厚労省の発表によると、今年上半期の出生数は3・1%減の33万9280人だった。人口減はとどまらず、日本は今や終活期に入ったといえるだろう。参院選では外国人排斥を唱える参政党が大きく勢力を伸ばしたが、日本の人口における外国人の割合はOECD38カ国中36番目で、生活保護を受給している世帯は3%未満だ。
俺は牛丼チェーンやファミレス、居酒屋で頻繁にランチを食べているが、店員の多くは外国人だ。先日訪れた新宿の老舗レストランでも2人のウエートレスは外国人だった。コンビニも同様で、工事現場やゴミ収集にも多くの外国人が携わっている。制度的不具合は別にして、労働力不足を補っているのは外国人で、擬制であっても共生社会が成立しつつあるのは確かなようだ。
移民問題を背景にした「入国審査」(2023年、スペイン)を新宿ピカデリーで見た。アレハンドロ・ロハス、ファン・セバスチャン・バスケスが共同監督・脚本を務めている。低予算のインディーズ作品だが、世界の映画祭で数々の栄誉に輝いた。冒頭で、グリーンカードの抽選でアメリカへの移民ビザをゲットしたエレナ(ブルーナ・クッシ)は事実婚関係にあるディエゴ(アルベルト・アンマン)とともに、バルセロナからニューヨークに向かう。
都市計画を学んだものの現在無職のディエゴはベネズエラ出身の38歳、ダンサーのエレナはスペイン生まれの32歳だ。空港に向かうタクシーのラジオから、カタルーニャ独立、トランプ大統領の壁建設関連のニュースが流れる。タイトルからして本作のテーマが奈辺にあるか見る側は推測してしまうのだが、製作サイドの巧みなミスリードであることがわかる。
俺はパスポートを持っていないし、海外に行ったことはない。だから、ニューヨークでの入国審査を新鮮な気持ちで見ていた。ディエゴとエレナは突然、別室に連れていかれ、居丈高なバスケス審査官(ローラ・ゴメス)の質問攻めに遭う。時折目を泳がせるディエゴに、何か隠し事があるのが窺える。祖国ベネズエラはアメリカと良好な関係とはいえないし、冒頭のニュースから政治的な背景があるのではと臆測してしまう。だが、審査官が突きたかったのは別の問題だった。
共同監督の実体験に基づく作品で、ともにベネズエラ出身だ。不条理な状況に追い詰められる可能性が描かれているが、ポイントは移る。バスケスの遠慮のない問いは夫婦生活に及び、かつてのディエゴの婚約に及ぶ。別々の部屋で各自が審問されるようになると、エレナの表情が変化が訪れる。<権力によるカップルの審査>から<エレナによるディエゴの審査>へと位相が変わった。
女性の多くはディエゴの嘘を許せないだろう。嘘つきの俺は、ディエゴに少し肩入れしながら見入っていた。南米からEU圏に来たもののチャンスはなく、ならばと移民国家アメリカで夢を追おうともがくディエゴの気持ちが理解出来た。エレナへの思いが強いことは疑いようがないのだから……。
スペインに強制送還かなと思っていたが、ラストは違った。ディエゴとエレナには愛の修復が試される。サディスティックといっていいほどカップルをいたぶった審査官たちは、遅めのランチタイムを満喫しているのだろう。