酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

初夏のロック雑感~獄友イノセンスバンド、そしてイエモン

2019-06-04 23:20:54 | 音楽
 1日深夜、英ダービーを見た。起伏に富んだ深い芝で世界のトップジョッキーが腕を競う。アンソニーヴァンダイクの優勝タイムは日本ダービーより10秒以上遅く、①③着馬は日本で〝走らない〟が定着したサドラーズウェルズ→ガリレオのサイアーライン。日英のターフの景色は別世界だ。

 スピードに特化した府中で2日、安田記念が行われた。2年前にPOGで下位指名したアーモンドアイとダノンプレミアムの対決に心が躍ったが、競馬の恐ろしさを思い知らされる結果に終わる。アーモンドは不利を克服して③着と能力の一端を見せたが、ダノンプレミアムはまさかの殿負け……。さすがプロというべきか、伊藤正徳元調教師はグリーンチャンネルで、パドック→返し馬におけるダノンの硬さと右トモの運びの悪さを指摘していた。
 
 今回は初夏のロック雑感を記したい。まずは「冤罪3部作」一挙上映会(ソシアルシネマクラブすぎなみ主催)連動企画として開催された「獄友イノセンスバンド ライブin阿佐ヶ谷」(阿佐ヶ谷ロフト)から。小室等&こむろゆいの父娘、谷川賢作、河野俊二の4人にその都度、メンバーを加えるフレキシブルな構成だ。2日夜は李政美、谷川と別ユニットで活動している佐野岳彦、見田諭がステージに立った。

 リーダーは谷川で、「獄友」主題歌の作詞を谷川俊太郎に依頼し、アルバム制作を進めた。第2部冒頭でパット・メセニーの曲を河野とセッションするなど、幅広い音楽性、そして毒舌が光っていた。佐野と見田は若々しくシャープなパフォーマンスを披露し、李は在日コリアンとしての矜持と情念を滲ませていた。

 娘との漫才のようなやりとりで和ませる小室は75歳。自身が作曲した「だれかが風の中で」(「木枯し紋次郎」主題歌)で10代の頃にタイムスリップし、ノスタルジックな気分に浸る。小室は初心を忘れぬ〝風にそよぐ葦〟で、時代閉塞に抗い続ける「炭鉱のカナリア」を自任している。その精神は荒ぶるパンクロッカーだ。

 俺は専ら、ロックを〝読書の供〟に用いている。最近ならイールズ、エディターズ、グリズリー・ベアらのCDを棚から取り出し、心地良い刺激を受けながらページを繰っている。アンテナは錆び付き、進取の気性も衰えているから、購入するのは馴染みのバンドばかりだ。まずはザ・ナショナル(US)の8th「アイ・アム・イージー・トゥ・ファインド」から。

 彼らのライブを見た時、マット・バーニンガー(フロントマン)の声質にイアン・カーティス、仕草にモリッシーを連想した。インディーズ(4AD)ながら壮大なロックアンセムで英米のチャートを賑わせたが、キャリアを積むにつれ4ADらしく実験的になってきた。本作には多くの女性アーティストが参加し、静謐で美しく、アンビエントで開放感に満ちたサウンドを創り上げた。

 フェスのヘッドライナー格に上り詰めたフォールズ(UK)は、ニューウェーヴのメランコリックなムードに裏打ちされた豊饒なポップを奏でてきた。5th「エヴリシング・ノット・セイヴド・ウィル・ビー・ロストPART1」は初心に帰った感がする。エキセントリックでアート色が濃かった1st「アンチドーツ」を彷彿させる本作は、PART2と対になっているという。年内に発売された折には併せて感想を記したい。

 サンプルは少ないが、両作は年間ベストアルバム候補と思いきや、〝伏兵〟が現れた。ザ・イエローモンキーが19年ぶりの新作「9999」の発表会を武道館で開催し、曲順通り演奏するシーンがBSスカパー!でオンエアされた。バンドの登場が想定外なのか、お約束なのかはともかく、曲のクオリティーの高さと、年齢に相応しい枯れた佇まいに感銘を覚える。掉尾を飾ったのは「刑事ゼロ」の主題歌だった。

 別稿(5月11日)で浅井健一をここ30年の邦楽NO・1ロッカーに挙げた。平成ベストロックアルバムを挙げるなら「セキララ」(シャーベット名義、実質的には浅井のソロアルバム)、「オリーブの樹の下で」(PANTA、響名義)、そしてザ・イエローモンキーの「SICKS」だ。「9999」は「SICKS」に匹敵する傑作だと思う。

 仕事先の夕刊紙で五木寛之は<昭和は豊饒な歌の時代だった>と綴っていた。平成は歌が壊れた時代とも言えるが、上記3作のソングライター、浅井、PANTA、吉井和哉は日本語と格闘し、ロックと融合させた。浅井はイメージをカラフルに紡ぎ、PANTAはラディカルな知性と先見性を表現する。そして吉井は、もののあはれ、無常観を織り込み、切ない刹那を織り込んだ。

 「最近の歌はなっていない」と言い出すのは、年寄りになった証拠だろう。でも俺の耳には、社会の逼塞と軌を一に、歌が退屈で凡庸になっているように聴こえている。


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2 コメント

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Unknown (ヒカリ)
2019-06-19 23:43:16
イエローモンキーの新譜はかなり賛否両論ありましたね。時折あちら側やこちら側という言葉を拝見する度に迷走王ボーダーという漫画を思い出しました。
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ノスタルジック (酔生夢死浪人)
2019-06-21 07:52:12
 還暦を過ぎた私にとって、和の情感に彩られた日本の歌と感じました。そもそも私はロックの文脈でイエモンを捉えていない。かつて美輪明宏もソングライターとしての吉井を絶賛していたのを思い出します。
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