戦争など遠い世界と感じていた日本人に、驚きのニュースがもたらされた。フィリピンでの旧日本兵生存情報である。
終戦直前、フィリピンに駐留していた部隊は、米軍を迎え撃つためジャングルに散った。早期に救出された旧日本兵の証言によると、任務を果たすべく蛇やカタツムリを食べて飢えをしのいだという。彼らを支配していたのは、天皇への忠誠と厳しい軍律だ。北朝鮮における「将軍様」への熱狂は、かつて日本人が体現した「大元帥閣下」への傾倒の写し絵といえよう。南方戦線では、追い詰められた日本兵が手榴弾で戦車部隊に対峙した。「天皇陛下万歳」と叫んで突進する阿修羅の如き姿に、イギリス兵は凍りつくような恐怖を覚えたという。
特攻隊が象徴する「日本風散華」は、意外な場所で封印を解かれた。33年前のこの日(1972年5月30日)、3人の日本人ゲリラがテルアビブ郊外のロッド空港を襲撃し、26人が死亡する惨事になった。自爆という日本の負の文化が赤軍を介してアラブ世界に浸透し、唯一死ねなかった岡本公三はパレスチナで英雄になった。
暗礁に乗り上げた感のある旧日本兵問題だが、北朝鮮やパレスチナが不可視の回路で日本と繋がっていることを教えてくれた。戦後60年という節目でもあり、若い世代が「国家と個人」や「戦争と狂気」というテーマについて考えるきっかけになればいいと思う。
今や各自の歴史観を問うリトマス紙になった靖国参拝だが、問題にしているのは中国、韓国だけではない。シンガポールのリー・シェンロン首相も繰り返し批判している。同国やベトナムは日本軍の強引な物資徴用に苦しんだ。食糧を取り上げられれば死に至る。犠牲者の数については諸説あるが、「型通りの反省」で霧消するはずもない傷が残っている。
国内でも風向きが変わりつつある。中曽根元首相は自らの誕生会の席上、小泉首相のアジア外交の稚拙さを切り捨てていた。いわく「大きな歴史の流れを知った上で、進路を決める時期に来ている。遺憾ながら小泉内閣にはその意識がない」と……。JNNの最新の世論調査では参拝反対が61%に上り、賛成の34%を大きく上回っている。平和憲法下で培われた国民のバランス感覚を表す結果といえるだろう。
話は岡本公三に戻る。寺山修司は「死者の書」で岡本について論考している。鋭い切り口で行為の底にあるものに迫っているが、読み返すうち、寺山の有名な歌を思い出した。
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや
1945年8月15日以降も戦い続けた旧日本兵たち(小野田さんや横井さんも)、フランス外人部隊を経てイラクで亡くなった斎藤さん、そして、死を望みながら生き残った岡本公三……。彼らはこの歌を、どのような思いで詠むのだろうか。
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