KAZU1号続報について

2022-05-05 00:00:33 | 災害
その後、保険関係の情報を社長が口外したので、一部加筆除筆しました。

何回かKAZU1号のことを書いたので、いくつかの続報を見て感じたことなど書いてみる。

まず、社長のA氏が「一人1億円払っても少し残る」という具体的な数字を言ったこと。非常識な感じがある。非常識というのは、一つは全員死亡と宣言したようなものだから。一つは、一人1億円といっても、年配の方もいるわけで、まったく無責任な数字であること。


前回書いたのだが、乗船客の死傷に対する損害賠償に対応するのが船客傷害賠償保険。一人当たり上限が1億円だったのだろう(保険約款みたわけではないが)。P&I保険の適用範囲は乗客以外の死傷者(船員)への賠償金、捜索・救助費用、航路の下に沈み海保等から航海の危険があるので撤去を命じられた場合の引揚げ費用となる。つまり船内探索費用(約9億円)は対象外。捜査上、救助用の必要ということで船内を調べているので海保が負担するのだろう。おそらく引揚げた場合の費用も海保の負担ということになるのだろう。それで沈没原因が特定できるかは別問題。

刑事事件になるかどうかは逮捕とは次元がことなり、通常は海上保安官が捜査して検察に送検。起訴、不起訴が決まる。不起訴の場合は被害者または遺族が直接検察に告訴するのだが、検察官が海難捜査するのは難しいと思える。事故の場合、基本的に事故に至った背景とか遠因のようなものはあまり重要視されず、あくまでも事故に至った最終原因を重要視する。

船長からの電話は、船が30度前のめりになったということで、船首に海水が入ったのだろうが、岩礁に乗り上げた理由が、海図がなかったからか、エンジンが止まったからか、単に荒天だったのか、船が自壊したのか。A氏がいうようにクジラか。

毎年、船体にひび割れが発生してオフシーズンに修理していたが、今年はひび割れをそのままにしたという話が出てきた。FRP素材ということで、身近にあるFRP素材というのは、ほとんどの家庭にあるバスタブだから。37年海で使ったバスタブのひびということ。

別途、海難審判の方は海難審判庁が国交省の下部組織であることから、本件は(国交省には責任がなく)すべて旅客船の会社と船長が悪い、ということになりそうで、せいぜい会社お取りつぶし。高裁に控訴するかどうかは損得勘定になるだろう。

保険金では示談にならないと民事訴訟もありうる。民事は刑事と異なるが刑事の結果が影響するのは確か(刑事事件は人が対象で、民事では法人や国も対象に含まれる)で、責任の所在がはっきりしないと長期化することもあるが、わからないことが残る可能性がある。


次に安全管理規程だが、事業を開始するときに国交省(北海道運輸局)に各社ごとに安全管理規程を届け出ることになっている。国交省のHPにも「ひながた」があり、そこに船名とか人名とか、運休するときの風速などを書き込むことになっている。おそらく前社長の時代に提出したのだろう。国交省のHPのなかにQ&Aがあり、安全管理規程が守られていない場合はどうするかというQに対しては「改善するように指導する」ということになっている。つまり指導義務は国交省ということになる。

ある党の元党首が、国が安全基準を作って守らせるべきと上から目線の発言をしているようだが、実は基準はすでにある。具体的にはISMという国際基準で、これにほぼ準じた基準がある。有名なのは日本海事協会(NK)の認証制度で国際基準である。もう一つがNKは厳しすぎるというか困難という業者のための日本国(Japan Government)の認証によるISMである。つまりグレード的にはISM(NK)、ISM(JG)、無認証の三段階。

実際には旅客船ではなく貨物船だと多くの船がISMを取得し運用している。毎年監査が入るので大きな手抜かりはできない。なぜ貨物船がISMを取得するかというと、顧客が法人だからだ。ISMを取れない会社は使わないということになる。一方、旅客船の場合、顧客は海運のことなど全く知らない個人客のわけで、選択の決め手は価格とサービスということになる。仮にHISとかJTBといった大手旅行会社が自社ツアーに使う場合、ISM必須ということにすれば徐々に認証制度が生かせるような気がする。

そういう取得できない会社を何とかするために「安全管理規程」の提出ということに落ち着いているわけだ。

そもそも国交省というのは、国民(ユーザー)の側に立つという面と、無数の運送業者の健全経営を支援する側という、やや相反したポジションにあるわけだ。

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