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2011年4月6日 毎日新聞「はがき随筆」掲載
変色した一冊のノート。手書きの中に新聞や雑誌の切り抜きも挟んでいる。ノートというより小冊子ほどの厚さ。それは妻のレシピ綴りだ。
その中を見たことはない。かつて盆と正月に30人からの来客を賄った分量。亡くなった母や私の血圧を下げた味付け。息子の好きな煮豆の炊き方。孫が好む焼き肉のたれの合わせ方。そんなもろもろだと妻は話す。
結婚から40数年。書きためたそこには母伝来のものから、妻のものまでわが家の食卓の歴史が載っている。世に出ることはないノート。それは「わが家の薄味」色に染まっている。