前稿でギュンター・グラスの告白を取り上げた。敬意を抱く作家ゆえ、まずは弁護という文脈だったが、今稿では補足しながら角度を変えて取り上げたい。
グラスは自由都市ダンツィヒ(ポーランドが実効支配)出身で、父親はドイツ人、母親はスラブ系である。グラス自身は「召喚された」と説明しているが、武装親衛隊はナチス支配下地域の外国人が70%近くを占めていた。ナチスというとユダヤ人迫害を連想するが、武装親衛隊は戦闘兵補充の側面が強かったという。
ポーランドのレジスタンスはナチスに蹂躙され、<戦後支配>を目論むスターリンに見捨てられた。悲惨な結末は、アンジェイ・ワイダの「地下水道」に描かれている。多くの10代の少年も反ナチスに身を捧げたが、グラスにレジスタンスに参加する選択肢があったのかという点に興味がある。ナチスが提示した悪魔的な様式美に、15歳のグラスが魅入られた可能性も否定できないが、その<罪>は戦後の作品で贖われているのではないか。
グラス同様、積極的に政治に関わる作家は多い。日本の代表格は三島由紀夫と大江健三郎だろう。ちなみに日本では<グラス≒大江健三郎>のイメージが強いようだ。俺自身、三島と考え方は正反対なのに、作品や生き方に惹かれる部分が多い。三島は全共闘との討論では劣勢だったが、死に様は強烈なボディーブローになった。<おまえら、信念に体を張れるのか>という三島の問いに、団塊の世代は沈黙し、体制に取り込まれた。
グラス以上に敬愛するバルガス・リョサは、政治との関わりで評価を落とし、ノーベル賞まで逃した。社会の矛盾と権力の腐敗を告発する作品を発表してきたリョサだが、ブルジョアに担がれてペルー大統領選に立候補する。「裏切り者」のレッテルを貼られたリョサを破ったのが、かのフジモリ氏である。「民衆の代弁者」「貧しい者の救世主」として登場したフジモリ氏が、後に独裁と汚職で支持を失くすとは皮肉な話である。
グラスの「ブリキの太鼓」に触発され、「真夜中の子供たち」で名声を確立したサルマン・ラシュディは、「悪魔の詩」で政治と宗教の陥穽にはまった。ラシュディはイスラム教冒涜の科で、イスラム原理主義者から死刑を宣告される。日本にも波及し、翻訳者が惨殺されるという悲劇を招いた。ちなみにラシュディは今回の件で、師匠のグラスを弁護している。
騒動のおかげで自伝の売れ行きは上々らしい。ある世論調査の結果、70%近いドイツ人が「今回の件でグラスへの信頼は損なわれない」と答えているという。その点には安堵したが、今はただ日本語版の発売を待つしかない。
グラスは自由都市ダンツィヒ(ポーランドが実効支配)出身で、父親はドイツ人、母親はスラブ系である。グラス自身は「召喚された」と説明しているが、武装親衛隊はナチス支配下地域の外国人が70%近くを占めていた。ナチスというとユダヤ人迫害を連想するが、武装親衛隊は戦闘兵補充の側面が強かったという。
ポーランドのレジスタンスはナチスに蹂躙され、<戦後支配>を目論むスターリンに見捨てられた。悲惨な結末は、アンジェイ・ワイダの「地下水道」に描かれている。多くの10代の少年も反ナチスに身を捧げたが、グラスにレジスタンスに参加する選択肢があったのかという点に興味がある。ナチスが提示した悪魔的な様式美に、15歳のグラスが魅入られた可能性も否定できないが、その<罪>は戦後の作品で贖われているのではないか。
グラス同様、積極的に政治に関わる作家は多い。日本の代表格は三島由紀夫と大江健三郎だろう。ちなみに日本では<グラス≒大江健三郎>のイメージが強いようだ。俺自身、三島と考え方は正反対なのに、作品や生き方に惹かれる部分が多い。三島は全共闘との討論では劣勢だったが、死に様は強烈なボディーブローになった。<おまえら、信念に体を張れるのか>という三島の問いに、団塊の世代は沈黙し、体制に取り込まれた。
グラス以上に敬愛するバルガス・リョサは、政治との関わりで評価を落とし、ノーベル賞まで逃した。社会の矛盾と権力の腐敗を告発する作品を発表してきたリョサだが、ブルジョアに担がれてペルー大統領選に立候補する。「裏切り者」のレッテルを貼られたリョサを破ったのが、かのフジモリ氏である。「民衆の代弁者」「貧しい者の救世主」として登場したフジモリ氏が、後に独裁と汚職で支持を失くすとは皮肉な話である。
グラスの「ブリキの太鼓」に触発され、「真夜中の子供たち」で名声を確立したサルマン・ラシュディは、「悪魔の詩」で政治と宗教の陥穽にはまった。ラシュディはイスラム教冒涜の科で、イスラム原理主義者から死刑を宣告される。日本にも波及し、翻訳者が惨殺されるという悲劇を招いた。ちなみにラシュディは今回の件で、師匠のグラスを弁護している。
騒動のおかげで自伝の売れ行きは上々らしい。ある世論調査の結果、70%近いドイツ人が「今回の件でグラスへの信頼は損なわれない」と答えているという。その点には安堵したが、今はただ日本語版の発売を待つしかない。