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酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「エレニの帰郷」~崇高な愛を描くアンゲロプロスの遺作

2014-01-29 23:47:13 | 映画、ドラマ
 小出裕章氏の声明がきっかけになったのか、脱原発両陣営の支持者に互いへの批判を控える動きが広がり、「ガンバレよ オマエモナ」とエールを送るイラスト(座間宮ガレイ作)が拡散している。細川氏は立候補会見で「六ヶ所村ラプソディー」に感銘を受けたと語っていたが、監督である鎌仲ひとみ氏は宇都宮支持を表明している。分裂したものの両陣営の感性は遠くない。選挙後はきっと亀裂を修復できるはずだ。

 宇都宮候補の街頭演説を新宿東口で聞いた。司会を務める橋本美香さん(制服向上委員会会長)に目が釘付けになってしまったが、それはともかく、細川陣営の盛り上がりと比べると停滞感は否めない。「選挙フェス」で旋風を巻き起こした三宅洋平氏が前面に立ち、熱を注入する時機ではないか。

 首相の肝いりで籾井氏を会長に据えたNHKを筆頭に、辺見庸の言葉を引用すれば<巨大メディアの「安倍機関化」>が進行している。舛添候補が勝てば、脱原発陣営は不公正な報道を敗因のひとつに挙げるだろう。でも、その〝お約束〟に俺は納得しない。東欧や韓国では、徹底した言論弾圧下で夥しい血が流れながら、歳月をかけて変革を勝ち取った。メディアの翼賛化が当分続く以上、闘う者は知恵をひねり出さねばならない。

 新宿バルト9でテオ・アンゲロプロスの遺作「エレニの帰郷」(09年)を見た。5年のタイムラグを経ての日本公開で、倒産の危機にあるフランス映画社に代わり、配給は一見〝ミスマッチ〟の東映だ。字幕を担当したのは監督と親交のあった池澤夏樹である。主な登場人物は映画監督A(ウィレム・デフォー)、Aの母エレニ(イレーヌ・ジャコブ)、父スピロス(ミシェル・ピッコリ)、そしてエレニを庇護してきたヤコブ(ブルーノ・ガンツ)の4人だ。

 Aが母と父の半生をテーマに映画を撮るという設定で、アンゲロプロスらしく歴史のうねりを背景に据えた作品になっている。1953年から21世紀初頭までの半世紀を遡行しカットバックしつつ、ローマ、ニューヨーク、カザフスタン、シベリア、ハンガリー、トロント、最後はベルリンと舞台を転じながら壮大な物語が紡がれる。

 本作のハイライトのひとつで、アンゲロプロスの作意が投影されていたのは、荒らされた撮影班の事務所のシーンだ。「ディーバ」でお馴染みのオペラ「ラ・ワリー」(カタラーニ)のアリアが鳴り響き、Aの目に落書きされた天使の絵が映る。天使の手の先に<第三の翼>が描かれていた。

 「ラ・ワリー」は娘ワリーと2人の男を巡る悲劇で、本作におけるエレニ、スピロス、ヤコブが過ごした半世紀にそのまま置き換えられる。「歴史に掃き出された」とスピロスの台詞にあるように、3人は歴史に翻弄されてきた。<第三の翼>の原型は次のシーン(40年遡ったシベリアの収容所)で明かされる。女性詩人が高台からビラを撒き、「天使は叫んだ、第三の翼」と叫んで取り押さえられた。

 エレニとヤコブはこの場面を眺めていた。<第三の翼>は天使の沈黙、墜落、望み得るユートピアのメタファーで、ビラを撒く詩人のイメージはその後、死の匂いを纏って現れる。エレニと名付けられたAの娘が佇む廃墟のバルコニー、絶対的な孤独に苛まれたヤコブが立つ船の甲板だ。

 ヤコブ役のブルーノ・ガンツが守護天使を演じた「ベルリン・天使の詩」への敬意が窺え、エレニとスピロスの再会の場面には「ひまわり」が重なった。アメリカで反戦運動に関わったAは、50歳前後になった今も、部屋にジム・モリソン、ボブ・マーリー、ルー・リーらのポスターを貼っている。アンゲロプロスはロックに詳しくないはずで、周りの意見を参考にしたに相違ない。

 以前の作品とトーンが異なっていると俺は感じた。<俯瞰の構図に個々が収まりラストに向かう>のが従来のアンゲロプロスなら、<個々が背景からくっきりカラフルに浮き上がった>というのが本作の印象だ。「物語だけが僕の居場所。それ以外の所に僕は存在しない」と元妻の背中に語りかけたAの台詞は、まさに巨匠の本音といえるだろう。

 崇高な愛と絆に深い感銘を受け、ラストにカタルシスを覚える。スクリーンは大きな濾紙になり、俺の汚れや荒みをしばし浄めてくれた。
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「季節の記憶」~緩やかに飛翔する物語

2014-01-26 22:33:40 | 読書
 キリストには殉教者と革命家の二つの貌があった。日本の脱原発運動に置き換えれば、殉教者≒小出裕章氏、革命家≒広瀬隆氏が両輪として支えてきた。五臓六腑から吐き出す小出氏の言葉に心は潤い、広瀬氏の鋭い指摘に心は尖った。

 絶大なる敬意を互いに抱く2人だが、都知事選では立ち位置が異なった。広瀬氏は細川支援に回り、小出氏は宇都宮支持を明かしつつ、反原発陣営に生じた亀裂を憂える声明を発表した。<今回の経験(仲間たちの分裂)を経て、私はますます政治が嫌いになりましたし、今後は一層、政治、特に選挙からは遠ざかろうと思います>と記した小出氏の苦悩はいかほどが。

 沖縄で起きたことから判断すれば、脱原発の闘いは今後も続く。仲井真知事と自民党以外、沖縄では全首長、議会、選出国会議員が普天間基地の辺野古移設に反対しているが、政府は埋め立て強行を表明した。反原発も同様で都知事選後、分裂した両グループは手を携えて巨大な壁に立ち向かわなければならない。小出氏の思いを受け止め、関係修復に向け今から準備すべきだ。

 「季節の記憶」(保坂和志/96年、中公文庫)を読了した。別稿(1月5日)に記したように、読書はロッククライミングに似ている。脳が摩耗してグリップ出来ず、放り出しを繰り返していたが、本作には自然に入り込めた。俺と保坂は生年月日が同じで、似たような日々を過ごしてきたことが、馴染めた最大の理由かもしれない。

 稲村ケ崎を舞台に、時は循環するように流れる。主人公はバツ1の中野で、コンビニに並ぶ企画本の編集に携わっている。といっても、出版社に足を運ぶのは稀で、自宅で仕事をしている。家族ぐるみで交遊しているのは松井兄妹だ。年は20歳離れているから、兄妹というより父娘といった感覚で、便利屋を生業にしている。4人に共通しているのは他者への寛容さと水平思考だ。

 閑人トリオの中野父子、松井家の美紗ちゃんの日課は散歩で、自然の移ろいを満喫している。取り立てて事件が起きるわけではなく、会話を軸に進行する本作は、「吾輩は猫である」を彷彿させる。レギュラーが育む円い世界に、一風変わった人たちが闖入する。まあ、この4人にしても、思考回路や体内時計は普通の人と大きくずれていて、〝あくせく〟が当然の日本社会では異端といえるのだけど……。

 近くに越してきたナッちゃんは、美紗ちゃんの少し年長の旧友で、離婚して実家に戻ってきた。元夫が盗聴器を仕掛けていると本気で心配するナッちゃんは、マシンガントークで中野をたじろかせる。娘のつぼみちゃんは同い年の圭太にとって貴重な遊び相手だ。夫婦喧嘩が原因なのか、幼くして男性恐怖症の嫌いがあるつぼみちゃんだが、すんなり受け入れたのが中野の元同僚で、ゲイの二階堂というエピソードも面白い。

 中野宅を頻繁に訪れるのが二階堂で、電話を掛けてくるのが旅館の旦那である蛯乃木だ。パソコンや携帯電話が普及していなかった当時、コミュニケーションの取り方はアナログだ。両者との会話が、中野の考え方や来し方を読者に伝える役割を担っている。ちなみに中野は突然、妻に逃げられた。喪失感ゆえ美紗ちゃんに懸想するという俗物の俺の予想は、見事に外れる。

 キャラが立っているのが圭太だ。幼稚園に通っていないから時間はたっぷりあり、近所の家で虫を駆除して感謝されるなど自由に徘徊している。世間体や偏見といった狭いルールから自由で、海辺のホームレスのおじさんと仲良くなった。圭太は大人たちを驚かせる刺激体だ。

 圭太の直感から、会話は観念と哲学へと飛翔する。愛について、時間について、宇宙について、世界をいかに認識するか、死後の世界について、意識とは、文字と言語の違いは、世界をどう捉えるべきか……。平易でありながら本質を突く言葉がやりとりされる。

 門を叩いたばかりの保坂ワールドは、安らぎと癒やしに彩られていた。流れる空気は細川氏の決意表明、高坂勝氏(緑の党共同代表)が主張する「減速して生きる」に重なる部分が多い。本作はバブル崩壊後、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件が起きた95年に書かれた。日本人が来し方を振り返り、新たな生き方を志向した時期でもある。保坂はファジーかつ明快な答えを示したのではないか。
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都知事選告示日に寄せて~闘いの先に光は射すか

2014-01-23 22:15:27 | 社会、政治
 <俺にとって「おぞましい」もう一つのニュースは、次稿の枕で記したい>と前稿に記した。そのニュースとは「連合東京の舛添候補支持」である。吐き気を覚えるほどのおぞましさだが、「民主党はなぜ、たった一夜で舛添氏から細川氏に鞍替えしたのか」との古賀連合会長の批判は的を射ている。

 野田政権は原発再稼働、TPP参加、消費税アップに舵を切り、沖縄の声を封殺する。仙谷官房長官(菅内閣当時)は秘密保護法の必要性を説いていた。09年8月、<革命が起きた>と報じたメディアは、〝革命の安売り〟を恥じるべきだろう。

 前稿アップの直後、知人から送られた「広瀬隆氏が細川支持に回るらしい」とのメールに、心が千々に乱れた。脱原発統一候補として細川氏を推す著名人の中に、広瀬氏の名前は確かにあった。仕事先の先輩Yさんは広瀬氏の決断を高く評価しているが、フェイスブックやツイッターでは、〝裏切り〟と非難する書き込みが多数を占めているという。広瀬氏は講演会や著書で小泉、細川両氏を厳しく評してきたから尚更だ。

 俺は当ブログで、広瀬氏の人格と見識を称えてきた。〝脱原発のアジテーター〟は偏見で、各企業の研究者と交流し、エネルギー問題全般に理解が深い。早くからシェールガスの可能性に言及し、原発推進派の拠りどころだった<二酸化炭素地球温暖化説>をぶった斬っている。代替エネルギーについての知識は他の追随を許さない。

 自ら揶揄するように〝放送禁止物体〟で終われば、蓄積を形にするチャンスはない、親交のある古賀茂明氏(細川陣営のブレーン)の意見も参考にしたはずだが、広瀬氏は廃炉に向けた具体的な案を脱原発集会などで、以下のように明かしていた。

 <私たちの目標は、東電や銀行を潰すことではない。あくまで東電が主体になって原発を廃炉にすることで、その費用を国民が負担(電気料金値上げ)することも受け入れるべきだ>

 極めて現実的な道筋だと思うが、耳を傾ける人は少なかった。細川氏が当選すれば、廃炉に向けた委員会が立ち上がる。その中心に広瀬氏が据えられることを切に願う……。と書いたものの、宇都宮支持は揺るがない。俺は氏が代表を務める「反貧困ネットワーク」の一員であり、緑の党入会カウントダウン状態である。言霊に呪われることは避けたいものだ。

 細川氏の立候補会見は、「同じ志を持つ候補はいない」との発言を除いて奥が深い内容で、宇都宮氏と同氏を支援する緑の党に重なる部分が大きい。一本化がならなかったのは残念で仕方ないが、宇都宮氏の頑固さを理由に挙げる者もいる。一方で、細川陣営の対応に礼を失した点が多々あったと指摘する声もある。

 反特定秘密保護法の集会で、広瀬氏を真ん中に、向かって右に三宅洋平氏(緑の党)、左に山本太郎氏というスリーショットの映像がある。和やかに語らっていたが、広瀬氏は細川陣営、三宅氏は宇都宮陣営と袂を分かった。山本氏にとって広瀬氏は師匠で、三宅氏は同志だから、旗幟を鮮明にしていない。脱原発を志向しながら板挟みになっている人は多いはずだ。

 ピーター・バラカン氏は、「複数のラジオ局から都知事選投票日まで原発について触れぬよう通達された」ことを明かした。舛添陣営の主な武器は言論弾圧とメディア操作で、上記の細川会見も肝心な部分はカットしてオンエアされた。読売、産経、日経に加え、文春と新潮も<細川=小泉>攻撃を繰り返すだろう。

 小泉氏に加え菅元首相、小沢氏(生活の党)も細川支持を表明した。選対には手練れが集ったようだが、足し算にならない可能性もある。発信力を誇る小泉氏だが、主導した構造改革が招いたのは格差と貧困で、怨嗟の声は強い。菅、小沢氏に至っては拒否反応の方が上回る。細川陣営の次なる手は、小泉信次郎議員、脱原発派の河野太郎議員らの自民離党ではないか。

 著名人を集めた細川陣営だが、ドラフト1位指名は、名護で闘い東京に戻ったばかりの三宅氏だったはずだ。「降りるよう宇都宮氏を説得してくれ」と何度も頼まれたことをブログで明かしている。三宅氏は「宇都宮さんと僕ら市民の間には、明確に見える糸がある」と誘いを断り、告示当日からフル回転した。渋谷や新宿での宇都宮氏の街頭演説には多くの聴衆が詰めかけ、あの7月の熱気が甦る気配という(追記・新宿西口に5000人!)。

 細川サイドからの一本化の提案は「これが最後のチャンスだから降りてくれ」というものだった。20代をポーランドで過ごし、連帯の活動を間近で見ていた知人は、日本で革命が息吹いているのは沖縄だけで、「これが最後」なんてありえないと語っていた。だが、「放射能汚染を食い止めるにはもう時間がない」とする、細川陣営に加わった著名人の心情も十二分に理解できる。

 自らの元を去った人に、宇都宮氏は「終われば水に流しましょう」と語ったという。果たして亀裂は修復できるだろうか。そして、次の闘いはあるのだろうか。
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安倍政権の卑屈さ、日本の孤立、民意の意味~名護市長選に感じたこと

2014-01-20 23:34:34 | 社会、政治
 <原子力産業に携わる人々の思想信条をチェックすることが赤狩りの端緒だった>……。広瀬隆氏は「億万長者はハリウッドを殺す」でこのように指摘している。赤狩りと軌を一に誕生したCIAの日本における最初のミッションは原発だった。正力松太郎(読売新聞社主)はエージェントとして辣腕を振るい、原発と巨人を武器に読売は部数を伸ばした。

 原発推進が社是の読売グループ本社渡辺会長が、赤狩りのDNAを受け継いだ特定秘密保護法の「情報保全諮問会議」座長に収まった。辺見庸氏は「おぞましい」とブログで吐き捨てていたが、歴史をひもとけば必然の成り行きか。俺にとって「おぞましい」もう一つのニュースは、次稿の枕で記したい。

 名護市長選挙で、普天間基地辺野古移設反対を訴えた稲嶺氏が再選を決めた。この結果に感じたことを以下に……。

 この間の経緯を見ると、安倍政権の卑屈さが浮き彫りになる。古賀茂明氏が年末の講演で指摘していたが、辺野古移設に向けた交渉で安倍政権はアメリカに対し、地位協定の改定を一切求めなかった。<国家としてのプライド≒ナショナリズム>の欠落に愕然とする。対照的なのがフィリピンで、恫喝にひるむことなく、米軍基地撤退を実現させた。

 上に卑屈な者は、下と見做す相手に高飛車に出る。選挙結果を踏まえ、自民党石破幹事長は名護市への振興基金をゼロベースで見直す旨を表明する。仲井真沖縄知事には移設と引き換えに毎年3000億円もの振興予算を計上すると伝えていた。札束で頬を引っぱたくというやり方だが、〝落ちてきた金〟は甘い毒で、地元を腐敗と衰退に導くのが世の常だ。沖縄も同様で、金武湾にCTS(石油備蓄基地)が建設された際、補助金を得て反対から離脱した自治体は自助努力を怠り、赤字に転落したという。

 麻生副総理の「ナチスに倣え発言」、安倍首相の靖国参拝に先進国から批判の声が上がったが、国内では両者への容認、支持の声が強い。内外のギャップが広まり、日本を異質な国と見做すムードが蔓延する中、海外の識者、文化人が<沖縄の海兵隊基地建設に対する非難声明>を出した。「私たちは沖縄県内の新基地に反対し、平和と尊厳、人権と環境保護のために闘う沖縄の人々を支持します」と冒頭に記され、ノーマ・チョムスキー、ジョン・ダワー、ナオミ・クライン、オリバー・ストーンらが名を連ねている。

 「標的の村」にも描かれていたが、10万人(人口の10分の1)が人間の鎖として基地を囲んだ。全41市町村首長がオスプレイ配備撤回、辺野古移設反対を求める建白書に署名したことが声明文に織り込まれ、日米両政府を厳しく非難している。賛同人の多くは「デモクラシーNOW!」の常連だ。メーンキャスターのエイミー・グッドマンが先週来日し、「安倍政権の危険な体質」「沖縄での闘い」「官邸前の反原発デモ」をテーマに3日間、番組を世界に発信した。

 「日本国憲法」のジャン・ユンカーマン監督は現在、沖縄をテーマに映画を作っているが、グッドマンの来日、上記声明の賛同人のメッセージも作品に収められるはずだ。反秘密保護法、護憲、脱原発、そして沖縄での闘いが<民主化を測るリトマス紙>になりつつあることを、当の日本国民は知らない。

 南相馬市長選で「脱原発をめざす首長会議」の中心メンバーである桜井氏が再選を果たした。脱原発に向け地方は動き始めているのに、安倍政権は再稼働に邁進している。暴挙を支えているのは見せかけの内閣支持率だが、NHKを筆頭にメディアは信用できない。かつて〝恐怖のイメージ〟だった「1984」(ジョージ・オーウェル)は、民意が顧みられない現在の日本でリアルな像を結びつつある。

 最後に、NFLについて。<AFCはブロンコス、NFCはシーホークスと今季の贔屓チームが決まった>と別稿(昨年10月)に記したが、その両チームがスーパーボウルで対戦する。いずれが勝っても〝終わり良ければすべて良し〟で、のんびり楽しむことができる。
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原点とは、立脚すべき地点とは~「ゼロ・グラビティ」が問い掛けるもの

2014-01-17 16:29:35 | 映画、ドラマ
 「SIGHT」、「週刊金曜日」とともにリベラル、ラディカル御用達「DAYS JAPAN」の新編集長が決まった。公募で選ばれた丸井春さん(31歳)である。特定秘密保護法成立により取材はさらに厳しくなるだろうが、同誌の更なる奮闘を期待したい。

 上記3誌を愛読する全共闘世代の知人がいる。反原発デモに長年参加し、反秘密保護法、普天間基地移設反対、ヘイトスピーチへのカウンターと常に声を上げている。彼の好きな言葉は<原点>で、谷川雁に影響を受けたオールドレフトだ。「都知事選は誰に投票する?」と尋ねられ、「義と情で宇都宮氏に投票する」とメールを返信した。俺は反貧困ネットワーク(宇都宮健児代表)の一員で、当ブログで記したように、高坂勝、三宅洋平両氏にインパクトを受け緑の党入会を考えている。〝変節〟は言霊が許さない。

 知と理で勝負する識者の多くは、脱原発派が一本化するべきと唱えている。別稿(1月8日)で紹介した天木直人氏もそのひとりで、<細川―小泉連合>への熱狂に違和感を覚えるほどだ。宇都宮氏が降り、細川勝利の暁に副知事就任というプランもあったらしいが、仕事先の夕刊紙は既に「細川勝勢」と報じた。情勢分析が正しければ、一本化も不要になる。小泉氏が切り捨てた人たちに手を差し伸べてきた宇都宮氏を、〝細川知事〟が重用するはずもないからだ。

 新宿で先日、宇宙を舞台にした「ゼロ・グラビティ」(13年、アルファンソ・キュアロン監督)を見た。原題は“Gravity”、即ち「重力」である。ストーリーは至ってシンプルだが、立体感、浮遊感、孤独、絶望、再生を3Dで体感出来る奥深いエンターテインメントだ。顔の映るキャストはライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)、マット・コワルスキー飛行士(ジョージ・クルーニー)の2人だけである。

 ルーチンワークの作業中、アクシデントで大混乱に陥る。ロシアが自国のスパイ衛星を破壊した際に生じた破片が他国の衛星と衝突し、ライアン、マット、シャリフが乗り込むスペースシャトルも被害を受ける。シャリフは死亡し、ライアンとマットは機外に放り出された。

 地上との交信は途絶え、知力と人格が試される展開になる。開放的でお喋りのマットは今回が最後、無口のライアンにとっては初めての宇宙飛行だ。マットは妻に逃げられた思い出を面白おかしく話し、ライアンは亡くした娘の思い出に囚われている。対照的な2人だが、危機に直面して協力するうち打ち解けていく。人間性そのものが試される状況でマットは犠牲的精神を発揮し、離れ離れになりながらもライアンを勇気づける。

 発端になったのはロシアのミスだが、地上はともかく宇宙では、米露中は友好な関係を保っているという設定だ。神からの啓示を受けたと感じ、その後の人生を信仰に捧げる宇宙飛行士も多いが、ライアンもまた、それが臨死体験なのか、夢なのか、幻想かはともかく、神秘的な体験をする。遥か彼方(死後の世界)に赴いたはずのマットが現れ、ライアンにアドバイスするシーンが印象的だった。

 おまえにとって原点とは、立脚すべき地点とは、守るべきものは……。ライアンが地面を踏みしめるラストシーンは、様々なことを俺に問い掛けてくる。前稿で紹介した「キャプテン・フィリップス」には入り込めなかったが、「ゼロ・グラビティ」はフワフワしがちな俺の心に錨を下ろす作品だった。

 公開直前はゼロ対決が話題になったが、興行的には「永遠の0」が圧勝したようだ。母が原作を酷評したことは別稿(1月2日)に記した。頑迷?な保守派の母がボロクソに言うぐらいだからリベラル寄りの作品と誤解していたが、原作者の百田尚樹は安倍応援団の右派だと最近知った。母は一体、何が気に入らなかったのだろう。
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「キャプテン・フィリップス」に覚えた苦い後味

2014-01-14 22:42:56 | 映画、ドラマ
 安倍首相の〝大親分〟こと森元首相の東京五輪組織委会長就任が決定した。<五輪利権絡みで検察を動かし猪瀬失脚を実現した安倍政権>と記した前稿の枕は的外れではなかったようだ。一方で〝師匠〟の小泉元首相は都知事選で細川元首相を担ぎ、政権に牙をむいた。

 細川―小泉コンビのインパクトと比べたら、前回97万票を集めた宇都宮健児氏でさえかすんでしまう。「反原発票が割れるから、泡沫候補は降りるべき」と考える人もいるだろう。一方で<護憲、格差といったリトマス紙で判定したら、小泉氏が推す候補には絶対に入れない>という声もある。

 俺と同じく後者に属する知人が先ほど電話を掛けてきた。「おまえとこの新聞(夕刊紙)に評論家が書いてたけど、小泉が目指すのは細川勝利ではなく、脱原発のうねりを起こして安倍政権を揺さぶることか」と尋ねてくる。小泉氏の本音など俺が知る由はない。

 宇都宮氏にとって余計なのが共産党の推薦だ。宇都宮氏が代表世話人を務めている脱原発法制定の賛同者に、共産党議員の名はない。「反差別法」の立法化を目指す有田芳生議員に対しも、共産党は協力的とはいえない。自らがヘゲモニーを握らない運動には冷ややかという不治の病に、共産党は罹っている。

 桎梏を抱えながら、宇都宮氏を草の根的に支援するグループは多い。キックオフ集会(9日)は立ち見が出る盛況で、坂本龍一がメッセージを送り、石川セリが登壇する。坂本に加え沢田研二、菅原文太ら脱原発、護憲を訴える著名人が宇都宮氏と共に街頭に立てば空気は変わる。俺が期待しているのは、小泉氏並みの発信力を誇る三宅洋平氏(緑の党)だ。三宅氏は名護市長選と都知事選を、<3年後に政治状況をひっくり返す>ための一里塚と位置付けている。

 さて、ようやく本題。封切り終了直前の「キャプテン・フィリップス」(13年、ポール・グリーングラス監督)を有楽町で見た。世評の高い作品で、これから数々の受賞の報が届くかもしれないが、俺の正直な感想は〝肩透かし〟で、苦い後味が残る作品だった。

 実際に起きた海賊による「マークス・アラバマ号」乗っ取り事件(09年)をベースに製作された作品で、トム・ハンクスが抑え気味にフィリップスを演じている。ドキュメンタリータッチで、若者4人が乗り込むまでの経緯を丁寧に描いていた。

 同じくソマリアを起点に描いた「未来を生きる君たち」(10年、スサンネ・ビア監督)と比べると、高邁な意志と俯瞰の視点が欠けていた。「未来――」では貧困の後景に、グローバリズムと常任理事国の武器輸出を捉えていた。もうひとつの舞台であるデンマークとソマリアは、<天国と地獄>として対比されるのではなく、同じ根が張る世界の別の貌として描かれていた。

 俺が本作に期待したのは、フィリップスと4人の若者、とりわけリーダー格ムセ(バーカット・アブディ)との間に生じる、世代や生まれを超えたケミストリーだった。暴力的な傾向が強いムセだが、英語を話し、フィリップスとの折衝役になる。彼は富めるアメリカに強い憧れを抱いていた。

 本作に重なったのが、先日起きた容疑者逃走事件だ。言い逃れようのない警察の失態だったが、「マークス・アラバマ号」に起きたことも初動のミスである。フィリップスは関連機関に繰り返しSOSを発信するが、ナシのつぶてで、不慣れな海賊たちに船を支配されてしまう。フィリップスが連れ去られてから事態は急転し、最先端の技術を誇る米軍が救命ボートを取り囲む。物量の絶対的な差に若者たちは恐怖と絶望に苛まれ、フィリップスの目に傲岸と憐憫が宿り始めた。

 アメリカを筆頭に先進国に搾取され、部族長や〝将軍〟にも、代わりが無数にいる駒として扱われる。冷徹で残酷な世界の構図は最貧国ソマリアで鮮明だが、日本だって無縁ではない。リストラに成功した会社の株価が上がったというニュースを、我々は何の感慨もなく、当然のように受け止めている。
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「ヘイトスピーチとたたかう!」~共生への道筋を考える

2014-01-11 21:01:29 | 読書
 細川元首相が「脱原発」を掲げ都知事選に立候補する意思を固めた。五輪利権絡みで検察を動かし猪瀬失脚を実現した安倍政権にとって、藪蛇の事態になった。舛添相乗りから細川支持と、一夜で豹変した民主党に愕然とする。原発再稼働、TPP参加、消費税アップ、弱者切り捨てと、野田政権は地均しに徹して安倍政権にバトンを渡した。そんな民主党に脱原発を主張する資格はない。

 細川氏を支援する小泉氏は首相在任時、日本の空気を大きく変えた。前稿で紹介した「ファルージャ」はイラク日本人人質事件に焦点を当て、当事者のその後に迫っていた。小泉氏が高らかに叫んだ<自己責任>はたちまち社会に蔓延する。成田に降り立った人質を罵声で出迎えたのが、在特会の原型というべきグループだった。

 在特会に対抗するため昨年9月、辛淑玉氏の呼びかけで「のりこえねっと」が結成された。軌を一に出版された「ヘイトスピーチとたたかう!」(有田芳生著、岩波書店)を遅ればせながら読了する。有田参院議員の指摘は極めて真っ当と感じたが、自分なりに咀嚼して以下に記したい。

 「のりこえねっと」共同代表である河野義行氏は、松本サリン事件の被害者でありながら犯人扱いされ、誹謗中傷の餌食になった。ヘイトスピーチの実態を知った河野氏の目に、<在特会=匿名の攻撃者、在日韓国・朝鮮人=当時の自分>と映ったようだ。

 差別を露骨に表現するスピーチやネットへの書き込みを法で規制するか否かで、意見が異なる。規制しなければ司法の判断に委ねることになるが、在特会のデモを警察が守っているという指摘もあり、権力に阿りがちな司法や警察の姿勢を危惧する声もある。

 有田氏は立法化を訴え、他の議員に働きかけている。拡大解釈される危険性も承知の上だが、規制する法律は必要ではないか。麻生副総理の「ナチスに倣え」発言、特定秘密保護法、安倍首相の靖国参拝に対し、世界で〝日本異質論〟が浮上している。言論の自由と反差別を調和させる法律を作ることが、グローバルスタンダードを獲得するためのひとつの道筋になると思う。

 俺がヘイトスピーチを論じるのは無理がある。多様性と寛容に価値を見いだすファジーな日本人の典型だからだ。「ヘイト」の裏側には常に強いラブが存在するが、在特会支持者にとって対象は<日本>に相違ない。俺はアイデンティティー拒否症候群で、国であれ会社であれ学校であれ、帰属するものに距離を置いてしまう。水平思考に徹しているから、上から目線での否定とも無縁だ。

 総選挙直前の一昨年12月、俺は有楽町で安倍支持集会に遭遇した。排外主義的なプラカードが林立し、中韓を批判するアピールが相次いだ。自民圧勝は確実な情勢で、暗澹たる気分になった。と当時に、ある疑問が頭をもたげた。安倍首相は以前から軍備だけでなく〝強い日本〟を主張しているが、排外主義は桎梏になるのではないかと……。

 CIAの元日本分析官は「少子高齢化の日本が強くなるのは不可能」と断じていた。現在の日本を五木寛之は「下山の季節」と評していた。高坂勝氏(緑の党共同代表)の言葉を借りれば「ダウンシフターの時代」である。日本を唯一強くする手段があるとすれば、移民の受け入れだと思う。村上龍の「歌うクジラ」にも登場したが、〝移民による日本軍〟まで想定しないと、安倍首相の夢は実現しないだろう。

 「探検バクモン」(NHK)で爆笑問題が大久保を訪ねていた。在特会が練り歩いた一帯は2万2000人中8000人が外国人という国際色豊かな街で、彼らの差別的な言動はアジア、アフリカ、イスラム圏にも発信されたはずだ。

 女性やアジアの人々への侮蔑発言を繰り返した日本維新の会の石原共同代表、党総務会で差別をあらわにした麻生副総理も、心情的に在特会と近い。政治家をも規制し罰するような形で反差別法が成立することを願う。

 枕で記した都知事選だが、反貧困ネットワークの一員である俺は、もちろん宇都宮健児代表を応援する。宇都宮氏は「のりこえねっと」共同代表のひとりでもあり、本書にはヘイトスピーチ批判で攻撃に晒された有田氏に手を差し伸べたエピソードが紹介されていた。都知事選が政治ショーになることは確実だが、護憲、弱者への思い、脱原発を総合的に考えれば、適任者は宇都宮氏以外、見当たらない。
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「ファルージャ」が突き付ける罪の形

2014-01-08 23:48:32 | 映画、ドラマ
 毎日チェックしている天木直人氏(元外交官)のブログで、3日付東京新聞の記事が紹介されていた。神奈川県在住の女性が「憲法9条にノーベル平和賞を」と呼びかけ、集めた署名をノーベル委員会に送った。「抽象的なものは無理」との返答を受け、<9条を保持している日本国民>を候補に据える。国会議員や大学学長が推薦人に名を連ね始めているという。崇高な9条、そして日本国憲法の精神を守るための最良の方策と天木氏は期待を寄せている。

 仕事先の先輩Yさんが前稿のコメント欄に、衝撃の事実を貼り付けてくれた。ロシア大統領府が「福島第一原発地下で核爆発が起き、深刻な状況に陥っている」との政府令を大晦日に出し、関係機関に注意を喚起した。ル・モンドは大きく報道しているが、日本のメディアは一切触れない。原発セールスマンこと安倍首相は今月も外遊スケジュールがぎっしりだが、放射能逃れが目的かと勘繰りたくなる。

 映画担当記者に宣材用DVDを借り、「ファルージャ~イラク戦争 日本人人質事件……そして」(13年、伊藤めぐみ)を見た。04年にイラクで起きた日本人人質事件の当事者3人のうち、今井紀明さんと高遠菜穂子さんのその後に迫ったドキュメンタリーである。歪曲された当時の報道の残滓は、ウィキペディアの目を覆うような記述に表れている。

 外交下手の日本では、権力側との一元外交のみが〝正義〟になる。イラク民衆に寄り添うNGOの一員だった今井さんと高遠さんが、自衛隊撤退を要求するグループに誘拐されるという事態に、小泉首相、福田官房長官、小池環境相らから<自己責任>を追及する声が上がる。呼応したメディアは〝抗議が殺到〟という論調で報道した。

 事実はどうだったか。下村健一氏は北海道東京事務所に届いたファクスのうち抗議が500通、励ましが800通だったと証言している。今井さんが保存している手紙も、激励の方が明らかに多い。だが、誹謗中傷はやまず、今井さんは肉体的な暴力にも晒された。今井さんたちが成田空港に降り立った際、彼らを攻撃するプラカードで出迎えたのが後に在特会を結成するグループだったと、安田浩一氏は語っている。日本の空気を大きく変えた事件だった。

 今井さんはひきこもりなどで通信制高校に通う若者を支援するNPOを立ち上げた。一方の高遠さんは組織に属さず、イラクで医療活動に携わっている。対人恐怖症やPTSDに苦しみながら、<自己責任>という言葉に向き合う10年だった。この間、明らかになったのは<大量破壊兵器はイラクに存在せず、フセインはアルカイダと無関係だった>こと。侵攻を踏み切ったブッシュ前大統領、自衛隊を派遣した小泉元首相は責任を回避した。

 アメリカの無差別爆撃で亡くなったイラク人は、調査元によって異なるが12万~19万人とされる。第2次大戦時の東京やドレスデンの惨状は今も語り継がれているが、当時と比べ技術が飛躍的に進歩し、ピンポイントで軍事施設や政府関連施設を攻撃出来る。アメリカはなぜ、多数の一般人を殺戮したのだろう。

 ファルージャ虐殺の遺体から、劣化ウラン弾を含む特殊な爆弾が使用されたことが窺われる。大量破壊兵器を用いたのは実はアメリカで、ファルージャ周辺では先天異常を持って生まれてくる子供が後を絶たない。その姿を直視した俺は、自分の罪が形になっていると感じた。自衛隊派遣に反対なのに黙認した罪、侵攻がもたらした惨禍を知らなかった無知の罪……。子供たちの姿は、俺を鋭く抉った。

 今井さんと高遠さん、そしてイラクで子供たちの診察に当たる日本人医師、高遠さんとともに広島と沖縄を訪ねたイラク人ジャーナリスト……。罪深い俺と対照的に、高邁な意志を持つ者が数多く登場する。本作のような良質なドキュメンタリーも、秘密保護法で絶滅の危機に瀕しているという。

 アメリカが据えたシーア派の政権とスンニ派が血みどろの抗争を展開し、侵攻時は影も形もなかったアルカイダが、今やファルージャを支配している。そういえば、アフガニスタンでアルカイダを育んだのはアメリカだった。その事実が符合のように脳裏をかすめる。
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「去年の冬、きみと別れ」~中村文則が仕掛けた濃密な罠

2014-01-05 22:55:09 | 読書
 昨日(4日)は鈴本演芸場の新春特別興行(第3部)に足を運んだ。柳家小三治の休演日だったが立ち見も出る盛況で、トリの三三まで手練れの芸を満喫した。個人的なハイライトは権太楼で、「代書屋」の軽妙なやりとりに聞き惚れる。落語だけでなく正楽の神業の紙切り、場を和ませる夢葉の奇術など、3時間余は瞬く間に過ぎた。

 アイデンティティー拒否症候群の俺だが、高校スポーツは素直に郷里のチームを応援する。サッカーでは橘が準々決勝で市立船橋を2―0で破った。京都のチームは最後の詰めが甘いが、昨年決勝で敗れた橘が優勝すれば、「餃子の王将」前社長がチームに餃子を差し入れたエピソードが大きく紹介されるはずだ。

 都知事選では宇都宮健児氏に続き、立ち位置が対極の田母神俊雄氏(元航空幕僚長)が立候補の意思を表明した。驚いたのは一部メディアが伝えた細川元首相擁立の動きで、小泉元首相が支援に回り、<脱原発>を掲げるという。だが、<護憲><反貧困><アジアとの共存>というリトマス紙を通すと、小泉氏を支持する気にはなれない。

 読書はきっと、ロッククライミングに似ている。シューズが壁面をグリップしないと頂上に辿り着けない。脳が摩耗して滑落(放り出し)を繰り返していた俺が読書初めに選んだのは、中村文則の最新作「去年の冬、きみと別れ」(13年、幻冬舎)である。

 俺にとって掴みのいい中村の作品については、当ブログで何度も紹介してきた。対話が重要な位置を占め、本作も死刑囚である木原坂雄大と「僕」(ライター)との接見シーンからスタートする。

 中村ワールドには〝捨てられた子供たち〟が頻繁に現れる。あらかじめ失われていることがキャラクターに織り込まれ、登場人物は喪失感と孤独に彩られている。善悪の彼我を超越し、独特の世界を追求する中村の志向は、「戦慄のミステリー」と銘打たれた本作でも変わらない。

 カメラマンである雄大は幼少時を、姉の朱里とともに養護施設で過ごした。「地獄変」(芥川龍之介)に着想を得た雄大はスランプから脱出するため、焔に焼かれる女性を撮影しようと試みる。芸術のために犠牲は厭わぬ姿勢は「地獄変」の主人公(絵師)と重なり、怪しい人形師も登場する。

 <資料>と名付けられた章に、雄大や朱里を巡る経緯、主観不明のモノローグや会話が挿入され、時空を超えて遡行しつつ真実に迫っていく。その過程で輪郭が揺らぎ始め、複数の「僕」が混沌に導く。タイトルに含まれる「きみ」の正体に行き着くのはラスト近くだ。細部まで仕掛けが施されており、読み返してようやく痕跡に気付く。憎しみとは、その根源にある愛とは、狂気とは、そして罪(原罪)と罰(法律上の刑)の境界とは……。読む側に問い掛ける作品だ。

 本作にはカポーティの「冷血」について言及する部分がある。タイトルを借りた高村は、一家惨殺に至った2人の男の心情に迫っていた。昨年末に読んだ「歌うクジラ」に感じたのは、文学と格闘する村上龍の意志である。<長い=力作>とは言わないし、「去年の冬――」が濃密さで両作に劣ることはないが、中村に不満を覚えるのは重量感のなさで、本作を読み終えるのに3時間かからなかった。

 中村の作風を端的に表すなら<厚い壁を一撃で抉る鋭利なナイフ>だが、俺は饒舌な長編を切に願っている。何せ中村は、亀山郁夫前東外大学長が<ドストエフスキーのテーマを現在の日本に甦らせた>と評した作家で、サルトルへの傾倒も窺える。質量とも読み手を圧倒する作品を期待するのは、決して高望みではないだろう。

 途中で本を放り出す癖がついていた俺だが、「去年の冬、きみと別れ」は格好なトレーニングになった。今年も読書ライフを楽しみたいと思う。
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年末年始雑感&年頭の誓い

2014-01-02 23:34:42 | 戯れ言
 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 年末年始は親戚宅を拠点に、母が暮らすケアハウスを訪れる。会話が弾む楽しい日々だった。参院議員を1期務めた従兄の政界裏話は殆どオフレコだが、公開可能の内容もある。脱原発を掲げる小泉元首相は在住時、会議が始まる前に「こんなことが可能なんだ。君たちは知ってるか?」と自然エネルギーについての薀蓄を披瀝していたという。小泉氏の脱原発は付け焼き刃ではなさそうだ。

 母の語るケアハウスの日常も興味深かった。人間模様はさながら学生寮で、時に恋の花が咲く。母はまだ観察者だが、いずれ当事者になっても不思議はない。母は「永遠の0」(百田尚樹著)を酷評していた。単純思考の持ち主ゆえ感想を鵜呑みに出来ないし、公開中の映画も高い評価を受けている。俺が世間とずれているのはきっと母譲りだ。

 夜は親戚宅でテレビを見ていたが、「紅白」の泉谷しげるは期待外れだった。かつて出演した矢沢永吉は自然体で馴染んでいたが、泉谷は40年前と変わらず「異物」のまま。当人もアウトサイダーであることを過剰に意識していた。泉谷の向かって右にいたのは下山淳に違いない。ルースターズファンの俺は、それだけでジーンときた。

 ボクシングの世界戦は、紅白より見応えがあった。最近は「エキサイトマッチ」(WOWOW)を見る機会も減っており、ボクシングへの関心も薄れていたが、井岡、三浦、内山が世界標準の王者であることを知る。西岡が海外で名を上げたのは帝拳ジムの志の高さもあったが、上記の3人も本場で評価されていいボクサーではないか。

 「相棒」元日スペシャルは素晴らしかった。最後に明かされたテーマは「格差と貧困」である。杉下右京の策略で正体を暴かれる寸前の凄みのある笑み、冷酷さと驕りに満ちた<1%>の狂気を爆発させる取調室と、公安部長を演じた中村橋之助が光っていた。さすが歌舞伎役者である。「相棒」が政治を扱うと空回りするケースが多いが、今回は俺にとって全エピソード中、ベスト3に入る作品だった。

 先ほど帰京し、今年の目標を考えた。還暦カウントダウンの俺に相応しい年頭の誓いは<生き延びること>かもしれない。暮れには膝が悲鳴を上げ、足が前に進まなくなる。健康のため唯一実行しているのがウオーキングだから、スムーズに歩けないのは深刻だ。となればダイエットだが、なかなかその気になれない。

 膝だけでなく、腰も肩も痛く、血糖値も当然高い。体が衰えると気力も萎える。端的に表れるのが読書で、ページを繰るうち眠くなり、放り出すことが増えた。若い頃から〝修行〟として本を読んできたが、読みやすいもの、面白いものにシフトする時機かもしれない。

 当ブログで自分を棚に上げて世を嘆いてきたが、他人事のように憂えていていいのかと思い始めた。俺は「反貧困ネットワーク」と「未来の福島こども基金」の一員だが、ともに寄付だけの〝幽霊会員〟だ。考え方も心情も両団体と極めて近いのが「緑の党」で、秘密保護法への抗議にも積極的に関わっている。安倍政権の暴走を止める党が永田町に存在しない今、まずはサポーターとして同党に参加し、若い人たちと交流しようかと考えている。
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