアを含め、共有する精神が求められる。ミュニシパリズムと脱成長の共通の目的は、利益を追求し弱者を切り捨てる新自由主義から行政を奪還することなのだ。

 グリーンニューディールにも様々な捉え方がある。アメリカでバーニー・サンダースやオカシオコルテス下院議員が提唱したグリーンニューディールは環境問題だけでなく、格差と貧困の解消、国民皆保険、福祉と医療の充実、公共事業の必要性を訴えたポスト資本主義に向けた出発点だった。

 ところがEU圈では色合いが異なる。ロシアのウクライナ侵攻で明らかになったエネルギー危機もあり、環境問題を成長戦略に取り入れる議論が進んでいる。斎藤は先進国の二酸化炭素排出量を低減すると喧伝されている電気自動車を例に挙げて、欧州の動きを批判する。電池の材料になるリチウムを採掘するため、途上国は夥しい環境破壊に晒されている。収奪と簒奪で世界を貪り尽くす資本主義を否定しない限り、地球規模での環境破壊は止まらないのだ。

 ③恐れぬ自治体の出現は、岸本の手腕にかかっている。自治体が国の方針に縛られず市民のための行政を推進する道がある。杉並に隣接する世田谷、中野、武蔵野では、自治を求める息吹がふいている。直接民主主義を志向する気候会議、くじ引き民主主義の導入も岸本の視野に入っており、斎藤の協力も要請していた。地殻変動の兆しを予感させるイベントで、岸本サポーターの中で、区議選に立候補する予定の女性もいる。

 斎藤はまさに〝反体制アイドル〟といった感じで、著書へのサインに記念撮影を求める人が途絶えなかった。東大で若い世代に影響を与えることを期待している。高円寺のハードコアパンクの聖地といえるライブハウスに通ったことなどをざっくばらんに語っていた。

 最後に、本題とそぐわない有馬記念の予想を……。成長度を鑑みて③ポルドグフーシュを本命に推したい。馬券的に相性が最悪だった福永の調教師転身は決まっている。最後の有馬での初勝利と、地味ながら味のある宮本博調教師の初G1にも期待したい。相手は⑨イクイノックス、⑩ジャスティンパレスの3歳馬を考えている。
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安倍元首相銃撃と参院選に考える民主主義の意味

2022-07-10 23:40:19 | 社会、政治
 おととい(8日)銃撃された安倍晋三元首相が亡くなったた。別のテーマを用意していたが、参院選の結果と併せ、民主主義について感じたことを記したい。

 内外から安倍氏の足跡を称える声が上がっている。〝死者に礼を尽くす〟が日本の美徳で、暴挙に斃れた安倍氏の冥福を祈りたいが、俺には評価するポイントが思い当たらない。無力な外れ者で、東京砂漠を芥のように舞っている俺には、世間と異なる景色が見えているのだろう。

 初めて安倍氏の危険性を認識したのは20年以上も前に遡る。官房副長官だった同氏がNHK「戦争をどう裁くか~問われる戦時性暴力」(2001年)の内容を改変させた一件だ。朴元淳元ソウル市長は、番組の背景にあった「女性国際戦犯法廷」で韓国側検事として慰安婦問題を裁き、昭和天皇ならびに日本国を「人道に対する罪」で有罪と断じた。安倍氏の介入は、NHKの〝安倍機関化〟の端緒というべき一件といえる。

 安倍氏を支えてきたのは日本会議など保守的なグループで、山上容疑者は統一教会と同氏の密接な関係を銃撃の理由に挙げていた。ただ、思想信条ではなく、家庭崩壊の要因になったという経緯があったという。安倍氏が会長を務めていた「神道政治連盟国会議員懇親会」(262人)の集まりで、性的マイノリティーへの差別的な言葉が書き連ねられた冊子が配布された。憲法改正のみならず、時計の針を逆戻りさせる復古的な動きの中心には、常に安倍氏が鎮座していた。

 脇が甘い安倍氏は、耐震偽装との繋がり、パチンコ業界との癒着が取り沙汰されたこともある。松元ヒロは護憲集会(北とぴあ)で、辺野古埋め立ての事業者は安倍氏に近い企業>と明かしていた。五輪誘致の際の「汚染はアンダーコントロール」は非難の的になったが、首相として臨んだ「水銀に関する水俣条約外交会議」(13年10月、熊本市)の開会式で、「水銀による被害と、その克服を経た我々」という事実と反する問題発言が飛び出した。

 <功>は一切なく、<罪>ばかり書き連ねるのは気が引けるが、安倍政権は汚穢と腐臭にまみれていた。森友、加計、桜、レイプ記者免罪、検察人事介入とコロナ以上の<国家私物化ウイルス>が蔓延する。政官財、司法、メディアでは忖度と同調圧力が空気になった。

 今回の銃撃を<民主主義への脅し>とする論調は正しい。だが、安倍氏がこの間、力を尽くしてきたのは<戦後民主主義への弾圧>だった。そのことは、安倍氏と体質が近い指導者の対応に見てとれ、トランプとプーチンは家族に哀悼の意を示した。本音は〝シンゾーは扱いやすい男だった〟かもしれないが……。

 1年で終わった1期目では、安倍氏は操り人形の如き脆弱さを感じさせた。ところが再登板した時、周りを恐怖で従わせる強さを身に纏っていた。この変身は容易ではないはずで、安倍氏の本質に迫るためには、この辺りの事情を解き明かす必要があるだろう。一方で、〝安倍氏のために力を尽くしたい〟と自然に思えるほど魅力的な人だったと語る身近な人々の証言もある、

 民主主義の現在を測る指標というべき参院選は想定内の結果に終わった。驚きも怒りもなく、諦念と無力感を覚えている。別稿(6月28日)で紹介した「PLAN75」に抱いた感想は、「ニュルンベルク法」に匹敵する悪法が反対運動もなく粛々と施行されたことへの違和感だった。日本人に今必要なのは怒りの感情だと思う。

 ロシアのウクライナ侵攻によって憲法9条の価値は上がっているのに、軍事費増強の声に掻き消され、改憲派が3分の2を占めた。100年前の普選法を引き継ぐ先進国であり得ないえない制限選挙は民主主義から程遠いし、貴族院と化した国会で格差是正を論じるのは困難だろう。安倍氏の死と参院選の結果の先に、民主主義の光は差すだろうか。
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想像力の糸で、ウクライナとフクシマが繋がった

2022-03-15 21:49:26 | 社会、政治
 東日本大震災と原発事故から11年、3月11日に行われた<ロシアのウクライナ侵略糾弾!即時撤退!を求める新宿大アクション>(新宿中央公園、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)に参加した。会場で知った顔を探していると、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原浩司さんに肩を叩かれた。

 1200人が行進したデモのさなか、前日(10日)にNAJATが呼び掛け、ロシア大使館前で行われたダイ・インについて杉原さんに尋ねた。無事に終了したと聞き安堵する。ロシアのウクライナ侵攻の陰でミャンマーについて報道される機会が減ったが、NAJATは同国国軍の資金源を断とうとしない日本政府への抗議活動を続けている。

 プーチンが侵攻を決行した理由はわからないが、考えるヒントを近くの中華料理店で見つけた。若者2人が近くのテーブルで食事をしていた。片方の青年――仮にAとしよう――は、ウクライナ情勢を伝えるテレビを見ながら、連れのBと次のような会話をしていた。

A「みんなプーチンをボロクソ言うけど、そんな資格あるのかな」
B「どういう意味?」
A「プーチンもどき、周りにいっぱいいる」
B「確かに、自分に従わせようとするやつは多い」
A「ロシア軍が反抗すれば変わるのに。でも無理だろう」

 ニコライ2世に背き、兵士が労働者の側についたことがロシア革命の発端だった。ロシア国内でも反戦デモが起きているが、軍が良心に基づいて国民に味方するとは思えない。

 俺は政治の場で語られる紋切り型の言葉に忌避感を覚える。だが、不毛なフレーズに花実を咲かせるのが想像力だ。その意味に初めて気付いたのは発売禁止になった白竜の「光州CITY」に収録された一曲だ。東京で街を歩く若者に<君は笑いながら、誰を殺しているのか>と、光州の弾圧と無意味ではないことを訴えた曲だった。

 「チェルノブイリの祈り」でノーベル文学賞を授与されたベトラーナ・アレクシエービッチは、父がベラルーシ人で母がウクライナ人だ。パレスチナ弾圧を世界に発信するアミラ・ハス記者もアレクシエービッチ同様、来日した際、沖縄、フクシマ、広島を訪ねている。両者の共通点は想像力で飛翔し、俯瞰の目で世界を眺めていることだ。

 沖縄、フクシマ、広島、そしてガザ、イエメンは同一の視座で繋がっている。そして、ウクライナも……。3・11から11年、フクシマとウクライナを結ぶ糸が見つかった。それが核であり原発であることは、動向を注視している方はご承知だろう。フランスは原発増設を表明したが、日本のような地震国は言うまでもなく、原発が紛争の際、〝人質〟になることが明らかになった。ドイツが国防費をGDPの2%以上に引き上げたように、軍需産業は勢いづいている。

 上記したA、B両君の会話ではないが、ウクライナに思いを馳せる時、軸足はこの国に置くべきだ。自分たちは周囲の不合理、不条理、不平等を看過していないだろうか。忖度し、同調圧力に負けて見逃しているのなら、世界を語ることは出来ない。偉そうなことを言っても俺自身、コロナ禍のさなか、押し黙っていた。今回のデモは久しぶりの意思表示だった。

 この国で何が起きているのかさえ、俺は理解していない。だから、韓国大統領選の結果も他人事のように思える。若者の熱狂によって5年前、大統領選で勝利した文氏だが、後継者候補が次々に失脚し、保守派が勝利した。ニュース映像を見る限り、そこそこ盛り上がっていたように思えたが、日本と同じ病根を抱えているようだ。

 両国とも出生率は極めて低く、格差はますます広がっている。見かけは韓国の若者の方が元気だが、真情は近いはずだ。日本では嫌韓、韓国では反日が広がっているが、ともに民主主義への道は遠いのではないか。
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新春スペシャル「欲望の資本主義」に22年を生きるヒントを得た

2022-01-11 22:48:14 | 社会、政治
 将棋界の頂上決戦、王将戦第1局が行われ、挑戦者の藤井聡太竜王(4冠、先手)が渡辺明王将(3冠)に先勝した。1分将棋になってもAIの評価値が二転三転する大熱戦で、2局目以降も楽しみだ。

 ディープラーニングを駆使する藤井、高容量のパソコンで研究する渡辺は、ともに<人間とAIの合体型>なのだ。囲碁・将棋チャンネルで解説を務めた木村一基九段は「解説者の力量が試される時代」と語っていた。対局場で大盤解説を務めた森内俊之九段は「藤井さんだから何も言われませんが」と藤井の8六歩に衝撃を隠さなかった。藤井は今年も常識を覆す指し手でファンを驚かせてくれそうだ。

 オミクロン株蔓延により、日本でも新型コロナウイルスの新規感染者が急増している。気候変動も加わり、先が見えない2022年を読み解くヒントになる番組を見た。新春スペシャル「欲望の資本主義~成長と分配のジレンマを越えて」(NHK・BS1)である。

 様々な角度からコメントする12人の識者は、<A>資本主義の枠内で改良を目指す、<B>資本主義に変わるシステム(社会主義)を志向する……、この二つに大別できる。経済は門外漢の俺だが、アンテナに引っ掛かった持った内容を紹介する。

 ルチル・シャルマ(ストラテジスト)は生産性の低い非効率なゾンビ企業を救済する刺激策が、日本のような莫大な借金を計上する結果になると語る。<現在の資本主義は富裕層のための社会主義であり、その他の人々にとっての資本主義>と分析していた。刺激策に必要な経費を削減することが健全な資本主義の道と説く。シャルマのコメントとリンクするのは諸富徹(経済学者)らが提示したスウェーデンモデルだ。

 スウェーデンは二酸化炭素削減に成果を挙げながら、経済成長を遂げてきた。この20年で50%の賃上げを達成している。雇用調整助成金が企業に払われた日本と対照的に、スウェ-デンは企業を救わない。だが、淘汰された企業の労働者の別の職場への就職には全面的に協力する。人には優しいのだ。

 マシュー・クレイン(ジャーナリスト)の見解に、目からウロコだった。「貿易戦争は階級闘争である」との著書が示す通り、米中貿易摩擦をユニークに分析している。クレインは<中国では生産されたモノに相応しい賃金が支払われていない。中国の労働者の購買力が奪われることで、富の偏在は加速し、結果としてアメリカの労働者の雇用が損なわれる>と説く。

 ケイト・ラワーズ(経済学者)は成長や生産性といった言葉にとらわれず、ドーナツ図を提示して<循環型経済モデル>を主張する。成長より繁栄(精神的)を上位に置き、合理的経済人(資本主義信奉者)を「手には金、心にエゴ、足で自然を踏みつけている」と論難する。情報操作により、<協力や利他主義より、競争や利己主義に価値を置く>合理的経済人の考え方が広まることを懸念している。

 ラワーズの方向性を形にしているのが,成長モデルから脱却し2050年までに循環型経済モデルに転換することを目指すアムステルダムだ。バート・ファン・ソン(ジーンズ店経営者)は「廃棄されたジーンズはスペインでリサイクルされ同店に送られてくる」と言う。「リサイクルされるジーンズが増えれば綿花農家の雇用が失われるのでは」の問いに、「綿花の代わりに大豆などを栽培すれば、食糧問題に貢献出来る。大豆畑のためにアマゾンで木材を伐採することもなく、環境破壊をストップ出来る」と循環経済の意味を強調していた。

 この番組のハイライトは、トーマス・セドラチェク(ストラテジスト)と斎藤幸平(経済思想家)のリモート対談だった。セドラチェクは<A>、斎藤は<B>を主張するが、ともに成長にとらわれることを批判している。共通点もあるが、相容れない点も明白になった。

 東欧革命を経験しているセドラチェクには譲れない部分がある。かつての東欧圏がマルクス主義を継承しているとは見做さないが、壁の崩壊によって息吹を知ったセドラチェクは資本主義以外に希望はないと確信している。さらに、欧州で資本主義の枠内で有意義な改革を見聞している。上記したスウェーデンモデルの推進者、アンダース・ボルグ(元財務相)は<市場経済と社会福祉を組み合わせた同国の市場経済は資本主義でも社会主義でもない>と語っていた。

 当ブログで頻繁に取り上げてきた斎藤については、書き尽くした感がある。俺は数年前からグリーンズジャパン会員発プロジェクト「脱成長ミーティング」に足を運び、脱成長、シェア、循環型経済、ローカリズム、<コモン=共有材>の意義を学んできた。だから、マルクスが最晩年に行き着いた境地にインスパイアされた斎藤の<脱成長コミニュズム>には共感を覚えている。

 だが、苦難の歴史を知るセドラチェクは、斎藤の焦りを感じているかもしれない。この番組を見て、スウェーデンのみならずバルセロナやアムステルダムなど様々な改革が試みられる欧州と比べ、余りに貧困な日本の現実に愕然とする。とはいえ「人新世の資本論」は40万部を超え、斎藤は昨年末、多くのメディアに登場した。ひとつのきっかけになることを期待している。
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民主主義の夜明けは遠く~総選挙の結果に感じたこと

2021-11-02 22:53:40 | 社会、政治
 衆院選投開票日の前日(10月30日)、藤井聡太3冠が豊島将之竜王を破り、4冠に王手を掛けた。天下無双の藤井を翌日放映のNHK杯で完膚なきまで叩きのめしたのが深浦康市九段である。研究に裏打ちされた積極的な手順で終始攻め抜いたベテランの底力に感嘆した。

 将棋と政治とは関係ないが、何かの予兆では……。そんな風に感じたが、衆院選の結果は想定内の中でも最悪で、暗澹たる気分に沈んだ。自民党は議席を減らしたが、安倍-菅政権下の私物化にお灸を据えられた程度。深刻なのは立憲民主党で、野党統一候補で自公に挑んだ枝野代表は辞任に追い込まれる。大幅増の維新と国民民主党が手を携え、いずれ自民党の補完勢力になるだろう。

 永田町の地図には関心がないが、<多様性と国際標準>がこの国に根付くことに希望を抱いている。<多様性と国際標準>の指標を具体的に示せば9月末に投開票されたドイツ連邦議会選挙になる。投票率が77%(衆院選56%)、当選者の平均年齢は47歳(同56歳)、女性議員は33%(同10%)で、移民系議員が11%を占めた。

 日独両国、いや日本と先進国との差はどこから生じるのか……。何度も記しているので最小限にとどめるが、選挙制度が大きい。先進国ではあり得ない供託金制度(選挙区300万円)は、治安維持法とセットで成立した普選法を継承した制限選挙だ。

 2世、3世議員が幅を利かせ、衆参両院は貴族院の如きだ。格差は拡大の一途をたどるのに、貧しい者は立候補出来ない。国会の金満体質を批判する識者はいるが、根底にある供託金制度、候補者をがんじがらめにする公職選挙法に異議を唱える声は小さい。土壌が痩せているから、民主主義が育つ道は平坦ではない。

 欧米の移民への差別は話題になるが、上記したドイツに加え、フランスでは移民が市民権(参政権、被選挙権)を得て、政治に参加している。難民申請者への酷い対応、実習生の悲惨な状況と表裏一体になっているのが代用監獄、刑務所の非人道的な環境と死刑制度だ。EU加入の条件の一つは死刑廃止だから、被害者遺族に寄り添った厳罰主義に固執する日本は先進国とは見做されない。

 「週刊金曜日」は10月22日号で総選挙のテーマとして<多様性と国際標準>を測るリトマス紙として「選択的夫婦別姓」を挙げていた。戦前回帰を志向する憲法草案を掲げる自民党が認めるはずがない。ジェンダー問題や個人の自由に関していえば明らかに後進国だが、〝ガラパゴスで結構〟という開き直りが日本の主音だ。

 65歳のやさぐれ男らしい暴言を。「日本よ、俺がくたばるまで生きていてくれ」……。日本の国債の格付けは下がる一方で、1人当たりのGDPもアジア各国に追いつかれている。貧困率は先進国の中で4位というデータもある。何より厳しいのはエネルギーと食糧の自給率で、それぞれ約12%、37%と低水準だ。辞任するとはいえ甘利幹事長は〝原発ムラ〟の村長で、日本はエネルギー問題で後塵を拝している。

 八方塞がりの日本で、岸田政権はGDPを指標にした成長と新しい資本主義を志向するという。少子高齢化の日本では価値観の転換、即ち脱成長と共生が求められている。米民主党プログレッシブは〝資本主義より社会主義〟に価値を見いだす若年層に支持されているし、欧州では〝グリーン(緑の党)+レッド連合〟が勢力を拡大している。

 ペシミスティックな論調になったが、日本のどこかで新しい風がそよいでい
るはずだ。俺の心の中で、希望はまだ死んでいない。コロナ禍もありひきこもり気味だったが、アクティブな年金生活者になりたいものだ。
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梅雨時の雑感~立花隆氏追悼、グリーンリカバリー、都議選

2021-06-27 14:21:38 | 社会、政治
 立花隆氏の死が公表された。〝知の巨人〟の死を心から悼みたい。著書を当ブログで紹介したのは「天皇と東大」だけだが、世紀が変わる前は熱心な読者だった。とりわけ印象に残っているのは「中核VS革マル」、「脳死」、「同時代を撃つ 情報ウオッチング」、「サル学の現在」、「臨死体験」辺りか。文系と理系、ジャーナリズムとアカデミズムの境界を行き来する希有な存在だった。

 「田中角栄研究」発表時、大手紙の関係者は「あんなことは誰でも知っている」と吐き捨てた。現在に至る日本メディアの限界(権力との馴れ合い)を象徴するエピソードといえる。インターネットについて<個人と世界が繋がるためのツール>と希望を抱いていたが、同じ考えを持つ者が閉鎖的なタコ壺を形成するケースが蔓延し、<AI独裁>が進行している。

 30年以上前、NHKが放映したドキュメンタリーが記憶に残っている。環境と共生をテーマに据えた「立花隆の南米紀行」だ。<トマス・モアは差別や搾取のない南米の共同体に心を揺さぶられ、「ユートピア」を著した。同書に記された理想社会が社会主義や共産主義の基礎になった>と立花氏は分析していた。1998年にベネズエラでチャベスが大統領に就任して以来、次々に左派政権が誕生する南米と符合するものを感じる。

 先日、グリーンズジャパン(緑の党)主催のオンラインセミナー「EUグリーンリカバリーとドイツのチャレンジ」に参加した。講師のジャミラ・シェーファー氏はドイツ緑の党の連邦委員会の若き女性メンバーで国際政治を担当している。セミナーは英語で進行し、逐次通訳される。英語と日本語を交えたパワーポイントで最低限、内容は理解出来た。

 9月の連邦議会選挙に向けた世論調査で、ドイツ緑の党はメルケル首相のキリスト教民主・社会同盟と接戦になっている。アイスランド(グリーンレフト)に続き緑の首相誕生の可能性も囁かれているが、党首を巡る資金スキャンダルが報じられ、支持率は20%を切った。

 今回のセミナーでドイツの政治状況を知ることが出来た。メルケル首相は原発廃止を宣言し、ドイツは再生可能エネルギー推進国で知られている。コロナ禍でメルケル首相の発した哲学的なメッセージが世界の称賛を浴びた。真実は果たしてどうなのか。シェーファー氏は現政権をヘッドライン政治と断罪していた。

 ドイツ政府は環境税導入に消極的で、自動車産業や運送業に肩入れしている。環境に害を及ぼす補助金(ディーゼル関連)は廃止すべきと強調していた。コロナ危機の勝者といえるアマゾンなどIT企業は税金を払っていない。緑の党はデジタル税導入を目指している。

 ドイツだけでなく欧州緑の党はグリーンリカバリーを推進している。ポスト・コロナを見据え、持続可能かつグリーンでデジタルな社会の移行を志向している。具体的には「復興レリジエンス・ファシリティー」で、6725億ユーロを財政支出する公的投資、金融支援で、半分は返済不要だ。欧州共同プロジェクトのために更なる基金が必要だが、ドイツ政府の対応は不十分という。

 ドイツ政府の方針を〝グレーリカバリー〟と批判するシェーファー氏は、地域レベル、自治体レベルにおける運動を積み重ね、ステークホルダーを巻き込むことが必要と語る。フランスの自治体選挙では<グリーン・レッド連合>が勢力を伸ばすなど、緑の党を軸に地殻変動が起きている。翻って日本はどうか。

 25日に告示された都議選では、小金井選挙区で漢人あきこ氏(緑の党東京共同代表)が立候補した。前回は都民ファーストの勢いに僅差で敗れたが、今回は野党統一候補で当選のチャンスは大きい。<人に寄りそうグリーンな東京>を掲げ、セーフティーネットの拡充、ジェンダー平等、緑と環境最優先などを政策に挙げている。一方で、小池都知事の静養が物議を醸している。都ファ完敗の予測に自民党への接近を画策中とみるむきもある。

 夫婦別姓問題、原発再稼働、公文書偽造など日本政府は腐臭を放っている。立花氏はあの世で惨憺たる現状をいかに見ているだろう。漢人さんの当選が、日本社会を変える一歩になることを期待する。俺も時間を見て応援に駆けつけたい。
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「シャドー・ディール」&杉原浩司氏の講演~「憲法映画祭」で知る戦争の現在

2021-04-21 21:28:56 | 社会、政治
 先週末、3部構成の「憲法映画祭」(武蔵野公会堂)第2部に参加した。映画「シャドー・ディール~武器ビジネスの闇」(2016年、ヨハン・グリモンプレ監督)、杉原浩司氏(武器取引反対ネットワーク=NAJAT代表)による<軍産共同体が九条をこわす>と題された講演がセットになっていた。

 「シャドー――」の原題は「シャドー・ワールド」で、キャッチコピーは<戦争に資金が流れ、血は金に換えられた>だ。100年にわたる戦争や内戦の衝撃的な映像、ジャーナリスト、告発者、武器取引関係者らの証言を織り交ぜて構成されている。ラストには公開前年に亡くなったエドゥアルド・ガレアーノへのオマージュが捧げられていた。

 冒頭、第1次大戦時の貴重なフィルムが流れた。クリスマス休戦でドイツ兵が「きよしこの夜」を歌うと、敵味方がともに踊ったり、サッカーに興じたりした。束の間の出来事で、銃砲の合図で白兵戦は再開したが、当時はまだ、戦場においてもヒューマニズムの欠片が残っていた。

 平和が常態になる可能性を奪ったのは、欲望に駆られた軍需産業と金融機関の連携だ。一部の人間が巨万の富を築く一方、世界中の人々が傷つき、格差が拡大する。政権トップでさえ軍需産業の営業部長クラスで、その典型がオバマだ。〝史上最悪の武器商人〟として世界を闊歩する様子を本作は捉えていた。アメリカのイラク侵攻に与したブレアは引退後、軍需産業の役員に収まっている。

 本作で槍玉に挙がっていたのがサッチャーとレーガンだ。サウジアラビア王室とサッチャーとの黒い癒着が、数々の証言で詳らかになっている。サウジからの莫大な資金が、サッチャー政権と軍需産業を結ぶ円滑剤になっていた。サウジは現在、非人道的なイエメン空爆をUAEとともに支えるシャドー・ディールの担い手である。

 〝反テロ〟とは自らを〝正義〟の側に仕掛けで、メディアのコントロール下、人々の脳に刷り込まれている。ブッシュは単なる操り人形で、軍需産業と一心同体で30年にわたり主要閣僚を歴任したラムズフェルドとチェイニー(副大統領も)が米政権の元締であったことを、本作は示していた。
 
 上映終了後、5分ほどのインタバルで杉原氏が壇上に立った。背後のモニターには進行に合わせて写真やデータが映された。杉原氏はかねて「シャドー・ディール」をネット上で薦めていたが、映画好きの同氏とは、ドローンの脅威を描いた「ドローン・オブ・ザ・ウォー」や「アイ・イン・ザ・スカイ」の感想を語り合ったことがある。日本と朝鮮半島の近現代史を背景に据えた帚木蓬生著「三たびの海峡」を薦めてくれたのは杉原氏だった。

 杉原氏は最近の変化にポイントを置いて論を進めた。コロナ禍で経済活動は停滞しているが、世界の軍事費は昨年、約194兆円で前年比3・9%増だった。ちなみに日本は8位だ。トレンドも変化し、自国生産にシフトしつつある。経団連の肝いりで、武器を扱う商社も活動している。

 コロナワクチンは典型的な例だが、技術力で後塵を拝している日本は、武器輸出でも成果を上げていない。米国製武器を爆買いは止まらないが、ヒラリー・クリントンが「空軍が計画したものは全て不要」と指摘したF35もその中に含まれている。だが、政府は手をこまねいているわけではない。

 佐藤優、池上彰両氏が「中央口論」誌上で推奨した、敵基地攻撃能力を飛躍的にアップさせる「スタンドオフミサイル」の開発を川崎重工と三菱重工が進めている。日本は米軍を後方支援してきたが、米国は自衛隊に〝共犯者〟になることを求めているのだ。

 核を所有しパレスチナでジェノサイドを推し進めるイスラエルに、NAJATは厳しい目を向けていた。「NEW23」(TBS系)はイスラエル大手軍需産業担当者から、<我々の武器は戦場(ガザ地区)で実証済み>との発言を引き出していた。同番組でコメントした杉原氏は、軍事のみならずセキュリティー面での日イ連携を糾弾していた。

 NAJATは日イ連携を掲げるイベントのスポンサーであるソフトバンクに文書で抗議した。孫正義氏は「レピュテーションリスク」を勘案したのか、少し距離を取った。各企業、グループにとって軍事関連部門が占める割合は小さいが、川崎、三菱、そして武器取引に前のめりの商社に抗議し、〝武器商人〟と認知させることが、市民運動にとって大きな武器になる。

 杉原氏は今、ミャンマー問題に取り組み、国軍への資金源を断つことを政府・関連部署に求めている。ODAの源泉は税金だから、私たちの手が気付かないうちにミャンマー人の血で汚れているのだ。想像力こそが、世界を俯瞰する際の最大の武器なのだ。
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東日本大震災と原発事故から10年~時計の針は止まったまま

2021-03-11 22:36:44 | 社会、政治
 東日本大震災で家族や友人を亡くしたり、原発事故で故郷を奪われたりした方々の悲しみと慟哭はいかばかりか。俺自身にとっても2011年3月11日は人生最大の分岐点だった。3・11直後から反原発をテーマに据えた講演会や映画会などに足を運び、感じたことをブログに書き綴った。

 阪神・淡路大震災(1995年)は故郷近くで起きたにもかかわらず、東京で自堕落で無為な日々を過ごしていた。当時の俺は〝人間もどき〟だったが、48歳で会社を辞めた頃から無常観、他者との絆に敏感になる。人間に近づいた時期に起きたのが東日本大震災だった。

 原発事故から10日後に開催された緊急報告会「福島原発で何が起きているか?」(「デイズジャパン」主催、早稲田奉仕園)は、広河隆一氏と広瀬隆氏が顔を揃えた歴史的なイベントだった。広河氏は現地で撮った写真を基に訥々と語り、広瀬氏はデータを示して危機の全体像を明晰に示していた。

 第11回「終焉に向かう原子力」(4月29日、明大・アカデミーホール)は立ち見が出る盛況で、1000人以上が入場できなかった。反原発の機運の高まりを実感した集会では、広瀬氏に加え小出裕章氏も壇上に立つ。反原発運動を長年牽引してきた広河、広瀬、小出の3氏だが最近、表舞台で見かけることは少なくなった。

 同年のGWに帰省した俺は、母、妹、義弟とともに和風レストランで食事をした。隣席では老夫婦、息子夫婦と思しき4人が卓を囲んでいたが、「新聞やテレビは信じられん。正しいのはインターネットだけや」と話すおじいさんに一同うなずいていた。「自由報道協会」を創設した上杉隆氏は記者クラブに妨害されながら東電に厳しい問いを発し続け、ネットにアップする。自身がキャスターを務める「ニュースの深層」(朝日ニュースター)に〝放送禁止物体〟広瀬氏を呼ぶなど戦闘モードだった。

 希望はたちまち潰えた。朝日新聞は「ニュースの深層」を打ち切っただけでなく、「放射能は大丈夫」を繰り返した山下俊一氏(福島県放射線リスク管理アドバイザー)に朝日がん大賞を授与する。731部隊の人脈に連なる山下氏の栄誉は、政官財+メディアからなる〝原発村〟の堅固さを物語っていた。
 
 3・11は大きなターニングポイントになり、ドイツを筆頭に再生可能エネルギー、環境保護に舵を切る動きが広まった。膠原病と闘いながら前向きに生きていた翌年の妹の死で、俺は生き方をチェンジした。立脚点を定めて世の中に真摯に向き合うことが妹への手向けになると考え、グリーンズジャパンに入会した。多様性、アイデンティティー重視など、価値観を発見するきっかけになった。

 仕事先の整理記者Yさんに誘われ、〝反原発PANTA隊〟の一員として集会に参加した。ピート・タウンゼント、ロバート・スミスと並び、俺にとっての〝ロックレジェンド〟であるPANTAさんと話す機会を得て、見識と人格に感銘を覚えた。PANTAさんと共演した故遠藤ミチロウは福島出身で、学生時代のサークルの先輩と同窓で、妹と同じく膠原病と闘っていた。「FUKUSHIMA」(2015年)は故郷への思いを歌った傑作である。

 <地震と原発事故は多くの犠牲を生んだが、日本が生まれ変わるきっかけになるかもしれない>……。俺だけでなく10年前、このように考えた人は多かった。俺は復興の兆しを確認するため、何度も東北を旅したが、そのたびに傷痕を目の当たりにした。<アンダーコントロール>の偽りで開催にこぎ着けた東京五輪は、東北を蔑ろにした国家的犯罪だったのだ。

 震災直後、体内被曝を心配する世論に<直ちに影響はない>を繰り返した枝野幸男官房長官が現在、野党第一党代表というのも理解に苦しむが、その後の安倍-菅政権で日本は出口の見えない闇に取り残された。台湾の現状に羨ましさを覚える。抵抗が市民の権利になり、ひまわり運動支持、反原発デモに数十万人が集まる。警察車両は皆無で、多くの有名人が笑顔で参加していた。

 蔡英文総統を支えるのが39歳のトランスジェンダーで無任所閣僚(IT、デジタル担当)を務めるオードリー・タンだ。台湾がコロナ禍を最小限に食い止めたのも、彼、いや彼女の功績大である。タンの影響下にある30以上のサイトは、政治の透明性確保のため政治家の発言を徹底的にチェックし、フェイクを公開する。民主主義アナキストを自任するタンの名は既に世界に鳴り響いている。
 
 今夜は東電前で犠牲者追悼と再稼働に固執する東電に抗議する集会に参加した。次稿の枕で簡単に紹介したい。原発事故は結果として風穴にならず、むしろ可能性は失われた。日本は今、エネルギー、環境、ジェンダー、選挙制度などあらゆる点で国際標準から遠ざかっている。新しい風は吹くのだろうか。
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グリーンズジャパンで学んだ<世界標準>

2021-02-17 21:01:37 | 社会、政治
 先週末、グリーンズジャパン(緑の党)の総会に参加した。入会は2014年だから今回が8回目だったが、このご時世、ズームによるリモート会議である。政治とは人間が醸し出す空気感がベースだから、物足りなさは否めなかった。

 立脚点を示さず井戸端会議風に社会を論じることに限界を感じ、緑の党の扉を叩いた。<私は文学が趣味で、アイデンティティーと多様性を追求する作家、例えば星野智幸や池澤夏樹に共感を覚えています。自分の価値観に近いと考え、入会を希望します>……。こう動機を話す俺に、担当者はあきれ顔だったが、選択は間違っていなかった。

 この7年で学んだのは<世界標準>だった。緑の党は100カ国以上で活動しており、とりわけ欧州では分断と自然破壊を食い止める救世主的存在として支持を広げている。日本でも……と期待したいところだが、大きな壁がある。この国には<世界標準>に対する忌避感が漂っているからだ。

 日本が<世界標準>に届いていない点は多々あるが、まずはジェンダーについて……。森五輪組織委会長の発言が内外で非難を浴びたが、問題の根は深い。緑の党は結成当初からクオーター制を導入し、共同代表だけでなく全ての役職は男女同数だ。森氏ほどではないにせよ、俺はジェンダーに鈍感だったが、目を覚ましてくれたのは女性たちの活躍である。

 ドイツのメルケル首相、ニュージーランドのアーダーン首相、アイスランドのヤコブスドットイル首相(グリーンズレフト党首)、そして<コモン>を掲げ世界の耳目を集めるバリャーヌ・バルセロナ市長……。世界を牽引する女性の名を挙げればきりがない。10代の2人、グレタ・トゥーンベリとビリー・アイリッシュの影響力は絶大だ。

 先進国で同性婚、あるいは同性パートナーの権利を認めていないのは日本だけで、<国際標準>とは程遠い。大日本帝国憲法の復活を目指す日本会議の代弁者である安倍前首相は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と定める憲法24条を持ち出していた。だが、他の条文に謳われている自由と基本的人権とは相容れなくなっており、「同性婚禁止こそ憲法違反」と主張する憲法学者も多い。緑の党も同様だ。

 <国際標準>と懸け離れている最たる問題が、繰り返し記してきたい高額な供託金だ。緑の党は宇都宮健児弁護士が原告側訴訟団団長を務める供託金違憲訴訟に関わってきた。先進国では供託金は違憲で、殆どの国でゼロだ。公職選挙法も立候補者を縛るもので、日本の選挙は治安維持法とセットで制定された普通選挙法の悪しき伝統を引き継いでいる。

 この問題を反原発集会のブースで訴えたところ、<供託金制度がなくなったら有象無象が立候補して、混乱を収拾できない>と食ってかかってきた人がいた。原告側の訴えを退けた裁判長も、<国際標準>を無視し、自由と民主主義の価値に言及することはなかった。死刑についても構図は同じで、<戦争法に抗議する人の80%以上が死刑肯定派>という、死刑廃止がEU加入の条件である欧州から見れば〝異常〟と思える事態が日本では〝常識〟になっている。

 会員が企画するイベントやシンポジウムに数多く参加した。そのひとつが「脱成長ミーティング」で、環境と生態系破壊にストップをかけ、GDPに縛られず生活の質を問い直す試みだ。同ミーティングで議論された内容は、今や時の人となった斎藤幸平・大阪市立大准教授の著書と重なる点が多い。

 「オルタナミーティング」や「ソシアルシネマクラブすぎなみ」などの会員発プロジェクトも世界を広げてくれた。音楽ではPANTA、遠藤ミチロウ、友川カズキら熟年シンガーの気概に圧倒された。映画では地産地消、ローカリゼーション、フェアトレード、シリアの現実、アジアの貧困、軍隊のないコスタリカについて学ぶことが出来た。

 前稿で<身を賭す>ことの意味を問うたが、緑の党には様々な市民運動で主導的な役割を果たす〝身を賭す〟会員が多い。その中のひとりが武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原浩司氏で、NAJAT発足集会ではともに発起人を務めた東京新聞・望月衣塑子記者も壇上にいた。

 俺には<身を賭す>覚悟も矜持もないが、ブログでは緑の党関連のイベントを紹介してきた。末端の広報担当というべきかもしれない。井の中から解放してくれた緑の党に感謝している。
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マイ・コイ、そして在日ベトナム人の苦難が穿つ日越の闇

2021-02-09 23:31:17 | 社会、政治
 今回のテーマであるベトナムは、前稿で紹介したレイジ・アゲインスト・マシーンと繋がっている。レイジの1stアルバムは、南ベトナム政府(アメリカの傀儡)に抗議し焼身自殺した僧侶の写真をジャケットに用いていた。あれから60年近く、共産党独裁に異議を唱えた女性歌手マイ・コイを追ったドキュメンタリー「マイ・コイ 反逆の歌姫」(NHK・BS1)を見た。

 発表17年後にレイジの「キリング・イン・ザ・ネーム」が全英NO・1に輝いた経緯を前稿で記したが、マイ・コイは番組冒頭、同曲をカバーしたいと語っていた。〝共産党のキャンペーンガール〟だったマイ・コイは自分に思いを正直に表現するようになり、多様性とアイデンティティーの尊重、自由への希求を歌に託す。その結果、当局の監視下に置かれるようになった。

 オバマとの対談、立候補、ハノイを訪れたトランプへの批判と積極的に活動したマイ・コイは、国内で最後のアルバムを制作した後、国外に出る。重なったのはイラン映画「ペルシャ猫を誰も知らない」(2009年、ハフマン・ゴバディ監督)だ。亡命したロックバンドを追い、監督もクランクアップ後に出国した。空港で書類を審査した担当者は「歌手の方ですね。音楽に国境はありません」と彼女を送り出すシーンに希望を覚えた。

 不明を恥じるしかないが、当ドキュメンタリーを見るまで、ベトナムが中国、北朝鮮並みの統制国家であることを知らなかった。政官財に忖度したメディアが、日本人の目を〝ベトナムの闇〟に向かわないよう操作しているのではないか……。あるリポートを読み、そんな疑問が湧いてきた。

 仕事先の夕刊紙でジャーナリストの出井康博氏が「在日ベトナム人の真実」を35回にわたって連載していた。来日したベトナムの留学生、実習生の悲惨な日々が詳細に記されている。彼らの苦難は新型コロナウイルスによって増幅されている。

 別稿(昨年6月)で紹介した「逃亡者」(中村文則)では主人公(山峰)とベトナム人の恋人アインが宿命と糸で紡がれていた。留学生であるアインは<週28時間労働>に縛られ、生活が成り立たない。連続ドラマW「夜がどれほど暗くても」(中山七里原作)でも、アジアからの留学生を搾取する派遣会社が真相に迫る糸口になっている。
 
 19年末の在日外国人の統計は、中国人81万、韓国人45万に次ぎ、ベトナム人は41万で、内訳は実習生21万、留学生9万という。ベトナム人の犯罪が、咋夏の「子豚盗難事件」を筆頭に世間を賑わせたが、背景にあるのは日越の歪んだ癒着だ。中国や韓国では国内で賃金が上がっており、日本への出稼ぎは激減している。子供を留学させるのも裕福な家庭で、都内の大学で勉強している中国人、韓国人の学生も多い。

 ベトナム人の1人当たりのGDPは日本の15分の1で、多くの実習生や留学生の出身地は貧しい農村だ。彼らは来日時、50~100万円の借金を背負っている。ベトナム政府は送り出し業者に37万円の上限を設定しているが、賄賂社会ではルールなどあってなきが如くだ。共産党関係者に金品を渡せば全て解決する。

 マイ・コイが告発した言論封殺による奴隷制は、格差拡大で国民を貧困の底に縛り付けることで補強されている。こう書くと酷い国と思われるかもしれないが、受け入れ先にも問題がある。日本側も前政権から引き継がれた「30万人留学生計画」の下、大挙して入国する若いベトナム人が低廉な労働力と把握しつつ、無審査で入国させる。日本語学校が産廃業者だった事例がネットで紹介されていた。  

 日越共犯の人身売買が出井氏のリポートで詳らかになっていく。安い労働力を必要としている建設業界の元締は森五輪組織委員長で。メインターゲットはベトナム人だ。菅首相の最初の外遊先はベトナムだし、二階幹事長も数年前、訪越代表団を率いている。関連部署でトップに立つのは自民党幹部(元を含め)だ。

 新聞販売所で働くベトナム人留学生が<28時間労働>を逸脱していることをメディアは報じない。<政官財+メディア>連合が、在日ベトナム人に塗炭の苦しみを味わわせているのだ。森発言は確かにわかりやすい。だが、ベトナム人問題もまた腐敗した構図に動かされていることを国民は知るべきだ。
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