休業要請に応じないパチンコ店に客が殺到したようだ。マスクなしを咎められ、口にタオルを巻いて入店した猛者もいるという。一方で、乗車率ゼロの新幹線も走っている。粛々と従う後者が〝一般的な日本人〟の姿を写しているのだろう。
アメリカでロックダウン解除を求めるデモが広がっている。大半の参加者は<人命より経済>の価値観をトランプ大統領と共有し、インタビューに「感染したら自己責任」と答えていた人もいた。コロナに感染して死に至るのは富裕層ではなく、多くが黒人、ヒスパニック、貧困層である。個人主義に毒されたアメリカの現実に絶望を覚えた。
当分は録りだめした映画を紹介していく。今回はともに仲代達矢主演作で、今年1月に公開され、製作した時代劇専門チャンネルで翌月オンエアされた「帰郷」(杉田成道監督)、「いのちぼうにふろう」(1971年、小林正樹監督)の2作について。両作をとば口に、極私的に半世紀を大雑把に振り返りたい。
仲代は2月末、翌月の公演キャンセルを発表した。コロナ感染爆発を予期したかのような決断で、「何より命が大事」と後進の演劇人に理由を説明していたという。「帰郷」と「いのちぼうにふろう」のキーワードは、ともに<命>である。
「帰郷」の主人公である宇之吉は、迫り来る死を意識し、30年ぶりに故郷(木曽福島)を訪れた。若き日の宇之吉を演じる北村一輝、中村敦夫、橋爪功、緒形直人、前田亜季、常盤貴子、田中美里、三田佳子ら錚々たる面々が脇を固めていた。肝の台詞は宇之吉が娘(常盤)の亭主(緒形)に語り掛ける「命を粗末にするんじゃねえ。命は人のために使うんだ」である。
常盤の激情、田中の妖艶さが作品に彩りを添えていた。死出の旅で御嶽山を登る宇之吉の心に去來していたのは贖罪の念であり、未達の愛への悔いだった。87歳の涸れた演技に感嘆させられたが、39歳の仲代が煌めいていたのが「いのちぼうにふろう」である。
舞台は江戸。深川の小島に安楽亭という居酒屋兼飯屋があった。主(中村翫右衛門)と娘おみつ(栗原小卷)が切り盛りし、八丁堀も寄りつかないサンクチュアリにアウトローが住み着いている。野性と優しさを併せ持つ定吉(仲代)と、〝仏〟の異名を持つ与兵衛(佐藤慶)をリーダーに仰ぎ、安楽亭は密貿易と関わっていた。
主が「あいつらは人の情けを知らない獣たち」と評する悪党どもが情に目覚め、危険を察知しながら取引に加担する。無頼たちを待ち受けていたのは無残な結末だった。安楽亭の常連になった男を演じた勝新太郎に加え、個性的な面々が作品をもり立て、定吉とおみつの悲恋も織り込まれている。熱い時代が去った後の喪失感が全編に漂っていた。
1971年と2020年……。この半世紀、仲代は舞台やスクリーンで存在感を示し続けた。中学生だった俺は〝命をぼうにふる〟ことなく、無為に生き長らえ、老いさらばえた。日本はどう変わり、いかに変わらなかったのだろう。
日本は50年前、勢いに満ちていた。排ガス規制を軸に環境改善を目指したマスキー法(1970年制定)を日本の自動車メーカーが次々にクリアする。日産とフォードの好対照を詳述したのが「覇者の驕り」(デビッド・ハルバースタム)である。自動車のみならず、多くの企業がアイデアと情熱で<世界標準>を突破していく。
別稿(3月31日)、マルクス・ガブリエルと張旭東ニューヨーク大教授、斎藤幸平大阪市大准教授との対談を紹介したが、3人の共通認識は<日本人はあらゆるものを受け入れる余地はあるが、心象は一定のまま。来る者は拒まず、されど受け入れず>だった。<先進国であり得ない供託金制度が民主主義確立を拒む弊害>、<戦争法に反対する者が死刑を肯定するのは自己矛盾>と当ブログで繰り返し記してきたが、賛意を得られず孤立したままだ。
<世界標準>と<独自性>の両立が容易でないことは理解しているが、進取の気性を失った日本は明らかにガラバゴス化している。活気があった頃の日本なら、コロナ蔓延阻止で台湾、シンガポール、韓国に後塵を拝することはなかっただろう。
仲代について個人的な思い出を。淀川長治の解説込みで「日曜洋画劇場」を楽しみにしていた父は壮大なスペクタクル、アクション、サスペンス、西部劇を好んだが、邦画で唯一、俺に薦めたのは「人間の條件」(1958年~、全6部)で、仲代の出世作である。近日中にスカパーで放映される「切腹」を紹介する予定だ。
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アメリカでロックダウン解除を求めるデモが広がっている。大半の参加者は<人命より経済>の価値観をトランプ大統領と共有し、インタビューに「感染したら自己責任」と答えていた人もいた。コロナに感染して死に至るのは富裕層ではなく、多くが黒人、ヒスパニック、貧困層である。個人主義に毒されたアメリカの現実に絶望を覚えた。
当分は録りだめした映画を紹介していく。今回はともに仲代達矢主演作で、今年1月に公開され、製作した時代劇専門チャンネルで翌月オンエアされた「帰郷」(杉田成道監督)、「いのちぼうにふろう」(1971年、小林正樹監督)の2作について。両作をとば口に、極私的に半世紀を大雑把に振り返りたい。
仲代は2月末、翌月の公演キャンセルを発表した。コロナ感染爆発を予期したかのような決断で、「何より命が大事」と後進の演劇人に理由を説明していたという。「帰郷」と「いのちぼうにふろう」のキーワードは、ともに<命>である。
「帰郷」の主人公である宇之吉は、迫り来る死を意識し、30年ぶりに故郷(木曽福島)を訪れた。若き日の宇之吉を演じる北村一輝、中村敦夫、橋爪功、緒形直人、前田亜季、常盤貴子、田中美里、三田佳子ら錚々たる面々が脇を固めていた。肝の台詞は宇之吉が娘(常盤)の亭主(緒形)に語り掛ける「命を粗末にするんじゃねえ。命は人のために使うんだ」である。
常盤の激情、田中の妖艶さが作品に彩りを添えていた。死出の旅で御嶽山を登る宇之吉の心に去來していたのは贖罪の念であり、未達の愛への悔いだった。87歳の涸れた演技に感嘆させられたが、39歳の仲代が煌めいていたのが「いのちぼうにふろう」である。
舞台は江戸。深川の小島に安楽亭という居酒屋兼飯屋があった。主(中村翫右衛門)と娘おみつ(栗原小卷)が切り盛りし、八丁堀も寄りつかないサンクチュアリにアウトローが住み着いている。野性と優しさを併せ持つ定吉(仲代)と、〝仏〟の異名を持つ与兵衛(佐藤慶)をリーダーに仰ぎ、安楽亭は密貿易と関わっていた。
主が「あいつらは人の情けを知らない獣たち」と評する悪党どもが情に目覚め、危険を察知しながら取引に加担する。無頼たちを待ち受けていたのは無残な結末だった。安楽亭の常連になった男を演じた勝新太郎に加え、個性的な面々が作品をもり立て、定吉とおみつの悲恋も織り込まれている。熱い時代が去った後の喪失感が全編に漂っていた。
1971年と2020年……。この半世紀、仲代は舞台やスクリーンで存在感を示し続けた。中学生だった俺は〝命をぼうにふる〟ことなく、無為に生き長らえ、老いさらばえた。日本はどう変わり、いかに変わらなかったのだろう。
日本は50年前、勢いに満ちていた。排ガス規制を軸に環境改善を目指したマスキー法(1970年制定)を日本の自動車メーカーが次々にクリアする。日産とフォードの好対照を詳述したのが「覇者の驕り」(デビッド・ハルバースタム)である。自動車のみならず、多くの企業がアイデアと情熱で<世界標準>を突破していく。
別稿(3月31日)、マルクス・ガブリエルと張旭東ニューヨーク大教授、斎藤幸平大阪市大准教授との対談を紹介したが、3人の共通認識は<日本人はあらゆるものを受け入れる余地はあるが、心象は一定のまま。来る者は拒まず、されど受け入れず>だった。<先進国であり得ない供託金制度が民主主義確立を拒む弊害>、<戦争法に反対する者が死刑を肯定するのは自己矛盾>と当ブログで繰り返し記してきたが、賛意を得られず孤立したままだ。
<世界標準>と<独自性>の両立が容易でないことは理解しているが、進取の気性を失った日本は明らかにガラバゴス化している。活気があった頃の日本なら、コロナ蔓延阻止で台湾、シンガポール、韓国に後塵を拝することはなかっただろう。
仲代について個人的な思い出を。淀川長治の解説込みで「日曜洋画劇場」を楽しみにしていた父は壮大なスペクタクル、アクション、サスペンス、西部劇を好んだが、邦画で唯一、俺に薦めたのは「人間の條件」(1958年~、全6部)で、仲代の出世作である。近日中にスカパーで放映される「切腹」を紹介する予定だ。
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