EU議会選で極右が議席を伸ばした。フランスではマクロン大統領率いる与党連合が議席数で極右の国民連合の半数以下と惨敗した。議会を解散し、〝揺り戻し〟に懸けるマクロンだが、577の選挙区で候補を一本化する左派政党(緑の党、社会党、共産党、不屈のフランス)にも及ばない可能性もある。窮地のマクロンに救いの手を差し伸べたのが国民連合のルペン前党首で、選挙の結果にかかわらず共闘を呼び掛けた。五里霧中とはこのことか。
グリーンズジャパンの会員である俺は、今回の選挙結果に愕然とした。環境と多様性を訴える欧州のグリーンズは各国で議席を減らし、移民への厳しい対応を訴える極右の伸張に繋がった。根底にあるのは未来への不安だ。フランスでは67~68歳まで働き続けなければならず、年金額も年々減少すると予測されている。理想は崩れつつあるのだ。
新宿武蔵野館で先日、「バティモン5 望まれざる者」(2023年、ラジ・リ監督)を見た。長編映画デビュー作「レ・ミゼラブル」(19年)は世界の映画祭で多くの栄誉に輝いた。「バティモン5」の舞台はバンリュー(パリ郊外)の架空のモンヴィリエ市だ。移民が多数を占め、犯罪多発地帯という設定になっている。
冒頭はドラスチックで、低所得者層が暮らしていたアパートが爆破される。スイッチを押した市長は心臓発作で亡くなり、与党の投票で小児科医のピエール(アレクシス・マネンティ)が傀儡として市長に選ばれる。僅差で敗れたのは移民ながらも15年間、市政を支えてきたロジェ(スティーヴ・ティアンチュー)だった。ピエールはモンスターになり、移民に寄り添っていたはずのロジェは滑稽な姿を晒すことになる。
10階建てアパートで老女が亡くなった。エスカレーターが故障したままで、暗い階段を数人がかりで棺を下ろしていく。行政への怨嗟の言葉に、住民たちが置かれている状況が窺える。気丈に場を仕切るのが孫娘のアビー(アンタ・ディアウ)で、移民たちのケアスタッフとして働いている。アビーは前向きに政治に関わっているが、アビーの友人であるブラズ(アリストート・ルインドゥラ)は蓄積した怒りの矛先を見つけられずにいた。アビーとブラズをキング牧師とマルコムXになぞらえる台詞が印象的だった。
アビー、ブラズ、ピエール、ロジェが回転軸になってストーリーは進行する。市庁舎にデモ隊が集結するといった派手な展開を予測していたが、ドキュメンタリーで学んだリ監督は、緻密かつリアルに政治の力学に迫っていく。キャリアが乏しいが良心的と思われていたピエールだが、〝逆ギレ〟的に高圧的な政策を実行していく。その典型は3人以上のティーンエイジャーの夜間外出禁止で、抗議デモを主催したアビーは、立ちはだかるピエールに市長選出馬を伝える。
本作にも描かれているが、フランスは<選択的移民政策>を取っている。ピエールはシリアからの移民を受け入れたが、キリスト教徒であることが条件だった。「バティモン5」で火事が起きた後、ピエールは遂に強硬手段に訴える。予告なしで住居に押し入り、強制退去を命じた。ブラズの怒りは沸点に達し、クリスマスの夜にピエール宅を襲撃する。そこに居合わせたのがロジェだった。
多様性が失われ、民主主義の理念さえ危うくなるが、地道に毅然とした態度で前に進むアビーの姿に希望を覚えた。サッカー欧州選手権のオーストリア戦を控えたエムバペは、「国民連合の権力奪取を阻止するよう闘う」と主張したテュラムに賛同し、「自身の価値観が合わない国を代表したくない」と明言した。2人とも移民の血を受け継いでいるが、富裕層でもある。違和感を覚える若者もいるかもしれない。
グリーンズジャパンの会員である俺は、今回の選挙結果に愕然とした。環境と多様性を訴える欧州のグリーンズは各国で議席を減らし、移民への厳しい対応を訴える極右の伸張に繋がった。根底にあるのは未来への不安だ。フランスでは67~68歳まで働き続けなければならず、年金額も年々減少すると予測されている。理想は崩れつつあるのだ。
新宿武蔵野館で先日、「バティモン5 望まれざる者」(2023年、ラジ・リ監督)を見た。長編映画デビュー作「レ・ミゼラブル」(19年)は世界の映画祭で多くの栄誉に輝いた。「バティモン5」の舞台はバンリュー(パリ郊外)の架空のモンヴィリエ市だ。移民が多数を占め、犯罪多発地帯という設定になっている。
冒頭はドラスチックで、低所得者層が暮らしていたアパートが爆破される。スイッチを押した市長は心臓発作で亡くなり、与党の投票で小児科医のピエール(アレクシス・マネンティ)が傀儡として市長に選ばれる。僅差で敗れたのは移民ながらも15年間、市政を支えてきたロジェ(スティーヴ・ティアンチュー)だった。ピエールはモンスターになり、移民に寄り添っていたはずのロジェは滑稽な姿を晒すことになる。
10階建てアパートで老女が亡くなった。エスカレーターが故障したままで、暗い階段を数人がかりで棺を下ろしていく。行政への怨嗟の言葉に、住民たちが置かれている状況が窺える。気丈に場を仕切るのが孫娘のアビー(アンタ・ディアウ)で、移民たちのケアスタッフとして働いている。アビーは前向きに政治に関わっているが、アビーの友人であるブラズ(アリストート・ルインドゥラ)は蓄積した怒りの矛先を見つけられずにいた。アビーとブラズをキング牧師とマルコムXになぞらえる台詞が印象的だった。
アビー、ブラズ、ピエール、ロジェが回転軸になってストーリーは進行する。市庁舎にデモ隊が集結するといった派手な展開を予測していたが、ドキュメンタリーで学んだリ監督は、緻密かつリアルに政治の力学に迫っていく。キャリアが乏しいが良心的と思われていたピエールだが、〝逆ギレ〟的に高圧的な政策を実行していく。その典型は3人以上のティーンエイジャーの夜間外出禁止で、抗議デモを主催したアビーは、立ちはだかるピエールに市長選出馬を伝える。
本作にも描かれているが、フランスは<選択的移民政策>を取っている。ピエールはシリアからの移民を受け入れたが、キリスト教徒であることが条件だった。「バティモン5」で火事が起きた後、ピエールは遂に強硬手段に訴える。予告なしで住居に押し入り、強制退去を命じた。ブラズの怒りは沸点に達し、クリスマスの夜にピエール宅を襲撃する。そこに居合わせたのがロジェだった。
多様性が失われ、民主主義の理念さえ危うくなるが、地道に毅然とした態度で前に進むアビーの姿に希望を覚えた。サッカー欧州選手権のオーストリア戦を控えたエムバペは、「国民連合の権力奪取を阻止するよう闘う」と主張したテュラムに賛同し、「自身の価値観が合わない国を代表したくない」と明言した。2人とも移民の血を受け継いでいるが、富裕層でもある。違和感を覚える若者もいるかもしれない。
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