数日前だった。朝刊を取りに玄関を出たとき、向かいの家の屋根の高さで何かが飛び去った。時期的にツバメかなと思ったが確認の術はなかった。それからの毎朝、ツバメの鳴き声は聞こえるが姿は見えなかった。ところが今朝の鳴き声は、勝手口のそばにある電話線に止まって鳴いている。その位置は毎年ツバメの止まる定位置で、お早うの挨拶を一方的に送っている。
急いでカメラを持ち出す。明けきらぬ空に雲は見えないが光量は不足、尾が二つに分かれていることを確認しとりあえずシャッターを押す。その音は大きくないが、合図したようにツバメは飛び去った。火事場へ取材に行く若い記者が、現場に着いたら鎮火して写真は撮れなかった。「火事取材では煙が見えたらまず撮っておけ」が取材の基本という教えを思い出した。写りは悪いがとにかく初撮り、5時半だった。
ここ岩国でツバメにまつわる話といえば吉川英治作の「宮本武蔵」に登場する佐々木小次郎の「ツバメ返し」剣法。400年以上も昔の話になるが、錦帯橋畔で柳の枝が燕を打つのうを見て「燕返し」の術を得たという。その柳は錦帯橋横山側の袂にある。小説「宮本武蔵」は錦帯橋畔の割烹深川に吉川英治が滞在し書したという。
ツバメの飛行速度は相当な早さだが、そのままの速度で急旋回や急降下など自在にこなしている。燕返しもそうなのだろうか。そんな飛行の中で餌となる昆虫を捕らえる。どのようなDNAがそうさせるのだろうか。視力も反射神経もすごいと思う。いつか、そんなツバメが餌を捕獲するとこがを撮れたらいいなあ、年甲斐もなくかなわぬ幻想を描いている。