<死後の世界は存在しますか>……。この問いに「イエス」と答える日本人は25%前後というが、我々は決して宗教と無縁ではない。天皇教の下で決行された自爆テロは、テルアビブ空港乱射事件を経てイスラム社会に継承されている。宗教団体(創価学会)が政権の生殺与奪の権を握るのも、先進国ではありえない政治形態だ。
今回紹介する「タナトノート~死後の世界への航行」(ベルナール・ヴェルベール、NHK出版=絶版)はサブタイトル通り、死後の世界をめぐる物語だ。ヴェルベールをわかりやすく説明するなら、南方熊楠、荒俣宏のフランス版といったところか。脳内に聳える広大な博物館を彷徨し、足を止めてはメモ書きしつつ、ストーリーを紡いでいく。
ヴェルベールは日本文化に造詣が深い。利に聡い企業、集団行動を好む旅行客といったステレオタイプの日本人も登場するが、表面をなぞっているだけではない。巫女、古事記、武士道、葉隠、神官、祝将軍、大和言葉の歌、日本の鉢植など、本作にも日本関連の言葉は数多く登場する。
2062年のフランスが作品の舞台だ。語り手のミカエル(麻酔医)は旧友のラウル(科学者)、アマンディーヌ(女性看護師)、フェリックス(タナトノート=航行者)らとともに死後の世界の究明に取り掛かる。成功に至るまで、多くの自発的冒険者(受刑者)があの世に置き去りにされた。
淡い色彩⇒恐怖⇒快楽⇒無限の時間⇒人生の意味の発見⇒絶対的な美⇒審判と、タナトノートは少しずつモッハ(出口)を越えていく。死後の世界の輪郭がクリアになるにつれ、現実世界もドラスティックに変化する。リュサンデール大統領(プロジェクト提唱者)をめぐる政治的駆け引き、あらゆる宗教者の介入、各国の名誉を懸けた技術競争、あの世の利権をめぐって蠢く企業……。ユーモアと皮肉を込め、生と死をめぐる悲喜劇が描かれている。
現世の罪があの世で確実に裁かれるなら、人々は悪を憎み、善根を積んで審判に備えるようになる。香川の痛ましい事件も回避され、防衛関連の構造腐蝕やマクドナルドのラベル張り替えも、早い段階でブレーキが掛かっただろう。ヴェルベールは悪が消えた味気ない世界を、想像たくましく描いている。
宗教を体系的に捉え、相似形で提示しているヴェルベールだが、ストーリーの核に据えているのは輪廻転生だ。「白痴」(ドストエフスキー)で輪廻を説くレーベジェフがアンチキリスト扱いされていたように、キリスト教やイスラム教は輪廻転生と距離を置いている。ヴェルベールの作品には、東洋思想への憧れ、精神と科学を不即不離と捉えるニューサイエンス的思考が紙背から浮き出ている。
別稿(05年9月14日)で記した「われらの父の父」(NHK出版)も本作と同じく絶版だが、「蟻」~「蟻の時代」~「蟻の革命」の<蟻3部作>は文庫化(角川)されており、たやすく入手できる。知的、刺激的、ミステリアス、暗示的、極上のエンターテインメント……。これらの形容詞が誇大広告でないことを、ページを繰った瞬間、誰もが実感されることだろう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/hiyo_please.gif)
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今回紹介する「タナトノート~死後の世界への航行」(ベルナール・ヴェルベール、NHK出版=絶版)はサブタイトル通り、死後の世界をめぐる物語だ。ヴェルベールをわかりやすく説明するなら、南方熊楠、荒俣宏のフランス版といったところか。脳内に聳える広大な博物館を彷徨し、足を止めてはメモ書きしつつ、ストーリーを紡いでいく。
ヴェルベールは日本文化に造詣が深い。利に聡い企業、集団行動を好む旅行客といったステレオタイプの日本人も登場するが、表面をなぞっているだけではない。巫女、古事記、武士道、葉隠、神官、祝将軍、大和言葉の歌、日本の鉢植など、本作にも日本関連の言葉は数多く登場する。
2062年のフランスが作品の舞台だ。語り手のミカエル(麻酔医)は旧友のラウル(科学者)、アマンディーヌ(女性看護師)、フェリックス(タナトノート=航行者)らとともに死後の世界の究明に取り掛かる。成功に至るまで、多くの自発的冒険者(受刑者)があの世に置き去りにされた。
淡い色彩⇒恐怖⇒快楽⇒無限の時間⇒人生の意味の発見⇒絶対的な美⇒審判と、タナトノートは少しずつモッハ(出口)を越えていく。死後の世界の輪郭がクリアになるにつれ、現実世界もドラスティックに変化する。リュサンデール大統領(プロジェクト提唱者)をめぐる政治的駆け引き、あらゆる宗教者の介入、各国の名誉を懸けた技術競争、あの世の利権をめぐって蠢く企業……。ユーモアと皮肉を込め、生と死をめぐる悲喜劇が描かれている。
現世の罪があの世で確実に裁かれるなら、人々は悪を憎み、善根を積んで審判に備えるようになる。香川の痛ましい事件も回避され、防衛関連の構造腐蝕やマクドナルドのラベル張り替えも、早い段階でブレーキが掛かっただろう。ヴェルベールは悪が消えた味気ない世界を、想像たくましく描いている。
宗教を体系的に捉え、相似形で提示しているヴェルベールだが、ストーリーの核に据えているのは輪廻転生だ。「白痴」(ドストエフスキー)で輪廻を説くレーベジェフがアンチキリスト扱いされていたように、キリスト教やイスラム教は輪廻転生と距離を置いている。ヴェルベールの作品には、東洋思想への憧れ、精神と科学を不即不離と捉えるニューサイエンス的思考が紙背から浮き出ている。
別稿(05年9月14日)で記した「われらの父の父」(NHK出版)も本作と同じく絶版だが、「蟻」~「蟻の時代」~「蟻の革命」の<蟻3部作>は文庫化(角川)されており、たやすく入手できる。知的、刺激的、ミステリアス、暗示的、極上のエンターテインメント……。これらの形容詞が誇大広告でないことを、ページを繰った瞬間、誰もが実感されることだろう。
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