天皇賞は馬場の読み違いもあり、大外れだった。最適距離は2000㍍? 鉄砲が利くタイプ? メイショウサムソンの謎は、武豊とのコンビで少しずつ解けていくに違いない。
さて、本題。帰郷中に「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)を読んだ。著者の福岡伸一氏は茂木健一郎氏(脳科学者)同様、<理系の論理>と<文系の情念>を併せ持つ研究者(生物学者)である。
東洋哲学が追究する真理、西洋科学が解明する自然の驚異……。両者の志向を繋ぐニューサイエンスに魅せられた時期があった。「踊る物理学者たち」(ゲーリー・ズーカフ)のページを繰りつつ、怒りと悔いが入り混じった感情にそよいだ記憶がある。俺はどうして理数科嫌いになったのだろう……。
ヒトの誕生と進化は? 宇宙の始原と終焉は? 生命を支える構造は? 本質的な問いかけを前提に、精神と自然の接点を見いだすニューサイエンス流方法論が教育課程に導入されれば、数式と化学式の洪水に辟易することなく、理数科の授業を楽しめるはずだ。
本書にも文系人間を刺激する記述が多く含まれている。著者はアメリカでの研究生活で重大な錯誤に直面し、<「生命とは何か」という基本的な問いかけに対する認識の浅はかさ>に行き当たった。<私たちは、自然の流れの前に跪く以外に、そして生命のありようをただ記述すること以外に、なすすべはない>という悟りに近い言葉で本書を結んでいる。
<生命=自己複製を行うシステム>、<DNAを構成する四つの単位>、<エントロピーから生命体を守る動的平衡と相補性>……。難解な科学の最前線を、論理に弱い俺でも消化できるように、巧みな手さばきで調理してくれた。<秩序は絶え間なく壊されることによって維持される>(要旨)という自然界のルール、<内部の内部は外部である>という禅の公案のようなキーワードも刺激的だった。
「平方根の法則」も示唆に富んでいる。100個の微粒子のうち例外的に振る舞うのは、100の平方根、10個前後という。あなたが属する部署が25~50人で構成されているなら、組織に馴染めぬ者、ルールに無頓着な者が5~7人いるのは当たり前なのだ。家族(小さな単位)がたやすく崩壊する一方、社会(大きな単位)ではアウトロー出現の確率が減少し、時に偏った思想や宗教に縛られる。「平方根の法則」は人間社会にも適用できる摂理なのだろう。
学界の歪んだ実態も抉り出されていた。DNAの二重らせん構造を発見したのはロザリンド・フランクリンだが、彼女の成果を盗用した3人がノーベル賞を受賞したという事実に衝撃を受けた。野口英世は著者と同じくロックフェラー大で研究生活を送った。肖像が千円札に使われる野口だが、海外では扱いが異なる。<功名心以外は見るべきものなし>が、科学史における評価という。
最後に。守屋武昌前防衛省事務次官の証人喚問をニュースで見た。自然の摂理が敷衍されるなら、高潔で識見ある人が指導的な地位に就くべきだが、真逆の現実が人間社会に蔓延している。人の狂いは自然にフィードバックされ、全国で桜が狂い咲いた。俺は果たして、正気を保っているのだろうか。
さて、本題。帰郷中に「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)を読んだ。著者の福岡伸一氏は茂木健一郎氏(脳科学者)同様、<理系の論理>と<文系の情念>を併せ持つ研究者(生物学者)である。
東洋哲学が追究する真理、西洋科学が解明する自然の驚異……。両者の志向を繋ぐニューサイエンスに魅せられた時期があった。「踊る物理学者たち」(ゲーリー・ズーカフ)のページを繰りつつ、怒りと悔いが入り混じった感情にそよいだ記憶がある。俺はどうして理数科嫌いになったのだろう……。
ヒトの誕生と進化は? 宇宙の始原と終焉は? 生命を支える構造は? 本質的な問いかけを前提に、精神と自然の接点を見いだすニューサイエンス流方法論が教育課程に導入されれば、数式と化学式の洪水に辟易することなく、理数科の授業を楽しめるはずだ。
本書にも文系人間を刺激する記述が多く含まれている。著者はアメリカでの研究生活で重大な錯誤に直面し、<「生命とは何か」という基本的な問いかけに対する認識の浅はかさ>に行き当たった。<私たちは、自然の流れの前に跪く以外に、そして生命のありようをただ記述すること以外に、なすすべはない>という悟りに近い言葉で本書を結んでいる。
<生命=自己複製を行うシステム>、<DNAを構成する四つの単位>、<エントロピーから生命体を守る動的平衡と相補性>……。難解な科学の最前線を、論理に弱い俺でも消化できるように、巧みな手さばきで調理してくれた。<秩序は絶え間なく壊されることによって維持される>(要旨)という自然界のルール、<内部の内部は外部である>という禅の公案のようなキーワードも刺激的だった。
「平方根の法則」も示唆に富んでいる。100個の微粒子のうち例外的に振る舞うのは、100の平方根、10個前後という。あなたが属する部署が25~50人で構成されているなら、組織に馴染めぬ者、ルールに無頓着な者が5~7人いるのは当たり前なのだ。家族(小さな単位)がたやすく崩壊する一方、社会(大きな単位)ではアウトロー出現の確率が減少し、時に偏った思想や宗教に縛られる。「平方根の法則」は人間社会にも適用できる摂理なのだろう。
学界の歪んだ実態も抉り出されていた。DNAの二重らせん構造を発見したのはロザリンド・フランクリンだが、彼女の成果を盗用した3人がノーベル賞を受賞したという事実に衝撃を受けた。野口英世は著者と同じくロックフェラー大で研究生活を送った。肖像が千円札に使われる野口だが、海外では扱いが異なる。<功名心以外は見るべきものなし>が、科学史における評価という。
最後に。守屋武昌前防衛省事務次官の証人喚問をニュースで見た。自然の摂理が敷衍されるなら、高潔で識見ある人が指導的な地位に就くべきだが、真逆の現実が人間社会に蔓延している。人の狂いは自然にフィードバックされ、全国で桜が狂い咲いた。俺は果たして、正気を保っているのだろうか。