酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「米軍が最も恐れた男」~受け継がれる瀬長亀次郎の不屈の魂

2019-08-15 19:33:27 | 社会、政治
 香港が深刻な事態に直面している。20万近い人民解放(=封殺)軍が広東省に集結しており、第二の天安門事件を危惧する声もある。香港の現在に、身を賭して闘った市民と学生の貴い犠牲の上に勝利した韓国の民主化闘争が甦った。

 <価値観>を拒否する日本人は、〝どっちもどっち〟の相対的な場所に逃げ込む。独立系メディアが報じる、中国当局の意を受けた警察の暴力は凄まじい。抵抗する側も戦術をエスカレートせざるを得ないが、いずれが正義で、いずれが悪かは議論の余地がない。

 香港と重なるのはオール沖縄の<イデオロギーよりアイデンティティー>のスローガンだ。絶対的な権力VSプライドと良心を懸けて闘う民衆……。沖縄と香港、そしてパレスチナも同様の構図の上に成り立っている。オール沖縄の魁として県民に敬愛されているのは瀬長亀次郎である。

 瀬長の半生を追ったドキュメンタリーを日本映画専門チャンネルで見た。「米軍(アメリカ)が最も恐れた男~その名は、カメジロー」(2017年、佐古忠彦監督)で、坂本龍一が音楽、故大杉漣と山根基世がナレーションを担当していた。今週末には続編「不屈の生涯」が公開される。

 4年前の夏、国会前に反戦争法のデモ隊が集結したが、日米安保と沖縄を捨象した識者のアピールに違和感が拭えなかった。<憲法9条があったから、日本は平和だった>が戯言に過ぎないことは本作でも明らかだ。8月15日以降も、沖縄では戦争が続いている。

 大日本帝国によって捨て石にされた県民の目に米軍は当初、解放軍と映ったが、本性はたちまち明らかになる。女性たちを暴行し、基地用の土地を県民から奪う。軍政府幹部は<米軍は猫で、沖縄は鼠。鼠は猫の許す範囲でしか遊べない>と語ったが、不屈の魂を持つ鼠がいた。

 治安維持法違反で下獄した経験のある瀬長は戦後、うるま新報(現琉球新報)社長に就任し、沖縄人民党結成に関わった。人々を魅了したのは激烈でありながら、ユーモアとウイットに富んだ演説である。名言の一つを以下に紹介する。

 <瀬長ひとりが叫んだら50㍍先まで聞こえます。ここに集まった皆さんが声を一つに叫んだら全那覇市民に聞こえます。70万の沖縄人民が声を揃えて叫んだら、太平洋の荒波を超え、ワシントン政府を動かすことが出来ます>……。

 基地労働者の待遇改善要求、土地収用法反対運動の先頭に立った瀬長だが、退去命令が出ていた仲間を匿った罪で投獄される。収監された刑務所で受刑者に団結と非暴力を訴えたのは瀬長の声望は増す一方で、出獄時は万余の歓声に迎えられる。

 瀬長は繰り返し<民主主義の価値>を謳った。自由の保護者然と振る舞うアメリカの欺瞞を知る沖縄県民の代弁者だった。瀬長を弾圧した米軍関係者は後に、<沖縄、そして瀬長に対して行ったことは民主主義と遊離していた>、<愛すべきキャラの瀬長を殉教者にしたことは最大の誤りだった>と語っている。

 目取真俊の「魚影記」に収録されていた「平和通りと名付けられた街を歩いて」は秀逸なメタフィクションで、沖縄県民の反皇室の思いが込められていた。昭和天皇が沖縄を米国に売り渡した経緯は本作にも紹介されている。<米国の沖縄占領を長期的に続けることを、天皇は私利に基づいて願っている>と米国の公文書に記されている。

 衆議院議員になった瀬長は佐藤栄作首相(安倍首相の叔父)の施政方針演説に、<日本政府が目指すのは沖縄返還ではなく基地の維持>と喝破する。核と化学兵器の持ち込みをニクソン大統領と密約していた佐藤だが、瀬長に一定の敬意を払っている様子が窺える。立法府は半世紀前、現在よりまともだった。

 瀬長は「どんな嵐にも倒れない。沖縄の生き方そのもの」とガジュマルの木を愛した。<正義は必ず勝つ>という信念は現在の沖縄に受け継がれている。死を前に「マジムン(魔物=基地)」を退治出来なかったことが悔い」と記していた。

 <大切なのは勝ち負けではなく、目的に向かって近づくこと。俺が死んでも志を継ぐ者が必ず現れる。多くの人が平等で幸せに暮らせる日が来るまで、敗れても敗れても闘い続ける。100年先か、1000年先か、そんな日は必ず来る>……。

 当ブログで「忍者武芸帳」(1967年、大島渚)の影丸の台詞を繰り返し紹介してきた。瀬長とはまさに影丸だったのだ。

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