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大江健三郎『治療塔』

2020年01月27日 22時51分23秒 | 文学
大江健三郎の『治療塔』(河出書房新社『日本文学全集22』所収)を図書館で借りて読む。
ほんとうは図書館で借りてこの本を読むのならば、講談社の『大江健三郎全小説』のほうが新しく、しかも続編の『治療塔惑星』も入っているのだけれど、二段組なので少し読みにくいだろうし、続編を読むかどうかもわからないので河出書房新社の『日本文学全集』にした。
ひさしぶりに大江健三郎を読む。
意外、というべきかとってもおもしろかった。ちゃんとSF小説だった。
しかし懐かしい節回しで歌う歌手のように、いかにも大江健三郎という文体だった。こんな風に書くのは大江健三郎しかいない。

選ばれた人たちが「新しい地球」を目指して旅立っていったのに、十年後になぜか戻ってくる。
彼らは歳を取らずに若返っているように見える。
「新しい地球」にはカマクラのような「治療塔」があり、そこに入ると人間は若返ることができる。
新しい肉体を手に入れても「新しい地球」で生き延びるのは大変なので、彼らは地球に帰還し、新しい肉体で古い地球を生き延びようとする。
簡単にいえばそんなような話で、最後のほうにまとめて理解できるように朔ちゃんと隆伯父の親子が対話する。

《叛乱軍の人たちの原理は、地球での肉体的条件を改造せず、自然なありようの人間のまま「新しい地球」の条件と闘う、そのようにして次の世代も育てる、ということでしたから。》(381頁)
《新しい肉体条件でならば、地球を再建できるかもしれぬという構想が生まれた。そこで再び苦しい宇宙航海をして、古い地球に帰還したんだ。》(382頁)
《つまりこれからのわれわれの活動に、「新しい地球」で「治療塔」を経験をした人間は、つまり「神」の最後の手なおしを受けた人間は、大切なのだ。それこそが新生人類の素材だし、新生を信じうる根拠でもある。われわれはまず「治療塔」を経験した帰還者そのものを、大切に保たなければならない。「治療塔」の秘密が科学によってあきらかにされ、人間の力で同じモデルが作られるまでは、「新しい地球」での成果を純粋に守りぬいて、第二、第三世代へとつないで行くことがなにより必要なんだ。》(383頁)

これまで僕の読んだことのある大江健三郎の小説では、「神」について語りはするけれど登場することはなかったのだが、この小説では「神」がいる。そこに驚いた。
「新しい地球」の「治療塔」で新しい肉体を手に入れた朔ちゃんの子供を妊娠しているリッチャンは、どのような子供を産むことになるのか。
また、「新しい地球」に再び出発した李さんたちはどうなるのか。

そこらへんが気にかかるので続編を読むことにします。

また、大江健三郎をひさびさに読んでおもしろかったので、同じ本に入っている『人生の親戚』も読んでみようかとも思ってます。
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ケン・リュウ『ケン・リュウ短篇傑作集4 草を結びて環を銜えん』

2020年01月27日 00時32分09秒 | 文学
ケン・リュウ『ケン・リュウ短篇傑作集4 草を結びて環を銜えん』(早川書房)を読んだ。
単行本で買うほどではないけれど、文庫になったらケン・リュウの作品を今後も読んでいこうと思った。
たまにものすごくおもしろいものに当たる。

「烏蘇里羆」
人知のある羆と、片腕が機械になった人間の闘い。主人公は日本人。
迫力があっておもしろい。

「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)」
アメリカ人の夫と中国人の妻のふたりだけで交代で飛行船を操縦しているので、夫婦で会話する時間があまりない。妻が夫に話をするときに、夫に中国の生活の知識がないのでちょっとしたことを話そうとしても説明が長くなってしまう。そして夫は飽きてしまう、というところが良かった。
妻は夫との共通の話題を見つけるために野球のルールを勉強する。
おもしろいところもあったが、少し長い。

「存在」
離れた場所から老いた親を機械を通して見守る話。
こういうことは本当に実現しそうだと思う。

「シミュラクラ」
大好きな人のその瞬間をずっと残しておけるのであればそうしたいと思う。
娘の七歳の時点をずっといつでもそばに置いておけるのならばそうしたいように思う。
でもそのようなものがあって本当にいいのだろうか、とも思う。
「AI美空ひばり」に通じる。
『紙の動物園』に入っていた「愛のアルゴリズム」と同じくこの話も好きだ。

「草を結びて環を銜えん」
歴史物語であまり興味が持てないまま読んだ。

「訴訟師と猿の王」
頭の中に猿の王が棲んでいる、というところがおもしろかった。『西遊記』の孫悟空なのだろう。
最後は拷問。
拷問シーンをあまり読みたくないので、物語の始まりに「この物語には拷問シーンがあります」と書いておいて欲しい(もちろん冗談です)。
揚州大虐殺というものを初めて知った。いろんなところで大虐殺があり、隠されてきたのだなと思った。

「万味調和――軍神関羽のアメリカでの物語」
アメリカにやってきた中国人たちとアメリカ人の少女の交流の話。
とてもおもしろい。
『三国志』をきちんと読みたくなった。
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