酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

失意の人馬に賭けてみる~第135回天皇賞

2007-04-29 00:12:18 | 競馬
 26日付朝日新聞朝刊で、昭和天皇に仕えた卜部侍従の日記が紹介されていた。書きたいこともあるが、「硬」より「軟」を優先するのが俺の主義。今回はローテ通り、天皇賞を予想する。

 俗流血統論ならオペラハウス産駒メイショウサムソンだが、水上学氏は昨年の皐月賞直後、「あの切れを見ると、距離は持たないかもしれない」と「競馬予想TV!」で語っていた。その予感は菊花賞で見事に的中する。メイショウはソングオブウインドとドリームパスポートに楽々かわされ、アドマイヤメインも捕まえ切れなかった。

 サムソンが支持を落とした分、1、2番人気に押し上げられたアイポッパーとデルタブルースにも死角はある。皐月賞が証明したように、展開によって結果はまるで違ってくるからだ。今回は失意の人馬を狙うことにする。豚より知能が劣る馬に失意などないはずだが、女性リポーターの視点で馬を擬人化してみた。

 失意の馬といえば、忌中のマツリダゴッホだ。全兄トーセンファイナルは先月、レース中に心不全を発症し、「帰らぬ馬」になった。鞍上の横山典は4月以降、上位人気での負けが続いていたが、昨日(28日)2勝と不振脱出の兆しが窺える。天皇賞では思い切った騎乗に期待したい。

 譲った?ヴィクトリーが皐月賞を制し、岩田は落胆したはずだ。騎乗するデルタブルースは直前報教の軽さが気になるが、先行策に出ればスタミナを生かせるだろう。ドリームパスポート離脱に続き、皐月賞では逃げ残りを許しての3着(フサイチホウオー)と流れの悪い安藤勝だが、武豊の香港参戦(アドマイヤムーン騎乗)でアイポッパーが回ってきた。思わぬチャンスに手ぐすね引いているに違いない。

 失意の騎手といえば、年明け早々のケガで離脱していた佐藤哲だ。先週ようやく復帰し、天皇賞に間に合った。母系から3200㍍は厳しそうなダークメッセージだが、瞬発力勝負になれば面白い。ユメノシルシは血統背景がドリームパスポートに似ている。「弟」ドリパスの代役として、「フジキセキ産駒は中距離まで」の定説を覆したいところだろう。

 結論。◎①マツリダゴッホ、○⑮デルタブルース、▲⑧アイポッパー、△⑥メイショウサムソン、注⑬ダークメッセージ、③ユメノシルシ。

 馬連は①⑮、①⑧、①⑥、①⑬、①③を本線に、⑬と⑧から⑮⑧⑥に流し計11点。3連単は<①・⑮・⑧><①・⑮・⑧><①・⑮・⑧・⑥・⑬・③>の計24点。

 以上、失意をキーワードに予想してみた。「慢性失意」の俺など、もっと馬券が的中しても罰は当たらないと思うのだが……。


コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

レッスルマニア23~肉体を駆使する名優たちの祭典

2007-04-26 01:57:07 | スポーツ
 今年も3週間の時間差で、WWEのレッスルマニア23を満喫した。ここ2年と比べると試合の質も高く、フォードフィールドに集った8万観衆の熱気が、画面から伝わってきた。

 幕開けは王座挑戦権を8人で争うはしごマッチだった。落下の際、受け身を誤ると選手生命を絶たれる危険もあるが、選手たちはシナリオ通り、役割をこなしていく。勝ち名乗りを上げたケネディは、不思議なほど会社(WWE)のプッシュを受けているが、プロの目にしかわからないプラスポイントがあるのだろう。

 巨人対決ではカリがケインに圧勝する。芸も技もないカリだが、アンダーテイカーに再び挑むストーリーが用意されているのかもしれない。怪奇俳優として地位を確立したケインだが、本業で「かませ犬」になりつつあるのが心配だ。続くUS王座戦では、ベノワがMVP相手に貫録の違いを示した。

 最初のヤマはバティスタ対アンダーテイカーの世界ヘビー級戦である。異例の善玉対決だったが、ファンのリスペクトに大きな差があった。場外乱闘を織り交ぜ、得意技が次々に繰り出されたが、最後はテイカーがトゥームストーンで仕留め5度目の戴冠を果たす。ファンの願望通りの結末だった。

 ECW新旧対決は旧世代が制した。WWEはかつて、ECWの革新性を翻案してWCW追撃を開始した。今回の試合は、ECW旧世代への感謝の気持ちを込めた「花道」かもしれない。旧世代で力を維持しているのはRVDだけで、自虐的に体を痛め続けたサブゥー、サンドマン、ドリ-マーに、昔年のパフォーマンスは望めない。

 ビンス・マクマホン代表と不動産王トランプの剃髪マッチは、極上のエンターテインメントだった。ビンスがIC王者ウマガ、トランプがECW王者ラシュリーを代理人に選び、主演映画公開間近のオーストンがレフェリーを務めた。シェーン乱入などお約束の混乱を経て、ビンスが坊主頭になる大団円に至る。ビンスは全米の注目を浴びただけでなく、カツラ疑惑をも晴らせた。泣き顔を作りつつ、心で笑っていたに違いない。

 もう一つの王座戦は、WWE王者シナが関節技でHBKからタップを奪い、防衛を果たした。この2年、シナは形式上WWEを支配してきたが、昨年のレッスルマニア(HHH戦)に続き、ブーイングを浴びていた。シナのイメージは<悪ぶっているが、実は成績優秀で先生と仲がいい高校生>であり、人気はあってもリスペクトとは程遠い。ヒール転向も一つの手だが、ハリウッド進出を果たした今、キャラを変えるのは難しいかもしれない。

 10年前のWWE(当時WWF)は、無手勝流でカウンターカルチャーの要素が濃かった。DXは風俗紊乱を体現するパンクスだったし、ロックが属していたネイションズ(有色人種連合)は、ウォリアーズ風の軍団と抗争を展開していた。キリスト教保守派をパロディーにして笑いを取っていたが、WCWを吸収して独り勝ち状態になるや、保守化の風潮に乗って共和党寄りになる。

 次期大統領はオバマかヒラリー・クリントンだろう。<大衆迎合>がレーゾンデートル(存在理由)のWWEのこと、民主党時代を先取りし、スタンス揺り戻しを画策しているに違いない。


コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランス大統領選に思うこと

2007-04-24 00:45:27 | 社会、政治
 22日、日本では統一地方選、フランスでは大統領選の投開票が行われた。彼我の政治風土の違いをカレー屋に喩えると、「日本店」は甘口と辛口だけ、大甘から激辛まで10種類以上のメニューを揃えたのが「フランス店」だ。

 フランス大統領選は84・6%という驚異的な投票率で、サルコジとロワイヤルが決選投票(5月6日)に進出した。サルコジはアメリカ型新自由主義の導入を主張し、35時間労働と終身雇用の見直しを訴えた。一方のロワイヤルは、福祉重視と若者の雇用拡大を唱えている。サルコジは経済を、ロワイヤル候補は精神を物差しに、<豊かさの形>を示していた。

 得票順に各党派の主張を日本に当てはめ、党首を想定してみる。

 ①サルコジ前内相(国民運動連合)31・1%=自民の大半と民主右派。安倍晋三党首
 ②ロワイヤル元環境相(社会党)25・8%=社民と民主左派。福島瑞穂党首
 ③バイル元教育相(民主連合)18・6%=自民左派と民主中間派。加藤紘一党首
 ④ルペン党首(国民戦線)10・5%=自民右派。石原慎太郎党首
  
 日本で首相公選制が導入されたら、石原氏が当選する可能性が高い。想像しただけで背筋が凍る。

 極右の国民戦線ばかり話題になるが、フランスでは新左翼(トロキズム)が浸透し、共産党を超える票を獲得している。伝統を重んじる保守派、環境派、農民運動家など候補者は多士済々で、有権者は思想信条のまま一票を投じることができるのだ。
 
 フランスの出生率は2・0を超え、欧州一の水準となる(06年度統計)。ワークシェアリング、学費無料(幼稚園から高校まで)、給付金制度(子供が20歳になるまで)と手厚い政策が奏功した。少子化に悩む日本にとってモデルケースになるかもしれない。

 フランスでは移民問題が深刻化しているが、長いスパンで考えれば国力維持にプラスに働くはずだ。サルコジも移民の一族出身で、父からハンガリー人、母からギリシャ系ユダヤ人の血を引いている。佐高信氏と姜尚中氏の対談集「日本論」で、姜氏はペンタゴンの文書を紹介していた。即ち<外国人労働者を受け入れない日本は少子高齢化が進み、人口は逓減する。必然的に国力は衰退していくだろう>(概略)。

 ペンタゴンの指摘を待つまでもなく、半世紀後の日本は対策を講じない限り、「美しい国」どころか「滅びゆく国」になる。少子化対策と並行し、移民の是非も俎上に載せるべきだ。

 日本では1990年以降、<社会主義は時代遅れ>の号令の下、保守2党化に進んだが、英独仏などアメリカを除く先進国では社民が主流の位置を占めている。格差是正と福祉充実が火急の課題になった今、労働者や市民の側に立つ受け皿党が存在しないのは、「滑稽な悲劇」といえるだろう。

 統一地方選は痛み分けに終わった。政権交代を叫ぶ民主党には官僚出身議員が多く、憲法改正論者が大半だ。自民党と民主党は「唐揚げ」と「竜田揚げ」の違いしかない。サルコジとロワイヤルが対照的なビジョンを掲げて激突するフランスが、羨ましく思えてならない。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ソニックス&ボアダムズ~ビートの雨に濡れそぼつ夜

2007-04-21 02:49:44 | 音楽
 昨夜(20日)、新木場のスタジオコーストでソニック・ユースとボアダムズを見た。親交厚い日米アングラ帝王のジョイントライブに、超満員の聴衆が詰め掛けていた。

 真っさら状態で臨んだボアダムズに衝撃を受ける。打楽器3人の編成で、意識の底をハンマーで砕くようなインプロビゼーションだった。野生と人工が混然一体となり、轟音が礫になってフロアに飛んでくる。「自分を解き放ってるかい」と問いかける入魂のパフォーマンスに、ロートルの俺はただ立ち尽くすのみだった。

 余韻が冷めぬうち、ソニックスがステージに現れる。“Teenage Riot”などの定番は演奏せず、新作“Rather Ripped”中心のラインアップに、「俺たちの今を聴いてくれ」というバンドの姿勢が窺えた。“Rather Ripped”収録曲は乾いた心身に染み入る柔らかなアルバムだが、ライブではギザギザのナイフになって聴衆を抉ってくる。

 2年前の来日時、マルチプレーヤーとしてバンドを支えていたジム・オルークは離脱したが、サポートメンバーとしてペイヴメント(99年解散)のベーシスト、マークが加わっていた。ペイヴメントはソニックスやREMに影響を受けたローファイの旗手である。昨今のソニックスのアルバムは、音の感触がペイヴメントに似ていることもあり、サポートとして最高の人選だと思う。

 サーストンは知的な「悪ガキ中年」のままで、キムはくねくね身をよじらせて踊るなど熟女フェロモンを撒き散らしていた。リーとスティ-ヴも負けじと張り切り、マークもバンドに馴染んでいた。調和より歪みを優先させるライブに、ソニックス健在を実感したライブだった。

 ソニックスは80年代、アメリカの不毛のロック土壌を耕し、芽吹いた才能をサポートした。グランジやローファイも、ソニックスがいなければこの世に存在していない。ヘッドライナーを務めた欧州オルタナツアー(91年)に、ニルヴァーナとダイナソーJRを帯同した。ボアダムズや少年ナイフが海外で支持されているのも、ソニックスの功績である。

 カート・コバーンを知る人は以下のように証言していた。<カートが自殺を思いとどまっていたら、ソニック・ユースのように自由に音楽を続けていただろう>……。カートはきっと、強い絆で結ばれているサーストンとキムの夫婦が羨ましかったに違いない。

 サーストンは50歳近くになっても、<少年のときめき>を忘れない。ツアー先でレコード(CD)ショップを訪ねることが趣味で、おととい(19日)も新宿のディスクユニオンで目撃されている(ミクシィ情報)。

 ソニックス、そして恐らくボアダムズも、好奇心とファンの目線を保ち続ける<永遠の前衛>だ。だからこそ、齢を重ねても自然体で尖がっている。ビートの雨に濡れそぼち、「枯れる」を目標にしている自分が恥ずかしくなった。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「昏き目の暗殺者」~言葉という醒めた刃

2007-04-18 00:34:22 | 読書
 バージニア工科大で悲劇が起きた。コロンバイン高校の惨事を上回る32の貴い命が犠牲になる。大学や警察の対応に過失があったことは否めないが、銃規制を進めない限り根絶されない事件といえる。狂気と兇器が容易に結び付く、銃社会の恐ろしさを再認識した。

 さて、本題。アメリカの隣国カナダの女流作家、マーガレット・アトウッド著「昏き目の暗殺者」(早川書房)を取り上げる。英連邦で最も優れた純文学に贈られるブッカー賞(00年)、北米の作家が著した最高のミステリーに授与されるハメット賞(01年)を併せて受賞し、「タイム誌オールタイムベスト100」にも選定された。映画化の可能性も高いので、興趣を削がぬようアウトラインを紹介する。

 「昏き目の暗殺者」は、語り手アイリスの妹ローラが遺した小説のタイトルでもある。物語を構成するのは、以下の四つの部分だ。

 <A…アイリスの日常> 老境に達したアイリスが精緻かつ淡々とした語り口で、癒やされぬ孤独を綴っていく。

 <B…アイリスの回想> カナダ近現代史を背景に、ある家族の没落と離散が語られる。釦工場を経営するチェイス家は、労働者への温情を保ち続けたアイリスの父の代で傾き始めた。アイリスの夫となったリチャードは、ナチスと取引する新興資本家で、政界進出の地歩を固めていた。腐敗したブルジョワジーの対極に描かれるのが、放浪する共産主義者アレックスである。

 <C…作中作「昏き目の暗殺者」> 荒唐無稽に思えたストーリーが、次第に神話的輝きを増してくる。「ペネロビアド」でギリシャ叙事詩を再構築した作者の面目躍如といえるだろう。

 <D…ある男女の秘められた愛> 作中作に付随する形で、秘められた愛が語られる。男女がどの登場人物に該当するのか、あるいは空想の産物なのか……。読者の好奇心を刺激する<導きの糸>の役割を果たしている。

 A~Dが絡まりながら物語は進行するが、軸になっているのは、アイリスと妹ローラの絆と相克だ。上流階級に倦みながらも順応するアイリスと対照的に、理想を求めたローラは壊れていく……、いや、壊されていく。主観と客観を織り交ぜ深層意識に迫る技法に、「都会と犬ども」(バルガス・リョサ)を思い出した。

 ページを閉じた後、言葉の断片が重なって、一つの巨大な影になる。「昏き目の暗殺者」の実像にようやく気付き、狂おしさと切なさが込み上げてくる。用いた兇器はナイフでも銃でもなく、醒めた言葉の刃だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「武」と「豊」で小波乱?~皐月賞はひねくれ予想で

2007-04-15 00:20:16 | 競馬
 桜花賞は何とか的中した。まぐれが続かないのは百も承知だが、皐月賞は欲得ずくめで予想する。

 ひねくれ者ゆえ、アドマイヤオーラとフサイチホウオーにはシンパシーを感じない。社台ブランドの血統、冠付きの馬名、鞍上に名手……。人間に喩えれば天下りが保証された青年官僚で、ケチの一つも付けたくなる。

 不安材料が多いのはホウオーの方だ。共同通信杯から皐月賞直行のパターンに好走例は少なく、調教も今ひとつだった。アンカツは中山を苦手にしているし、最内枠を引いた。対するオーラは、母ビワハイジの早熟DNAが心配だ。デビュー時点から14㌔減の馬体に、連戦の疲労が蓄積していても不思議はない。ともにダービーを射程に入れている以上、武豊とアンカツは極端な戦法は避けるはず、中団で互いを意識し過ぎると、そろって勝機を逸しかねない。

 展開を考えて、アサクサキングスを本命に推す。2~3番手で折り合えば、逃げ粘りも十分だ。武幸は一時期、「追えない騎手」のレッテルを貼られていたが、ソングオブウインドで菊花賞を制し、カワカミプリンセスとのコンビも決まるなど、上昇気流に乗っている。対抗は鬼脚ココナッツパンチだ。キャリア不足を露呈する危険もあるが、調教で好時計を連発しているように伸びしろは一番か。異能派の「武」幸、一匹狼の吉田「豊」の好騎乗に期待したい。

 母系の和風血脈に思い入れはあるが、420㌔を切る馬体では混戦を勝ち抜けないとみて、ドリームジャーニーは3着までとした。気性難のヴィクトリーは騎手決定の過程も?だし、ナムラマースの藤岡佑はアウエーで「GⅠの洗礼」を浴びるだろう。両馬に合わせ、低レベルのスプリングS組もまとめて切る。

 結論。◎⑫アサクサキングス、○⑱ココナッツパンチ、▲⑮アドマイヤオーラ、△①フサイチホウオー、注⑥ドリームジャーニー。馬連は⑫⑱、⑫⑮、①⑫、⑮⑱、①⑱の5点。ワイドは⑫⑱1点。3連複は⑫⑮⑱、①⑫⑱、⑥⑫⑱の3点。3連単は<⑫・⑱><⑫・⑱・⑮・①><⑫・⑱・⑮・①・⑥>の18点。

 午後3時40分は仕事の最中で、結果は数時間後に知ることになる。射幸心をキング級の時間差パンチで粉々に砕かれ、ヘナヘナへたり込むに違いない。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伝説、そして最先端~ジプシーズ&クーパーズ

2007-04-12 19:07:30 | 音楽
 7日はロックンロール・ジプシーズ(新宿ロフト)、11日はザ・クーパー・テンプル・クロース(リキッドルーム)のライブを楽しんだ。併せて感想を記したい。

 まずはロックンロール・ジプシーズから。元ルースターズの花田、池畑、下山にサポートのベーシストが加わったバンドである。昨年11月(リキッドルーム)よりファン層が若返った気もするが、リアルタイムでルースターズを追いかけた「同級生」も少なくない。

 往時を知らない者は「ロック伝説」への敬意を、高齢層は懐かしさを胸にステージに見入っていた。剛直でラフな花田、妖しく繊細な下山……。後期ルースターズの肝だった好対照の2人が奏でるギターアンサンブルに、池畑(初期に脱退)のパワフルなドラミングが加わり、轟音を撒き散らす。年相応に枯れているのもジプシーズの魅力で、リラックスしてライブに臨んでいた。「オー・マイ・ゴッド」や「ネオン・ボーイ」といったルースターズ時代の曲が色褪せないのは、彼らが80年代、最先端を走り続けていたからだ。
 
 次にザ・クーパー・テンプル・クロース。日英の違いこそあれ、彼らもルースターズ同様、不遇のバンドといえるだろう。

 フロアに足を踏み入れた瞬間、自分が最年長と悟り、後方に下がる。幸いなことに、全景を見渡せる好位置をキープできた。ベーシスト脱退の影響か、5人のメンバーが複数の楽器をこなしていた。圧倒的な音の洪水に、老いた心臓がバクバクSOSを発信する。デビュー時に「あらゆるカテゴリーを超越する」と宣言した通り、ジャズ、オルタナ、プログレ、テクノ、ハウス、メタルなど様々な要素が混ざり合う音の坩堝を体感した。NYパンク風のパフォーマンスだったが、魂の拠りどころはキュアーやジョイ・ディヴィジョンと確信した。

 1st“See This Through And Leave”の濃密でメランコリックな世界にノックアウトされた。2nd“Kick Up The Fire,And Let The Flames Break Loose ”は少し光が差したが、メランコリーは変わらない。3rd"Make This Your Own“の「ニューウェーヴ・リバイバル」に近い軽さには違和感を覚えたが、演奏された7曲は意外なほど聴き応えがあった。

 開演前、フロントマンの暗さを心配するファンの声を耳にしたが、クーパーズ初体験の俺にとって、アルバムの高クオリティーを凌駕するライブだった。印象を簡潔に述べるなら<圧倒的な混沌>と<限りない可能性>である。彼らが今後、どのような方向に進んでいくのか興味深い。

 混沌を濾過すればプライマル・スクリームになれるし、アヴァンギャルドを維持すれば<UKのソニック・ユース>として君臨できる。3rdにポップを味付けしたら、キラーズやマイ・ケミカル・ロマンスを吹っ飛ばしても不思議はない。もちろん、悪い可能性だってある。“ Six”で究極を提示しながら煮詰まって解散したマンサンのように……。

 フジロック初日が「キュアーデー」になると信じ、車中泊バスツアーで参加する。ミューズとともにキュアーの'04北米ツアーに帯同したクーパーズがフジに出演すれば、<クーパーズ⇒ミューズ⇒キュアー>の流れになる可能性大だ。そのラインに、日本のロッカーで最もキュアーに影響を受けた浅井健一が加わってくれたら(出来ればJUDEとして)最高だけど……。

 日割り正式発表まで、妄想と不安の時が続きそうだ。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ネット時代の政治動向~統一地方選の結果を踏まえ

2007-04-10 01:24:22 | 社会、政治
 石原慎太郎氏が都知事選で3選を果たした。五輪招致と市場移転に否定的な声も強いが、投票行動に結び付かなかった。当選一夜明け、傲岸な石原節は復活している。北海道でも現職知事が圧勝した。争点の格差はどこへやら、都民と道民は、痛みに鈍感になってしまったのだろうか。

 俺の神経も磨耗し切っている。ネット上を徘徊し、災害や温暖化の深刻な現実、不正義の数々を知っても、別のHPに飛んだ瞬間、憤りや痛みは消えている。ネット依存で世界との阻隔感が拡大し、鋼の皮膜をコーティングされたように、物事をリアルに感じることができない。

 先日、興味深いニュースが流れた。日本語ブログが英語を抜き、37%のシェアで言語別のトップに立った。英語圏の人口は日本の3倍以上であることを考えると、日本でのブログの普及は目を瞠るものがある。政治ブログの数も多いが、海外と事情が異なる。韓国や台湾でも、ブログは政治行動への参加を呼びかける手段になっているが、日本では意思伝達をネット上に限定するブロガーが殆んどだ。

 「ネット右翼」という表現には、鈴木邦男氏らが<右翼=肉体を通して思想を伝える者>という観点から異議を唱えている。それはともかく、リベラルや左派と比べ「ネット愛国者」は桁違いに多い。米議会の従軍慰安婦決議案、中国温家宝首相の来日、安倍首相の靖国参拝支持など、テーマに事欠かないはずだが、目に見えるデモンストレーションを行ったという話は聞かない。日本人にとってブログとは、透明人間として実社会で生きるための濾紙になっているのだろう。

 もちろん、ネットと現実政治とのフィードバックが欧米並みに進行する可能性も少なくない。小さな効力が都知事選で発揮された。ブログで話題沸騰の外山氏は、泡沫候補にしては上出来の1万5000票を獲得した。300万円の供託金は痛いだろうが、若い同志が集えば安いものかもしれない。

 都知事選の勝利に酔う自民党も、都議補選の結果を見る限り安閑としていられない。公明党も肩入れした自民候補だが、勝つにしても民主+共産の票を下回っている区もある。この傾向は全国に広がり、自民党は地方議会で敗北を喫している。下層階級の反乱は、燎原の火の如く広がっていると信じたい。ネットも一本の導火線になるはずだ。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鉄板OK桜花賞~収穫は樫の季節に

2007-04-07 23:09:26 | 競馬
 今回も訂正から。高松宮記念の稿(3月25日)の冒頭部分は事実誤認だった。桜花賞は「JPN1」だが、外国馬に門戸を開放している高松宮記念は「GⅠ」のままである。お恥ずかしい限りだ。

 さて、本題。満開の桜の下で開催される桜花賞は、ウオッカとダイワスカーレットの一騎打ちが濃厚だ。両馬をスポーツ選手に例えたら、ウオッカは気合と努力の福原愛、スカーレットは自然体の石川佳純といったところか。今回はウオッカ上位も、オークスで逆転するとみる。

 前売り1、3番人気を買う以上、アストンマーチャン(同2番人気)は消さざるをえない。武マジックをもってしても、スプリンターの母系の血を克服するのは難しい。スカーレットに早めに競りかけられ、馬群に沈むシーンが目に浮かぶ。

 伏兵として期待するのは、ウオッカと未対戦のミステリアスな馬たちだ。

 まずはエミ-ズスマイル。祖母と母から付けた「エミ」と「スマイル」を組み合わせ、「笑みの笑み?」という馬名になった。血統、生産者、馬主は社台なのに、厩舎と騎手は南関東という陣営の構成も興味深い。オークス出走が叶えば本命に推すつもりなので、内田博には4着以内に照準を絞った騎乗を望みたい。

 次はカタマチボタン。「片町」と「嘉多町」を合わせ10カ所以上あるどこかの「カタマチ」で、美しい牡丹の花が咲くのだろうか。「競馬界の中村紀」こと藤田は先行馬と相性がいいし、底力が求められるレースになれば上位進出もありうる。藤田は桜花賞で同馬の母タヤスブルームに騎乗し、13着に終わっている。縁のある馬で自らの汚名(謹慎処分)をそそぎたいところだろう。

 結論。◎⑭ウオッカ、○⑱ダイワスカーレット、▲⑰エミーズスマイル、△③カタマチボタン。馬連は⑭⑰、③⑭の2点、ワイドは③⑰1点、3連単は⑭1頭軸で<⑭・⑱><⑭・⑱・⑰・③><⑱・⑰・③>の8点。

 桜花賞で種をまき(JRAに寄付)、オークスで収穫(穴馬券ゲット)が皮算用だが、エミーズとカタマチの健闘に期待している。

 「競馬予想TV!」の司会でおなじみの見栄晴が、結婚を発表した。2週連続大幅プラスと番組的にも絶好調だし、桜花賞でご祝儀馬券といきそうな勢いだ。ちなみに若き天才予想家、亀谷氏の本命はカタマチボタンである。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カ-ト・コバーンという進行形の神話

2007-04-05 21:19:33 | 音楽
 先日WOWOWで「カート・コバーン~All Apologies」(05年、英)が放映された。27年の生涯に自らピリオドを打ったカートの素顔に迫るドキュメンタリーである。2年前の当ブログでは遺体発見の日と混同して「4月8日」と記していたが、正しくは今日(5日)が命日に当たる。訂正も兼ね、本作を下敷きにカートとニルヴァーナについて書くことにする。

 80年代のアメリカは現在の日本の予告編で、中産階級崩壊と地方都市荒廃が進行していた。カートが育ったアバディーンも同様で、貧困に両親の離婚が重なり、ダウナーな思春期を過ごす。家を飛び出し、橋の下や病院待合室で眠ることもあったという。孤独を癒すために読み漁ったブコウスキーやバロウズが、喪失感に満ちた詞の原形になる。

 ロックだけが這い上がる手段だったカートは、クリス・ノボセリックとニルヴァーナを結成する。彼らを見いだしたのは英誌NMEで、渡英中に最初のテレビ出演を果たした。欧州全域を席巻した「オルタナツアー」(91年=後にビデオ化)にも参加して注目を浴びたものの、本国では無名のままだった。2nd「ネバー・マインド」録音後、カートはアパートを追い出され、車中で生活していたが、アルバム発売(91年9月)を機に状況は一変する。卓越したメロディーと破壊的リズムの融合が、核分裂並みのケミストリーを引き起こした。ビートルズ登場、パンク革命に次ぐ3度目のルネッサンスが世界中に伝播し、<ニルヴァーナ以前/以後>がロック史の時代区分になった。

 若者にとってニルヴァーナは、自らの傷を投影であり、救いであり、カタルシスでもあった。<偶像>に祭り上げられたカートは、次第に追い詰められていく。遺書には自責、罪の意識、自嘲を示す言葉がちりばめられていた。<創作に意欲を感じなくなった俺は、君たちをこれ以上、騙すことができない>、<情けなくて神経質なジーザス野郎>……。カートと同じ立場に置かれたモリッシー(スミス)は、<聖>と<俗>を使い分け、<情けなくて神経質なジーザス>を演じることができた。コクトーやワイルドに心酔していたモリッシーは、名声を得る前に<偶像>たる準備を整えていたのだろう。

 双極性障害と慢性的腹痛に苦しみ続けたカートは、「死にたくなることが何度もあった」とインタビューで告白している。幼年期に多動性障害の治癒のためリタリンを処方されたことが、薬物依存の遠因になったとする声もある。心身の苦痛を和らげるため、鋭敏過ぎる感性を磨耗させるため、ファンの過大な期待から逃れるため、カートはヘロインに溺れていく。

 世紀を越え、カートとニルヴァーナは普遍的なイメージとして定着した。純粋かつ繊細な者には<カート・コバーンのように>、革命的変化をもたらす集団には<ニルヴァーナのように>……。それだけで余分な形容詞はいらない。映画「死ぬまでにしたい10のこと」(02年)も、<ニルヴァーナ神話>を利用していた。アンとドンがニルヴァーナのラストライブで出会ったという設定が、2人の生死を超えた絆の伏線になっている。ラストライブの場所はミュンヘンで、「死ぬまでに~」の舞台(カナダ)と遠いなんてケチを付けたって仕方ないけれど……。

 レディングフェス'92のライブを収録したブートレッグDVDを購入した。自らを浄化するようにシャウトするカートの姿に胸を打たれる。ラストでは、デイヴ・グロールが大暴れするのを横目に、カートがアメリカ国歌をかき鳴らしていた。フーとジミ・ヘンドリクスを足したような破壊衝動が、画面から伝わってくる。ニルヴァーナの本質が浮き彫りになる、ピーク時のパフォーマンスだった。

 カートは心身を刻み、血を吐きながら、<刹那>と<永遠>を同時に作り上げた奇跡のアーティストだった。カートに言葉を贈るとしたら、「安らかに眠ってくれ」しかない。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする