酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「タナトノート」~フランスの異才による寓話

2007-11-30 00:02:44 | 読書
 <死後の世界は存在しますか>……。この問いに「イエス」と答える日本人は25%前後というが、我々は決して宗教と無縁ではない。天皇教の下で決行された自爆テロは、テルアビブ空港乱射事件を経てイスラム社会に継承されている。宗教団体(創価学会)が政権の生殺与奪の権を握るのも、先進国ではありえない政治形態だ。

 今回紹介する「タナトノート~死後の世界への航行」(ベルナール・ヴェルベール、NHK出版=絶版)はサブタイトル通り、死後の世界をめぐる物語だ。ヴェルベールをわかりやすく説明するなら、南方熊楠、荒俣宏のフランス版といったところか。脳内に聳える広大な博物館を彷徨し、足を止めてはメモ書きしつつ、ストーリーを紡いでいく。

 ヴェルベールは日本文化に造詣が深い。利に聡い企業、集団行動を好む旅行客といったステレオタイプの日本人も登場するが、表面をなぞっているだけではない。巫女、古事記、武士道、葉隠、神官、祝将軍、大和言葉の歌、日本の鉢植など、本作にも日本関連の言葉は数多く登場する。

 2062年のフランスが作品の舞台だ。語り手のミカエル(麻酔医)は旧友のラウル(科学者)、アマンディーヌ(女性看護師)、フェリックス(タナトノート=航行者)らとともに死後の世界の究明に取り掛かる。成功に至るまで、多くの自発的冒険者(受刑者)があの世に置き去りにされた。

 淡い色彩⇒恐怖⇒快楽⇒無限の時間⇒人生の意味の発見⇒絶対的な美⇒審判と、タナトノートは少しずつモッハ(出口)を越えていく。死後の世界の輪郭がクリアになるにつれ、現実世界もドラスティックに変化する。リュサンデール大統領(プロジェクト提唱者)をめぐる政治的駆け引き、あらゆる宗教者の介入、各国の名誉を懸けた技術競争、あの世の利権をめぐって蠢く企業……。ユーモアと皮肉を込め、生と死をめぐる悲喜劇が描かれている。

 現世の罪があの世で確実に裁かれるなら、人々は悪を憎み、善根を積んで審判に備えるようになる。香川の痛ましい事件も回避され、防衛関連の構造腐蝕やマクドナルドのラベル張り替えも、早い段階でブレーキが掛かっただろう。ヴェルベールは悪が消えた味気ない世界を、想像たくましく描いている。

 宗教を体系的に捉え、相似形で提示しているヴェルベールだが、ストーリーの核に据えているのは輪廻転生だ。「白痴」(ドストエフスキー)で輪廻を説くレーベジェフがアンチキリスト扱いされていたように、キリスト教やイスラム教は輪廻転生と距離を置いている。ヴェルベールの作品には、東洋思想への憧れ、精神と科学を不即不離と捉えるニューサイエンス的思考が紙背から浮き出ている。

 別稿(05年9月14日)で記した「われらの父の父」(NHK出版)も本作と同じく絶版だが、「蟻」~「蟻の時代」~「蟻の革命」の<蟻3部作>は文庫化(角川)されており、たやすく入手できる。知的、刺激的、ミステリアス、暗示的、極上のエンターテインメント……。これらの形容詞が誇大広告でないことを、ページを繰った瞬間、誰もが実感されることだろう。


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「椿三十郎」とDNA

2007-11-27 00:13:10 | 映画、ドラマ
 森田芳光版「椿三十郎」が今週末(12月1日)公開される。なぜ今、「椿三十郎」なのか……。この疑問に迫ったのが、「黒澤明に挑む映画監督・森田芳光“椿三十郎”を撮る」(NHKハイビジョン、9月放映)だった。

 森田監督は前作の脚本をそのまま用い、台詞も一言一句変えていない。塗り絵のようになぞるだけでいいという謙虚さ、21世紀に相応しい「椿三十郎」を創り上るという情熱、前作と比較されることへの重圧……。様々な思いを俳優、スタッフと共有して完成したリメークは、前評判も上々だ。

 <理不尽な父(黒澤監督)―反抗する息子(三船敏郎)>……。この図式の上に、黒澤作品独特の緊張感とテンポが成立した。黒澤版三十郎は有無を言わさぬリーダーで、ギラギラした三船の野性がスクリーンで弾けていた。織田裕二演じる森田版三十郎は、21世紀仕様のチームワーク重視型にシフトチェンジしているようだ。

 20歳の頃、「椿三十郎」を初めて見た。冒頭の社殿のシーン、三十郎の台詞にある「傍目八目」の意味を、帰宅して辞書で調べた記憶がある。<あなたは鞘のない刀みたいな人。でも、本当にいい刀は鞘に入っているものですよ>……。城代家老の奥方が三十郎を諭す言葉も印象的だった。俺も斬れ味鋭い抜き身になってやると誓ったものの、五十郎の今、鞘のない錆刀になってしまった。

 三十郎と室戸半兵衛(仲代達矢)との果たし合いのシーンでは、体から血が噴き出るような感覚に襲われた、脚本には「筆で表現しがたい」と記されている。前作と同じロケ地で、森田監督がどのようなアイデアを用意したのか楽しみだ。

 国境、時代、年齢、境遇、思想、宗教といった壁をすべて超える普遍的エンターテインメントなど、めったに存在するものではない。45年を経ても「椿三十郎」の普遍性が褪せていないと確信したからこそ、森田監督はリメーク挑戦を決断したのだろう。

 先日、法事で帰省した際、母から意外な思い出を聞かされた。両親は30年以上前、テレビで「椿三十郎」を見て、「面白いな」としみじみ感想を述べ合ったという。洋画のスペクタクル巨編を好んだ亡き父、「駅馬車」のジョン・ウェインにときめいた母にとっても、「椿三十郎」は記憶に残る作品だったのだ。母は織田裕二ファンでもあり、森田版「椿三十郎」の放映を心待ちにしている。DVD化されたら、親孝行の妹夫婦に買わせることにしよう。

 父はプロレス好きで、競馬にいれ込み借金を作っていたらしい。母は俺と同じく「相棒」の大ファンで、「名探偵コナン」を欠かさず見ていた時期もあった。DNA畏るべし。親子の感性は不思議なぐらい似るものだ。

 「丹下左膳餘話 百万両の壺」(35年、山中貞雄)、「鴛鴦歌合戦」(39年、マキノ正博)、「幕末太陽傳」(57年、川島雄三)、「切腹」(62年、小林正樹)、そして「椿三十郎」(62年)……。江戸時代を背景に、武士(浪人)が登場するドラマと時代劇を定義して、私的ベスト5を年代順に挙げてみた。

 仲代にとって、62年は最も充実した一年だった。「椿三十郎」の半兵衛役も凄みはあったが、「切腹」での演技はその上を行く。封建制と闘う浪人役で、殺気と狂気が滲み出る迫真の演技を見せていた。重厚で様式美の極致といえる「切腹」だが、なぜか放映機会は少ない。誰かリメークしないだろうか。

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JC&JCダートは血統予想で

2007-11-24 00:01:43 | 競馬
 マイルCSは<人気馬=実績騎手>をまとめて切ったが、返り討ちでスパッと袈裟斬られた。邪まな心とプリズム化された眼球で世間を見ている以上、競馬だって正解に行き着くはずがない。

 「競馬にも見捨てられたか」とため息をついていたら、先輩からPOG参加を誘われた。第1回指名馬にトウショウボーイが含まれていたというから、日本最古のPOGかもしれない。JC&JCダートは馬選びの予行演習として、血統を軸に予想する。

 まずはJCダートから。ここ数年、A<キングマンボ→エルコンドルパサー>、B<ブライアンズタイム>、C<3歳>がキーワードになっている。ヴァーミリアン(A)、スチューデントカウンシル(A)、ドラゴンファイヤー(B、C)、フリオーソ(B、C)の4頭をピックアップし、JBCクラシックで不利を受けながら3着に入ったサンライズバッカスを買い足すことにした。

 内枠の先行馬有利とみて◎は④フリオーソ。以下、○⑫ドラゴンファイヤー、▲⑦ヴァーミリアン、△②スチューデントカウンシル、注①サンライズバッカス。馬連は④から⑫⑦②①へ4点。3連単は④1頭軸で<④・⑫・⑦><④・⑫・⑦・②・①><④・⑫・⑦・②・①>の計24点。

 JCは<サドラーズウェルズ>をキーワードに、直仔のサデックス、孫のメイショウサムソンとペイパルブル、一族のポップロック(父エリシオはサドラーズの弟)の4頭を選んだ。◎⑩メイショウサムソン、○②ポップロック、▲⑦ペイパルブル、△⑯ザデックス。馬券は⑩1頭軸の3連単で<⑩・②・⑦><⑩・②・⑦・⑯><⑩・②・⑦・⑯>の計14点。

 ポイントを絞ると、妄想が入り込む隙もなく、予想に時間がかからない。片方でも的中すれば、POGに弾みがつくのだけれど……。

 「武豊TV!」で興味深いエピソード披露されていた。菊花賞のレース後、武豊は酒の席で岩田の慰め役に回ったという。アドマイヤ降板騒動の当事者で、リーディング争いを繰り広げる両者だが、周りが騒ぐほどわだかまりはないようだ。

 栗東所属騎手は美浦と違い、仲が良く団結力がある。サークル全体に切磋琢磨と自由闊達のムードが横溢しているからこそ、馬主も素質馬を次々に預けていくのだろう、西高東低の図式は当分覆りそうにない。

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ジェリコ復帰はマイルストーン?

2007-11-21 00:38:13 | スポーツ
 クリス・ジェリコが19日、WWEに復帰した。最も親近感を覚えるレスラーが、マンネリ気味のWWEに新風を吹き込むことを期待している。

 カナダ出身のジェリコは20歳の時に初来日し(91年)、FMWの看板レスラーになった。根城は池袋のビジネスホテルだったらしく、江古田に住んでいた俺と、夜の街ですれ違っていたかもしれない。

 180㌢弱とレスラーとしては小柄で、WCW時代はクルーザークラスでベノワ、ゲレロ、ミステリオとしのぎを削った。ジェリコを含めこの4人は、卓越した技術で体格差を克服し、WWE移籍後にヘビー級王座を獲得している。空中戦、ハードコア戦もこなすオールラウンダーのジェリコにとって、キャリアのハイライトは、オースチンとロックを連破しての統一王座獲得だった。

 02年、ジェリコは王者として日本に凱旋したが、その時の模様は「スーパースターズ」で紹介されている。ジェリコがまず訪れたのは原爆ドームで、「この悲劇をもたらしたのはどこの国」とカメラに問いかけていた。次に足を運んだのはジョン・レノン・ミュージアムで、ミュージシャンでもあるジェリコは、レノンへの熱い思いを語っていた。ジェリコはWWEに珍しいリベラルなレスラーといえるだろう。 

 90年代後半のWWEは、反逆を是とするムードに溢れていた。風俗紊乱のDX、有色人種連合(ロックも一員)、ストリートギャング団、エクストリームのハーディーズ、キリスト教右派をコケにしたRTCと、反体制、カウンターカルチャー色が濃いユニットが続々登場したが、9・11で空気は一変した。

 WWEは徹底して大衆に迎合する。9・11以降、高揚したナショナリズムに寄り添い、共和党支持を隠さなかった。ヒラリー大統領が確実視される現在、舵を左に切るタイミングを慎重に計っているはずで、ジェリコ復帰はそのための布石かもしれない。

 ギャル曽根や大食い王者のジャイアント白田が頻繁にテレビに登場しているが、先月放映されたPPV「ノー・マーシー」で、国際的フードファイター、小林尊のアメリカでの知名度にあらためて驚かされた。

 MVPとマット・ハーディがピザ早食い競争に興じる場面で、解説のJBLは「コバヤシにはとてもかなわない」と繰り返し、「(ハンサムな)コバヤシはおまえの好みだろう」と得意のホモネタで実況のコールをからかっていた。100ぐらいの国で放映されたはずだが、米国人と日本人以外は、「コバヤシ? 誰」といった反応だったに違いない。

 大富豪トランプやスキャンダルの渦中にあるスターが登場するなど、WWEはさまざまな点でアメリカを映す鏡といえる。だからこそ俺も、時に「下らんな」と独りごちながら、惰性で見続けているのだ。



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マイルCSはヤングジョッキーで勝負

2007-11-18 00:18:31 | 競馬
 オシム監督入院の報にショックを受けた。旧ユーゴの戦乱を生き抜いた知将は、含蓄に富む言葉で選手、ファン、メディアの心を揺さぶってきた。一日も早い回復を願っている。

 さて、本題。マイルCSは前日売りオッズが示す通り大混戦だ。出馬表を手に、妄想がムラムラ頭をもたげてくる。

 当ブログ一押しといえばカンパニーだ。05年安田記念は本命(5着)、06年宝塚記念は3番手(5着)、同秋天皇賞は対抗(16着)と先物買いしてきたが、常に期待を裏切られてきた。カンパニーは今年3走目だが、同じローテで3着以内に入った馬は、この10年でデュランダルだけだ(04年1着)。カンパニーは今回、見送ることにする。

 ダイワメジャーは直前まで出否未定、スズカフェニックスは中間の動きがいまひとつ、アグネスアークは馬体減、エイシンドーバーは久しぶりと、不安を抱える人気馬が多い。「エイッ」とまとめて切ることにした。
 
 今回はジョッキーの鮮度で馬券を買う。本命は藤岡佑が駆るスーパーホーネットだ。安田記念11着から夏を越し、2連勝と勢いは一番だ。吉田隼鞍上のコイウタは、ヴィクトリアマイルで錚々たる牝馬を破っている。最内枠は不安だが、ロスなく進めば浮上の余地もある。

 ジャパネスク血脈を受け継いでいるのがトウショウカレッジだ。マーク屋池添(京都GⅠで4勝)が一発カマすかもしれない。度胸満点の川田はジョリーダンスとコンビを組む。安田記念1着のダイワが体調不安、2着コンゴウリキシオーが回避なら、3着の同馬が繰り上がっても不思議はない。
 
 結論。◎⑦スーパーホーネット、○①コイウタ、▲⑩トウショウカレッジ、△⑮ジョリーダンス。馬連は4頭ボックスで計6点、3連単も4頭ボックスで計24点。

 「週刊競馬ブック」にフランスからのリポートが掲載されていた。<サンデーサイレンス系は欧州競馬に適性なし>の定説を、ディヴァインライトが種牡馬として覆したという。ディープインパクトの直仔が凱旋門賞で父の無念を晴らすシーンが、いつの日か見られるかもしれない。


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拝金主義の果てにある闇

2007-11-16 01:11:03 | 社会、政治
 NHKで先週末、ビッグマネー環流の実態に迫るドキュメンタリーを2本見た。まずは「ヤクザマネー」(総合)から。

 規制緩和を背景に、ヤクザマネーが株式市場を席巻している。取材を受けた組幹部は、<資金さえ潤沢なら、懲役や死を恐れないやつを買える>と語っていた。暴力団の年収は、イタリアのマフィア(約3兆円)には及ばないが、総額1兆円になるという。

 暴力団直轄のディーリングルームでは、上場企業関係者からの「インサイダー情報」がいちはやく伝わり、投資のプロが分刻みの取引で利益を計上している。暴力団に首根っ子を押さえられているのは、ベンチャー&IT関連企業だけではなさそうだ。暴力団と社会を結ぶのが、元証券マン、金融ブローカーらが構成する<共生者>だ。<共生者>は迷彩を施し、毒をカムフラージュしたヤクザマネーを一般道に走らせていく。取材班に「罪の意識はないのか」と問われた<共生者>は、「お金に色はない」と答えていた。

 サブプライムローン破綻による世界同時株安に、<共生者>は青ざめているだろう。損失を被ったヤクザが冷酷非情になることは、幾つもの事件が証明済みだからだ。

 「サブプライムショック~米・住宅バブル崩壊の現場」(BS2)も興味深い内容だった。サブプライムローンは契約成立数年後、利率が急上昇する仕組みになっている。現地で取材した斎藤貴男氏は、<社会的弱者が金融資本に食い物にされ、人種差別など米国が抱える問題が絡まっている>と話していた。

 全世界に波及したのは、<サブプライムローン→債権→証券化→債務担保証券(CDO)>の道筋を経て金融商品になったからだ。欲望を煽ったウォール街を主犯と見なす識者の分析が、番組で紹介されていた。ハイリスク・ハイリターンのCDO取引に群がった日本の金融機関も、3000億円の損益を出しているという(15日の「報道ステーション」)。

 責任を取って辞職したメリルリンチ会長の退職金は186億円だった。バブル崩壊のツケを払わされるのは、世界中の持たざる者になりそうだ。利己的な米国のこと、51番目の州(日本)を沈め石にする算段を練っているかもしれない。

 <サブプライム問題が深刻なのは、人心の崩壊まで招いていることだ>……。斎藤氏の締めの言葉は真実を穿っている。拝金主義、新自由主義の行き着く先は、モラルや良心を吸い込むブラックホールかもしれない。
 


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<職業倫理>を考える~弱小ブロガーの呟き

2007-11-13 01:03:03 | 戯れ言
 11日付朝日新聞1面で、司法試験問題漏洩が取り上げられていた。防衛省、厚労省、食品不正の企業、そして司法試験考査委員(元慶大教授)……。<職業倫理>欠落者が国民の死命を制する立場にあることに、恐怖と怒りを覚える。

 渡辺恒雄氏(読売グループ会長)は、言論人としての<職業倫理>を放棄した。<第四の権力=メディア>の役割は政財官の徹底監視だが、渡辺氏は政界をかき混ぜて悦に入っている。1000万部超の大新聞が、権力者の<広報紙>であることが許されるのだろうか。

 などと偉そうに記したが、俺のような校正者にとり、<職業倫理>とは何だろう……。ヒントは意外なところにあった。

 校正者には世間に先んじて株主総会資料、入試問題に触れる機会がある。「相棒シーズン6」第2話「陣川警部補の災難」(先月放送)では、ある校正者が<職業倫理>に反し、投資ファンド経営者に会社の内部情報を漏らしていた。

 設定に無理はないが、根本的な疑問が残った。<校正者に犯罪は可能だろうか>……。

 サッカーに譬えるなら、校正者はゴールキーパーだ。他部署――記者、入力者、レイアウター――のミスを潰しても感謝されず、誤りが残れば針のむしろに座らされる。小心にならざるをえない校正者が、犯罪に走る可能性は低い。たった一つの例外を除いて……。

 「相棒」に登場した校正者は、<事故死したストーカー>として処理されたが、杉下警部(水谷豊)が疑義を呈し、真相が明かされていく。「ストーカーか……。ありうるな」と俺は冒頭、独りごちた。細心と執着を何より求められる校正者が、ストーカー的振る舞いを演じてしまう危険性はある。

 フリーになってから、ある女性校正者に「男の校正者って、変な人、多くないですか」と聞かれたことがある。幸いなことに彼女は、目の前の俺が「変な人」そのものであることに気付いていないようだった。

 ブロガーは職業ではないが、<倫理>は必要だ。嫌いな人間――石原都知事や小泉元首相――について論じる時も、礼節と敬意を失わないことを自らに課してきた。

 「週刊文春」先週号で、執筆者の<倫理>欠落に驚かされる記事を見つけた。ネットで叩かれまくっている、青木るえかさんの「相棒」批判だ。青木さんはストーリー、キャスティング、水谷豊の演技をボロクソにけなし、「相棒」全否定に言葉を費やしている。締めくくりは、寺脇康文(亀山巡査長役)を挑発するような一文だった。

 嗜好や感覚の違いで受け取り方が分かれる場合、自分は嫌いであっても、<人気はあるみたいだけど、私にはピンとこない>程度でサラッと流すのが、執筆者の<倫理>だと思う。節度を欠いた原稿が掲載された背景には、文春の朝日嫌い(「相棒」はテレビ朝日系)があったのではないか。

 青木さんの原稿は、俺にとって<他山の石>だった。吹けば飛ぶような弱小ブロガーにも五分ほどの魂はある。<倫理>を保って、論を進めていきたい。


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第32回エリザベス女王杯~磁場の外で朝日は昇る?

2007-11-11 00:09:17 | 競馬
 ここ数回、<ブログ更新→ミクシィ表示>に20時間前後かかっている。今稿は11日午前0時9分に更新したが、ミクシィにアップされるのはレース終了後になるはずだ……。と書いて眠り、目覚めてパソコンを立ち上げるや、ウオッカ取り消しのニュースが飛び込んできた。部分改稿でしのぎたい。

 まずは競馬以外から。関東学院大ラグビー部が連覇の道を断たれた。当初発表された軽めの処分に、抗議が殺到したという。日本人は連帯責任が好きだし、<早稲田=善玉/関東学院=悪玉>の図式も背景にある。

 大学ラグビーの帰趨はリクルートによって決する。早稲田が特Sクラス(野球なら中田、佐藤)を獲得し、他の高校代表を有力校が分け合う形だ。「雑草軍団」だった関東学院大だが、今では綺羅星の如く精鋭がひしめいている。「雑草」ならぬ「麻草」を栽培した2人の選手は、思うように試合出場を果たせず、鬱屈していたのではないか。

 さて、本題。エリザベス女王杯の出馬表を眺めているうち、背筋がゾクゾクしてきた。情念が紙背から透け、禍々しい蜃気楼が立ち昇ってくる。ウオッカ取り消しは、大波乱の呼び水だろうか。

 始まりは昨年の女王杯だ。1位入線のカワカミプリンセス(本田)が降着し、福永騎乗のフサイチパンドラが繰り上がりVを果たす。処分を受けたのは本田だったが、「武豊TV!」では別の審判が下されていた。ルメールは力尽きたシェルズレイを、内に寄せずに外に出した。この<掟破り>こそ混乱の引き金と、騎手たちの見解は一致していた。

 ルメールは今回、タナボタVのフサイチパンドラを駆る。このコンビに微笑むほど、勝負の女神は優しくないだろう。女神の怒りの矛先は、福永に向けられているはずだ。福永は天皇賞直後、コスモバルクを御せなかった五十嵐について「福島で乗ってろ」と発言し、物議を醸した。四位は昨年の女王杯、騎乗したヤマニンシュクルが不利を被り、競走能力喪失の憂き目を見た。損失補填を期待できたはずが、ウオッカ取り消しで凶事の倍返しになる。

 今春、アドマイヤ騒動が競馬界を賑わせた。当事者の武豊と岩田はディアデラノビア、アドマイヤキッスと、昨年と騎乗馬を交換して女王杯に挑む。ともに中団からレースを進めるも、相手を意識するあまり金縛りに遭い、仕掛けのタイミングを逸する可能性もある。

 上記の理由で、フサイチパンドラ、ローブデコルテ、アドマイヤキッスは買わない。ついでに、コズミ気味のデアリングハート、ローテと馬体が気になるスイープトウショウ、4カ月ぶりのキストゥヘヴンも外すことにした。ディアデラノビアも消すつもりだったが、ウオッカと同厩ということもあり、4番目に繰り上げた。
 
 現3歳牝馬が最強世代なのか、答えはまだ出ていない。事実ウオッカは51㌔の恵量ながら、同距離の宝塚記念で、カワカミプリンセスに0秒8も離された。ダイワスカーレットにとって、持久力が求められる京都外回り2200㍍は最適の条件ではないが、ライバルの分まで頑張りたいところだろう。

 しがらみと因縁の磁場の外、先行粘り込みを図るアサヒライジングを本命に推す。展開に利のあるダイワは外せないが、コスモマーベラスも面白い。多少の根拠に加え、11月11日の11Rに⑪番というケントク買いの意味もある。

 結論。◎⑨アサヒライジング、○⑦ダイワスカーレット、▲⑪コスモマーベラス、△⑬ディアデラノビア。馬連は4頭ボックスで計6点、3連単は⑨1頭軸の4頭ボックスで計18点。

 カワカミプリンセスの運命は、昨年の女王杯で暗転した。悪いツキがウオッカに受け継がれないか心配である。


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賞味期限あれこれ~偽装は現代人の性?

2007-11-08 00:56:12 | 戯れ言
 雪印、不二家、ミートホ-プ、赤福、船場吉兆、比内地鶏、ミスタードーナツ……。人気ブランドの食品不正が後を絶たない。中国のダンボール入り肉まん騒動は、<他山の石>ならぬ<自山の石>だったと気付く。

 数年前まで、賞味期限に拘泥したことはなかった。「このパン、いつ買ったっけ」……。そう独りごちし、冷蔵庫で寝ていた牛乳で流し込んでいた。俺のようなゴキブリ男は別にして、賞味期限切れの食品は内臓疾患、動脈硬化、食中毒といった健康被害を招く可能性があるという。

 この瞬間、どこかの工場で食品不正が行われているのなら、<良心による内部告発>で明るみに出ることを切に願う。北海道庁と農水省は、ミートホープ事件で内部告発を握り潰していた。<身内の論理>に縛られる官庁を避け、公益通報者保護に取り組むNPO、弁護士らを通報先に選ぶべきだ。

 本質が軽んじられる社会では、見せ掛け(偽装)が有効な方便になっている。飼い犬の従順さを装って就職し、出世すれば管理職らしく振る舞うことを求められる。恋愛や家庭でも同様で、○○らしく、□□に相応しく偽装しないと、人生双六を戦えない。

 人間の賞味期限は年齢と無関係だが、<中高年らしさ>を満喫することも難しくなった。年齢偽装――髪を染め、皺をのばし、加齢臭を封じる――を奨励するムードが、世間に蔓延しているからだ。<素敵な50代>なんてCMが流れているのだから、女性は特に大変だ。

 小沢一郎民主党代表に厳しい目が向けられている。自ら貼った<07年11月4日>の賞味期限のラベルを、<衆院選当日>に付け替えたからだ。世間で叩かれている大連立の様子を、しばし妄想してみる……。

 長妻昭厚労相が年金と肝炎問題で大ナタを振るい、教育基本法が再改正され、<農業振興→食料自給率アップ>に農業政策が方向転換される……。格差是正や環境保護も、現政権下より進展するだろう。恒久法には疑義を覚えるが、期日を明確に示した大連立なら、悪いことばかりでもなさそうだ。
 
 あれこれ書いたが、俺は賞味期限などとっくに切れた盲腸人間だ。誰かを支えているわけでもなく、社会にも全く貢献していない。世間との唯一の縁(よすが)が当ブログだ。毒にならないだけ、食品不正よりましかもしれない。


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「長い長い殺人」~秋の夜長にミステリー

2007-11-05 03:07:57 | 映画、ドラマ
 世の中、ミステリーに溢れている。日本シリーズでは謎の継投が世間を賑わせたが、今年最大の衝撃は、安倍前首相、小沢民主党代表の<辞任ミステリー>ではないか。

 <小選挙区制→2大政党制確立>に身を賭してきた小沢氏が、夢実現を目前に節を曲げた。伊吹自民党幹事長が手にしていた茶封筒が、気になって仕方がない。記者に中身を問われた伊吹氏は、「公開できる内容ではない」と答えていた。小沢氏の足をすくう紙爆弾――米国の圧力やスキャンダル――が仕掛けられていたのではと勘繰ってしまう。

 さて、本題。昨夜、宮部みゆき原作の「長い長い殺人」(WOWOW)を見た。同じくWOWOW制作の「理由」(大林宣彦監督)は劇場公開され、04年度キネ旬6位と好評を博した。今年放映された「ドラマW」シリーズも、評価の高い原作(横山秀夫、山田宗樹ら)を実績ある監督(佐藤純弥、大森一樹ら)に委ねており、高品質は当然といえるだろう。

 原作は未読ゆえ、あくまでドラマについてのみになるが、「長い長い殺人」の感想を簡単に記したい。

 作品の質は、劇場公開に十分堪えうるレベルだった。劇場犯罪が複眼的に描かれており、不思議な縁と絆の糸が縦横に織り込まれている。同じ年(92年)に発表された「火車」の陰に隠れていた感はするが、当時としては画期的な試みだったはずだ。混沌や矛盾が止揚され、結末で神話性を帯びる群像劇も多いが、宮部氏の小説は映像化されても、決して寓話にならない。<リアルな現実の重み>に根差したアングルゆえだろう。

 宮部氏と同時期にデビューしたのが高村薫氏だ。反体制側から日本を穿つ高村氏、庶民の哀歓を紡ぐ宮部氏……。対照的な両者は棲み分けながら、文壇を席巻していく。

 <高村作品を同時代に読めることに、無上の喜びを覚える>(田勢康弘=政治ジャーナリスト)。<作家を二つに分類するなら、宮部みゆき(売れる)とその他大勢(売れない)だ>(大沢在昌)……。二つのコメントが、高村氏と宮部氏の傑出した力量を物語っている。

 「レディ・ジョーカー」(98年)以前の高村作品は、スケールの大きさが仇になっていた。K点超えのジャンパーがテレマークに失敗するように、スムーズに着地できない作品もあった。俺程度の読み手が気付くのだから、高村氏自身も重々承知していたのだろう。「リヴィエラを撃て」以外の作品は文庫化に際し、全面改稿を施している。高村氏はマーガレット・アトウッドに比すべき世界レベルの女流作家で、21世紀に入っても「晴子情歌」、「新リア王」と人間の深淵に迫る作品を送り続けている。

 「理由」(98年)を最後に宮部作品から離れた。なぜか違和感を覚え、物語に入り込めなかったからである。俺にとって宮部作品ベスト3は、モダンホラーの影響が窺える「龍は眠る」、瑞々しい「レベル7」、ラストが秀逸な「火車」だ。時間が出来たら「模倣犯」と「楽園」を読み、<失われた10年>を取り戻すことにしよう。

 凝りもせず週末になると、<競馬ミステリー>のページを繰っている。射幸心の陥穽にはまり、妄想の迷路を彷徨うのだ。必ず「犯人」を読み違え、JRAにコツコツ寄付する俺は、毛利小五郎並みのヘボ探偵といえるだろう。

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