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井上靖『わが母の記』感想

2012年04月09日 23時47分28秒 | 文学
井上靖『わが母の記』(講談社文庫)を読んだ。
この小説の中でも書かれているが、「小説とも随筆ともつかぬ形で」書かれている。
巻末の「井上靖年譜」に井上靖の奥さんの名前が書いてあるが、それが小説の登場人物の名前とは違うので、他の登場人物も実際の人物とは名前は変えてあるのだろうと思われる。
母親が亡くなったのが、N文学賞の選考会の日の翌日で、選考会では中堅作家O氏の作品に決まった、とあり、これが「年譜」の記載と合わせると、1973年の野間文芸賞で、作品は”中堅作家”大江健三郎の『洪水はわが魂に及び』であることがわかるので、ほぼ事実そのままの出来事を書き連ねているようにも見える。
母親が惚けていく姿を描いているのであるが、ところどころ「こんなことを言うかな」と思わせる場面があり、すべてが事実をもとにしているわけではないのかもしれないなと感じた。例えば、語り手の作家の書斎を見て母親が、ここの主人は亡くなって三日が経っている、というようなことを言うのだが、あまりにも文学的かなあ、という気がした。しかしほんとうにそういうことを言ったのかもしれない。わからない。
このような、小説とも随筆ともつかぬ形の小説というのは好きなので、とても愉しめた。
もっと母親が死んで悲しい、ということを言うのかと思ったが、そんなことはなかった。

井上靖のような、きっちりした教科書のような文章を書くひとのものをたまには読んでみるのも良いことだなと感じた。
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